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混沌とした開戦?



【メルの町】にはその周囲を囲うように2メートルの壁がある。比較的頑丈にはできているが、木製のため、魔物の突進に耐えられるかというと大概無理だろう。人間に対して出入り口以外からの侵入抑制くらいにしかならない。


こんな町で、今まさに戦いが起ころうとしている。


最前線には冒険者と国から派遣されていた兵士いわゆる騎士団、商人たちが雇ったと思われる傭兵と思われる人なんかもいた。

冒険者の大半はやたらと興奮していて、兵士たちはしーんとして無表情やあっけらかんとしている者たちが多い。


傭兵と思われる者たちは顔を青ざめていたり、震えたり、絶望的な表情と言うしかない。なんでこんな場所に来たんだろう?まあ、それぞれドラマがあるんだろうな・・・


にしてと傭兵が一番人間らしいという状態が混沌さを表している気がする。



それはさておき、僕はなぜか最前線だ。


なぜって、3級冒険者だからこの配置らしい・・・


先程冒険者ギルドマスターのシルベスターの作戦では、町の外でただ、鎧蟷螂を迎え撃ち、そして勝つ!という至ってシンプルな内容を発表したばかりだ。

作戦にもなってないが、とりあえず小手先の考えでランクが大きい順に前になっている。


有力者じゃなくてもランクからしてみると僕は今のこの町では最前線ということになる。



シルベスターに言われるがまま来たけど・・・


意外とこのままいけるか?いや、最前線なんて無理だろ。即死するわ。


てか、なんでシルベスター最前線にいないんだよ。おかしくね?

あの人は表向きは今この町で一番強いはずなのに。

もちろん、最強はアケミちゃん、2番はクラナゼットか。


とりあえず、機を見て後ろに行こう・・・


何食わぬ顔でゆっくりと後退りをして後ろ後ろへとちまちま移動する。


少し下がったあたりにはポツポツと数軒建物がある。


もともと、農具などの備品を収納するための場所で、人が住むための家ではない。


そんな建物の上に教会の使徒たち・・・かの有名なワートラム教の聖女様、ドラガ・セルシコートもそこにはいた。



聖女様を含め、使徒たちは皆恐怖など顔に出てはいなかった。

むしろ、嬉々としてこの展開に臨んでいるのではないかとさえ思えるほどに顔色は良かった。



宗教は怖ぇな。死ぬことすら恐れてはいないんだろう。


まあ・・・冒険者もほとんど同じだけどね。


聖女は長い金髪が風になびかせている。

聖素でも撒き散らしているのだろうか?

