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まだ知識がないので、アスラ視点で進みます!
もう少ししたらモト(主人公)でいきまう
少しボリューミーになりまう
頑張って書くのでおねがいしまう(´,,•ω•,,`)
クラムの衛兵の朝は早い。
朝日が昇る頃に目を覚まし、水汲みに向かう。それが終わると、今度は村長の屋敷で作物の残りをもらう。
そうして小屋に戻って朝食を食べ、そこからは門番の仕事だ。素晴らしき日常。俺はこの生活が気に入っていた。休みがほとんどないのは口惜しいが、人が来なければ休みみたいなもんだ。
起きると、いつもの景色より少し低い。それもそのはずで、俺はベットの脇で寝ていた。いつもベッドで寝ているため、いつもより体が硬くなっていた。体を伸ばすとポキポキと小気味よい音がする。
「・・・モトを引き取ったんだ。」
横の普段使っているベットには白髪の少年モトが寝ていた。
昨晩に村の薬師からもらってきた塗り薬を使ったためか、全身の擦り傷は昨日ほどひどくない。少なくとも化膿したりはしていないようだ。
しかし驚くほど回復が早い。昨日まではあざだらけだったのに、もうほとんど腫れは引いてきている。見た目のガリガリの印象とは裏腹に、体力はずいぶんあるのかもしれない。
「今朝からはモトの分の朝食も考えた方が良いな。」
朝飯について考えながら、玄関の棚から短剣とタバコを手にとり外へ向かう。夏の終わりを感じさせる涼しい風が吹いている。
煙突からは羊の毛のような煙が昇っていた。
「我ながら狭い家だな。」
俺の家は衛兵小屋を回収したものなので、驚くほど狭い。生活に必要な最低限度のものだけ。トイレなんてもちろんない。どうするかと言えば外でする。それだけだ。
とはいえ、これからモトが住むことを考えると少し頭が痛い。
タバコに火をつけながら、畑に挟まれた通りを歩いて屋敷に向かう。
早朝に収穫前の畑を見ながら、村長の家へ歩くのも俺のお気に入りだ。
クラムの仕組み上、村で作られたものは全て村長の屋敷に集められる。そこで再び分配が決められて配られる。これは専門性の高いモノを作る人間が屋敷に集められているためで、したがって屋敷の周りには加工を担う人が多い。村の中枢は全て屋敷の周りにあるんだ。
そんなわけで、生活必需品は全て屋敷まで取りに行く必要がある。衛兵小屋は村はずれなので、これは非常に手間がかかる。まぁ別に嫌じゃないけど。
いつも通り生気のないメイドから受け取った作物を使って、暖炉でスープを作っていると、毛布が擦れる音がした。手を止めてそちらを見る。食べ物の匂いでちょうどモトが起きたみたいだ。
恐る恐る、体を起こすのが見えた。
「体調はどうだ?」
「・・・。」
俺に驚いたのか、目を見開いて固まってしまった。
じっと見つめ合うこと数秒、沈黙に耐えきれず言葉をかける。
「傷はまだ痛むか?」
「・・・。」
壊れた機械のように動かないモトを見ると、なんともいたたまれなくなってくる。
街での扱いがなんとなく分かった気がした。何をしても怒られたのだろう。
まずは自己紹介からだな、うん。
「そうだな。まずは俺の話を聞け。
…俺はお前を養うことに決めた。だから少なくとも、俺の指示には絶対従ってもらう。いいな。」
モトが黙って頷く。少し強めの言葉を選んでいるが、これはモトのためでもある。村長の逆鱗に触れないためには、俺の指示を聞けないとどうしようもない。
まぁ最低限、会話はできそうだ。
「俺の名前はアスラ。この村で衛兵をやっている。歳は29だ。
何と呼んでも構わん。」
俺はモトの方を見る。
「次はお前だ、モト。ほら、何か言ってみろ。」
モトはたどたどしく答える。
「ぼくはモト。7さい。」
声はかすれていた。
片言ではあるが答えたので良しとしよう。
「次からは目を見て話せ。よし、熱いうちに食べるぞ。」
朝食はスープだ。モトのことも考えて長く煮込んだので、具はとても柔らかい。
取り皿に分けて渡すと、ふぅふぅ息を吐きながら食べ始めた。
長い前髪がスープに入りそうでヒヤヒヤした。
食事もひとしきり落ち着くと、今後について話しかけた。
「モト、村にいるからにはお前も仕事をしなくてはならない。色々考えたが、今は村のことを知るのが優先だ。一週間は俺が教えてやる。そこからは自分でやれ。いいな。」
「う・・うん。」
「どうした、分からないことがあるか?」
「しごとって?」
