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未来から来たって言ったら笑う?


ジュライアの後を追ってクラリスと共に冒険者ギルドから出ると、ジュライアが僕を待っていた。


「作戦は概ねうまくいったな」


ニヤッと笑うのがわかった。

これは・・・


「クラリス、とりあえずパン屋で明日の食事分のクズパン買ってきてくれ、僕はジュライアに話すことがあるから」


「・・・わかりました。あ、お金は少しありますので私が出しときます」


クラリスはちらちらジュライアを見てから僕の指示に従って去って行った。


なんか随分素直だったな、なんか不思議な感じだが、まあいいや。



「ジュライア、お前・・・あのバケモノと知り合いなのか?」


「まあたしかにバケモノだな。・・・ちょっとしたことで知り合ったんだ。意見が一致してるから特に害はないぜ」



意見の一致?

一体何を考えたら魔人と一緒の意見なんかになるんだ?



たしか、魔人は多くの生き物を恨んでいて、人間であることを捨て、なんのきっかけか魔素を得て、魔法の力を得た存在のはず。

そう簡単になるものでも、なれるものでもない。



そんな存在の考えることと同じとはジュライアも相当ヤバイと言うことになるのではないか?

たしかに聖法師である時点で十分やばいが。それは別方向でヤバいのだ。


それを追求することにも繋がるが、僕は聞いておかなければならないだろう。



「ジュライア。僕を4級冒険者にさせたいのは何故だ?」



一瞬だがジュライアが間を開けて考えるそぶりを見せた。


たしかに僕は自ら4級冒険者になりたいと思った。


それは若い時からの夢のようなものであったし、さらに大金を安全に蓄えるために必要に迫られたからというのもある。


直接報酬を小切手からギルドカードに移せれば、誰にもバレずにいつでも違和感のない額で金銭を受け取れるからな。


だが、このタイミングで一気にいろんなことが起こりすぎている。詰め込み過ぎだ。

何か、別に裏があるようにも感じられるのだ。


「それはだな」


少し言いにくそうにす?のが目に見える。

何を隠しているんだ?



「そもそも本当に大金は手に入っているのか?まずはそこからだ」


「それは本当だ。4級になったら折半の額を渡す」



本当かはさておき、少なくとも信じてやろう。


それに、正直お金が大量に手に入るならそれに越したことはないが、別に絶対欲しいわけでもない。質素に生きないと結局良からぬ輩に(たか)られるしな。


老後安泰のためには明らかにその身に余る額は不要なのだ。



一部だけもらえれば正直それだけでも良いのだから捨てるという選択肢もなくはない。だが、僕の貧乏性が、お金を捨てるなどもってのほかだと訴えている。


だが他にも方法はある。4級冒険者になる必要もない。なれないなら一部だけもらって、後は寄付でもなんでもすれば良いのだ。


だが、ジュライアはそれを僕に考えさせる時間も与えず、普通に考えたら32歳にもなって2級冒険者でくすぶっているおっさんには不可能と言える4級への昇級を推し進めた。


どう考えても現実的ではないのだ。



「なぜ4級冒険者にさせたいんだ?ジュライア、正直言ってお前にはなんのメリットがあるんだ?それに魔人とも意見が合ったと言ったな。それは僕が4級になることに関係があるんだろ?言ってみろよ。怒らないから」



怒らないから、とか言ってすでに半ギレ状態で、よく母に言われた記憶がある。


ふっ。奇しくも似てしまうものだな。


だが、僕はキレない。何を聞いてもキレる予定はないぞ。



「それは・・・」


ジュライアが言い淀んでいると、不意に背後から気配を感じる。とっさに振り向こうとすると、背後から膝に衝撃を貰い、僕は膝を地面につけてしまった。


「な、ひ、膝カックン?!」


そう。僕は突然背後から膝カックンを食らったのだ。それも結構な威力のせいか結構痛い。

この歳になって膝カックンはしんどい!メンタル的に!



ていうか誰だよ!

割とこっちはシリアスにジュライア問い詰めてるとこだったのにってぇひぃぃ!?!