その姿は人間離れした雰囲気を醸し出している。



そんな彼女は防壁の頂上で鎧蟷螂が来るであろう方角を見つめていた。



少なくとも聖女様とはあまり関わりたくないな。

離れた場所で防衛戦に参加するとしよう。

僕はゆっくりと後方へと移動していた。



さて、クラリスやジュライアはどこだろうか。そろそろ用意を終えていてくれないと困るけど・・・



「アラハちゃん、消化はどうや?苦しくないかぁ?」



突如、背後から聞き覚えのある訛り声に呼びかけられた。

アケミちゃんだ。

僕に言葉を投げかける。


どうやって僕の場所まで来たんだろうか・・・


後ろに下がってきているとはいえ、周りは冒険者や兵士、傭兵などでひしめいている。



まあ、今更驚いても仕方ないか。


アケミちゃんは魔人だしな・・・何をしてもおかしくはない。



僕はアケミちゃんがたくさん持ってきた魔核を大量に食べたことをして思い出す。



20個くらいで済むかと思ったが、何の魔核かはわからないが、40個前後は食べさせられたと思う。


我ながらよく入ったものだ。


その達成感と満腹感のせいもあり、なおかつ力まで湧いているので、無駄に全能感が生まれ始めている節がある。

危うく最前線でそのまま戦うところだったよ。


力を持つということは己の抑制も効きにくくなるんだなぁ。覚えておこう。


まあ、何やかんやあったが、地味に食べ過ぎのせいで気分は良くはない。

とは言っても、お腹は結構熱を持っている程度で別に吐きそうとか言うわけではない。


あと水飲み過ぎたか。


お腹がちゃぽちゃぽ言ってるのである。



「まあ大丈夫。ちなみに、アケミちゃん、僕の魔素量はどう?」


「ばっちりやで!見たところ12289あるなぁ。これならそれなりの魔法は1発くらいなら使えるんやないか?」


1発か・・・

しかも、放置してるとそのうち魔素が代謝排泄されるらしいので、早いとこ勝負に出ないといけないだろうな。


「それなら良かったよ、アケミちゃんのおかげでなんとなるかもしれない」


「なんやぁ?もう勝った気でいるんか?あかんでそういうの〜。まぁ、どうやって倒そうと考えてるかは知らんけどな?」



可愛すぎる笑顔で僕を覗き込んでくるアケミちゃん。

きっと童貞じゃなかったらいい感じに言いくるめてあんなことやこんなことをやらかしてしまえるんじゃないかと思ってしまう。


まあ、でもアケミちゃんは本来守備範囲の外。年齢がねぇ・・・

それに僕、童貞だし、そもそもそんな度胸はない。

なので問題なく目に良いだけだ。うんうん。



「んー。今考えを再構築中。できるかわからない。まあ、案外その前にジュライアやクラリス、聖女様とかがそれなりに倒してくれるかもしれないしな」



アケミちゃんが魔核をたくさん持ってきてくれた時に僕はある可能性に気がついたところだった。



さっき、ぽろっと、「鎧蟷螂の全滅狙えるかも」と口から漏れていたのをアケミちゃんはしっかり聞いていたようだ。



できるかはわからない。

魔素が足りるかわからないし、魔法構築自体そう簡単にはいかないだろう。

魔法が使えるようになったその日にそんな大規模な魔法が使えるとかもわからないしね。


今歩いてる途中で思いついた別案の方がまだマシな気がしてくる。



「鎧蟷螂にどこまで通じるかはわからんけどなぁ。少なくとも、聖法に攻撃性の高いモノはそうないやで?」


「たしかにどこまでクラリスやジュライアに任せた作戦が通じるかはわからない。その時は聖女様の腕力を信じる」


「ワタクシの腕力がどうかした?」


不意に話しかける女性の声が聞こえる。

聞こえるというか、無視できない存在感を持つ者が明らかに僕に話しかけている。


・・・この、取ってつけたかのような不自然さを感じさせる一人称。てか一人称以外がぶっきらぼうなんだよなぁ・・・

うわぁ、これ僕に話しかけてるよなぁ・・・

やめてよ、怖いよー。


相手は、振り向かなくても誰だかわかる。



ドラガ・セルシコート・・・。いつのまにここに来たんだ?!さっきまで建物の上にいたはずなのに!

聖女は魔人と同じで瞬間移動できるのか?!


・・・焦っては聖女の思う壺か。



僕って大物に弱いんだよなあ。

そもそもコミュ障だから喋ったことない人とかとは意気込まないとそれなりにすら喋れないが。



嘘をつかず、自然に話すことを考えていればスキルを発動されても大丈夫か??



でも、僕この人と話したことないしなぁ・・・頑張るか・・・



彼女の【懺悔の強圧】スキル発動条件はいいまいちわからない。


以前見かけた時に悪人がぺらぺらと悪事を宣ってしまう姿はまさに異様だった。



あの時はひったくりで捕まえてたのに、最終的に以前犯した人殺しとかの罪までぺらぺら喋ってたし、下手を打つと、僕はここで殺される可能性もある。


・・・僕は今、聖なる存在とは真逆である魔素を持ってるし聖女の敵判定されてもおかしくないだろう


それに・・・今まさに僕の背後には人類の敵であるはずの魔人アケミちゃんもいるし。


うわ、バレたら首チョンパされそ・・・



痺れを切らしたらしく、聖女様は僕に手をかけてきた。その瞬間、僕は意を決して振り向くことにした。


極力笑顔!

顔には、出さないぜ!



「もしかして、僕に話しかけました?」



きらーんっ!



考えることに時間を少しかけてしまったため、少し不自然になってしまうのを隠すように反応のつもりだ。


笑顔が臭いかもしれないが!そこは仕方ない!

子供時代の!貴族時代の社交性を思い出すんだ!


それに嘘はついていない。

事実、僕に話しかけてくるとは思ってもいなかったんだからな!



