人の話はちゃんと聞こうぜ?
「ほんと意味わかんないだろ? 急にだぞ? 『我らが『正義部』は力に屈しない! 『尋常に勝負だ!』っつっていきなり飛び掛かってきてさ。んでいざ組んでみたら、これが弱ぇのなんのって。ああいう口先だけの男ってほんと大っ嫌いだわ」
佳香のそんな愚痴を聞きつつ、私は『よろず部』の部室へ向かっていた。
彼女も署名を集めていたので、それを集計に加えることにしたのだ。
「でもあれだね。やっぱよっしーは強いんだね」
「ん。まあね。素手でサシの勝負で、相手が人間なら大概の奴には勝てる自信がある」
「ほほう。もしかして権田浦先生にも?」
「おいおい、人の話はちゃんと聞こうぜ? 相手が人間ならつったろ」
そして到着。私は部室の扉を開く。
中には三春がいた。ちょうど、動かしていたシャープペンシルを机に置いたところだった。
「おかえり。奴の署名は無事もらえた?」
「ぶい」
私はVサインで答える。
「とは言っても、貰ってくれたのはよっしーだけどね」
隣にいた佳香は三春の傍まで歩いていき、集めてきた署名用紙を差し出した。
「ほれ。ちょっとだけど他にもいくらか集まったから、これも加えといてくれ」
その用紙を受け取り、それを見た三春はしかし苦笑いを浮かべている。
「あんたほんと凄いね……ここに署名してくれてんの、軒並みイカツイ先輩ばっかじゃん」
その言葉に、私も「ね……」と小さく同意する。
佳香が署名を貰ってきたのは、三年生の中でも特に強面で、同級生でも声をかけるのに勇気がいるような人たちばかりである。沙良や三春はもちろん、一緒に署名を集めてくれている三年生の人たちでさえ、何となくその人たちは避けてきていた。
その辺りからあっさり署名を貰ってくるとは。そして極めつけは権田浦先生だ。この署名用紙にある署名は、佳香無くして得られなかったものばかりだろう。
しかし、本人にその自覚はない様子である。
「ん? 言われてみればそうか? まあ、片っ端から声かけてたら、まだ署名してないのがその人たちだったってだけの話なんだけど」
「まず、片っ端からってのがね。普通相手は選ぶでしょ? いやもちろん助かるんだけどね。とりあえずこれは集計に加えとくわ」
三春は慣れた様子で、集計を再開する。
それを横目に、佳香が私の方を見て尋ねてきた。
「私らはどうする? もっかい署名集めに行くか?」
「うーん、そうだねぇ……」
――いや。
私は心の中で呟きつつ、首を横に振る。
「ううん、もう署名はいいよ、十分だし。それよりも明日の『審問会』に備えよう」
「備えるって?」
私は椅子に座った。
佳香にも座るように勧めると、彼女は豪快に足を組んで机にひじをついた。
今は別にいいが、依頼人を前にしているときもこの座り方だから困る。でも何度注意しても駄目だったから、もう私は諦めていた。
それを見て見ぬふりし、こほんと咳払いを一つ。私は説明を始めた。