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とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
地獄マラソン
29/70

君はもっとわがままに生きてよいと思うぞ

 サタケさんの顔がみるみるうちに(しお)れていく。

 しかしそんなもので甘くなる私ではない。今度こそ堪忍袋の緒が切れた。


「謝罪なんてどうでもいいから、とっとと私をもとの世界に戻してよ! 腐っても神様なんでしょ⁉」

「う、うむ……それはもちろんだが……今はもう体力が……」

「気合が足りてないんじゃない⁉」

「あ、あれぇ? 沙良ちゃんてこんなキャラだったっけ?」

「人を勝手に便利屋扱いして! だれが『コンビニ』だ!」

「何の話だ⁉」


 なんかもう怒りの矛先がごちゃごちゃになっている気がするが、構うまい。サタケさん相手なら、いくらでも不満が言える気がしだ。


「もっと私のことも考えてよ! 私の思いに気づいてよ! 一緒に『よろず部』を守る努力をしてよ! 私の考えも少しは聞いてよ!」


 訳も分からず、とにかく溜まっていたあれこれをぶちまけていた。

 目の前のサタケさんはぽかんとしている。当然だろう。私も自分で自分がわからん。


「牧野先輩のバカ! よっしーのバカ! みはるんの大バカ! みんなバカ! もうバカばっかだ! 誰も私のことなんてわかってくんないんだもん!」


 私はたまらず泣き崩れた。自分でももうわけがわからないが、どうにも収まりそうになかった。とにかくぶちまけられずにいられないのだ。


 そんな中、私の体をそっと包む手があった。サタケさんだ。私の猫顔を両手でそっと挟んでいる。


「でも沙良ちゃんは、そんなみんなのことが好きなんだろう? だからこそそんな風に不満が溜まってしまうのだろう?」

「うん……」


 私は頷く。

 サタケさんはニコッと笑って見せた。


「ではさっきの口上、みなの前でぶちまけてやれ。沙良ちゃんはいい子だ。きっとみんな受け入れてくれるさ」

「……え?」

「今すぐ沙良ちゃんを元の世界に戻す」


 言いつつ、サタケさんは『遊楽』を手にした。

 汗を一拭いし、彼はその笛に息吹を吹き込む。ほのかな青白い光がぽわっと(とも)った。

 サタケさんの奏でた曲は、小学校のときに何度も歌ったことのあるものだった。


 ふるさと


 その音色は、私の胸をいっぱいにした。郷愁(きょうしゅう)と言っていいほど長い間家を空けたわけではないが、それでも今は帰りたくて仕方がない。牧野先輩にも、三春にも佳香にも会いたい。そんな私にこの曲は()みた。


 そしてやがて、サタケさんの体を風が取り巻き始める。異変に気付いた小鬼たちが下で何やらガヤガヤ騒いでいた。


「早くこっちへおいで。怖がらなくていい」


 私は言われるがままに歩を進める。するとサタケさんは私の体を抱え、そっと口づけした。

 再び体が入れ替わる。私は黒猫のサタケさんを両手で抱えていた。


 その手から彼は離れ、そのまま私の元から距離をとった。

 にわかに私を取り巻く風の強さが増す。


「本当に悪かった。結局僕は君に迷惑をかけただけだったな。こんなものじゃ罪滅ぼしにもならんかもしれんが、これで君は元の世界に戻れる」

「……サタケさんは? どうするんです?」


 彼はその問いに答えなかった。


「君はもっとわがままに生きてよいと思うぞ。しっかりな。幸運を祈ってる」

「サ――」


 私とサタケさんとの間に風が吹き荒れ、彼の姿がほとんど見えなくなった。


「サタケさんっ!」


 やがてその風は私自身を飲み込んだ。一瞬で何もわからなくなってしまった。


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