目の前には少し身長は僕より低い、つり目の金髪の女性がいた。


イメージはクラリスを金髪にして身長低くした感じだな。

口調も怒ってるときのクラリスに近い。

通常運行でクラリスおこ状態だ。


全体を眺めるようにして目を胸部へ一瞬移してみれば、ひらた!うむ。貧乳だ!

緊張しない!安心感が少し生まれた!



「あぁ、ワタクシは君に声をかけたよ。呼ばれたような気がして」


ジュライアと負けず劣らずと言ったぶっきらぼうさ。

こういうタイプの人が初めて出会う人だったとしたら、いつもの僕ならば萎縮して縮み上がっていることだろう。


そんな失礼なことを考えているとは露知らず、ドラガ・セルシコートは言葉を紡ぐ。


・・・なんでか一人称に違和感があるんだよなぁ。普段から使ってるはずの一人称とは思えない。


ワタクシてのは、僕の中ではぶっきらぼうな人が使わない一人称でトップクラスである。

同ランクにわらわとか、わっちとかがあるが、まずそんな一人称使ってる奴を見たことがない。



ちらっと建物の上を見れば使徒たちが聖女が突然居なくなってざわついている。

この人、忽然と使徒の前からいなくなったのかよ。

聖法にそんな技術があるのか?


まあそんなことはいいか。


「いえいえ、聖女様を呼び寄せるなんて、そんなことしておりません。ささ、使徒様方も探しておりますし早く元の持ち場へ」


「そうか?ワタクシの勘が君は何か重大な隠し事をしているような気がすると訴えてるぞ?それに使徒たちはどうでもいい。今はワタクシと君の話だ、わかる?」


圧力!怖ぇぇえ!

てか、超直感?


使徒さん方もこんな聖女でいつも困らされてるんだろうな。

少し同情してしまう。



「隠していると言うほどでもないですが、今回の討伐戦で使えそうな作戦が3つほどありまして、今はその準備をしていたところでした。それでもダメなら最後は聖女様の腕っ節でどうにかしてもらうしか、この町の未来はないと考えていたところですよ」



嘘はついてない。


だけど思ったよりは思考が隠せるな。


聖女のスキル【懺悔の強圧】が発動してないのか?



もし発動してるなら真実を語りつつ、事実を隠す、これはなかなか大変なはずだ。いや?そもそも僕が悪人じゃないから大丈夫なのか?



「そうか。殊勝なことだな。じゃあその3つについて『語れ』」


瞬間的に、脳にその言葉が無理やりねじ込まれるような感覚に襲われる。



うっわ!これスキル発動したのか?!


な、なかなか、これは、えげつないな!

悪人相手じゃなくて発動するのか?!いや悪人なんて抽象的な存在にのみ発動するのではなく、単純に嘘がつけなくなると言うのが正しいのかもしれない!



とりあえずだ!3つね!3つ言えばいいんだろ!


3つって宣言しといて良かった!



「1つは岩で押し潰す作戦、2つ目は火攻めをする作戦、3つ目は大群の進路をそらす作戦です。聖女様はどうお考えになりますか?」


よし!乗り切った!

一瞬にして頭の中の嫌な感じがなくなった。


「ふーん?まあ、1つ目は投石機がすでに用意してあるよ、鎧蟷螂にはどれほど効くかはわからないな。頑丈な肉体だし。それに、投石機は数がないから、あまりあてにできない。2つ目の火攻めも悪くはない案だ。だけど、燃えるような油がさほど多く用意できない。よって、今回の大群には大きな戦況変化は与えられれるとは思えないな。わざわざ降りてきたのに。ちょっと知識があるだけだったか。ワタクシの勘外れ?」



聖女様、なかなか頭切れるな。

最後地味にディスられた気がするな。勝手に降りてきて勝手に悪評価していくスタイルには文句言っても良い気がする。言わないけど。


まあそれは置いておこう。慣れてるし。


それにしても投石機はまだしも、火攻めもすぐに考慮していたらしい。



この街を含め、この国の連中は戦争はもちろん魔物の大群襲来も経験してないからそう言った知識はないはずなんだけど。



「聖女様のご慧眼には感服致します」


「このご時世に戦争のやり方を少しでも知っているんだから・・・冒険者ギルドのマスターと比べれば良い方だ」



表情を変えることはなかったが、その言葉にはかなり棘を感じさせる。


あー。

ギルドマスターに対して何か思うところがあるようだ。まあ普通に考えたらあるか。


苦笑いで返すと、聖女様は話を促してきた。



「で、3つ目の作戦はどういうものを想定していた?『語れ』」



スキル発動したな、頭ががんがんする。



「餌を使って進路をそらそうかと思ってます」


「まあその考えは悪くないがな。だが、餌には何を使うつもりだ?魔物の大群を引きつけるだけの材料はワタクシには思い当たらないけど」


なんでこんな高圧的なの?


