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名もなき英雄譚  作者: ばんべあ
最果ての村
2/3

ここまでは三人称→一人称。

読みにくいと思いますが…すみません。

小説書くのって難しい・・・。

薄暗い曇りの日の朝、甲冑を着た兵士と馬車がクラムの村に着いた。馬車の汚れから、舗装されていない道のりを随分と進んできたことが伺える。

何よりも、兵士が疲れているように見えた。


村は兵士の背よりも高い木の柵で囲われていて、村の入り口には衛兵小屋のような質素な煙突のある煉瓦造りの建物がある。

煙突からはうっすらと煙が立ち上っている。


建物の横では衛兵らしき男が切り株に座り、タバコをふかしている。


衛兵が口を開いた。


「どうも、長旅ご苦労様。それで、この村に何の用だ?」


「行商人からこの村のことは流刑地と聞きましてな。罪人を連れてきたのです。」


「そうか。この村のルールを知ってるか?」


「1人につき金を払えばここで処理してもらえると聞きましたが。」


村の衛兵はタバコをふかしながら答える。


「概ねそんなところだ。では、その者を見せてくれ。」


「む、それは良かった。御者、頼むぞ。」


御者が荷台から、灰色の髪をしたやせ細った少年を連れてきた。自分では立てないのか、手錠に結んである縄で引きずられている。

背格好は10歳ほどにみえるが、驚くほどに線が細い。


また罪人かと、衛兵アスラは胸の中で呟いた。


「この少年なんだが、どうだろうか。」


兵士は触るのも嫌らしく、視界に入れようともしない。


一体何をしたら、こんな仕打ちにするのだろうか。


「何したんだ、そいつは。」


「なに、ここから1ヶ月ほどかかる街で出た忌子という奴だよ。殺しても災いを遺すとかで、この村に連れてきたのさ。」


兵士が少年を蹴ると、横たわった少年は目だけ開いた。ボサボサの鼻までかかる髪の隙間から覗く深紅の目は、美しくも怖ろしくもあった。

ずいぶんと珍しい目をしているが、これだけでこんな仕打ちをするのだろうか?


「それだけか・・・?」


アスラはそう聞き返すと、兵士のような男は驚いた顔で答える。

こんな顔は今までの人生でも、よく目にしてきた。自分の正当性を少しも疑わない奴の目だ。


「本気で言っているのか?普通じゃないぞ、こんなの。怖ろしくないのか?」


…恐怖か。本当に恐ろしいのはいつだって、ただの人間だった。

嫌なことを思い出した。


「・・・分からんな。」


「……はは。困ったもんだ。それで、いくら払う?」


「そうだな。硬貨は何を持っている?」


「教会硬貨だよ。」


「なら銅貨3枚で良い。十分だ。」


兵士は袋から教会銅貨を取り出して渡した。

しっかり3枚あるな。


「よし、そしたらこいつはどこにおくんだ?」


「そのままで良い。」


「そうか、じゃぁ俺たちはこれで。」


「ああ。確認だがこいつの処理は村に一任するんだな?」


「ああ。正直こいつとはもう関わりたくなしな。」


「もう大丈夫だ。行っていいぞ。」


馬車はさっさと村から離れて行く。人里離れた村は、さぞ奇妙に感じられたのだろう。


村の門の前には、切り株に座りタバコを吸っている衛兵と傷だらけで横たわる少年が残された。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そうして何事もないまま時間が過ぎた。とっくに日は暮れており、村に誰か訪ねてくる気配は無い。

