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強制参加依頼?



魔石を飲んだ、翌朝。

目が覚めると、やっぱり何も変わった様子はない。

身体の調子、怠いとか眠いとかそういうのは程々だし。


力がみなぎってくるぅぅう、とかもない。全然ない。


なんかオーラが出てるとか変なモノが見えるようになったりとかもない。ないったらない。



魔石飲んだはずなのにな・・・



「なんだって、こんな、僕って微妙なんだろうか・・・」



『タージャボルグ』入手時もそうだったが、僕にはそういう強くなる才能が壊滅的にないのではないか?とか思ってしまう。



別に誰よりも強くなりたいというような願望は昔からなかったが・・・いや、確かに少しはあったかもしれないけど、それは子供ながらの年相応程度のはずだ。


今となっては強くならないと寝込みを襲われて数ヶ月以内に死ぬ未来になっているという、切羽詰まった状態・・・

そもそも強くなっても寝込みを襲われたら死ぬのでは?という気もしないでもないが、少なくとも自身の強化する行動で気休めにはなるだろうと思う。



しかしもだ、勇者である僕が死ぬと少なくとも、その先の未来は世界の終わりということに繋がるらしい。


僕が生きてたところで、それを防げるとはあまり思えないが・・・



てか、飲み込んだ魔石は一体どこに行ったんだろうか。


アケミちゃんが言うには即座に僕の体は代謝排泄したんだってことだったが・・・



死んでないし、体調不良も起こしてないところを見ると、スキルは発動しているみたいではある。


・・・もちろんあれが本物の魔石だったとしたら、だが。

アケミちゃんが僕に嘘をついている可能性だって普通にあり得るのだ。



アケミちゃんは魔人だ。


もしかしたら、魔王の手下として僕とジュライアに嘘をついているということも考えなければならないところではある。

なんだかんだ信用している節があるが、精神魔法で僕やジュライアから信頼すら勝ち取れる可能性もある。


だが、少なくとも僕を強くさせたいという彼女の気持ちがある以上はそれはうまく利用させて貰うしかない。


未来から来たとか、僕が数ヶ月以内に死ぬっていうのも嘘である可能性も否めないが、嘘だとしてもだ・・・今アケミちゃんには魔王と戦うだけの力はないにしても、確実に僕程度は殺す力はあるだろう。


でもって、逃げられる気もしないし。

最初に会った時とか心の中まで読まれた気がしたし、もしかしたら、逃げようとか考えた時点で殺されるかもしれない。


「詰んでる」


・・・何にせよ、僕の老後安泰計画はかなり崖っぷちなんだよなぁ。



ひとまず考えるのをやめて、背伸びしながら布団から出ると、トイレに向かう。



さーて、・・・そろそろクラリスがトイレに入る時間だろう。



しめしめ、と思いながら僕はトイレのドアを勢いよく開ける。


「ま、またですか!!?」


「まったく、良い加減慣れろよ?」


「え、私が悪いんですか?!」


「慣れといて損はないさ」


「こんなのに慣れる必要性が感じられないんですが、何のメリットがあるんですか?」


「考えるな、感じろ」


「考える以前に、今まさにそこはかとなく嫌な感じを抱いてるところですね。筋肉とかのチェックならいつでもいいですから、わざわざトイレ狙わないでくださいよ?・・・あの、アラハさん、割と普通にトイレできるの信じられないんですけど」


隣りでもはや余裕の用足しである。


「はっはっは。で、今日の予定だけど、迷宮に入って、今までよりかはちょっと強い魔物倒しに行こうかと思う。地下3階層の土蜥蜴とかな」


「さらっと流しましたね!?・・・ま、まあ良いです。そのうち慣れますよっと、・・・土蜥蜴ていうと、確か気を抜くと丸呑みされるとかいう大きな蜥蜴、でしたっけ?」


本当に慣れる気なのかよ。流石にそれはどうなのかと思うよ?セクハラしといてなんだけど。


それはさておき、クラリスにしては覚えていたようだ。

土蜥蜴は陽に当たらない地下や洞窟などに住む魔物の一種で、大きさはだいたい成人男性3人分くらいの大きさだ。

結構でかい。普通にやばい魔物だ。


普通は噛み付いたり引っ掻いたり、尻尾で叩いたりのし掛かってきたり、今クラリスが言ったように小さい獲物は丸呑みにしたりなど、物理的な攻撃がメインだが、迷宮産の土蜥蜴はそれに加えて、稀に酸を吐いてくる特殊なタイプもいる。