ガンガンする頭に歯を食いしばって耐える。


「・・・魔物の群に、大将が居ないという前提なので、失敗する可能性も高いですが、統制の比較的取れている大群ゆえにヘイトによる進路操作ができる可能性があります」



魔物の場合、集団戦では強い攻撃をしてくる相手を真っ先に狙う習性がある。

今回はそれを使って進路をそらそうと考えたのだ。



「・・・ヘイト、たしかに魔物の場合はそういう習性があるが」


「故に強い攻撃を放てる人間が餌です」


「少数の犠牲を出すことで多数を助けるという作戦か・・・気に入った!その案で行こう。適任者がいる」


ニヤッと悪そうな笑みを浮かべるドラガ・セルシコート。

その表情はとても聖女とは思えない。



「しかし、ほぼ確実に犠牲者は死にます。それでも聖女様は賛成なさいますか?ワートラム神はそれを許すのでしょうか?」


「例え100人死のうが、それで1000人救えるならお釣りが来るじゃない。100人は尊い犠牲だな。それに神は、最終的に崇めてくれる人間という種族が存続してりゃそれで良いんだって。君は助けて欲しい時に神に逐一助けてもらった?ワタクシはないよ。でも良いじゃない?気まぐれ上等よ。それで何か問題ある?」


「いや、ワートラム神打算的過ぎ!」


しまった思わず突っ込んでしまった!

いや、そもそもスキル発動している手前、激しいツッコミ欲望は抑えられそうにないな。


「どこの神も同じだ、一人一人の面倒臭い頼み事聞いてなんかやってやるような神がいると思う?いや、いないね。気まぐれで助けることもあるかも知れないけど、あくまで気まぐれ。もしかしたら打算かもしれない。でも、当然じゃない?神だってそういうのあるでしょう」


