私は最悪の手を使ってしまっていた
私は思い出した。
サタケさんは私と口づけをして、お互いの体を入れ替えた。
それを彼らも今使ったのだ。口づけというには少々野蛮だったけれど。
いや、黒蛇も中身男っぽいし、変に優しい口づけとかされても見てるこっちが困ってしまうが。
「小娘よ、これからが本番だ。第一級魔弦奏者の力、見せてやる」
坂下が別人のような邪悪な笑みを浮かべた。
恐らく、今の中身はさっきまでの黒蛇なのだ。
これからが本気か。そうかもしれない。彼は今第一級魔弦奏者と言った。確かサタケさんも、小鬼たちに第一級魔笛奏者とか言われていたはずだ。彼の実力もサタケさんレベルということである――――ん? それってすごいの?
「大衆に浸透している『童謡』を用い、その曲のイメージに魔力を乗せ、目的の事象を引き起こす。素晴らしい力だが、その『遊楽』の力はこと戦闘には向かない。なぜかわかるか小娘」
「知りません!」
私は『翼をください』を奏で、翼をはためかせ、空高く飛びあがる。夜に沈んだ町の景色がみるみるうちに小さくなっていく。
「答えは簡単だ。それが引き起こす事象はその曲のイメージに沿ったもの。ようするに、曲を聞けば容易に次の手を予測できる。一度聞いたものならなおさらだ」
そして坂下はギターを奏でた。
「コードフリーク。『グラビティ』」
不意に私の体が信じられないほど重くなる。いや、私が重くなるというか、地面からとんでもない力で引っ張り込まれているかのようだ。必死に翼をはためかせても、釣り合わない。今度は急速に地表へと近づいて行く。
「その点私のこの『諸行無常』は、戦闘に向いている」
――諸行無常って、そのギターの名前? うわぁ、趣味悪……。
そう言ってやりたいが、とてもそんな余裕はなかった。もう奴との距離は四、五メートルほどしかない。
「例えばこんなこともできるぞ」
坂下が言った。続いて彼は地面に落ちていた手のひら大のガレキを拾い、それを投げ上げた。
「コードフリーク。『モーメント』」
たちまちそのガレキは意思を持った飛行体のように一直線に私のもとへ飛んでくる。
血の気が引いた。こんなものがこんな速度で当たったら、痛いでは済まない。私は翼を動かし、またも間一髪かわす。
しかし、攻撃はそこで終わらなかった。
「コードフリーク。『ベクトル』」
ガレキは鋭角に進行方向を曲げ、またしてもこちらへ飛んできた。
これはもう躱せない。次の瞬間、私は最悪の手を使ってしまっていた。
しかしそれ以外に思いつかなかったのだ。サタケさんが奏でていたのは聞いたのは、この二曲だけだったから。
私は『ふるさと』を奏でた。