・・・振り向いたところに居たのは綺麗な長い銀髪揺らしながらついでに背格好にしては大きなお胸も揺らすロリっ子魔人だった。



「やぁ、こんにちは、さっきぶりやね」


にこりと微笑むロリ銀髪巨乳に対して、僕が声にならない絶叫を上げていると、気さくにロリフェイスからの笑顔で挨拶をしてきた。


「ど、どどどどうも?!てかなんで町中にぃ?!」



感覚としては農村歩いてたら魔王がポップアップしてしまったくらいの感じである。



「実はな?うちも最近この町に住み始めたんや。あとこの子もやで」


そういうと彼女の背後から金色毛に長い耳が特徴的な子猫が現れて足元でお座りをして顔を前足で洗うような動作をしている。

どことなく見覚えがある気がする。



「さっき会うたやろ?魔獣クラナゼットや。こういう姿にも変身できるんやで」



「・・・え?魔獣?この子猫が?町中に魔人と一緒に?あれ耳生えた?魔素災害は??」


疑問だらけである。


子猫の周囲を見ていても【ノウクライエの森】で引き起こしていた魔素災害は起きる様子はない。

おそらく魔人同様に漏れ出さないようにする術を持っているのだろう。


その時点でもはや歴史で知られる魔獣ですらないが・・・


少し混乱してはいるが、どうやら僕は一度本気でビビってしまった経験があると、それを上回らない限りは割とどうとでもなるようだ。


それにだ。

魔獣って、欠損部位も回復できるのか?


通常、大きく欠損した場合は人間は聖法を使っても回復できない。



魔法ではあればそれが可能なのか?


あーなんか、わけわかんなすぎて冷静になって来たぞ。



「耳は魔法で回復させました。聖法にはないので見たことはないでしょう?」



「見たことないね。てか聞いたこともない」



伝承でも、魔人や魔獣で欠損部位が回復したという記録はなかったと思う。

英雄話好きの僕がその情報を見逃すとは思えない。



だとするならば、答えはきっと。


「まあ、私が創り上げた超位級回復魔法ですから、使えるは私だけですね。流石に死んでたら回復できませんが」


「やっぱりそうか・・・それにしてもあまりに唐突に最強としか思えない奴が登場したんだが、僕としてはちょっと勘弁して欲しいというか、説明して欲しいというか」



魔法を新たに構築できる存在がいたというのはどこかの昔話であったな。


だが、それだって、10段階あるうちの下から2、3段目、第2級か第3級の魔法だったと思う。


それなのに目の前の幼い魔人は超位級、つまり第10位級を超える魔法を新規構築したということだ。



はっきり言って歴代魔法の使い手の中でも頭1個や2個では済まないほど飛び抜けた存在のはずだ。


もしくは回復魔法に特化したスキルを持つような魔人なのかもしれないが、それを考慮してもできるとは思えない。


だけどまあ、僕の持つ知識では、このロリ銀髪巨乳が魔法の使い手として超越者であることには変わりない。



「まあここで話すのもあまり良くねぇだろ。周りの目もあるしな」



周囲を見渡すと街の人たちが、子どもに膝カックンされて倒れたままの俺がおかしく見えるのかくすくすと笑って通り過ぎていた。



「場所を変えよう!酒場でいいかな?」



僕は何事もなかったかのように立ち上がると了承も得る前に酒場に向けて歩き出した。



【ヤールドの酒場】に着くと、相変わらず誰も居ないのに開店準備が整った状態だった。



「誰もいないのになんでこんな時間に空いてるんだろうなぁいつも思うけどさ」


「それが運営方針なんだから別にいいんじゃねぇか」



あまり深い事は考えないたちのジュライアである。


僕はいつものカウンターの席に座ると右隣にはロリ銀髪巨乳が座る。その足元に子猫が寝そべった。さらにロリ銀髪巨乳の隣にジュライアという席順だ。ジュライアが遠い・・・



「せっかくやし、全部話そうやんか、その前にや、なんか注文しよか?オススメないんか?うちとクラナゼットの分も頼んでや」


ロリ銀髪巨乳が可愛らしく言葉を紡ぐ。

あー、可愛い。これ、歳がもうちょっと行ってたらあと魔人じゃなかったら猛烈にアタックしてるかもしれん。


そんなことを考えながら、僕は店主に注文する。


「マスター、適当に余ってるやつでいいからジュース3つと山羊の乳かなんか平たい器に入れてくれ」


「そかそか、適当に余ってるやつな、って、オススメやないんかーい!」


バシッと軽めにツッコミを入れてくる。ロリ銀髪巨乳。

可愛い声と仕草、そして揺れる乳。


あ、なんかこれ良い、良いねこれ!

いまちょっとムラっときた。



・・・おっと、そんなこと思ってる場合ではない。魔人の機嫌を損ねたら大変だぞ僕!!


