表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある神様のおもてなし狂想曲  作者: 楽土 毅
地獄マラソン
25/70

今度会う時には、ぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに

 それでも岩肌は続いた。

 斜め(うわ)向く洞窟の中を進んでいるかのように、傾斜の凄まじい岩に囲まれた空間が延々続く。

 下をよく見ると、やつれたような人々が――罰を受けている罪人だろうか――出口の見えないこの洞窟を一歩一歩ゆっくり進んでいた。


 さすがの『激坂のぼり隊』でもこの傾斜には(おのの)くことだろう。もしそうじゃなかったとしたら、彼らはもう病気だ。マッドМだ。手遅れだ。


 そんな中、私の乗っているサタケさんの体がゆっくりと高度を落とし始める。何となくだが、演奏にも力がなくなっている気がした。

 やがて一つの岩山のてっぺんに降り立つ。私はサタケさんの体から飛び降り、彼の顔を覗き込んだ。その表情は明らかによくない。


「すまん……ちょっと休ませておくれ……少し力を使い過ぎた」


 そしてついさっきまで奏でていた『遊楽』から、彼は口を離す。

 今気づいたが、その『遊楽』はほんのりと青白い光を放っていた。しかしその光が、彼が演奏を止めたことによってたちまち弱まっていく。それと同時に背中に生えていた羽も消滅した。


 さっき飛行していたのは、きっとこの『遊楽』の力によるものなのだろう。そして『翼をください』という曲は、呪文のようなものなのかもしれない。


 そしてそれには恐らく多大な体力を使うのだ。

 今のサタケさんを見ればわかる。疲弊している自分の姿をはた目から見るというのも不思議な感覚だが、さすがにもう慣れた。


「遅くなって……悪かった……これでも全力で飛ばしたんだが……さすがに界と界をまたぐのは労力が並ではなくてな……」


 肩で息をしながら、サタケさんは続けた。


「いや、それより先に謝らなくてはな……さすがに反省している……軽率だった……ここまで巻き込むつもりはなかったのだ……本当にすまぬ」


 あんなにも憎かったのに。

 今度会う時には、ぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに。


 なぜかそれよりも、こうまでしてちゃんと助けにきてくれたことがうれしかった。


「もういいですから。今はちゃんと休んでください」


 言って、私は周囲の様子を(うかが)う。

 今いる岩山のふもと辺りを罪人たちがぞろぞろ歩いていて、それを見守るように小鬼たちが武器をもって並んでもいるが、彼らが私たちに気づいている様子はない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