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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
よろず部部長の苦悩
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貴様の陰謀はここで打ち砕かせていただく!

「ま、まさか……」

「そのまさかだ」


 顔を一気に青くする私に、坂下くんはそのハンカチを、打ち取った敵武将の首のように誇らしげに天高らかに掲げた。私はその出で立ちに後光を見た。


「『よろず部』部長佐々野沙良! 純情無垢な他の生徒たちは騙せても、この『正義(せいぎ)部』部長坂下正義(まさよし)の目はごまかせないぞ! 貴様の陰謀はここで打ち砕かせていただく!」


 掘り当てたのは、温泉どころかマグマだまりだ。とんだ公開処刑である。

 ――ていうか正義部なんかあったっけ? 聞いたことないんだけど。


「正義部って?」


 私が聞くと、坂下くんは誇らしげに答えた。


「正義部とは、今年から発足予定の部だ。名前の通り、弱きを助け、邪悪を打ち砕く。みんなを守る正義の部だ」


 高二だ。高二がおる。


「そりゃあ豪儀だね」

「感心している場合か?」


 坂下くんが悪い顔をする。もはや顔が正義キャラではない。


「どういうこと?」

「正義部ができるということは、代わりに他の、生徒会に不必要だと判断された要らない部が、廃部に追い込まれるということだぞ?」


 それを聞いて、ようやく話が見えてきた。


 我らが夕静海高校は、ここまででわかる通りわけのわからない部活動が多い。


 ありとあらゆる景品応募にはがきを送りまくってその当選数と価値を競いあう『競運(きょううん)会』、牛乳パックやラップの芯などを使ってどれだけ有効利用できるかを探求する『還元部』、ジブリ大好き『ジブリ部』、こんぶ大好き『こん部』、何かこんもりしたものの製作と体感に余念がない『美丘部(※女子禁制)』など、もう誰かん家で集まって勝手にやっとけや、と思わなくもない部活動がたくさんある。


 それなのにわざわざ部にするのは、そうすると部費が出るからだ。


『競運会』は部費ではがきや切手を買いまくってるし、『還元部』はパックの牛乳を買いまくってラッパ飲みしてるし、『ジブリ部』は部費で映画見まくってるし、『こん部』は思うままにダシを取りまくっている。


 そしてそれだけの勝手が許されるのは、そこに価値があるからだ。


『競運会』は大型テレビや多機能型洗濯機を当選させてそれを学校に寄付したし、『還元部』は牛乳パックを用いて荒れ放題の森を表現し、有名な県展で賞を取った。『ジブリ部』は研究成果をもとにアニメを自作して、それを動画サイトに投稿して総再生数二千万回を記録したし、『こん部』は新種の海藻を発見した。『美丘部(※女子禁制)』は――私たち女子には全くわからないが――男子生徒、男性教師陣の絶大な支持を得ている。


 要するに、どれだけ学校側に必要とされているか。これが重要なのである。

 というかこれがなければ、廃部も免れない。


 特に危険なのが、必要性のある別の部活動の新設が決まった時だ。「じゃあ代わりにこれ無くそっと」と言った感じで、部が消されることも多い。


 先代牧野部長がいたときは、そんなこと心配したこともなかったが、今となっては文字通り死活問題だ。『よろず部』なんてあの人でもっていたようなものなのだ。私のような奴が部長になっている時点でお察しである。


 ちなみに我が『よろず部』の現在の部員数は、私を入れて三人だ。そのうちの一人はこの場に居もしないし、もう一人はさっきから我関せずで隣で本を読んでいる。


 ――ここは私がふんばるしかない!


 しかしどうしたものか。現状考え得る最悪の状況である。


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