「ご、ごめん、僕あんまりメニュー知らないんだよね」


平謝りして、あははと苦笑いしておく。


いつもの調子で頼んでしまった、少しは接客っぽくしないと・・・

コミュ障には辛いなぁ・・・はぁ。


ふとコミュ障を思い出して言葉がうまく出てこなくなってしまった。


適当に注文を決めてマスターに伝えるとよぼよぼと歩きながら注文の品を割とすぐに持ってきてくれた。いつもより30分くらい早い!!?

そんな最速で出してくれたことには有難いのだが、しかしちょっと違うよ?!


山羊の乳を平たい器で入れてきてくれとは言ったが、まさかジュースまですべて平たい器で持ってくると思わなかった!


複数の注文は一気に口頭じゃ無理だったか・・・。


・・・いや、まずい!まずいよこれ!

次々と無礼を働く展開じゃないか!

これはまずいのでは?!


しかし、けらけら笑うロリ銀髪巨乳。


「面白いやんマスター!うちこういうボケ好きやで!ええやん!」


よかった、むしろ機嫌が良さそうだ。



しかし、たぶんリアルボケだよこれ、と思ったのばジュライアも同じだったようで互いに苦笑いだったが、ロリ銀髪巨乳は本当に気にしていなかった。


すぐに足元の魔獣クラナゼット(子猫バージョン)に山羊の乳をやると上体を起こしてこっちを振り向いた。



「自己紹介がまだやったな。うちの名前はアケミ。アケミ・シノノメや。アケミちゃんて呼んでな?ちなみに、年齢は・・・9歳やね。でもなかなか成長しとるやろ?何がとは言わんけど」


あまり聞かない名前だなぁ。まあ銀髪自体この町では珍しいが、って、おい!9歳?!そりゃロリータですよ紛うことなき!!


アケミちゃんが自身の胸に手をやって悪戯っぽい顔で少し揺らしていたのを見てしまった。


はあぁあん?!ええやん!?

たしかに成長が良いよ!良すぎて僕、鼻の下伸びちゃいそうだよ?!

しかもそれでこの美貌とは!数年後がマジでドドストライクに育ちそうだな!!



表情には出さずにそんな事を考えつつも、僕は当たり障りない自己紹介を行った。



「僕はアラハ。ただのアラハ。32歳よろしく」


「姓は名乗らないんやね?」


にこっと微笑んで僕を見据えるアケミちゃん。

何もかも見抜かれているかのような視線だ。


た、たしかに僕には姓がある。


・・・おかしいな、僕はここ冒険者になって10年以上経つが一度も姓を名乗ったことはない。



それに姓を持たない者がほとんどのこの世界で、『姓を名乗らないのか?』と聞くことはまずない。


貴族社会ならまだわからなくもないが、少なくとも冒険者に聞くセリフではない。



「アケミちゃん、もしかして、君は僕の本当のステータスが見れるのかい?」



魔法の中には対象のステータスを文字として起こすことができるものが存在すると昔話で聞いたことがある。


その魔法使える者がそもそもそんなに多くはないと聞いたが、まさかこの子その魔法さえ使えるのか?



だとしたらこんな自己紹介は茶番でしかないが、まぁ形式的に必要か?

よくわからないが・・・



「その通りやね。名乗ってくれたところ悪いんやけどな?ちょっと待っててな?ちょうど良いし、今からアラハちゃんのステータス見せたるから。これを見ればなんでうちらがアラハちゃんを欲しがるのかわかるから一石二鳥なんやで」


「アラハちゃんて・・・」


年下のドストライクっ子にそんな愛称で呼ばれると、おじさんちょっとムラッときちゃうなぁ・・・はぁはぁ・・・きもいなぁ僕。


まぁ、そもそも、僕のことを呼ぶ者が少ないせいかもしれないけど・・・

そんなことを考えていると、アケミちゃんが懐から用意した長方形の布をカウンターの上に乗せると左手を僕に、右手を布にかざして、【鑑定】と呟いた。



その瞬間僕の体の周りを一瞬風が吹いたような感覚になったがすぐに落ち着く。その直後、アケミちゃんの右手と布が紫色に光り、すぐに消えた。


布には黒い文字で何行にもわたって情報が書かれていた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++

姓名 アラハ・ゾビレイクス

種族 人族

状態 【呪:弱体化(レベル2)】【呪:成長封印(レベル10)】

年齢 32

レベル 4

経験値 82【蓄積しない】

体力 250 【ー50】

攻撃力 35 【ー7】

防御力 45 【ー9】

持久力 20 【ー4】

敏捷性 60 【ー12】

精神力 101 【ー20】

洞察力 220 【ー44】

魔素量 1

魔法適正 0

魔法技術力 0

称号 【ゾビレイクス家の末裔】、【勇者】、【竜の加護】、【3級冒険者】

スキル 【 】【剣術3級】、【真実遭遇】、【魔法・聖法耐性】

++++++++++++++++++++++++++++++++++


ほ、ほとんど完全なステータス?!

