粘着する聖女様?
僕の部屋に計4人と1匹が収まった。
せっめぇ・・・せめて庭とかにすればよかったわ。
と、わざわざ部屋に招いたのを後悔していた。別に酒場とかでもよかったんだけど、鎧蟷螂襲来事件の直後で開いてるかと言われると微妙だったからな・・・
「で、これからどうするよ?」
ジュライアが腕を組みながら言い放つ。
怒ってる感じてはないが、疲れた様子だ。
そして、その答えに関してはいろいろ考えはあるが、ひとまずは聖女様に殺されないようにしないといけない。
「うーん。聖女様をどうにか誤魔化すしかないね」
「それができるかも怪しいがな。できたとしてその後どうすんだ?どこぞの宗教家が集まってお前を探すぞ?」
「それなんだよなぁ」
「え?何でアラハさんを探すんですか?」
クラリスの頭の上には疑問符が飛び交ってそうである。
そういえばクラリスには僕が勇者であることは言ってなかった。
「アラハちゃん。クラリスちゃんに言ってなかったんやな。ほな!うちから教えたるで!」
「あ、はい!あ、うん!」
クラリスの方が年上なはずなのに、何故か貫禄があるアケミちゃんに敬語になってしまっている。
「アラハちゃんはなぁ!実は極悪非道の魔王様やったんや!せやから聖法師に狙われてんねや!」
「そうだったんですか!!?」
目を見開いて驚くクラリスである。
クラリスよそんな目で見ないでいただきたい!
「いや違うわ!何嘘教えてんの!」
「あはっ!まあええやん?冗談やで冗談!アラハちゃんはなぁ、勇者なんや。だから聖女含めいろんな聖法師にその身を狙われとんねや」
「あ、アラハさんが勇者?!体を狙われているんですか?!」
さっきと同じくらい驚くクラリス。
そうだよね、こんなおっさんだもんね。うんうん。僕でも同じ反応するよ。
「偶然勇者になってしまっただけなんだけどね、あと、別に体は狙われてないと思う」
「それでもすごいです!てことは、私、勇者の弟子ですか?!」
目をキラキラさせる様子だけど、居た堪れない。この子既に僕より強いもんなぁ・・・クラリスが勇者って方がしっくりくるくらいだ。
僕は血筋の関係で魔素が問題ないから、無理矢理詰め込んだ魔素を一気に使用する魔法の強さに依存してるわけで、腕っ節だけで考えたらクラリスに瞬殺される自信がある。
「せやけど勇者ってことは秘密しとくんやで?もしかしたら、聖法師なんかより面倒な輩もやってくるかもしれないからなぁ」
「そういうパターンもあるかもしれないから、クラリス、黙っといてくれよ?」
「はい!アラハさん!」
しばらく今後の話をしていると、トイレに行きたいと感じでトイレに向かうと、途中経過にある共同玄関からこっちを覗き込む人がいた。
いや、普通にびっくりした。人の家の中を覗き込む人影を見つけた時の驚きたるや。
「見つけたぞ」
や、やべ・・・!
聖女様じゃん!!
聖女様がじーっとこっち覗き込んでるのだ!!なんでここがわかったんだ!?
長い金髪に修道服。つり目が僕を射抜く。
これ、怒ってんのかな?怒ってるとしてもおかしくはないんだけど・・・
「あぁ!聖女様ご無事でしたか!」
我ながら白々しさマックスである。鎧蟷螂襲来が終わってから無事なのは確認済みだというのにだ。
というかなんで僕の家知ってるのこの人、マジで怖いんだけど。
「君に聞きたいことがある。たしかに鎧蟷螂の数は減っていた。明らかにな。誰がやったのか、君は見ていたのだろう?」
あ。そういえば、大量にあるのに死体の山を短時間で減らしたっての、どうやったのか不明だよな普通出来ないし。どうやったんだよっていう・・・僕も知りたいですよっと。
現実逃避したい衝動に駆られるも、そんなことできるわけもない。
にしても困ったぞ。僕にはそんな減らすなんて力はない。できるとしたら、この場合勇者くらいか。
いや、しかし、勇者って言葉はここで言って大丈夫なのか?
「誰が減らしたかってのは・・・」
・・・聖女様には嘘はなるべく吐かない方がいい。
能力の関係で彼女は自分自身に嘘が吐ける人間などいないと思っているのだから、もし、嘘をついているとにかの拍子にバレれば何をしてくるかわからない。
最悪、殺されてもおかしくはないような気がする。
聖女様、怒らせたらめっちゃ怖いもんな。てか女なのに強すぎるんだよ・・・
という悪態をつきつつ一瞬思考が脱線する。
聖女様に対しては固有スキルの関係で嘘はそもそもつけないはずという前提があり、もしも嘘言ったとしてバレてもまずい、僕は【魔法・聖法耐性】があるからあとは人生経験やらなんやかんややらでなんとか逆らえてるが、そんなことをこの聖女様が許すだろうか?
権力に逆らうことができる力があるなんて、バレた日にはそんな奴を消したいのが権力者の性だと思うんだよな。
貴族社会では這いあがろうとする他者や同格を蹴落としてでも権力を保持しようとする者は多い。
平民で特殊な力があるなど、権力者は許し難いと思うものではないだろうか。聖女様だってそうなってもおかしくはない。正義のための犠牲はいとわないだろう・・・
あれ?そういえば、僕ってスキルまで耐性があるのか?当然の如く耐性があるんだなぁくらいだったけど、聖女様の【懺悔の強圧】はスキルだ。魔法でも聖法でもない。
僕が逆らえたってことは・・・魔法・聖法の中にスキルも含まれるということか?