「おおよそそんな認識で良いよ。さっさと飯食って出かけるぞ」


もはや日課と何つつあるが、一緒にトイレから出ると、2人で朝食用のクズパンをいくつか摘んで、出掛けの支度をして迷宮へと向かった。



町の中にある【メルストークスの魔窟】に入るため、冒険者ギルドの中を通過していると、ギロッと他の冒険者から何人にも睨まれた。


昨日いなかったであろう冒険者からも、いつものスルー対応と違って明らかに睨まれていた。


うわぁ、いたたまれねぇ。


魔獣倒したっていうのが嘘をついて昇格したという噂が広まったらしい。


いや、倒したのはたしかに嘘だけど。

クラナゼット生きてるし。今となっては無傷だし。



それでもなんとか実害もなく迷宮の地下3階層に辿り着いてから、少し奥に向かうと地面を這う1匹の大きな蜥蜴の姿が目に入ってきた。


黒っぽい表皮は鱗のお陰で光沢がある。


あの鱗は剣の刃をなかなか通さないので厄介なんだよね。


ちなみに、例によって、この辺りは人気はない。

クラリスの強さはあまり人目につかせてもあんまり良いことはないだろうしな。



それにしても、生き物が少ないこのエリアで一体何を食ってあんなにでかくなるんだろうな。魔物の神秘である、



「アラハさん。あれは撲殺スタイルで大丈夫ですか?」


まあ基本的に層が浅い内は撲殺スタイルが割と通用するが、そもそも、クラリスならそれなりに下の階層に行っても撲殺スタイルで問題無いと思う。



「うん。撲殺が一番手っ取り早いから、少し強いけど、クラリスにとっては相性は良いはずだよ。ただ、対象の蜥蜴が何かを吐き出してきそうな体勢なったら射線から外れる方向に姿勢を低くして逃げてくれ」



正直、僕単体だとこいつを倒すことは無理なのだ。僕レベルの腕力や剣術では蜥蜴にダメージをしっかり与えられない。


倒し方だって他の冒険者チームをストーキングして、土蜥蜴を倒してる所をを観察してわかったことだ。


ということで、クラリスにやってもらう以外にはどうにもできない。

何かあったらさっさと逃げなければいけない。


「大きな魔物は初めて戦いますね・・・少し怖いですけど、アラハさんが大丈夫だって言うなら行って来ます!」


全幅の信頼がちょっと逆に危なっかしいけど、まあ、実際大丈夫だろう。



「あぁ、大丈夫だ!まずそうだったら僕がなんとかしてやるから安心してボコってこい。他の魔物が来ないか見張っておくから」



まあ、万が一が起きたらクラリスと一緒に土蜥蜴の攻撃避けつつ全力で逃げるだけなんだけどね。



クラリスは元気に、はい!と頷くと棍棒を片手にゆっくりと土蜥蜴に近づいていく。


身動き一つしない土蜥蜴に、棍棒を振り下ろせば当たる距離まで近づくと、クラリスは両手で棍棒を持つと振りかぶって素早く殴りつけた。



ギャァァァイッ!!?



トイレでクラリスが叫ぶ時に似てる悲鳴をあげる土蜥蜴。

いや、さすがに違うけど。なかなか凄い絶叫だった。


ちなみに、クラリスが叩きつけたのは後ろ足の生えている付近の腰だ。


おそらく背骨が完全に砕けて後ろ足や尻尾は動かなくなったのであろう。


反撃しようとして下半身が動かなかったらしく、素早く行動できずにクラリスに追撃を許してしまう。



クラリスは、無理やり振り向いてクラリスを見据える土蜥蜴の頭に棍棒を渾身の力で叩きつける。


絶命したのか気絶したのかはここからではわからないが、少なくとも意識はなくなっているようだ。


ちょっと近づくと、頭が陥没しているのが見えた。



あ。これ、たぶん死んでるわ。



肺に溜まっていた空気が、肺の筋肉が弛緩して喉の声帯を通って漏れ出したのか、土蜥蜴の口からゴォコォォォォォ・・・という音が漏れ出ていた。



それでもクラリスはさらに土蜥蜴の頭に一発二発、三発と棍棒で叩きつけ、確実に命を奪う行動をとった。


たぶん死んでるとは思うけど、死んだフリをしている場合もあるため、オーバーキルしといたほうが身のためだと教えていた。



ふむ。教えた通り、忠実にできているな。

実技系は完璧なクラリスである。

大概目の前で動作で示してやればすんなりできてしまう。


しかし、グロいことになってる・・・!


