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違うんだけど、そういうことにしとくのが華?


先程の惨事を目撃したクラリスが、状況を判断し終えたのか目をキラキラさせて僕を見てきていた。


「アラハさん、す、すごいですね!2級冒険者でもこれだけなんて、3級以上になったらどれだけ凄いんですか?!」


「ま、まあ、崇めてくれて良いんだよ?とりあえず級が上がる毎に桁外れに強くなるってことだけは言っておこう」


尊敬の眼差しのクラリスに少し悪い気はするが、僕は図に乗ることにした。


いやいやいや・・・迷宮にこんな傷痕を作るなんて、どんな威力だよ!?


通常、迷宮は破壊不可能。正確には多少表面程度なら誰でも削れることは削れるが、ある程度掘り下げると破壊不能とされる硬すぎる地面が出てくる。・・・もしかしたらこれは本来破壊不可能な層まで破壊している可能性が・・・いや、そんなはずないか。いくらなんでも無理だろう。攻撃に特化した4級冒険者でもできないことだ。


僕はそこで考えるのをやめたくなったので、思考を放棄した。


内心、いやぁ、こっちのほうがビビってますわぁ!!!僕のロングソードどうなっちまったんだよ!!という感じである。


多少刀身も巨大化しているのに、重さは全く変わらない気がする。不思議だ。なんの金属でできてるんだろう・・・もしかしたらおとぎ話に出てくるような超鉱石が原料の類だったりするんだろうか・・・?


「・・・さて、僕のことはおいといて、スケルトン狩りしようか」


今回も話を逸らすべく、クラリスに自分で討伐をしてもらうことにした。


「は、はいー!」


僕は倒されたスケルトンから魔核を取り出してカバンに入れようと思っていたのだが、さっきの一撃で魔核も砕け散っていたらしい。


なかなか現実を受け入れられず、身震いしてしまった。


魔核とは魔素を含む魔物特有のものであり、魔物であれば魔核があるというのが定義になる。

逆に魔物にしか見えないような奴でも、魔核がないなら魔物じゃないという。


魔核自体は魔素を多く含む物質に過ぎない。その上、砕かない限りは魔素を放出することもない。そもそも非常に硬い物質なので、雑に扱っても簡単には砕けるようなことはない。


さすがに地面に何回も叩きつければ数回でヒビが入り、数日放置しておけば魔素の放出により硬度が落ちていき、かなり脆くなり、その後は時間が経てば勝手に砕け散ることもあるけど。


しかし、それは低級な場合だ。強い魔物ほど魔素を多く蓄えているせいか、地面に叩きつけたところでヒビをいれることもままならなくなってくる。

スケルトンは低級なので、割れてしまうのも頷けはするが、一撃で魔核まで粉砕するとなると・・・


やめよう、なんか考えるの怖い。


ふとクラリスの方を見ると、すぐ近くにまだ不完全なスケルトンが転がっていたので、クラリスは棍棒で次々と攻撃を始めていた。

さっきの僕の一撃を真似してるらしく、物凄い勢いで、ズゴーンッ!!と棍棒で叩きつけて骨を粉砕していた。


「う、うむ。筋はいいぞ」


先程の新ロングソードの一撃を見た後だと見劣りするものの、明らかに旧ロングソードに頼らない僕の地力より強い・・・


すなわち、普通に僕より強い。僕に残ったちっぽけなプライドが・・・くっ!クラリス本人には凄いだなんて絶対に言わないぞ、という方針で気持ちを固めた。


とはいえ、特訓中から思ってはいたけど、なんというか・・・明らかに僕より強いんだよなぁ。


だけど、まあそれは今まで僕が生きてきた人生でもそうだった。何をするにも確実に周りの方が能力が高かったのだ。


力比べなどしたらいつも最弱というポジションが僕である。

そんな僕が言うのも変な話だけど、クラリスは普通以上だ。それは文字通りで、異常に腕力が強いのだ。


訓練前からすでに筋力面では非常に強かった。

体当たりの稽古をした時、甘くみすぎていたせいもあり、数メートル吹っ飛ばされて受け身をとったものの、それでも意識が一瞬飛んだかと思ったくらいだった。


さすがに今までそんな力を持つ人間とは対峙したことがなかった。ましてや彼女は14歳の世間知らずな女の子である。今まで力仕事なんてまともにしたことがないとまで言っていた。


