今度会う時には、ぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに
それでも岩肌は続いた。
斜め上向く洞窟の中を進んでいるかのように、傾斜の凄まじい岩に囲まれた空間が延々続く。
下をよく見ると、やつれたような人々が――罰を受けている罪人だろうか――出口の見えないこの洞窟を一歩一歩ゆっくり進んでいた。
さすがの『激坂のぼり隊』でもこの傾斜には慄くことだろう。もしそうじゃなかったとしたら、彼らはもう病気だ。マッドМだ。手遅れだ。
そんな中、私の乗っているサタケさんの体がゆっくりと高度を落とし始める。何となくだが、演奏にも力がなくなっている気がした。
やがて一つの岩山のてっぺんに降り立つ。私はサタケさんの体から飛び降り、彼の顔を覗き込んだ。その表情は明らかによくない。
「すまん……ちょっと休ませておくれ……少し力を使い過ぎた」
そしてついさっきまで奏でていた『遊楽』から、彼は口を離す。
今気づいたが、その『遊楽』はほんのりと青白い光を放っていた。しかしその光が、彼が演奏を止めたことによってたちまち弱まっていく。それと同時に背中に生えていた羽も消滅した。
さっき飛行していたのは、きっとこの『遊楽』の力によるものなのだろう。そして『翼をください』という曲は、呪文のようなものなのかもしれない。
そしてそれには恐らく多大な体力を使うのだ。
今のサタケさんを見ればわかる。疲弊している自分の姿をはた目から見るというのも不思議な感覚だが、さすがにもう慣れた。
「遅くなって……悪かった……これでも全力で飛ばしたんだが……さすがに界と界をまたぐのは労力が並ではなくてな……」
肩で息をしながら、サタケさんは続けた。
「いや、それより先に謝らなくてはな……さすがに反省している……軽率だった……ここまで巻き込むつもりはなかったのだ……本当にすまぬ」
あんなにも憎かったのに。
今度会う時には、ぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに。
なぜかそれよりも、こうまでしてちゃんと助けにきてくれたことがうれしかった。
「もういいですから。今はちゃんと休んでください」
言って、私は周囲の様子を窺う。
今いる岩山のふもと辺りを罪人たちがぞろぞろ歩いていて、それを見守るように小鬼たちが武器をもって並んでもいるが、彼らが私たちに気づいている様子はない。