こんなの、固有スキルでも持ってるやついないぞ?!


かなり簡単にやってのけたアケミちゃんだったが、そのおかけでやっぱりヤベェ魔人ってことを再確認した。


まあ、それは置いといてだ、僕のステータス!!!

ひどいな!!


「なにこれレベル4て!いいのこれ?弱いんじゃないかこれ?恥ずかしいなおい!」



てか【勇者】や【真実遭遇】があるから、『タージャボルグ』は本物だったらしいな。その他色々気になる点が多いが・・・呪いってやっぱおま、『タージャボルグ』・・・


たけどなぁ、勇者でこのステータスって、どうよ?

そもそも32歳にもなってこれってどうなのさ?

本当、マジこれ・・・


他の人のは知らないけどさ。下手したらその辺の町民(子供)より弱いんじゃないか?



「まあこれを見てもらえばわかると思うんやけどな?アラハちゃんは【勇者】なんやで。あの忌々しい『タージャボルグ』見つけたやろ?それでやな」


なるほど、『タージャボルグ』のこともバレていたか・・・てか忌々しいて。

あ。でも、詰まる所、これがアケミちゃんたちが僕を欲しがる理由ってところか?



「アラハちゃんは魔王倒すためにどこぞの神に選ばれた存在やね。あれは神出鬼没やからな。誰が手に入れてもおかしくないんよね」



よくわかってらっしゃる。まさしく意味わからんような場所でタージャボルグは見つかった。


まあそんなことは置いといて、それがなんで僕を4級冒険者にしたい理由になるのかはわからない。

そこについては聞かないといけないだろう。



「で、なんで2人が僕を4級冒険者にしたい理由になるんだい?」



アケミちゃんが、ふっと笑うと勿体つけるように、こう言い放った。



「うちな、あ。俺、未来から来たって言うたら、笑うか?」



ドヤってる。かわいい。


なぜ、言いなおして突然一人称が私から俺に変わったのかとか、なぜかちょっとカッコつけた感じなのかも謎なところもあるが、それよりも未来から来たと言うのは一体どういうことだろうか?



一見すると目の前の自称9歳の女児が妄想話をしているのかといったところであるが目の前でステータス情報を見せられてしまっては、これは本当なのだろうと思うしかない。

すぐに信じることができないが・・・



「えっと、何のためにわざわざ未来から?」



僕は正直そんなに信じ切れてないんだが、話は少なくともちゃんと聞かないと気を悪くさせる可能性があるし、目的を聞くことにした。



ジュライアといえば、先ほどから平たい器に入れられたジュースをちびちびと飲んでいる。


覆面の大男が平たい容器でちびちびて・・・シュールだな、というだけで、アケミちゃんと僕の話に入ってきたり、ステータス情報を見ようとしたりはしてこなかった。


めっちゃマイペースだなぁ。



「簡単に言うてしまえば、この世界を救いにやってきたって感じやな!」


えっへん!という感じの擬音がピッタリという感じで胸を張るアケミちゃん。

おぱーーーい!!!


「・・・ほお、これは目の保養、じゃなくて!ざっくりしてるんだね。もしかして僕の代わりに魔王と戦ってくれるのかな?」


危ない、女児に対してなんて感想を言ってるんだ僕は!

ジュライアも僕の言動に、ん?という感じの目線を送っている。


違うからね、僕は紳士だから!ただの変態じゃないからな!目線で訴えるが、怪訝そうな目を向けられたあと、すっと目を逸らされた。

わかってくれたのかはわからない・・・



「私にはその力はないんよね。強力な攻撃魔法だって何発も使えるような状態ではないんよ。あとな?下手に魔法乱発するとこの体が耐えきれなくて壊れちゃうんよ。やばない?」



やばいね。女児崩壊とか見たくないわ。

どうやらずいぶんとシビアなようだ。


「ちなみに、未来の世界はどうなってるんだ?アケミちゃんが来たって事は別に世界が滅んだって事は無いんだろう?」



「いいや?魔族や魔物、魔人以外は基本的に滅んじゃってなぁ」



滅んじゃったんだ!!

