相手が自分を認識できない透明人間的おいしい状況
「じゃあ、とりあえず校内に絞って探してみますか。ちなみにもう調べたところとかはあるんですか?」
私が尋ねると、サタケさんは頷いた。
「ああ、いくつかな。行ったのは運動部の部室一通りと、あと更衣室。トイレにも行ったな。あとは保健室くらいか」
「……なんだかハレンチな期待を抱いて回っていた節があるんですけど」
どれもこれも、女生徒が服を脱ぐ可能性があるところばかりである。相手が自分を認識できない透明人間的おいしい状況を利用した感がぬぐえない。
「ば、バカを言うな! 神を愚弄する気か! 僕はそんなにえっちじゃないぞ! 紳士なんだぞ!」
「その焦りっぷりが余計に怪しいんだけど。まあいいや。とりあえず適当に回ってみようか」
私は立ち上がる。そしてサタケさんを肩の上に乗せ、部室の入口へと向かう。
その折、ふとあることを思いだし、私は携帯を取り出した。
かける先は、迷ったあげく。
『なんか用かー』
ぶっきらぼうな応答。
声の主は、我が『よろず部』の残り一人の部員、瀬野佳香ちゃんだ。ほんわり可愛い子を連想させる名だが、実際はド不良である。そのせいで一部の生徒や先生たちから怖がられている節があるが、根はいい子だ。私にとっては同じ部の部員である前に、大切な友達である。
で、そんな佳香ちゃんに私が電話した理由は他でもない。
「あのね。今から依頼で部室あけるから、よっしーにお留守番お願いしたいんだけど」
そういうわけである。
一応、留守時の対応のため、部室の前には「依頼申請書」なるものを置き、それを投函するための箱も設置しているのだが、存外これらの利用率はあまり高くなく、部室に誰もいない状況を見ると、それだけで依頼自体を諦めてしまう人が多いらしい。
なのでできるだけ――特に依頼持ち込みの多い放課後は――部室を留守にしたくはないのだ。
そのことは、もちろん佳香もわかっているはずなのだが。
『はぁ? なんでわたしが? 結木に頼めばいいじゃん』
「あー、それは、えっとですねぇ……」
痛いところを突かれた、と私は思わず口ごもった。
実際迷ったのだ。佳香に頼むべきか、三春に頼むべきか。いや、むしろ普段なら迷わず三春に頼んでいるだろう。
佳香は一部グループからは熱狂的な人気があるが、それ以外の生徒たちからは基本怖がられている。本来、あまり留守番を任せるにふさわしいタイプではないのだ。
彼女は圧倒的物理力に物を言わせるオラオラ型の任務が得意だ。
やれ隣町の不良が調子に乗ってうちの生徒にちょっかい出してるから釘を刺してくるだの、やれ誰それちゃんが悪い男にひっかかって辛い思いをしてるからソイツをぶん殴って改心させてくるだの、やれどこぞの公園にロリコンの露出狂が頻出しているから手当たり次第に駆逐してくるだの。
多少やり方は荒っぽいが、それでも私なんかにはどうにもできないことを佳香は力技で解決してしまうのだ。