今日の衛兵業務は終わりだろう。


「さて、どうするかな。」


衛兵アスラは考える。

この少年が一般男性であれば、奴隷が足りない奴のところへ連れて行くことになる。生娘であれば、村長に見せなくてはならんが、こいつは多分奴隷にすらなれんだろう。

パッと見でもこいつは死にかけだ。しかも非力な少年ときてる。

しかも、文字の読み書きどころか、会話できるかすら怪しい。

兎にも角にも、村長のところまで連れて行かなくては…。


「おい、少年。」


ピクリともしない。


「喋れるなら、何か言え。じゃないと死への片道切符だぞ。」


「・・・。」


少年は横たわってうめき声すらあげない。


呼吸してるのか、こいつは。

舌打ちをして軽く檻を小突くと、少し体を揺らしたものの、まだ横たわったままだ。


それにしても。

あの目。深紅の瞳など初めて見た。生まれて27年経つが、そんな人間は見たことはおろか聞いたことすらなかった。


「少し、興味が出た。」


そう独り言を呟いたアスラは、少年を引きずって村の方へ歩き出した。



クラムの造りはシンプルだ。

少し土地の高い中心部には村長やその取り巻きが住む広大な石造りの屋敷がある。女性の奴隷たちが掃除や洗濯を勤しみ、有力者たちは酒と魔術を嗜んでいる。

そこから少し離れて小作農たちの畑が広がっている。小作農たちは奴隷に畑のことは任せ、収穫された物を加工する。奴隷は畑の近く、つまりは村の端に住んでいるが、野晒しに近い状況だ。野獣に襲われることもしばしばあるようで、まともに飯も食えない。それでもクラムには井戸や川があるので、水には困らない。

逆にいえば、村としての最低限の機能以外は全く整備されていない。

奴隷など、初めから存在しないかのように。



他の建物と違って、こぎれいな村長の屋敷が見えてきた。


「流石に疲れるな。」


人が地面に擦れる嫌な音が宵闇に響く。太陽はとっくに沈み、あたりは真っ暗だ。月明かりがなければ歩くこともままならないだろう。


屋敷の前に着くと、修道服を身に纏った女性が立っている。

根の張った木のように直立不動で一点を見続ける立ち姿には、一切人間らしさが感じられない。

これもいつものことではあるが。


「おい、奴隷。」


「何でしょうか。」


女性の顔だけがこちらを向いた。


「村長に伝言だ。村によくわからん少年が届いた。物珍しいんで観てくれるよう頼んでくれ。」


「かしこまりました。」


奴隷は一礼して音も立てずに屋敷を歩いて行く。人間らしい余計な動作は少しもない。

人間であれば、歩く際に骨盤が揺れるが、そんな様子もない。浮いているかのようだ。


「ここは変わらず気味が悪いな。」


村長は魔術師だったらしい。魔法と魔術は全くの別物のようで、俺は魔術しか知らない。

が、高名な魔術師であるのは間違いなさそうだ。


手持ち無沙汰になりタバコに火をつけ、少年を見ると、まだ横たわったままだ。

暗くてよく見えないが、引きずってきたわりには不思議と出血が少ないように感じられる。


「お前はこれからどうなるんだろうな。」


返事はない。人生にはとっくに絶望したというところか。よく連れてこられる罪人がこんな顔をしている。


タバコの煙を眺める緩やかな時間が流れる中、足音が近づいて来た。


「来たな、アスラ。」


そこには肩まで黒髪を伸ばした蒼白な男が立っていた。中性的な顔つきで、全身が黒いローブで覆われている。どんな季節でも村長はこの格好だ。歳をとる気配もない。まぁそんな存在は村に腐るほどいるが。


「どうも村長。こいつを見てください。」


俺は少年にタバコを向ける。


「うん?」


村長は今まで気づいてなかったようで、少年を見て目を見開いた。


「遠くの街から連れられて来ました。いつものように村の外で放置しようかと思いましたが、珍しい瞳の色だったので連れて来ました。忌子だそうで、街の兵士が捨てに来たらしいです。何故忌子なのかは分かりませんが。」


「ふぅん、なるほど。・・・珍しいな。“魔なし”か。このご時世にまだ見ることがあるとはね。」


村長は腕を組みながら、少年を値踏みするかのように目を細めて見つめている。

その表情には懐かしさが漂っていた。


「“魔なし”とは…? 病気か何かですか? 聞いたことがありませんが。」


「なに、文字通りさ。こいつは魔力を持たない。」


魔力がない?


「な、そんな人間がいるのですか!?」


「もちろんいるとも。いや、正確にはいた。それにしてもその程度の扱いで済んでよかったな。

いや、“魔なし”とは気づかれずに済んだということか。」


村長はため息をついた。


「間違いなく私の時代では、親族もろとも消されているな。」


魔力がなければ、火をつけることはできない。いや、それどころか身体強化すらできないのか。

それはつまり、最下層の奴隷の仕事すらできないということだ。


「確かに、魔力がない人間など、生きていけるはずがない。」


そう呟くと、村長は笑った。


「いや、そういうことではない。魔力がない者が生まれるということは、その親戚筋にそのような血脈が流れていることを意味する。それは、恐ろしいことじゃないか?