・・・このご時世に肉体労働ほぼなしで生活してきたとなると彼女の出生が特殊なのであるというのが簡単に推測されてしまうわけだが、本人が冒険者になりたいというのだから僕はそれを応援するまでと結論付けていた・・・なんていうのは建前で契約でお金も貰ってるというのが一番だろうか。


彼女の言う通り、体型はだいぶ細く、筋肉がついているようにはとても見えない。

どこにそんな力を生み出す筋肉が存在しているのだろうかと疑って見てしまうほどだ。


実際に太ももやふくらはぎといった下半身を確認しても、やはり彼女は華奢であり、強さなど微塵も感じさせなかった。

最初に、クラリスが用を足している最中の便所に押し入ったのもそれを確認する目的があったんだった。・・・と、僕の中ではセクハラを現在は正当化しているわけである。


とはいえ、クラリスは普段から身につけている服が露出が少なく、ダボついていて肉体の形もがわかりにくかったのだ。もしかしたら物凄い良質な筋肉をお持ちなのでは?と思ってはいた。


簡単に確認する手段がなかったのだが最近は割と強引な手段で確認していた。


いや、完全にセクハラであるというのはわかっているのだが、僕にとってその不思議な身体特徴は興味を抱かざるを得なかったのだ。物語に出てくる超人のようなその身体能力の秘訣を知りたかった。


とまあ、そういうセクハラの正当化を前面に押し出すクズっぷりを惜しげもなく発揮したのだが、その時のクラリスの反応には逆に驚いた


「これも修行の一環なんですね!全然良いですよ!いくらでも見せます!恥ずかしいところはちょっと嫌ですし、他のところもいきなりだと本当に驚きますが、許可とってもらえば全然!あ、触ってた方が分かりますか?触ってもいいですよ!」


と、納得された上にぐいぐい来られてしまったので、逆に引いた僕は、少しずつ自重することにはしている。


なにしろ、彼女の体はとてもプニプニして柔らかかったのだ。むしろ僕より全然筋肉などなかったのだ。

こうなって仕舞えばもう、僕に彼女の強さの秘密を確認する術などはなく、お手上げである。


ということで、もう強さの秘訣なんて考えるのをやめた。そもそもわかったところで、きっと僕には再現不可能であろう・・・


いつだって僕は最弱であり、底辺であったのだ。これからもきっと変わることなんてない・・・


そう、『タージャボルグ』が手に入るまでは、この身にそぐう生き方をして生きると決めていた。


にもかかわらず、僕が勇者になったとするのであるなら、それに見合う生き方をしたい、とか、微細なレベルで思い始めてしまっている気がする。スキルを獲得したことでそういう意識の高さが強制的に刷り込まれ始めるのだろうか?


スキルの副作用でないとするならばなんとも都合の良い話だ・・・子供の頃に憧れていた勇者に、いつからか分からないが、なりたくはないなんて思ってたはずなのに、掌を返したように、勇者のように生きたいと思っている。


そんなことを考えつつ、断続的に聞こえる激しい破砕音の中、僕は次々とクラリスが討伐に成功したスケルトンの魔核をカバンに詰める作業をしていた。


・・・さながら運び屋担当である。

僕はいつから戦利品の運び屋になったのだろうか。


魔核を見れば、クラリスのオーバーキル気味な攻撃でも傷一つついて・・・ちょっと傷?え、あれ?これは傷かもしれん・・・ま、まあでもこのくらいならあり得るか?


とはいえ、クラリスの強打でも傷程度となると、新ロングソードはやはり異常な威力だと言わざるを得ないな・・・


クラリスを見やれば、まだまだ不完全なスケルトンたちと戦っていた。とても楽しそうである。


スケルトンもただやられるだけではないので、複数のスケルトンがいる場合には反撃してきていたが、クラリスは全て危なげなさなどはなく、安全に避けている。

しっかりと先日教えたことを自分のものにしているようだ。


「座学の覚えはあんまり良くなかったけど、やっぱり動きの覚えはいいな」


「座学はつまらないので!おりゃっ!!あはっ!面白いですねこれ!!」


あらやだ、もうほんとにクラリスさんったら戦闘狂?ん?もしかして、僕の教え方が悪いというディスり??あれ?そういう感じ?遠回りというか、もはやど直球のディスり?


