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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
戻る日常、残る違和感
32/70

首根っこを掴まれた樫井部長

 ここはどう切り出したものか。

 宿題をやってくれていたということは、私を許してくれたと思っていいのだろうか。いやここはまず謝るべきか。でもどうしよう。どう謝るか全然考えてなかった。


「あのさ」


 不意に三春が言った。寝起きの半眼で私の方をぽやっと見つめている。


「あ、うん、何?」

「ごめん、眼鏡どこ。見えなくて」

「あ、ごめんそうだよね! こちらです!」


 私は慌てて、机に置いてあった眼鏡を三春に持たせた。彼女は髪を耳の後ろにやって、それをかけた。そして大きくあくびをしている。


 ――なんか……超普通……。


 そう思った瞬間だった。

 我が部室に複数の足音がどかどか近づいてきたかと思うと、そのまま中へと入ってきた。


 その先頭には、佳香に首根っこを掴まれた樫井部長の姿があった。吹奏楽部の部長さんだ。


「ちょ、よっしー何してんの⁉」

「それはこっちのセリフ」


 ぶすっとそれだけ言うと、樫井部長をそのまま私に向かって突き飛ばす。

 これは何事だ。私はあたふたと周囲を見渡しながら、やがて目の前で(うつむ)く樫井部長の顔を覗き込む。


「あ、あの、樫井部――」

「すまんかったぁ!」


 不意に樫井部長は大声で謝った。私は驚いてのけ反る。


 ――ていうか、なんか泣いてらっしゃる?


 よく見ると彼の目元には涙がたまっている。それを拭い、樫井部長は続けた。


「沙良ちゃんの優しさに付け込んで、あれこれ雑用おしつけてしもうて、ほんますまんかった! しかも、吹奏楽部の中に、宿題まで押し付けるドアホがおったなんて……俺全然知らんくて、ほんまにすまん! 部の代表として謝るわ! この通りです!」


 それが皮切りだった。彼の後ろにわんさかといた、他の部の部長さんや、かつての依頼者たちが次々に私に謝罪を述べてきた。


 私はしばらくぽかんとしていたが、ようやく状況が呑み込めてきた。


 きっと三春が佳香に事情を話して、それを聞いた佳香が「佐々野に雑用おしつけてんじゃねぇよ『よろず部』は便利屋じゃねぇぞオラぁ!」と怒鳴り込んでいったのだろう。それでみんな謝ってくれているのだ。


「あ、いえ。私は別に……私が安請け合いしちゃったのが悪かったんだし……」

「そんなことない! 沙良ちゃんはぜったい(わる)ない!」


 樫井部長が言うと、周囲のみんなが「そうだそうだーっ!」と叫ぶ。なんだこれ。


「おい佐々野。こいつらお前にお詫びしたいそうなんだけど、なんかして欲しいことあるか?」


 佳香が言った。

 それに応えるように、みんなは私の方を見て、うんうん頷く。


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