・・・・・・そうか。あまり言葉を知らないんだ。
頭を押さえる。
おそらく、言葉を話すような相手がいなかったんだろう。
そんなことあるのか…?いや、あるんだろうな。忌子とか呼ばれていたし。
いたたまれなくなってくるな。
「それも俺が教える。いいな。」
さっきまでの話をもう一度教えなくてはならないのか。少し面倒だ。
一度やるべきことを整理しようか。
そう考えながら、俺はタバコをふかしていた。
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さて、モトが覚えなければならないのは、何だろうか。
一般的な教育は受けていないものと考えよう。おそらく出来ることは3、4歳とそう変わらないはずだ。
生きていくため、この村で仕事をするために必要なこと。そこまで多くないが、確実にある。
魔術の知識は絶対に必要だ。魔力がないとはいえ、他の人間ができることは知っておいたほうが良い。加えて、字の読み書きやコミュニケーション。これがないと自分で知識を吸収できない。
つまりは、頭の良さも絶対に要る。魔法ができないというハンディキャップを埋めるには、それくらいしかない。
まとめると、俺が教えるべきことは少ない気がする。字の読み書きは俺が一週間でだいたい教えるとして。あとは人と関わる中で覚えていくほうが良いな。その環境に入れて慣れさせるしかない。
朝飯が終わってもモトは椅子から立とうとしない。
なんだ、食い過ぎか?
あり得るな・・・。
まともに食べていない人間が一気にご飯を食べると死ぬと聞いたことがある。これはまずいのか…!?
「モト、大丈夫か!?」
「うん。大丈夫。お腹いっぱい。」
しっかり目を見て答えた。どうやら体調は大丈夫そうだった。
それにしても、こいつの体はどうなっているんだ?
子供ってこんな食べるものだったか・・・。
モトに洗い物を教えて、外に出る。
衛兵の仕事は基本的に村の入り口で待機することだ。村を訪れる人がいない限りすごい暇なので、その間に読み書きを教えることにした。紙は流石に高いので、文字は地面に彫って書くことにする。
夜。モトを寝かしつけててから、俺はめずらしく酒を飲んでいた。
モトには任せろと言ってみたものの、仕事が思いつかない。水くみやその他諸々の家事の手伝いはさせるとして、村のためにできること。魔力抜きで。
・・・。
学がなければ、どうしても単純作業しかできない。それに魔力がないというのが極め付けだ。
簡単なものをひと通りやらせてみるのはどうだろうか。
農作業、畜産、薪割りくらいから始めて少しづつ難易度を上げる。それで出来なくなるところまでで選ばせる。
昔暮らしていた街の風習を真似ただけだが、名案のような気がしてきた。
かわいいかわいい職業見習いの始まりというわけだ。
なんにせよ、クラムの村の仕事は村長が一番詳しい。それに、暗い時間帯以外は常に衛兵として俺もここに居ないといけない。
・・・はぁ。仕方ない。
避けたくはあったが村長に任せるしかない、のか。あの胡散臭さはたまに目に余るが、そこは目を瞑ろう。
人生は楽ではない。働かなくては生きてはいけないのだから。
「それで、私のところに来たのか。」
「そうです。お邪魔でしたか?」
「そんなことはない。君はいつでも歓迎だよ。」
「ありがとうございます。」
いちいち、言い方が怖いんだよなぁ。
「それで、任せる仕事だがね。最初は薪割りだ。そして、そろそろ麦の収穫の時期でもある。頃合いを見てそれに参加させるというのは?」
「それで構いません。よろしくお願いします。」
「ふ。私と会うと泣き出すかもしれんから連れてこなかったのだろう?」
「そうですね、まだ未知数なので。モトの仕事の件、よろしくお願いします。」
「ふむ。しっかり調教しておけ。」
とりあえず、頷きはしておいた。
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モトを拾ってから一週間が経った。モトはすでに読み書きをマスターしている。というか、最初の3日間で想定していたレベルに達していた。しかし、それでも進めた。どこまでできるようになるのか気になったからだ。
教える単語も、歩く、から、這って進む、くらい変わってきている。
驚いたが、モトは知識に貪欲だった。というよりも、単語を文章にして世界を表現するということが楽しいようだ。合間の休憩として、俺が話す創作物語や経験談も面白いらしい。全く笑わないので本当かは知らんが。