仮に、君に子供ができたとしよう。それが“魔なし”だったらどう思う?」


「・・・分かりません。」


「そうかね?君だったら子供に失望して殺すと思うが?」


まさかな。


「…ご冗談を。」


「そうであることを祈っているよ。とはいえ、この少年の処遇だったか。」

村長は顎に手を当てて考えている。


「こう言ってはなんですが、村で生かす価値などあるのでしょうか。」


そもそも、魔術が使えないのならこの村を生き抜くことは難しい。

都市でならいざ知らず、この不便な片田舎では全て自給自足だ。どうやって生きていくというのか。



村長がふと顔を上げる。


「少し、聞いてみるか。」


そう言って少年に近づき、語りかける。


「おい、少年。耳は動くはずだ。」


「・・・。」


「死にたいか?」


その声は鈴の音のように、小さかったが不思議と耳に響いた。


「今なら楽に死ねるぞ?私は、人を殺すのが得意だからね。」


身動きすらできない。恐ろしく綺麗な顔で村長はそう告げる。


「反応しないということは、“死にたい”と受け取っていいね?」


村長は笑顔だった。


「・・・そうか、では。」


その瞬間村長の右手に魔法陣が現れ、剣を握っていた。


「死ね。」


仰向けになっている少年の横顔を剣が切り裂くのを幻視したその時。


「いきたい。」


少年の唇が、わずかに動いた。


「ん?」


剣が止まる。


「いきたい。」


掠れていた。ひどく耳障りの悪い、か弱く汚い声。

しかしその声には、少年の想いが詰まっていた。体はどれだけ傷つけられても。


少年は、生きたいらしい。



村長が残酷に笑う。


「明日は今日よりひどい日かもしれないよ?それでも良いのかい?」


「いきたい。」


少年は、わずかに目を開いてそう呟いた。


「他者に迷惑をかけることになるがー」


胸が鳴った。俺は、いろんなことから逃げて来た。そして挙げ句の果てにはこの村に逃れつき、村長に生かされた。

今でさえ、時には死にたいと思うことがある。


・・・・・・。


俺は感動しているのかもしれない。


罪人として村に来る人間は誰しもそうだ。死んだ目をして日々の仕事をして、かつての栄光にすがったり現実逃避したりしている。しかし、この少年はどうだろうか。

今までに、自分の意思で行きたいと願った奴はいるだろうか。

少なくとも、俺にはないものを持っている気がする。


「そうか、では・・。」


「村長、俺が育てます。」


村長は少年の心を折るのを中断して、こちらを向いた。


「・・・ほう。」


「俺が衛兵として仕事ができるように努力します。」


「・・・まぁいい。珍しいことに変わりはない。ただ少しでも村の害になるのなら。」


「コ・ロ・セ。」

村長は屈託のない笑顔でそう告げる。


俺が頷くのを確認すると、村長は背を向けて歩いて行く。気づけばその手には剣がなかった。

村長は屋敷の入り口から戻った。


「恐ろしい人だな。」


すっかり火の消えたタバコを投げ捨てて踏む。

ため息をついて、少年の方を見た。


その薄汚れた頰に光るものがあった。どうやら、静かに涙を流しているようだ。死の恐怖というのは、晒されて初めて知る。他者の悪意には慣れていても、明確な殺意を受けるのは初めてだったのだろう。


「まぁなんだ。帰るか。」


薄汚れた少年の首根っこを掴む。鼻につく匂いがした。

まるで犬みたいだ。


「少年、お前の名は?」


「・・・。」


「まぁいい。これからは、モトと名乗れ。」


「・・・モト。」


そうしてモトを掴んだアスラは、ゆっくりと街はずれの衛兵小屋まで向かうのだった。



少年モトの生涯は、こうして始まったのである。



たぶん死ぬほど辛い目にあったら死のうと思うよね・・・。

まだ知らんけど。

というか知りたくない( ;∀;)


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