そんなことを思っているとも知らずにクラリスは次々とスケルトンを破壊して先へ先へと進んで行っている。


さて、奥に進むほどにスケルトンは完全な姿になってくる。


そろそろかな?


ついに完全なスケルトンと対峙したクラリスだったが、気がつかなかったのかそれまで同様に棍棒で脳天を叩き割っていた。


あれぇ・・・?

初心者なら少しは手こずるはずなんだけどな・・・


完全体のスケルトンは一般的に動きが遅いとは言われているが、不完全と比較すれば動きが倍以上速くなり、そして強度に関しても多少頑丈になってくる。

それにも気が付かないとなると、クラリスの戦闘能力の高さ、いや、戦闘センスの良さが伺える。


・・・クラリスが無理して戦っているとも思えないが、新しいことをする以上、また精神面肉体面ともにダメージを受けてもいる可能性があるから少し早めに切り上げて損はないだろう。

そう思ってクラリスに声をかける。


「もう今日はやめにしておこう。帰って魔核をギルドに渡すぞ」


「ちょっと早いような気もしますが、わかりました!あ、それがお金になるんですね!」


「あぁ、一応ね」


激安君だけどな。


スケルトンの不完全なものが10、完全なものが1つあるが、魔核これだけ集めても銭貨12枚前後だろうな。


「これを売った分はクラリスに全部やるよ、初迷宮だしな。だけど、今日だけだぞ?次から半分もらうからね!」


「いいんですか?!ありがとうございます!!」


なんもしてないのに次から半分貰うとか大人気ないこと言ってみたが、本気に取られた上にありがたがられてしまう始末である。


この子、さすがにそのまま開放したら悪い奴に上手いこと言いくるめられて大変なことになりそうな気がするぞ・・・

うん、クラリスを解放するのは少し後に予定を伸ばそう。




クラリスと共に迷宮の出入り口に向けて戻っていると、先程の新ロングソードでできてしまった傷痕あたりに数人の冒険者が集まって騒いでいた。


あ、やべ!と、そう思ったときにはもう遅かった。


「・・・なんだろうなこれ」


「迷宮に傷をつくるってなると、普通の冒険者や魔物じゃ無理だ、4級冒険者クラスでも怪しいぞ・・・この町にそんな冒険者はいねぇ、ってなると」


「バケモンみたいな魔物がここで暴れたってことが?!」


「こんな地上に近い階層にまで上がってくるとも考えにくいが、それしか考えつかねぇだろ」


「だが、今知られてる下層の魔物でも迷宮を破壊するほどの攻撃力を持つ魔物は居ないはずだぞ?」


「これは、ギルドに知らせるべきだろうな」


深刻そうな顔で話し合う冒険者たちに遭遇してしまった。


・・・うわぁ、事件に発展してる。

さっきまでスケルトンと戦っていた方面にはさらに下に続く階層がないため、まず冒険者が来ないエリアだったのだが、もちろん絶対誰も来ないわけではない。

その結果、他の冒険者が新ロングソードの爪痕を見つけて大騒ぎなのである。


タイミング悪いな・・・。


「アラハさん!なんか皆さんに驚かれてますね!」


「しっ!何もなかったフリしてここを通り過ぎようね」


「なるほど!わかりました!」


何かを察したらしくウンウンと頷きながら、冒険者の近くを静かに通り過ぎようとすると、何を考えたのか、クラリスが突如として口を開いた。


「アラハさんの一撃ってやっぱり凄いですね!こんな傷痕になるなんて!」


急に大声で手を叩いて僕の名前を叫びだしたではないか!


えぇえっ?!何アピールしてんだ?!