「なかなか複雑だな宗教って・・・全くのめり込める気はしないけど!はっ!?すみません!本音が!」


「本音が出るように【懺悔の強圧】を使ってる。別に悪でさえないなら断罪はしない。こんな事実を言って何が悪いという話」


「お、男前だなぁ」


漏れ出てしまう心の声に特に反応するでもなく、聖女様は口を開く。


「この町に今、鎧蟷螂に強敵と判断されるような強者がいるとしたら冒険者ギルドマスターとワタクシくらいだろう。まあ、誰が行くかなんて、そんなのは明白だけど」



聖女様が不敵に笑う。そこには僕に対する敵意などはない。当然の如く、聖女は僕の意見に賛成なのだろうから。


犠牲を惜しむ人間ではなくて良かった。



聖女といえど、この人は生きとし生けるもの全てを救う人間ではない。悪人なら即座にその命を奪うくらいだしな。


それに自身が強いことを理解しているようで良かった。話が早くて助かる。



「ギルドマスターに餌になってもらい、それでも防げなかった場合に聖女様に戦ってもらおうと思ってました」


「よくわかってる。ギルドマスターがダメならワタクシしかいない。まあ、いいよ。会話、面白かったぞ。じゃあ。ワタクシはギルドマスターに伝えてくるよ」



ニヤッと悪そうな笑みを浮かべる聖女様。

神はなぜ彼女を聖女にしたのか・・・


まあ、そんなこと言ったら僕もなぜ勇者なのかって話だよな。


世の中は不思議なことがいっぱいだ。



まあ、それは置いといて、問題はだ。

ギルドマスターがこの話に乗るとは思えないのだ。


何だかんだあの人、自分の命大事だしなぁ。何気にあの人最前線にいないし。


どちらかといえば僕に近い人種な気がする。

そもそも今どこにいるのかもよくわからないけど。



「ギルドマスターが簡単に乗るとは思えないので正直この案はボツかと」


「普通ならそうだろう。でも、お願いはしても良いだろ」



普通なら?いや、お願いで済むなら楽だろうけど・・・ギルドマスターだってキレるかも知れない。あ、でも、相手が聖女様なら可能性はあるか。

この聖女のことだ。聖女からのお願いと言う名の強制力は発揮できるのかも知れない。


そんなことを考えているときだった。



「セルシコート様!こんなところにいらっしゃいましたか!突然お姿が見えなくなって驚きましたよ!皆の指揮に関わります故、お早くお戻りくださいませ!」



使徒の一人の男が聖女の元に焦った様子で駆けつけてきた。


「残念、時間切れ。じゃ。・・・おっと、忘れてた。ワートラム神のご加護があらんことを」


ニヤッと笑って元の位置に戻るべく歩き出す聖女様。駆けつけた使徒がなぜか僕を睨んできたが、最近では睨まれるのも珍しく無くなってきたので無視する。


「どうも、感謝いたします」


まあ、神といえば、『タージャボルグ』を僕に押し付けてきた勇者の神とやらがすでに付いてくれてるんだけどな、大丈夫かな。二股とか言われないか心配だよ。


「意外と話しやすかった。まあ、スキル発動びっくりしたけど」


ふと背後にいたはずのアケミちゃんに話しかけたつもりだったが、いなかった。


「あれ?いない?」


「おるでー」


その言葉と共に、何もいなかった場所から一瞬にしてアケミちゃんが現れた。

もう驚かない。アケミちゃんならなんでもありだもん。


「姿を完全に消すなんて、そんなこともできちゃうの?」


「一応できるんやで。ただ、今のうちじゃ、動き回ると効果が切れるけどなぁ」


「それでも凄いと思うけど」


直前まで姿が見えないなら、隠れておいて、標的が近づいてきたらグサリ。なんて、暗殺とか割と簡単にできちゃうやつじゃん。


「そのうちアラハちゃんもできるようになるで?」


「そ、そうなの?」


「たぶんやけどね。そういや、さっきスキルの影響受けてたけど、結構耐えられてたなぁ」


「あ。たしかに。そういや隠蔽できてたな」


思ったより隠蔽が可能だったな。頑張って耐えたけど、耐えられるものだったんだな。


「【魔法・聖法耐性】あるやろ?たぶんそれでやな。うちの魔法も若干弾かれるしなぁ」


あ。僕、ステータスに【魔法・聖法耐性】あるんだっけ。そのせいなのか。


もしこれがなかったら耐え切れずいろいろ喋ってしまっていたかもしれない。

いつの間にそんな大層なものを手に入れたのかて感じだけどね。あるものは利用させてもらおう。


「スキルがあってよかった」


・・・さてと、クラリスとジュライアとも合流しないとな。



クラリスとジュライアの姿を確認すべく、少し後方の農具置き場に登ると、割とすぐに見つけることができた。

2人とも壁の外だ。


何しろ、クラリスは大きな岩を十数個程度集めて町から少しだけ離れた場所に待機している。岩陰からぴょこぴょこ顔を出したりしている。


普通だったらこの最前線で話題に上がってもおかしくないだろうが、おそらく、大半の冒険者からは角度的問題で見えていない。

それに、農具置き場から見てる聖女様も特に気にいてなかったところをみると、みんなが集まる前には準備を終えて隠れていた感じなんだろう。隠れられてないけど。


ジュライアも、クラリスとは位置が違うが町から少し離れた場所にいた。

ちょうど町から離れるように移動中で、冒険者や傭兵たちの一団とは離れた場所にラインを作るように樽がいくつも並べられようとしていた。


樽、いっぱいあるな。それ以上に驚いたことがある。


というのも、ジュライアは一切樽に触れておらず、樽を運んで来ているのが10人程の大男達だからだ。


どっから連れてきたんだよあの男たち・・・




非常に見つけやすかったけど、冒険者ギルドマスターの作戦通りには全く動いていないところを見ると、後で何か言われてもおかしくない。

まあ、後が有れば、だけど。



聖女様は同じく建物の上にいるが、クラリスとジュライアの方を見ていたかと思えば・・・僕を見るなりにやりと不気味に笑ったような気がした。



怖。なんか目をつけられたような気がして嫌な感じだよ。



「・・・クラリスは結構集めてくれたようだけど、ジュライアには、言い忘れてたんだが中身はちゃんと火をつけたらすぐに燃え広がるような油なんだろうな?」


独りごちる。


きっとクラリスに岩のこと伝えたら、「あはははっ!時間がもっとあればたくさん集められたんですけどね!時間が足りなかったですね!」と、健康そうな汗をかいて答えるような気がする。


