いや、興奮してるとこ申し訳ないですけど、女子の生着替えはただの冗談で――
「はぁ、にしてもうちの学校は変な部活動が多いなぁ。『よろず部』より先に消すべき部がもっとあるんじゃないの?」
私は疲れの籠ったため息をもらす。
今私はグラウンドの端っこに来ていた。目の前では、我が校の『野球部』が元気な声をあげて練習に取り組んでいる。うちの学校にだって、こんな風に真面目に頑張っている部もあるのだ。
いやまあ、他の変な部活の人たちも案外真面目ではあるんだけどね。
ただ、目指す先が斜め下すぎる。
若気の至りの権化と言ってもいい。
きっと就職面接の際、あまりの恥ずかしさに身を焼かれることだろう。「高校のときに何か部活動はやっておられましたか?」「あ、えっと、はい。『美丘部(※女子禁制)』という部活に入っていました」「美丘部? 具体的に何をされていたんです?」「えっと、美しい、お、丘を研究したり、作ったりしました」「研究?」「は、はい。我々を魅了する最高の形ですとか、質感ですとかを、た、探求しました」「へぇ、そう。ところでなんで女子禁制なの?」「あ、ああ、ええとそれは、ですね――」
こんな風に決めつけて悪いが、黒歴史確定である。
――つーか百歩譲って『よろず部』消すなら、『美丘部(※女子禁制)』を真っ先に廃部にしてよ! なによ男性陣からの絶大な支持って! あんなハレンチなだけの部に負けてたまるか!
しかしそんな思いを声高に叫べないのは、『美丘部(略)』には奴がいるからである。
そう、何を隠そう。『美丘部(略)』の顧問は権田浦創源だ。泣く子もお調子者も、あの佳香ちゃんでさえも、ひと睨みで黙らせる、我が校の実質的重鎮だ。
「ま、仕方ないか。男の子ってバカだもんね」
「大多数はそうかもな。僕は違うが」
私の頭の上で、サタケさんが言った。
「あ、あんなところで女子が着替えてる!」
「なに⁉」
私が適当に指を差しながら叫ぶと、サタケさんはすぐさま目を凝らした。最初はフシュー、と鼻息荒げていたが、今のが私の嘘だったのだと悟るや彼は慌てて平静を装う。
「ぼ、僕は紳士だからな。そんなものにひっかかったりはしな」
と、不意にサタケさんの言葉が途切れた。不思議に思った私は頭上に目を向け、
「あの、どうかし」
「ああーっ! あそこっ! おいあんなとこにあったぞ!」
「え。いや、興奮してるとこ申し訳ないですけど、女子の生着替えはただの冗談で――」
「そっちではない! 『遊楽』のことだ! いいからあそこをよく見てみろ!」
「へ?」
言われ、少し訝しみながらも、サタケさんの前足が指す方向へと目を凝らす。ちょうど私がさっき適当に指差した方向とほとんど同じだ。
その先には木があった。グラウンドから少し離れた人気のない場所。そこを幹に沿ってゆっくり視線をあげていく。すると一本の枝の先に何やら光る棒のようなものが。