「く、クラリス、よくやった。これなら1人で大丈夫そうだな。次もいけそうか?」



「やってやりましたよ!特に疲れとかもないし全然大丈夫です!」


赤い血と肉片の付着した棍棒片手にガッツポーズで微笑むクラリス。


なんか、様になるね。



僕はそんなことを思いつつ、土蜥蜴から魔核を取り出すために心臓がありそうな場所に剣を突き立てる

なかなか通らないが、同じ場所を何度かやればさすがに刃は通る。


でも、硬ぇぇえ。手が少し痺れる。


魔核を取り出してバックに仕舞う。



そんな感じで単独でいる土蜥蜴を10匹程度狩った辺りで、ついに危惧していたモノが現れた。



クラリスが手順通りに背後から気配を消して近づき、腰骨を破壊して一瞬身動きを封じるとそれまでとは違い悲鳴を一瞬で終わらせた土蜥蜴が無理やり振り向いて何かを吐き出すような動作をしたのだ。



「クラリス!射線から逃げろ!!」



「はいっ!!」



クラリスも気がついたようで姿勢を低くして土蜥蜴の口の直線上から逃げるように跳び逃げた。


お、おお、ものすごい跳躍力。

一瞬にして数メートル離れた安全な岩陰まで逃げていた。


その直後、土蜥蜴口から何か液体が大量に噴射した。



噴射した液体は獲物であるクラリスを捉えることはなかったが、周囲の地面に付着した瞬間、液体がしゅわしゅわと泡立つ。どうやら地面を溶かしているらしい。



まさかの特殊タイプの土蜥蜴、割と早く出てきたな。



だが、それは連射ができないというのは有名な話だ。



「クラリス、あとは通常通りだ」



それ以降は簡単にクラリスが普通の土蜥蜴と同様に仕留めた。


魔核を土蜥蜴の死体から取り出すと、さっきまでとは異なるバックの中の何も入っていない袋に魔核を仕舞った。


これは、別の目的で使えたら使いたいからな。ちゃっかり着服しておく。

1個くらいならクラリスも許してくれるだろうさ。

とかいう心の中で言い訳をしておく。



「特殊タイプにもちゃんと対処できました!色んな魔物の対処法がわかっていれば怖くないですね!」



「その通りだ、まあ徐々に覚えてくれ。複数いるときは逃げる。単体の時であればクラリスならもうなんとでもなるだろう」



その後も十数匹をクラリスは仕留めた。

恐ろしい子だ・・・普通なら土蜥蜴は3人以上の2級冒険者が集まって、じわじわと倒す魔物だ。3級冒険者なら1人でも割と簡単に倒せるというが・・・クラリスはものの数分で倒している。それも、次から次へと、だ。


流石に人間離れしているよなぁ。一体どういうことなんだろうか。すでに3級冒険者相当である。


ま、まあ、それは今考えなくて良いだろう。


その後もさすがにもう特殊タイプは出てこなかった。

やはり特殊タイプに出会う確率は低いな。



クラリスは疲れた様子はなかっだが、今日の狩りはやめにして冒険者ギルドで換金することにした。



残念なことに、今日の換金嬢はあんまり良い顔をしないタイプの人であった。



魔核を聖防具で確認し出したあたりで、まゆをひそめ、魔核を確認するたびにシワが険しくなっていく。


おばちゃん、そんなにシワ寄せてると跡になっちゃうよ?

とはとても言えないけどさ。



「こんなにたくさん土蜥蜴の魔核、何日分蓄えてたんですか?基本的には取ったらその日のうちに換金をお願いします」


むすっとした対応だった。



うわぁ、しかも勘違いである。


完全に数日に分けて討伐したモノだと思っているようだが、もちろん本日討伐した物だ。


たしかに、浅い階層にしては土蜥蜴は硬いので、みんな避ける傾向があるから、普通数匹でも狩れれば良い方だと聞く。



まあ力があることをアピールするのは別に意味はないからなぁ。

無駄に絡まれてもやだし。



「すみません。ちょっと貯めてしまいまして。次からは気をつけます」



少なめに狩るか、小出しにしますよっと。


クラリスは少しイラッとしていたが、まあ、換金嬢に突っかかることもなかった。


成長してるねぇ。我慢できる子になってきたよ。



クラリスを先に家に帰そうと思ったが、「アラハさんは良い目では見られてないですし、何かあったらと心配なので着いていきます!」と言ってきたため、今日はクラリスも酒場に連れて行くことにした。

地味に僕も絡まれたらヤダなと思っていたのでありがたく付いて来てもらうことにした。



酒場に向かって歩いていると、遠くから叫び声が聞こえてきた。


何を言ってるのかまでは分からなかったが、その直後だった。


街全体に聞こえるほど、カンッ!カンッ!カンッ!と鐘が鳴り響く。



なんだなんだ??