当然さすがに無視はできなかったらしく冒険者たちが失笑する。


「アラハ?」


「あー?ははっ」


「なんだ、【ろくでなし】か。子分に何吹き込んだんだ?」


「嬢ちゃんかわいそうになぁ!くくくっ!!」


冒険者たちは一様に顔を見合わせて笑い合っている。


・・・そりゃそうだ。


見栄に聞こえるだろうが、僕だってテクニック的な面ではそれなりに優れていると思うところだってある。笑われるだけの存在ではないと思っているのだ。


でも、それを知る人間の方が少ない。知っている奴でも、そこそこできるのに、結局のところまともに働かない【ろくでなし】という結論に至っている者がほぼ全員だろう。



まともに働かないのは死にたくないからだ。本気で能力のぎりぎりまで働いたら死に直結するのだから。

2本足で歩いて、何気ない話をしてさほどの不自由なく生活していく以上のことを求め続けて良いことなんてないだろ、人間なんてさ、て僕は思うんだよ。


大多数の意見を一般的とするなら【ろくでなし】というのは全て事実なので何も言い返せないけどさ。


喜びの顔がみるみる曇りだしたあたりで、僕はクラリスの口を塞ぎながら苦笑いでその場を後にする。

そんな僕を、クラリスは物申したいと言った目つきで見ていた。



分かっている。


冒険者にとって、無難に生きようとするのは少なからず恥なのだ。冒険者とは、ただの人間以上に難儀な生き物だ。


でも、僕という冒険者しか知らないクラリスは僕が同じ冒険者たちに揃って虚仮(こけ)にされることに違和感を覚えているのかもしれない。


誰もいないような場所まで来ると、僕はクラリスの口から手を放して告げる。


「僕は生き恥をさらしているのは間違いないんだよ。でも、恥をかいてでも、生きることが大事なんだ。わかるかな?」


クラリスがまっすぐ僕の目を見て口を開く。


「アラハさんの持つ考え方はとても優れていますよ!私はそう思います!無理して死ぬような生き方を好む人間は勝手にすればいいですが、それこそ恥だと私は思うんです!命は1つしかないんです。誰かに養って貰うでもなく、迷惑をかけているわけでもないのに、生き延びようとすることが恥だと言われることが理解できません!」


こう言ってしまうと悪いが、なるほど、意外と頭で考えているんだなって思ってしまった。


説得も何もあったものではないな。僕が考える中でも正論だ。


でもこのまま僕の考え方が正しくそれ以外があり得ないとか云々言うような子になったら、他の人間に笑われる人間になっちゃうよ。

少数派は多数派に圧殺される運命を辿ることは多々あることだからな。


クラリスには僕よりも良い人生を送って欲しいもんだ。生きることの大切さを知っているからこそ、ちゃんと、最期のその時まで、僕の知るいつものクラリスように嬉々と元気でいてもらいたい。だって、その方が良いだろう?楽しいのが一番だ。


どうすれば、この子のこの気持ちを内にとどめておけるだろうか。


考えたけど、すぐに良い案はは思い浮かばないわ。うん。よくわかわん。


パッと思い浮かんだのは『先生』という権威を使うことだった。悪手だよなぁ。こういう時の権力振りかざす感じは良くない影響を残しかねない。まあでも仕方ない。


「クラリス、僕は君の先生として唯一、初めて『生き方』を伝授する生徒だ。わかるかね。だから、『生き方』に関係する君の知識、能力や感情、言動はすべて秘匿としておくんだ。いいかな?もし、君が誰かに伝える時は、この『生き方』が理解できそうな、そう、頭の良い奴だけにするんだ。この世界はね、少なくとも生きたい人しか、そして頭の良い人間、能力のある人間しか生きられないんだ。弱者や少数派は常に淘汰を恐怖していなければならない」


クラリスに伝わったのかわからない。

ただ、クラリスは口を開いて、から閉じてを数回繰り返し、何かを言おうとしたようにも見えたが、ついには目を閉じてから両手で自身の頬を軽く叩いてから僕の目を見つめた。


「・・・わかりました。私は、この『生き方』をしっかりと突き詰めます」


どう伝わったのかはよくわからないが、少し涙目になりつつ頷いていた。


僕もクラリスの考えをどうこう言って否定するつもりはないんだけど、彼女が生きやすいように導くのは今回の契約に含まれるだろう。

それ以上、クラリスが騒ぎ出そうとする素振りはなかったため、僕とクラリスは無言で冒険者ギルドまで戻り始めたのだった。


クラリスの件が一段落したところから僕の頭の中は新ロングソードだったものをどうしてやろうかという事で大きなウエイトを占めているのだった。


この武器・・・危なくてまともに使えないよ・・・

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