お前、俺のハンカチは森の中って言ったよな?
「なぁ、まだわからないのか? 俺は急いでいるんだが」
私は水晶玉からふっと顔をあげた。
声をかけてきたのは、坂下くんだ。今回の依頼人である。落としたハンカチの場所を知りたいとのことだった。
んなものわかるわけねぇだろ私は神か! と一喝したくなるような依頼内容だが、これが牧野部長であれば『ああそれね。君が依頼にくるのを待っていたよ』と言って、もうすでに拾ってきているハンカチ(洗濯、アイロン済)を何気ない顔で差し出すことだろう。
よってこの依頼を、できない、などと言って突き返すことはできなかった。これ以上先代の威光を汚すわけにはいかないのだ。
「はい。あと少しです! 大体わかってきましたよぉ~」
嘘である。水晶玉に映るのは、脂汗垂れ流して焦りまくっている私の顔だけだ。
その顔を直視していると、なぜか泣けてくる。もう見るに堪えない。誰か助けてやってよ。依頼人よりはるかにピンチだよ。
「ほんとか? どこ?」
坂下くんが私に尋ねてきた。
当然の質問だろう。私は答える。
「え、えっと……とりあえず日本ですね」
「だろうな」
心なしかその声が冷たかった。
「冗談です! えっと……この校内ではない、かな? 多分家の中とか――」
「家は探したけどなかったぞ」
「――ではなくて外ですね。通学の途中で落としたのかも?」
「かも?」
「です! 水晶玉にはそう出てます!」
やべー、取り返しつかなくなってきた! 墓穴掘りまくってるよ! もう深すぎて全然前が見えないよ!
ここまできたらもういっそ、温泉を掘り当てる奇跡にかけて、掘って掘って掘りまくるしかあるまい。
「見えたぁ!」
私は立ち上がった。よろず部部長の威厳をかけて、その答えを告げた。
「坂下くんのハンカチはカラスがくわえて森の奥深くに持って行ってしまったようです。ああ~残念だなぁ~。これじゃあ場所がわかってても探しにいけないよ~! ちっくしょぉ~」
敢えて言い訳はすまい。人はときに誰かのために嘘をつくべきときがあるのだ。嘘も方便てね。必要悪という言葉もある。こういう言葉はなにかと便利だからよく覚えておくといい。ここ、テストに出るよ。
「うそつけ」
坂下くんは無碍もなく言った。
「へ?」
私は呆けた顔で立ち尽くした。
そしてその瞬間である。我がよろず部部室の廊下側の窓が一斉に開け放たれた。
その向こう側から、たくさんの生徒がニヤニヤ顔でこちらを見ていた。私はその事態を瞬時に受け入れられない。
坂下くんが、ニヤっと笑う。
「お前、俺のハンカチは森の中って言ったよな?」
「え、えっと……はい」
「じゃあ、これはなんだ?」
言いながら、坂下くんがポケットから取り出したのが――ハンカチだった。