あ、もしかして・・・

僕には思い当たるモノが一つあった。


実際に聞いたことはなかったが、たぶんこれはどこの町にもある警鐘・・・



「な、なんですか?!」



「・・・これは火事か、魔物の襲来とかを知らせる鐘だな」



あまり民家のない北門の方から聞こえてきたし、火事というか魔物の方が濃厚か。


でも、さっき冒険者ギルドで何も言われなかったし、事前に何も察知できなかったとするなら魔物の襲来とは考えにくいが・・・

まあ3級討伐対象の接近くらいなら見逃すかもしれないな。

その判断がブレブレなのが怖い所だけど。

先日のアケミちゃんの依頼を思い出した。

あれは超級相当だ。話にならんかった。



でもまあ、正直、アケミちゃんやクラナゼットを最近見たばっかりだとわりと強い魔物が来ててもあんまり驚かない。


アケミちゃんたちは余裕で町の中まで入り込んでるし。



考えられるのは、3級討伐対象とかが近くで住民を襲ったとかそういうところか?


そんなことを考えている間に北門の警鐘とは別の鐘の音が混じり出した。妙に間延びした重低音


また、これも珍し過ぎる音が・・・

冒険者ギルドの鐘か?



冒険者ギルドにも鐘があり、有事の際には妙に間延びした鐘が響くことになっている。

10年以上この町にいるけど、実際に聞いたことはなかった。



「冒険者ギルドの冒険者招集の鐘だ。これは無視できないから。クラリス、冒険者ギルドに戻ろう。たぶん町に魔物が襲ってきてる」


「わ、わかりました!」


冒険者ギルドに戻ると、受付の前で強面の男性が腕を組んで仁王立ちしていた。


短く切られた茶髪、両耳に髑髏のピアス。僕と比べると若い。おそらく20代中盤辺り、当たり前だが見た目も僕よりは全然若い。



僕はこの人物を知っている。



この町の冒険者ギルドマスター。オーウェン・シルベスターだ。たしかにどこかの地方の貴族の三男だとか。


冒険者等級は3級らしいが、昇格条件は残るところ4級討伐対象を倒すだけという状態で止まっているらしい。そのため、4級に限りなく近いとも言われている強者だ。


4級討伐対象はそんなに出現しないからね。



シルベスターは目を瞑って冒険者達が集まってくるのを待っているであろう。



「おい、アラハ。ちょっとこっちに来い」


突然背後から小声で声をかけられた。聞き覚えのある声。

振り向けば、やっぱりジュライアだった。



「なんだ、ジュライア、そういやお前も冒険者だったもんな」


「あぁ。登録はしてある。だからここに来ざるを得なかった」



冒険者登録してある者は、その町で冒険者ギルドの全体招集を受けた際に参加しなければならない義務がある。


どういうわけか、近くにいるだけで冒険者ギルドカードに『ギルド依頼:強制参加』の履歴が記載される。


なお、依頼が終わった直後に冒険者ギルドの受付に申し出ないとこの記載が消えず、向こう1年間はどの支部からであっても依頼を受けることができないというペナルティを食らってしまう。


抜け道として再度冒険者登録をするというのもあるため、あまりペナルティとも言えないが、1級から登録になる。


プライドの高い冒険者という職業人はそれも嫌う傾向がある。

いくら1年後には元の登録内容で復帰できたとしても、それを許容する者も少ないと聞く。



まあ、僕はプライドなんて何もないから、最初から登録し直せばいいと思っていた口だったのだが、問題としては、今3級冒険者だからここで停止となると、4級冒険者の道がだいぶ遠ざかるからできればこのまま継続したい。