でもって、トータルではさらに重そうな物を持ってきたはずだというのにジュライアは汗ひとつかいていないのだろうな。なんせ、一つも持ってないのだから。


でも、あんな数の人を雇ったとなると、それだけでかなりの額が飛んだだろうに。

男たちは樽を壁を作るように町の外、少し離れた場所に設置していき、それが終わると町の中に戻っていく。


しばらく様子を見ているとジュライアも街まで戻ってきて、僕のところまでやってきた。



「あぁ終わった終わった」


「おつかれ。なあ、かなり出費になっただろ」


「ったく。結構な出費だぜ。しかも、アレ、食用油じゃねぇからな。火をつけたら爆発するぜ?」


どうやら、ジュライアが見つけてきたのは何の油なのかはわからないが、正直そんな発火しやすいもののようだ。

そんなもの、ほとんど戦争に使うための油と言っても過言ではないだろうに、どうやって入手してきたんだか・・・



「凄いな。どうやって手に入れたのかは知らないけど、助かる。これなら殲滅狙える可能性もあるからな!」



深くは聞かない方がいいのだろう。

まあ、食用油でも燃やすのとは別のやり方で使おうと思っていたが、結果オーライか。



「あぁ。とりあえず入手経路は秘密だ。この戦いには勝たなければならないからな。金は請求しねぇけどよ。仕方なく秘蔵の物を出してるてことで覚えとけよ」


「も、もちろんだ。必ず勝つからな!」


自信はないが・・・


「この戦いでどんな展開になるんやろかぁ?まぁ、負けたら世界は滅びるんやけどな」


アケミちゃんがふと口を開いた。

とてつもなく重たい話だ。なんでこんな僕にこんな荷が重いことを任せるのか・・・


「そもそもここで死んだら世界もクソもないよ。僕達が死んだら僕たちにとって終わりだし」


「せやな!まあ、どうなるか楽しみにしとるで!」


「おい、アケミ・・・なんでお前はそんなにあっけらかんと・・・まあ、いい。絶対勝つ、だな」


若干和やかになりつつあるが、鎧蟷螂が到着するであろう時間まで、残り十数分程度だろうか。


空気を引き締めつつ、それまでに作戦について説明するとしよう。



・・・大多数が敵うとは思っていないだろう戦い勝利するために。



+++



町外で大きな土埃が舞う。

まだ遠くに見えるそれは、猛スピードでこの町を障害物とも思わないほどの勢いで通過せんと、一直線に進んできている魔物の群れだ。


襲撃するは、鎧蟷螂。


恐ろしく硬い表皮と素早い動きのため、鎧蟷螂単体でさえ戦いになれば3級冒険者であれば数人いても運が悪いとと勝てないだろう。



そんな魔物が大群で押し寄せてきているのだ。


対する防衛陣はといえば、かなり混乱していた。

冒険者、兵士、傭兵たちは殺伐とした空気を放っている。


ここに来て、冒険者も兵士もビビるものが出始めていた。



「あ、ぁあ・・・」

「おぉ・・・神よ!」


「てめぇ、戦いが終わったら金返せよ?」

「は?覚えてねぇ」

「は!てめぇが死んだらてめぇの家族のところに乗り込んで耳揃えて返してもらうからな!!」

「あぁ、いいぜ?お前が生きてればの話だがな」

「くそが!!」


「なんでこんなことになったんだ!!」

「知るかよ!おい、ギルドマスター!あんたの作戦じゃ・・・!?ギルドマスターはどこに行った?!」

「ギルドマスター!?そういえば見てねぇぞ!!」

「あいつ、まさか逃げやがったか!!?」

「ふざけんじゃねぇぞ!!俺らを見殺しにする気か!!」



完全に荒れていた。

いつもの冒険者歴とした態度はどこへ行ったのか。


ちなみにギルドマスターは現在最前線にはいない。

そういえば、最初から見てないような気もする。


もしかしたら、聖女様に言われて決死の囮になっている、かも知れないが、・・・あの人はそんなことしないだろうなぁ。



もし囮になってくれるならば、4級冒険者に匹敵すると言われているギルドマスターが鎧蟷螂の大群に攻撃を与えて大群全体のヘイトを溜めることで、街から逸らそうという作戦を実行することだろう。


ふと、遠くに目を凝らすと荒野にポツンと人影が見えた気がした。



あれ?