ずいぶんとシビアじゃねえか!!!



「未来の僕は何をやっていたんだ!」



謎キレをしてみた。だって、もう、完全にこれ僕が悪いってことじゃないだろうか。

勇者である僕が活躍しない事にはどうにもならないのだから・・・


今のステータスを見る限り魔王と戦えるような状態ではないのは明白だ。



いや、そもそも僕を勇者にしてる時点で神が悪いとも取れるか?



「未来でも調べたんやけどな、未来のアラハちゃんは魔王と戦う以前に、魔物かなんかに寝込みを襲われて反撃もせず殺されてしまったようやったね」


寝込みを襲われた僕ぅぅう!!未来の僕ぅぅう!!何やってんだぁぁあぁ!!本当に勇者かよ?!雑魚にもほどがあるよ!!


ま、まあ?ステータスを見た限り、明らかに呪いまみれだからしかたなかったのかもしれない・・・いや、『タージャボルグ』の標準装備の機能だとしたら僕が弱すぎるのがいけないのか!?



「とりあえず原因はわかった、寝込みを襲われないようにすればいいんだね?ってことは、今まで転売していた高ステータス武器は売らないほうがよさそうか・・・」


4級冒険者になれなかったとしても、高ステータス武器が次々と手に入るならその都度売って、一部だけお金をもらって後は寄付でもすれば良いと思っていたけど、死ぬとわかったら金のために転売はしない方がいいだろうな。

命がなければ金もいらないし・・・



「いや、アケミと話し合った結果、高ステータス武器は今後も売ってもらって大丈夫だ。任せろ」



ここにきてジュライアが口を開いたが、今の流れからすると何言ってんだこいつ状態である。



「大丈夫やで。正直このステータスの状態じゃあーいくら高ステータス武器を駆使しても魔王の側近やその部下たちにすら勝てないんやで」



「えっ、・・・それはかなりまずくないか?」



話を聞いていると僕は底なしに雑魚なようだ。

なぜ僕を勇者にしたのか、神とやらは何を考えているのだろうか。気の迷いにもほどがある。


自称未来人と宣うアケミちゃんの話を聞いてる限り、このままでは僕を勇者にしたせいで世界が魔の者たちの世界になってしまうらしいではないか。



「せやからな、アラハちゃんには大変身を遂げて貰うんやで、まずは呪いを外す、これでかなり違うはずや」



にこっと可愛く笑うアケミちゃんはおもむろに立ち上がると大きめな胸元から何やら小さな青い石の入った小瓶を取り出した。


む、胸元から取り出すとか、初めて見たよ。


本当に9歳なの?嘘でしょ?サバ読んでるって。

なんでそんなにお胸が大きいの?おじさんびっくりしちゃってるよ。

でもさすがにそれ以上お胸が成長しちゃうとバランス悪くなっちゃうからそのくらいで止まっててほしいかな、なんて。


そんなことを考えているとアケミちゃんはさらに言葉を続ける。



「アラハちゃんがどういう人物か、どういう行動に出るんか、【ノウクライエの森】の中で確認させてもろたし、少しでも私の考えた人物像と違うたら、正直どうしようかと思ったんやけど。それも杞憂というやつやったね」


「・・・そうかい?なんかおじさん照れちゃうな」



正直なんて答えて良いかわからないんですが。


近頃の若いもんは分からんなぁ、それに何気に上から目線で喋ってきてる気もするけど、おじさんそういうのはそんなに気にしないタチだからなぁ。

てか、むしろ良い。



ん?むしろ・・・良い?



まてよ?!



こ、これ、ある意味凄い状況じゃないか?!



ロリ銀髪巨乳顔面美人(成長中)という齢9の女の子、しかも設定では未来から来たという!そんな子に上から目線で32歳独身の社会的にもステータス的にも雑魚なおっさんがなじられるってのは、もはやこれ、プレイなのでは?!


普通に考えたら1時間あたりに高額の利用料金が発生しててもおかしくないんじゃないか!!?



そう考えたら1周回ってロリータも気にならないね!!!

いいねこれ!興奮してきちゃったよおじさん!


ついに入りましたドドストライク!!