しかしだ。僕と同じように考えるタイプで、しかも別になんも制約がないジュライアがなぜまともに今回の依頼を受けるのかは不明だ。



「ジュライアは正直依頼なんて参加しなくてよかったんじゃ?」



「参加するだろ。強制参加て言われたら」


何を言ってるんだ?という目線を送ってくる覆面男。


こいつ、割と律儀だな・・・

それはまあいいや。



「・・・あれ?アケミちゃんは?」


「アケミは俺の家でのんびり紅茶でも飲んでるさ」


外はてんやわんやだと思うんだけど、さすが魔人。悠長だ。

優雅な一日をお過ごししている様子が簡単に想像できる。



「それにしても、ジュライアの家で紅茶か、紅茶ってイメージできないな、アケミちゃんはともかく」


「ほっとけ!・・・で、おめぇなんか変わったことは?」



おそらく昨日魔石を飲み込んでからステータスやなんかが変わった兆候はあったか聞きたいのだろう。

強制イベントを目前にして、僕の体調を心配とは、よくできた友人だ。

いや、単純に僕が死ぬとまずいということから聞いてきたのかもしれないけどね。


はっきりと伝えておくべきだろうな。


「なんも!」


顔に力を込めて言ってやった。



「・・・そうか、ほんとに魔王の末裔で、勇者なのかおめぇ?」


「それは僕自身も疑ってるところだよ。まったく。ジュライア、聖法使えるってことは、信心深いんだろ?そういうのは神に直接聞いてくれるか?」


「知るかよ、別に神に祈ったことはねぇ」



じゃあなんで聖法使えるんだって話なんだが、聞いた話だと、聖素を持っていても、聖法が使えるのは神からの加護がないといけないとかもきいたことがある。


どっかの宗教家の話だから、あまり真に受けない方がいいのかもしれないけどね。


・・・もし、そうだとしても、ジュライアは何か隠したいことがあるんだろう。あまり詮索はしない方が良いな。


「あ。忘れてた、クラリス、覚えてるか?まあ昨日も会ってたけど、ジュライアおじさんだ」


振り向くとクラリスが元気よく「こんにちは!昨日は挨拶できなくてすみません!」とジュライアに向かって苦笑いしながら挨拶していた。


「・・・あぁこんにちは。君は元気そうで何より」


何か言いたげなジュライアだったが、ギルドマスターが声を上げたため、中断せざるを得なくなった。



「注目!集まってくれて感謝する。ギルドマスターのオーウェン・シルベスターだ。君たちに集まってもらったのは他でもない。北門の警鐘と冒険者ギルドの警鐘は聞いたであろう!あれは魔物の大群がこの【メルの町】に押し寄せているという情報が手に入ったため、それを知らせるものだ。君たちにはその魔物群からこの町を守ってもらう!」



シルベスターが大声で冒険者達に宣言する。

それに対して、1人の冒険者が不満そうに口を開く。


「この町に派遣されてる兵士は冒険者の数より遥かに少ないだろ、つまり俺らが最前線で戦うってことか?」


そういえばそうか。

普通こういうのは兵士が最前線だろう。

しかし、ここは小さな町だ。

冒険者とその営みを支えるだけのささやかな人数の商人たちがいるに過ぎない。


比較的立地が近いとは言え、王都とは比べ物にならない。


そもそも、なぜこの町が他の迷宮を持つ町よりも小さいかと言えば、【メルストークスの魔窟】がドロップ品も少なく、もうほとんど未開拓エリアがないこと。

未開拓はあるにはあるが、そう簡単に攻略もできず、その上それまでの階層攻略時のドロップ品から考えてもその先も良いドロップ品が見込めないためだ。


名前すら、メルストークスの町から【メルの町】とかつけられているくらいだ。他の町と違い特産もない。




そんなことを考えているうちに、シルベスターがさらに発言していた。



「その通りだ。未だかつて、この小さな町に大きな魔物災害は起きたことがなかったせいだが、兵士が少ない。だから冒険者の君たちには戦ってもらうしかないんだ」


どよめきが起こる。


僕も内心、おかしいだろそれ、と思わざるを得ない。

こんな無責任なことがあるだろうか?

