まあ要するに、結木はツンデレちゃんってことだ
一同に見つめられ、私は戸惑った。
「や、そんなこと急に言われても……」
「なんでもいいって言ってるんだから、なんでもいいんだよ。とりあえず、佐々野の今の一番の願いを言ってみろよ」
「一番の……願い……」
――……あ。
私はそこで一つのことを思いつき、それを告げた。
「お安い御用だ!」
樫井部長は、任せろ、と自分の胸をどんと叩いた。
その隣で佳香が一同を鋭く見回す。
「聞いたな。我らが部長の悲願はさっき言った通りだ。何としても応えて見せろよ!」
「「イエス・マムっ!」」
一同は佳香に向かって敬礼をした。だからなんなんだよこれは。
そして彼らは勢いよく部室を飛び出して行った。さっそく動いてくれるらしい。いや、よく見ると数人がまだ残っていた。吹奏楽部の何人かだ。私に宿題をお願いしてきた子たちである。彼女らは机に置いてあった自分の宿題をそれぞれ手に取り、
「ごめん! これはちゃんと自分でやるね」「沙良ちゃんも三春ちゃんもごめん! ほんと私たち調子に乗り過ぎた」
そしてぺこぺこ頭を下げる。私はひらひらと手を振った。
「だから気にしなくていいって、コンクール頑張ってね」
「……沙良ちゃん」
「楽器運びとか、チケット販売とか、人手が必要なときはいつでも言って。そういう依頼は歓迎するから」
すると内一人が私に抱き着いてきた。「天使だ……」「大天使サラエルだ!」「ありがとー、ありがとーっ!」「私たちも手伝うからね! 『よろず部』の他の依頼で大人数が必要なときとか、すぐ駆けつけるから!」
そして一人がぽしょりと言った。「や~、これは樫井部長が惚れるのもわかるね~」
するとみんな一斉にニヤニヤし始める。「だね~」「沙良ほんとかわいいしね」「ちょっと抜けてるとこもポイント高い」「むしろあの人にはもったいないくらい」
私は慌てた。
「え? え? どういうこと? 樫井部長が……はい⁉」
「じゃあ私たちも行ってくるから! あとは任せて!」
「ちょ、ちょっとぉ⁉」
混乱する私をほっぽいて、彼女らは部室を出て行った。
残ったのは、佳香と三春。『よろず部』の面々だけだ。不意に部室が静かになった。
「じゃあ帰ろうか。残る理由もないし」
三春が椅子から立ち上がりつつ言った。佳香も鞄を背負い直しながら、「ん」と答えた。
私はまた一人あたふたとしていた。何からお礼を言えばいいのか、謝ればいいのかわからない。
「あ、あのさ、みはるん」
「言っとくけど」
恐る恐るかけた私の声を、三春は冷たく断ち切った。
「私はまだ怒ってるから」
そのまま私の横を通り過ぎ、部室の扉へと向かってしまう。私は慌てて振り返り、その背中に尋ねた。
「じゃ、じゃあ、なんで宿題やってくれてたの? みはるんあんなに反対してたのに……」
三春は立ち止まった。
しばしの沈黙。その後彼女は、はぁ、と深くため息をつき、「鈍いなぁ……」と呟いた。
そして振り返る。
「その感じだと、私がなんで沙良に怒ってるのかわかってないみたいね」
「え?」
私はきょとんとした。
わかるもなにも、三春は私にちゃんと言ったではないか。
「なんでもかんでも依頼を安請け合いしたからでしょ?」
「……はぁ」
「あれ⁉ 違うの⁉」
わざとらしく息を吐く三春に、私は戸惑った。
すると三春の隣で立っていた佳香が、私の方を見てにやっと笑った。
「まあ要するに、結木はツンデレちゃんってことだ」
「はぁ? なに言ってんのよ……」
三春は佳香を睨む。しかしその頬が少しだけ赤い。もしかして図星なのか? いやでもどういうこと?




