君はもっとわがままに生きてよいと思うぞ
サタケさんの顔がみるみるうちに萎れていく。
しかしそんなもので甘くなる私ではない。今度こそ堪忍袋の緒が切れた。
「謝罪なんてどうでもいいから、とっとと私をもとの世界に戻してよ! 腐っても神様なんでしょ⁉」
「う、うむ……それはもちろんだが……今はもう体力が……」
「気合が足りてないんじゃない⁉」
「あ、あれぇ? 沙良ちゃんてこんなキャラだったっけ?」
「人を勝手に便利屋扱いして! だれが『コンビニ』だ!」
「何の話だ⁉」
なんかもう怒りの矛先がごちゃごちゃになっている気がするが、構うまい。サタケさん相手なら、いくらでも不満が言える気がしだ。
「もっと私のことも考えてよ! 私の思いに気づいてよ! 一緒に『よろず部』を守る努力をしてよ! 私の考えも少しは聞いてよ!」
訳も分からず、とにかく溜まっていたあれこれをぶちまけていた。
目の前のサタケさんはぽかんとしている。当然だろう。私も自分で自分がわからん。
「牧野先輩のバカ! よっしーのバカ! みはるんの大バカ! みんなバカ! もうバカばっかだ! 誰も私のことなんてわかってくんないんだもん!」
私はたまらず泣き崩れた。自分でももうわけがわからないが、どうにも収まりそうになかった。とにかくぶちまけられずにいられないのだ。
そんな中、私の体をそっと包む手があった。サタケさんだ。私の猫顔を両手でそっと挟んでいる。
「でも沙良ちゃんは、そんなみんなのことが好きなんだろう? だからこそそんな風に不満が溜まってしまうのだろう?」
「うん……」
私は頷く。
サタケさんはニコッと笑って見せた。
「ではさっきの口上、みなの前でぶちまけてやれ。沙良ちゃんはいい子だ。きっとみんな受け入れてくれるさ」
「……え?」
「今すぐ沙良ちゃんを元の世界に戻す」
言いつつ、サタケさんは『遊楽』を手にした。
汗を一拭いし、彼はその笛に息吹を吹き込む。ほのかな青白い光がぽわっと灯った。
サタケさんの奏でた曲は、小学校のときに何度も歌ったことのあるものだった。
ふるさと
その音色は、私の胸をいっぱいにした。郷愁と言っていいほど長い間家を空けたわけではないが、それでも今は帰りたくて仕方がない。牧野先輩にも、三春にも佳香にも会いたい。そんな私にこの曲は沁みた。
そしてやがて、サタケさんの体を風が取り巻き始める。異変に気付いた小鬼たちが下で何やらガヤガヤ騒いでいた。
「早くこっちへおいで。怖がらなくていい」
私は言われるがままに歩を進める。するとサタケさんは私の体を抱え、そっと口づけした。
再び体が入れ替わる。私は黒猫のサタケさんを両手で抱えていた。
その手から彼は離れ、そのまま私の元から距離をとった。
にわかに私を取り巻く風の強さが増す。
「本当に悪かった。結局僕は君に迷惑をかけただけだったな。こんなものじゃ罪滅ぼしにもならんかもしれんが、これで君は元の世界に戻れる」
「……サタケさんは? どうするんです?」
彼はその問いに答えなかった。
「君はもっとわがままに生きてよいと思うぞ。しっかりな。幸運を祈ってる」
「サ――」
私とサタケさんとの間に風が吹き荒れ、彼の姿がほとんど見えなくなった。
「サタケさんっ!」
やがてその風は私自身を飲み込んだ。一瞬で何もわからなくなってしまった。