「ちょっと待って、アケミちゃん!大人の事情でジュライアさんと話すから!ねぇジュライアさん!これは高級かつオトナなお店のプレイみたいじゃないかい?興奮してくるんだけど。僕ちょっと目覚めそうだよ」


「何言ってんだクソ童貞が、黙ってアケミの話聞いてろカス」



あらやだ、もうジュライアさんったら口汚い。

クソとかカスとか童貞だなんて・・・否めないけど。

ちょっとしょぼんとしたが、冷静になれたよ、ありがとう。



「・・・いや、わかってますって・・・アケミちゃん、プレイを、おっと、話を続けてくれ」


冷静になれた?かは不明だが、とりあえず落ち着いた。



「大変身だっけ?僕の息子はそんなに大がつくほど変身できない気がするというか、今のままで十分だと思うけどけどなぁ、じゃなかった、あれ?なんの話だっけ?」


「アラハちゃんさっきからちょいちょい下ネタ入れてくるやん!」



アケミちゃんは、けらけらと楽しそうにして僕の話を聞いてくれていた。


魔人ていうから悪魔みたいなの想像してたけど、なんでいうか天使ですねこりゃ!


というか下ネタにちゃんと反応できる9歳児てやばない?


頬が緩むのを必死に抑えていると、ジュライアが睨んでる気がしたので僕は少し黙ることはする。


冷静冷静、ちゃんとしないとね、いつ逆鱗に触れるかわからないんだからな!


気を引き締めてこ!

気持ちを切り替えられるかはわからないが、念頭に置いておいた。



「とりあえず、さっきのステータスを見てもらうと分かる通りなんやけど、アラハちゃんの状態は呪いで大変なことになってるところなんや。この状態でよく冒険者なんて長年できたとびっくりするでほんまに!家を追い出されたのもこれのせいで間違いないやろ?」



家を追い出されたことまでわかってるとは、森でどこまで僕の昔の記憶が見られてしまったのやら。



「よくご存知で、まあ、呪いとか封印とかされてるとは思わなかったけどね」


「レベルが4てことは、だいたい5歳前後で呪われたんやないかな?」



たしかに、物心つく頃には、『何をやるにも成長が遅い!』言われていた気がする・・・

それもこの呪いのせいだったのか?『タージャボルグ』のせいかと思ってたわ。『タージャボルグ』すまん。



「言われてみたら、納得する節はある。これのせいで跡目争いから一気に転落、それどころか血すら受け継いでないという話になって追い出されたのかもしれない」


「色々あったんだな、おめぇも」


「ジュライアこそ、そんな覆面姿で街中歩かなきゃいけないような何かがあるんだろ?お互い様だって」


「あ?あー、まあ俺にも事情があるがな」


「わかってるさ、詮索はしない」



きっとジュライアは顔を出したらまずいような何かがあるのだろう。


それこそ、バレては殺されてしまうとか、捕まるとか、でも人相書きでジュライアの頭の骨格に合うような人物は見たことないがな。


もしくはあまりに不細工とかという可能性もあるな・・・


そう、若干哀れみの視線を向けるとジュライアは「ア?」という目で睨んできた。


おーこわ。



「今封印を解いたるからな?解き終わったら空欄のスキルが発現するからな!楽しみにしててな!」



にこにこと可愛らしく微笑むアケミちゃん。

だがこっちも心配になってくる。



「ちょっと待ってね?封印が解けた場合、僕にはさっき空欄だったところのスキルが出現するわけだけどね?あのスキルねぇ、たぶん一族全員が持ってるやつだけど、誰にも教えちゃダメなやつで」



「知ってるでぇ!名前も効果もなぁ!」



「え、なんで?」



誰でも完全なステータスなんて普通見ることはできないし、アケミちゃんみたいに簡単にできるはずもなく、大概は手順もかなり踏むし高額になる。


一族でも一生に2回、部分鑑定やれば良いほうだ。


だから、呪われてるから一族が持ってるはずのスキルが僕から消えてるなんて、わからなかったわけだが、そもそもこの見えなくなってる空欄スキルは人間離れしたスキルだった。



