胸をかき乱すような焦燥感
気が付いたとき、私は自分の家の自室のベッドに横になっていた。
部屋の明かりはついておらず、窓から夕日が差し込んでいる。寝汗なのか、私の体は汗でびっしょりだった。
「あれ……なんだろ……夢?」
とても長い夢を見ていた気がした。しかしそれがどんな夢だったのかがまったくもって思い出せない。時計を見ると、午後六時前だった。
――私、なんで家にいるんだろ……
『よろず部』の部活終了時間は六時だ。
仮に依頼がないときでも、何か事情がない限りはその時間まで部室にいるようにしている。なのでこんな時間帯に家にいることがとても不思議だった。
まだ寝ぼけているのだろうか。でもどんなに考えても、今日学校から家まで帰ってきたという記憶がない。というか、全体的にぼやけている。
それでも少しずつ思い出し始めていた。
今日確か、『よろず部』へ『審問会』出席の通達が来たのだ。あと、三春とケンカして、佳香に留守番を頼んで、その後吹奏楽部の子たちに宿題を頼まれた。
「そうだ……宿題……」
寝ぼけ眼で部屋を見渡すが、あの宿題の山はなかった。まさかあれを部室に放置したままなのか。
――やば……早く取りに行って、さっさと仕上げないと。
私は部屋を飛び出して、階段を駆け下りた。そのタイミングで玄関のドアが開いた。
「あれ、どっか行くの?」
「ちょっと学校に忘れ物!」
母だった。仕事帰りだったようだ。彼女の顔もろくに見ずに、私はそのまま靴をはいて家を出る。そして庭にある自転車に――
「あれ……ない?」
自転車がなかった。
まさか学校に置いてきたのだろうか。
――今日の私……どうしたんだろう……。
仕方ないのでそのまま走った。走っても、まあ三十分あればつくだろう。そう焦ることはない。むしろ問題はその宿題をどのようにして片づけるか。
――にしても……
この、胸をかき乱すような焦燥感はなんだろうか。
宿題のことは心配だ。三春とケンカしたままなのも気がかりではある。でも、なんというか、それだけではない気がする。
何か大事なことを忘れているような……