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これはできれば使いたくなかったが

『人間風情の貴様が、神になる気か?』

「サタケさんを助けるのに、それが必要ならね」


 その瞬間、黒蛇から禍々しいオーラが噴き出して、周囲に轟と吹き荒れた。どうやら三春や佳香にはあの黒蛇が見えていないらしく、先ほどから不安げに私の様子を(うかが)っている。


「みはるん、よっしー、巻き込んじゃってごめんね。でも、もう大丈夫だから」

「……沙良?」


 その不安げな顔に向かって、私は精一杯の笑みを贈った。


「はやく逃げて。ここは私に任せて」


 そして向き直り、『遊楽』の歌口にそっと口を添える。


 リコーダーもろくに吹けない私だが、何ゆえか、どこを押さえればどの音が出るのか、瞬時に理解できてしまった。私の意思に、『遊楽』が自ら答えてくれるのだ。楽譜もまともに読めない私なのに、曲を思い浮かべた瞬間、メロディーも音階も全てが私の頭の中にある。


 そして、そのうちの一つを、私は奏でた。



 翼をください



『これは……⁉ 奴は飛ぶ気だ! お前も急げ!』


 黒蛇が坂下くんに指示を出す。しかし彼の方は右往左往していた。


「飛ぶって、一体どうやって」

『先ほど教えただろう! くそ、私自身が演奏できればこんなもの簡単に――』


 私の体を光のベールが包む。それがやがては背中に集中し、天使のような妖精のような透明の羽根を生やしてくれる。


「追いかけっこしましょうか。この笛が欲しかったら、私に追いついてみせてください」

『……小癪(こしゃく)な』


 私は羽をはためかせ、ふわりと四、五メートル浮きあがる。このまま一気に飛んでしまいたいが、三春たちが逃げる時間をもう少し稼ぐ必要があった。


 その間に三春は佳香の腕を肩に回して、ゆっくりとだがその場を離れようとしている。佳香は気を失ってしまっているらしい。


 一方坂下くんは黒蛇に怒鳴られながら、次の手に移っていた。恐らく神の楽器と思われる、光纏うギターをかき鳴らし、


「コードフリーク。『モーメント』」


 不協和音が耳を(ろう)する。そして次の瞬間、坂下くんは地面を蹴りつけ、空に浮かぶ私のもとへ一直線に飛んできた。


 私は慌てて翼を動かし、その突進をひらりと(かわ)す。翼を動かす間は曲を奏でる必要があるので、瞬時に動くのは困難だ。今のは間一髪だった。


 しかし坂下くんはその謎の跳躍力を活かし、幾度も私に飛びついてくる。周囲の建物の屋根から屋根へと軽快に飛び移り、私を追いかけた。


『このままでは(らち)があかないな。これはできれば使いたくなかったが、もう仕方あるまい』

「は?」

『お前の体、借りるぞ』


 次の瞬間驚くべきことが起きた。

 黒蛇が坂下くんの口に噛みついたのだ。


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