一族以外にバレたら『魔の者』と言われてもおかしくない代物だから、門外不出というか一族以外の者に知られてはいけない事になっていた。


僕も追放される時、口外しないことを固く誓わされた。

とはいえ、口約束だから、特に拘束力はないんだけど・・・


今思えば、殺されてもおかしくなかったのに、追放で済んだ。・・・もしかしたら、少しは配慮してもらえていたのかもしれない。


10年以上経ってから気がつかされた・・・



「人生、なんか、いろいろあったんだなぁ・・・」


気がつけば、天を仰いで感慨深くなってしまっていた。



「難儀やったなぁ。掛かってる呪い全部解いたるからな?終わったらこの青い石、飲んで欲しいんや」


「なるほど、ということはそれは魔石か」



そう、おそらく目の前の小瓶に入っている小さな青い石は魔石だろう。


ただ、赤や黒のは見たことがあるが、青は初めてみるな。



「一族以外には絶対秘密とされてたんだが、まあいいか。僕はもう一族から除外されてるようなもんだ・・・まあそんなのは置いといて、と。効果も知ってるなんて、アケミちゃん、一体どうやってわかるんだ?ステータス確認時に見えてるの?」


「いや?ステータス見ただけじゃ何かは推測することしかできないんよ。ただな、理由があるんや。まあそれはおいおいやね。ちなみに、アラハちゃんはどんな効果だと言われて伝えられてるん?」


見えるわけじゃないのに知ってる?なかなか不思議な話だ。

何か特殊なスキルか魔法?

いや、それ以外の何かが関与してるのか?


あとで詳しく聞いてみよう。

その前に僕が知ってるスキルについてバラしちゃおう。


もうね、魔人とその協力者を相手にして、スキルのことを秘密にしておくとかも意味を感じないし。



「・・・魔石はゾビレイクスの一族が服用するとその力を一時的に使うことができるんだ。普通の魔族や魔人、魔物以外が摂取すれば死に至ることもある大量に魔素を含んだ鉱物、そんな魔石を自らの力とすることができるんだが、僕はスキルがないなんて嘘だと思って、ごく小さい粒を飲んでみたんだけどね、死にかけた」



「スキルを封印されてたからな?その状態で魔石を服用すれば自殺と同じやんね!生きてられたなんて、アラハちゃんはタフやね!」


タフで済むのか?

ジュライアを見ても「アホだな」と笑っている。


こんな話、一族にしかできなかったことだ。


あ、でも、あれをやったときには一族も僕のことを同族とは思わなくなった瞬間でもあったから、実質死ぬまで誰にも話さないで終わるんだろうなと思ってたよ・・・


はぁ、なんか、生きてると色々あるんだなぁ。



「・・・まあ、なんというか、そんなわけで、魔石はトラウマというか」


「大丈夫やで!」


「大丈夫じゃないって、気持ち的に!」


「大丈夫やって!!飲みい!!」


終始笑顔のアケミちゃん。笑顔がなんか怖いんだよなぁ。



「それに、魔石を服用したところで強くなれるのは一時的だし、ほとんど魔石って世の中に出回ってないし、摂取して強くなると言っても結構たかが知れてるんだぜ?」


「まぁうちに任せてや!飲んでも辛くないで!なんかあったうちが吸い出したるから!」


「え、なにそのセリフ、なんか興奮しちゃう」


「だからてめぇ、それやめろって言ってんだろ!変態が!」



そんなやりとりをしているうちに、アケミちゃんはからからと笑いながらが僕に魔法を行使していた。


「アラハちゃんは変態やねぇ!まあ元気が一番や!とりあえず、さっさと済ませちゃおか!【解呪】!」


その言葉と同時に僕の中から突然何かが吹き出すような、いや、弾け飛ぶような・・・というようなことは一切なかった。


「えぇ?なんか起きた?なにも変わらないんだけど」



「・・・少なくとも弱体があったからなぁ?ステータスは上がるはずなんやけど【鑑定】」


アケミちゃんが取り出した別の布に新たに僕のステータスが刻まれた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++

姓名 アラハ・ゾビレイクス

種族 人族

状態 健康

年齢 32

レベル 4

経験値 82

体力 250

攻撃力 35

防御力 45

持久力 20

敏捷性 60

精神力 101

洞察力 220

魔素量 1

魔法適正 0

魔法技術力 0

称号 【ゾビレイクス家の末裔】、【勇者】、【竜の加護】、【3級冒険者】

スキル 【栄養超級】【剣術3級】、【真実遭遇】、【魔法・聖法耐性】

++++++++++++++++++++++++++++++++++



「ステータス的には変わってない?でもってさっき空欄だったところの名前、僕が知ってるのと若干違うな、特級?」


「【栄養超級】やねぇ凄いやんなぁ!」



うっとりと言った様子で僕の胸あたりを凝視するアケミちゃん。


ステータスはその辺で見えるのだろうか?