わからんな。僕の精神がやたら強いとかそういうやつかとか?
いや、今は置いとくとして・・・さて何と言って誤魔化すか・・・!
聖女様にとって、事実と反しない程度の都合が良い真実を提供すればいいんだよな。
それで有れば気分を損ねることもない。
「えーと。勇者だと思います」
やったのは魔人のアケミちゃんだけど。事実僕はアケミちゃんが行動している様子を目撃はしてないし、推測で構わないところだ。
「やはり、君は勇者を見たの?」
聖女様が近づいてくる。
おいおい、怖いって。近づかないでよ!
てか使徒さん方一緒じゃないの?周りを見るがどこにもその姿はないけどさ。
「いや、僕は見てませんね!残念ながら!見えるような距離感じゃなかったです!」
僕自身が勇者なので、鏡でもない限り見えようがないので、嘘ではない。
「そうか・・・先程、町の外を見に行ったが、明らかに魔素が散らばっていた」
ぎくっ!
気が付いてるだろうなとは思ったけど、本当に気が付いてんのか!
「魔素ですか、一体なぜでしょうね・・・」
知りませんとばかりに目を逸らす。
「あの場に鎧蟷螂の大群を扇動する者、魔王軍の配下でもいたのだろう。そして、勇者に討たれた。戦いの際に魔素を撒き散らすような何かがあったとワタクシは考えている、それ以外は考えられないだろう」
なるほど・・・、上手い感じに事実に行き着いたよこの人・・・
聖女様のこの感じからして、僕は特にお咎めなさそうでなによりでーす。
ふむふむ、となると今後の展開としては、聖法師が集まってくるというところか・・・
「すなわち、勇者も魔王も既に誕生している。この事実は隠しようがない。・・・大量の魔物が死んでいるとなれば、何が起きたのかと気に掛かってやってくる聖法師が魔素に気がつくだろう。そうでないとしても、王国付きの聖法師が調査にやって来ることはほぼ確実」
「たしかにそうでしょうね・・・」
「聖法師であればこの状況で考え至るのは・・・魔王と勇者が誕生し、既に戦いが始まっているということ。聖法師なら、すぐに環境中の魔素に気が付くのだから・・・その結果聖法師が聖法師を呼ぶことになりこの地には、勇者が望まない状況になるだろう。魔王の思い通りというところか」
そういえば勇者が、先天性固有スキルと強力な固有聖法を持ち、なおかつ聖法師としての能力も高い聖女様を選ばなかったのは、聖女様こそが魔王に勇者を売った裏切り者である可能性を視野に入れているからという話をしたんだっけな。
聖女様がじっと僕を見て来る。
怒ってる、わけではなさそう、どちらかと言うと落ち込み気味・・・?
「勇者は魔王と戦うためにいますから、今は姿を見せなくとも、そのうち現れますよ」
「それでは遅い!その時、勇者の傍らにいるのは別の聖法師かもしれない!ワタクシではない別の・・・!」
何やら悲観的なモードに入ってるんだが、聖女様てこういうタイプの人間だったの?もしかして慰めが必要?どしたん?話し聞こうか?
いやまあ、聞きたくないのでやめとくけど。
「そうとも限らないとは思うんですが」
「いや!きっとそうなる!だが、ワタクシはそれを甘んじて受け入れる気はない!」
強気だなぁ・・・いじけるのかと思ったら、でも負けない精神はなかなかだと思う。
「聖女様以上の聖法師なんて聞いたことないですし、その辺にいるようなちょっと聖法が使えるような奴じゃ聖女様の足元にも及びませんし、勇者とさえ出会えれば仲間になれそうな気がしますけどね」
なんちゃって聖法の使えるジュライアを思い浮かべつつ僕は聖女様にそう告げた。
「そうまで言うなら」
急にニタッと笑う聖女様。
あれ?僕なんか変なこと言ったか?
不穏な雰囲気が漂よう。
「勇者に近づくには君の近くにいた方が良いような気がするんだよ」
「・・・はい?」
なんだなんだ?突然この子はなにを言い出す気だ?
「君が勇者の存在に一番近い。そして、その容姿を見た人物でもある。勇者の手がかりは君しか居ないんだ」
真っ直ぐな目線が僕を貫く。
罪悪感が沸々と湧いてくるような気がする。
「そ、そんなこと言われましても、勇者を目撃したのは偶然ですし・・・」
「いや、ワタクシの勘が、君を頼った方が良いと言っている!」
なんだよその勘!
ツッコミたかったけど、やめておいた。
「えっと、しばらくは僕は冒険者の級を上げるために遠出しようと思っているので、メルの街に戻ってくるのはだいぶ後になるかもしれませんが、それからでもよければ」
これは先程アケミちゃんやジュライアと話して決めたことだ。
そもそもこの辺りでは昇級に必要な3級討伐対象がほとんどいないから移動しないといけないからね。
クラリスもしっかり着いてくるとのことだった。
まあ、また帰ってきたとしても、聖女様には会わないと思うけど。
「ではワタクシもついて行こう!」
・・・え、なんで着いてくるの!?
「い、いやぁ、聖女様はこの街で仕事があるのではぁ・・・?」
「大丈夫だ、勇者を求めて出かけるのはじきに決定するからな!君に着いて行く!」
それってほとんど無理矢理押し通す気だろ!!?
だんだんこの聖女様のことがわかってきたような気がする。
かなり頑固だ!メンヘラちゃんかよ!めんどくさい!
アケミちゃんの言う通りだった!
そんなわけで僕はドラガ・セルシコートこと、聖女様に粘着されることになった。