いやいや、そんなはずは・・・



しかし、僕の思い浮かべた通り、おそらくあれはギルドマスターだ。


ギルドマスターが剣を引き抜き荒野に立っている。



ギルドマスターがもつのは特徴的な大剣。

この町であれを使うのは彼くらいなものだ。



・・・まじかよ。本当に囮になってるのか?



「まさか、本当に聖女様の言うことをすんなり聞いてるとは思わなかった」


ギルドマスターは別に女に弱いわけでもない。


むしろ女の話を聞かない、男の意見もそんなに聞くわけでもないが、男尊女卑的な考えが強い男だ。

正直、聖女という立場に弱い印象もなかった。

聖女様のお願いなら、ということも考えたが、それでもおかしい。


今回に関しては、作戦が成功した場合にギルドマスターは確実に死ぬ。たとえ少なく見積もっても極めて死ぬ可能性が高いと言えよう。



自分の命を張って誰かを守るような印象も、残念ながらギルドマスターにはない。


あの年でギルドマスターになれたのも、強いという面もあるが、色んな人を蹴落としたためとも聞いたことがある。



そんなギルドマスターに一体どうやって言うことを聞かせたのか・・・



「あれは、ギルドマスターか?」


ジュライアも気がついたらしい。


「おい!みろ!ギルドマスターは最前線にいるぞ!!」

「おお!さすがはギルドマスター!!」

「鎧蟷螂なんぞ殺せぇ!!!」

「殺せぇ!!!!」

「殺せ!!!!」

「殺せーーっ!!!!」


というか、冒険者たちも気がついたらしいらしく、士気が上がり始めていた。


ボスが先頭に立ってくれることがなによりも士気を高めるだろう。


だが、興奮する冒険者たちの殺せコールを聞くうちに、僕の気持ちが冷めてくる。


ふと、思ったのだ。

鎧蟷螂だって、生き物だ。何のために争わなきゃいけないのやら・・・

まあ、たしかに戦わなければ僕たちが殺されるのだから仕方ないが・・・


気持ちを切り替えるか。


「聖女様がギルドマスターにお願いしたらしいよ」


「はぁ?そんなのでギルドマスターが動くとは思えねぇんだけど?セルシコートのやつ、【懺悔の強圧】以外にもスキル持ってんのか?」


「ジュライアちゃんの言いたいのは、つまり他者への強制力を持つスキルかぁ?」


「じゃねぇと説明つかねえって」


「さっきステータスは見てないけどな?経験上ではドラガ・セルシコートはそんなスキル持っていなかったと思うんやけどなぁ」



ここにはいないクラリスがこの会話ん聞いたらアケミちゃんの発言にしっかり反応することだろうな。まあ聞いてたとしてもアケミちゃんはにっこり笑ってうまく流すか、未来の話を打ち明けることだろう。


「アケミちゃんの情報を考慮すると、スキルではなく聖女様はなんか知らないけどギルドマスターを思い通りに動かせた。その事実は事実としておいておこう。僕らにとってはむしろ良かったわけだし」


「それもそうやね、ギルドマスターは使い捨ててもいいキャラだから別にどうでもいいでぇ」


「だな。俺から見ても別に価値はない」


「君らひどくね?」



とかいう僕の作戦でも、ギルドマスターの生死は問わないものだ。

でもまあ、さすがに悪い気がするし、作戦の失敗時にはアケミちゃんにギルドマスターを助けに行ってもらおう。



冒険者の士気は高まっているが、傭兵たちは逃げ出したいのか、後方で今にも逃げ出しそうな体勢になっている。


結構混沌としてるな・・・


てか、この状態で聖女様は我関せずを決め込んでいるのはどうなんだ?

別に何か望むわけじゃないけどさ、聖女様として前線に陣取ってんだから、指揮でもするのかと思ったが。


僕の作戦とは言え、ギルドマスターに囮をやらせたんだぞ?

