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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
戻る日常、残る違和感
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何かひっかかる

 未だきょとんとしたままの私を見て観念したのか、三春は少し恥ずかしそうに言った。


「別にね。なんでもかんでも依頼を受けちゃう沙良に腹がたったわけじゃないのよ。沙良がそういう子だってのは小学校の頃からずっと知ってるし、もう諦めてもいる」


 三春とは小学校からの付き合いだ。他にもこの高校でそういう子はいるけど、その中でも三春とはずっと一緒にいた気がする。

 きっと、私のことを誰よりもわかってくれているのは三春だ。


「でもね。それを全部私たちにないしょで、一人で背負(しょ)い込んでたことに腹がたったの。沙良が『よろず部』の部長になったとき、私たちに言ったよね? 私は牧野先輩と違ってあんなに有能じゃないから、三人で力を合わせていこうって」


 三春に言われ、思い出した。私は確かにそう言った。


 牧野前部長みたいに私は優秀ではない。あんな化け物染みた解決力が私にあるわけがない。

 だから私は言ったのだ。頭が良くて賢い三春と、思い切りがよくて力の強い佳香。三人の力をあわせて頑張って行こうと。


 なのに私は、何もできないくせに、いつの間にか一人でやろうとしていた。それに対して三春は怒っていたのだ。


 牧野先輩が一人でズバズバ解決していた時、私は物寂しさを感じていたはずだった。それを今度は私が二人に与えてしまっていたのだ。


「そっか……そうだよね……私が協力しようっていったのに……ほんとにごめん」


 私は謝る。


「別にいいよ。正直もうそんなに怒ってないから。私も意地になってごめん」


 三春も謝ってくれた。


「ううん。そんなことない。……でもそれならそうと言ってくれたらよかったのに」


 私が言うと、三春は顔を赤くして視線を泳がせた。それを見て、隣で立っていた佳香が三春の肩に肘を乗せる。


「だから言ってんだろ、ツンデレちゃんだって」

「つんでれって言うな……」

「まあとにかく一件落着ってことで。帰ろうぜ」

「うん!」


 私が笑うと、そっぽを向いていた三春はこっちを見て、少し笑った。


「久しぶりにどっか寄ってく?」

「いいね~」

「ゲーセン行こうぜゲーセン!」


 佳香が空いていた方の手で私の肩に手を回してくる。私は呆れたように笑った。


「よっしーはゲーム好きだなぁ」

「私はお腹が減った」

「大通りのたこ焼き屋寄ってくか」

「ええ~。私今日死ぬほどたこ焼き食べたんだよねー」

「じゃあもうコンビニでいいんじゃない?」

「誰が『コンビニ』だ!」

「「……は?」」


 私たちはわいわい喋りながら部室を出る。

そして鍵を閉める直前、私は誰もいない部室を見渡した。不意に嬉しさが込み上げ、にやにやしてしまう。


「なにしてんの? 早く行こうよ」

「あ、うん。すぐ行く!」


 私は慌てて鍵を閉め、いつもの習慣で扉の立札をひっくり返した。すると『在室中。依頼がある方はどうぞ中へ』になってしまう。


 ――……って、あれ?


 そう言えば私は、今日の夕方佳香に留守番を頼んだのだった。そして部室を出る際、立札を裏返した。

 だからまあ今の状況は合っている。三春や佳香は、この立札をほとんどほったらかしにしているからだ。


 だからそこは別にいいのだ。


 いやよかないけども。でも私が今違和感を感じたのはそこではない。


 それ以前の話。

 つまり、なぜ私は放課後に部室を空ける必要があったのか。


 その辺の記憶がすごく曖昧だ。吹奏楽部に行ったのは覚えている。『メリケンサックサク部』『本について語る会』『美丘部(略)』『激坂のぼり隊』に『急流すべり隊』。いろいろと回ったのも覚えている。


 ではなぜ私は、そんな風に色んな部を見回っていたのか。

 あの宿題以外に、今日何か依頼を受けた覚えはない。なのになぜ私はあちこち回っていた? 暇つぶし? いやいやさすがの私も友達に留守番を頼んでまで意味も鳴く部室を空けるようなことはしないはずだ。


 何かひっかかる。何か大事なことを忘れている。そういう気がしてならない。いつの間にか家にいたのも、なのに自転車は学校に置きっぱなしになっていたのも、やはり変だ。


「佐々野――っ!」

「あ、うん。ごめん!」


 私はひとまず立札をもう一度ひっくり返し、『不在。依頼がある方は投書してください』にした。


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