冒険者は自由な存在のはずだ。


この強制イベント自体、普通は発生しないほどだ。


今までに他の街で一度だけ『強制参加』が発生したと聞いたことがあるが、割と他愛もないような内容だが、放置していると厄介な、街の外に大量に逃げ出してしまった『羊の確保』とかそういうものだったと聞いたことがある。



下手に羊を放置していると魔物が増えたり寄って てきたりするのだ。しかし、さほど緊急性はない。放置はできないため、冒険者に手伝ってもらって早急に解決した、というようなものだった。


あれも試験的なものだったと思うが、それ以降強制参加は発生してなかったと、少なくとも僕は思っている。



「何の魔物が来てるのかも分からないんだが、そんな状況で俺達を最前線に出すのか?それに魔物災害の際に戦うメインは国の兵士だろ?それがないのなら報酬は?報酬はどのくらいもらえるんだ?」



てか、駐屯してるのが【ヤールドの酒場】で酔っ払って絡んできた団長殿とかだ。

・・・あまり全力になる気がしない。酔っ払っていたとはいえ、僕に倒されたのだ。

事実上ほとんど冒険者で全戦力状態だろう。


ちなみに、強制参加の依頼は、冒険者等級に応じて支払いとなるが、普段個人で受ける依頼報酬の平均よりかはそこそこ良い収入となると聞いたことがある。


国がお金を一部負担してくれるかららしいが・・・現王国にそれを拠出するだけの資金があるのかは不明だ。


この小さな町が出した強制参加イベントでも国から補助金が出るのかと言われると微妙だよな・・・


もしかすると、まともに報酬も出ないということになりそうなところだ。


それが事実なのかもしれない。それを隠すかのように、シルベスターが発破をかける。


「これ強制参加だ!辞退したらどうなるか、君たちならわかるだろう?敵は数時間程のうちにこちらにやってくるが敵を前にして尻尾を巻いて逃げるのが君たち冒険者か?!敵は鎧蟷螂。数はざっと200という報告が来ている。みんな、やれるよな?」


ニヤッと不気味に笑うシルベスター。


今なんて言ったこいつ。

鎧蟷螂200?いやいや、嘘だろ?

なんか間違いだろ。



「鎧蟷螂が200?!そんなの勝てるわけがねぇ!!」


「おいおい!!嘘だろ?!」


「儂には1匹だって倒せないぞ!!!」


「パーティ組んでも2級冒険者じゃ何人いても倒せる気がしねぇよ!」


「3級冒険者でも下手したら死ぬぞる!おぉ、神よ!!」


冒険者でもビビるときはビビる。

鎧蟷螂なんて、そうそう出会すもんでも無いが、2級冒険者が出会したらチームであっても、死ぬことを考えろとまて言われるほどだ。


そんな自分より遥かに強い相手に白旗をあげる冒険者がいる中、全く違う観点で発言するものが出てきた。


「何言ってんだてめえら!腰抜けか?!冒険者なら死地てま耐え抜いてこそ冒険者だろ!」


「むしろチャンスですねぇ。大群なら3級討伐対象どころか4級かもしれません。これは、昇格のチャンスと見るべきでしょう」


「あぁ。冒険者になりきれねぇ奴は恥さらしだな」


「な、なるほど!俺もやるぜ!4級へのチャレンジだ!」


「俺もやる!」


「わ、儂もだ!」


「私だって!」



冒険者達がざわつき、各々焦りを見せていたのが嘘のように皆いきり立ち始めた。


なんだこいつら、脳味噌筋肉でできてんのか?


僕も正直変な汗が出てきている。



鎧蟷螂。


名前の通り、鎧のような防御力の高い体表面は、2級冒険者の並み剣技・・・斬撃や刺突はほとんど効果がないとされる。打撃も同様だ。



この魔物は3級討伐対象。それは単体の時の評価で、あり、大群、それも200もいるとなると・・・それはさらに高く評価されるだろう。



およそ200匹となると、たしかに4級討伐対象・・・いや万が一連携もしてきた場合では4級を超えてくる可能性もある。



「あ、アラハさん!まずくないですか?!」



クラリスが僕の袖を握ってくる。


これでもう少し小さくて巨乳だったら抱きしめてるかもしれない。

あ。待てよ?それってアケミちゃんが同じことしてきたら抱きしめてるんじゃないか?

いやそもそもアケミちゃんに関してはそのうちなんか間違えて抱きしめる自信がある。


その時が僕の命日かもしれないけど。


まあそれは置いといて、・・・しかしだ。ほとんど僕と身長変わらないひょろ長女子だとそんな萌えないんだよなぁ。

美人さんだからむらっとは来なくもないけど。


まあ、クラリス、顔はいいけどさ?萌えないんだよなぁ。


そんな失礼なことが脳裏をよぎって行ったが、それはさて置きだ。


正直大丈夫とは言えない状況だが、僕はクラリスの先生だ。



「なぁに、僕には考えがある、任せろ!」


無理やり笑顔を作ってクラリスの頭を撫でた。


さて、どうしたものか・・・


全く考えなどないのであった。


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