・・・と言いに行きたいところだが、聖女を囲む使徒たちは何やらぶつぶつ唱えていて、なんか近づきたくない。


宗教やってる人とか正直何するかわからないし怖いもん。


ちなみに、この国からは離れたところに2つの宗教国家が隣接しているらしいが、その隣接する国同士で違う宗教のせいでもう何年もの間、戦争状態が続いているとか。



別名、洗脳戦争と呼ばれている。

なぜかというと、宗教を悪用して信徒の洗脳、戦争へと駆り立てているといか。



この国にあるワートラム教会はまだマシな方らしいが、今の使徒たちを見てわかるようにそれすら怖いもんだ。



「さてそろそろかな」


「せやなぁ」


「ったく。・・・これで世界も終わりかもな」



深いため息を吐くジュライアはここに来て悲観的になっているようだった。



「・・・ジュライア、確実に勝とうぜ」


「手数が明らかに足らねーんだよ、国や貴族どもの軍隊も間に合わなかったのは致命的だ。王都にも話は伝わってるってのによ」



近くに王都【スターズ】がある以上、そもそも、そちらの防衛ラインの方に戦力は集中しているのだろう。


ここはそのために、冒険者が総出で鎧蟷螂を迎えることになっている。


「ジュライアの言うことはもっともだ。明らかに負けしか見えないのは、たしかに正常な判断力を持っていれば明白だよ」


「王都じゃ、今戦闘配備を整えてるとこだろうよ。ここで時間を稼げってことだろうが・・・俺まで巻き添えだってのに、誰も来やしねぇ。準備を妨害してやがる奴がいるな、絶対生き残ったら問い詰めてやる」


最後の方はよくわからないが、ジュライアは大層御立腹の様子だ。


だが、僕は勝利を掴むことを絶対不可能とは思っていない。

直感がそう訴えているから・・・



「時間がなかったし。仕方ないじゃん?まあ、代わりにジュライアはよくわからん大男たちを連れてきたろ、それで十分さ」


「あいつらは見た目だけだ。その辺の3級冒険者より弱ぇからさっさと逃したよ」


「もう逃げてんの?!」


まじかよ!それは予想外だ。


相手は鎧蟷螂だからな・・・。手数は多くて損はないのだけど・・・まあ、でも、ある程度弱いのが集まっても時間稼ぎにもならないか。


顔には出さずに、僕は親指を突き出してにやっと笑っておく。



「仕方ないさ。できる限りやってやろう」


「わかってる」



そう呟くとジュライアは予定通り弓矢の準備を始めた。



さて、僕もできる限りやりますか。



僕も僕で配置に着く。

ジュライアと同じ場所、農具置き場の上だ。かなり後方と言えよう。


ちなみに、クラリスはこの場所からなら見えるが、他の場所からでは岩陰になっていて見えないだろう。

手を振るとクラリスがぶんぶんと元気よく手を振ってくれた。


「意外にこの場所って、よく見えるんだな」


「結構見えるぜ?俺も普通に見つけられたからすぐこられたわけだしな」


「なるほど、そう言うことか」


この場所はかなり見えやすいらしい。

飛び道具とか持ってる相手が敵だったらかなり不味かったな。

今回は大丈夫だろうけど。


さて、それはさておき、始めますかね。


まずは魔素を込めに込めて頑張って練り上げて、スキルも発動させて・・・



最近拾った高ステータスのレイピアを早々と引き抜き、遠くの鎧蟷螂を睨む。



腰につけた短剣である『タージャボルグ』は完全に飾りだが、適当に作った鞘に収まっているため、ぱっと見は普通の短剣だろう。


さらにはロングソードまで帯刀している。


他人から見たら死ぬ直前まで戦う気持ちでいっぱいですという感じを醸し出していることだろう。


ただし、建物の上なのであんまり戦う気があるのか?と疑われてもおかしくはないけど。


今この瞬間にそれを問いただしてくる者はいない。


もちろん、僕は鎧蟷螂と真っ向から戦う気なんて1ミリもない。完全にゼロだ。



・・・集中、集中。



成功すれば勝てる、勝てる、はず。




鎧蟷螂は、ギルドマスターと接触する付近まで来ていた。

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