とはいえ、学ぶということは興味が先んずるもの。今の様子を見る限り、興味はあるのだろう。
俺はそんなことを言えるほど、聡い人間じゃないがね。
とはいえ、ここで打ち止めにする必要がある。言葉は使ってなんぼだ。他人と会話しない者が覚えても仕方がない。
「モト。」
「はい。」
「明日からは、村長の案内で仕事を体験することになっている。」
「ほんと?」
「ああ。楽しみにしとけ。」
「うん。」
少し不安そうだが、やる気はあるらしい。
次の日の朝、屋敷のメイドが小屋まで来た。いつもと同じ格好だ。黒い修道服を着ている。
カラスを彷彿させるのは何故だろうか・・・。
「アスラ様、失礼します。」
「ああ。」
「モト様を薪割り場に連れていくために参りました。そちらが、モト様ですね?」
「ぼ、ぼくがモトです。」
少し緊張しているようだ。
「では、行きましょう。」
「しっかりみんなの言うことを聞くんだぞ。」
モトはメイドの後ろについて行った。
まるで悪魔が子供を連れ去っていくみたいだな。
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ここからは木こりのポールから聞いた話になるが、どうやら上手くやったらしい。
無口でコツコツ仕事をするところが職人気質に上手く合致したとか何とか。
「次からは、1人で行くように、って。あと、明日も行くように言われた。」
「そうか。ポールとは話せたか?」
「うん。明日もがんばる。」
モトはいつもの仏頂面のまま、頷いた。
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「今日は、魔法を教えようか。」
モトは仕事がない日はいつも、俺のとなりに座って話を聞く。
「魔法というのは、誰でも使えるようになるとは伝えたな。」
「はい。」
「つまり、後天的なものなんだ。生まれながらにして使えるものは滅多にいないが、修練の先に身に付けることができる。そして、誰しも最初は魔力が弱い。それは筋力と同じだ。子供から大人にかけて成長するように、変化していくものなんだ。とはいっても、魔力の量は千差万別だけどね。」
「はぃ・・・。ぼくはどうして魔力がないの?」
「わからない。ただ、そこには何か意味がある、と思う。」
モトは腑に落ちていない様子だった。
だが俺も腑に落ちていないんだ。仕方ないだろう。
「…では、魔力をどう鍛えるのか。そのやり方は様々だ。基本的には使い続けるしかないがね。
だって、毎日走る人間の方が足は速いだろう?」
モトは頷く。
「では、魔法はどのように習得するのか。
例えば、俺がよく使う“発火”の魔術。これは、まず火をおこすという経験をしなければならない。そして、その経験を強く鮮明にイメージした状態で、発火させたいものを触る。その上で忘れてはいけないのが、魔法媒体だ。俺だったら、これだね。」
右手の薬指にはめている指輪を見せる。
「そしたら、こんな風に。」
取り出したタバコに勢いよく火がつく。少し熱いが、オーバーに伝えた方が良いだろう。
「わざと魔力を多く使用すれば、今みたいになるんだ。その調節の巧さが、魔法を使う者にとっては熟練度にあたる。物を投げる時を考えてごらん。コントロールが良いということが、魔法で言う魔力調節。投げる速さが魔力みたいなものさ。」
おもむろに拾った小石を近くを流れる小川に投げる。
「火はどうやったらつくの?」
「それはね、木と木を強くすり合わせるんだ。こんなふうにね。触ってごらん。」
「熱い。」
「そう、熱くなるんだ。その感覚が大切だよ。」
幼き頃を思い出す。両親に怒られながら、家庭教師の魔術師からしごかれて、魔術を習った日々。机に縛りつけて座らされ、身につけるまで休憩することも許されなかった。苦しい日々だったが、嬉しい思い出もある。
ノスタルジックな気分に浸っていると、焦げ臭い匂いがしていた。
モトがどうやら木に火を着けることに成功したようだ。
「おお。よく出来たな。」
「火、ついた。」
モトが嬉しそうに火のついた折れ木を振り回している。
その嬉しそうな横顔は、かつての俺にはなかったものだ。
日々の学びを全力で楽しむ。言われる前にやってみる。すべてが新鮮に映る、そんなことが今まであっただろうか。
タバコの煙は秋風に揺られ、空高くに消えていく。収穫の時期は、すぐそこまで近づいていた。
幼い頃って幸せですよね。何も考えなくていいんですから。