てか、凄いのか?所詮は栄養スキルだしな・・・

いくら級が上がっててもそんなに変わる気はしないという。



「たしかに、僕が知ってるのは【栄養一級】だな。たしか一族で聖法師にスキル鑑定してもらってた人たちはみんなそうだった」



僕は以前行った聖法によるスキル鑑定には反応しなかった。



称号鑑定もあの時されていたら、僕は【ゾビレイクスの末裔】が表示されて、きっと家を追い出されることはなかったんだろうな・・・


今になって感傷に浸ってしまう。


追い出されなかったら今頃僕はどうしてるんだろうか。




「基準になるかはわからんけどな?【栄養七級】スキルってのが昔・・・そうやな、数百年前、かつて人間でありながら魔王となったバイセルシャ・ゾビレイクスが持っていたスキルやで。あまり姓までは知られていないんやけどね」



・・・ん?ゾビレイクス?

不意に聞き覚えのある名前が出てきた。



「え?まさかまさかだけど、僕のご先祖様て魔王だったの?」


「その通りやで!姓はもちろんやけど、このスキルを持っていることが何よりの証拠やな!しかも、アラハちゃんが持っているのはそれを少なくとも三段階以上も上回る【栄養超級】。正直何が起きるのかワクワクするレベルや!」


目をキラキラさせて僕を見てくるアケミちゃん。

おいおい、あーもうほんと可愛いな。そのうち抱きしめる可能性あるよ僕。



それにしても・・・勇者に選ばれるたのも、もしかしたらこれが理由か?


「まあ、長ったらしい理由説明もある程度終わったわけだが、最初の話に戻ると、アケミが広範囲鑑定魔法を使ったから俺らは封印されてたお前の超大物スキルだろうって知ってたのと、途中からは勇者だというのもわかっていたから目をかけてたってわけだ。俺らはアラハの封印を解く、アラハは俺らを手伝う。下手に言葉で信用してるとか信頼してるとかより利害関係がはっきりしてた方が全然良いだろ?」


鑑定の魔法て広範囲に気が付かれずにできるんだ!すげえ!!


てか、ジュライアさんったら打算的。

ジュライアだったら信用とか信頼とかでも全然よかったんだけど。


てか、手伝うとは一言もまだ言ってないんだけど、というかそもそも何を手伝うのかわからないんだけどさ。


でももうすでに呪い解かれてるし・・・自動的に巻き込まれた?


いや断るという選択肢は存在し得ない気もするけどね?


ジュライアへの信頼とアケミちゃんへに逆らった時の恐怖と僕の未来はうまくやらないと死ぬということからも、なんだかわからないけど協力しないというわけにはいかないと、僕は判断する。



それにしても、【ゾビレイクスの末裔】と【勇者】の称号があったのに気がついたアケミちゃん、どうやって僕をどうやって見つけたんだろうか。


「どうやって僕を見つけたんだい?」


いくら広範囲と言っても全世界の情報を一気に仕入れたわけじゃないだろう。


「それはやねぇ、秘密、やで?」



ウインクしながらぺろっと舌だす。

あまり見たことのない行動だったが、僕にとってとてつもない影響を示すモノだった。


なんていうか、可愛いぃぃいいぃぅぁぁあああ、しか出てこない!


「秘密ね、秘密!おいおいおい!ヤベェなジュライアさん!王都で流行りのアイドルってこんな感じ?!」


「はぁ?しらねぇよそんなの!てかさっきから何鼻の下伸ばしてんだよクソか?ロリコンか?おい」


コメント厳しめぇぇ。


てか鼻の下やっぱり伸びてたんだなぁ。

堪えきれない感情が鼻の下に出てしまったらしい。


「アラハちゃんは面白いなぁ?ということで、これ、飲んで、な?」


可愛く小首を傾げながら小瓶を僕の目の前に突き出すアケミちゃん。



くぅ。ここまできたらあれだ。魔石飲むくらい!

聖水飲むプレイみたいなもんだよ!!

やったことないけど、なんか興奮止まんないぜ・・・!!


僕はトラウマを払拭するために変態要素で乗り切ることにした。



「はい、飲みましょう!」



僕は小瓶をアケミちゃんからひったくると、小瓶の中身を取り出す。


青い小石が掌に収まる。


少し縦長で5ミリ、横幅2ミリや直径に換算した感じも2ミリ前後くらいだろう。手をつけてなかった平たい器に入れられたジュースで一気に飲み下した。

ブドウ味・・・のお酒だわこれ。おいマスタージュースって言ったじゃん!


とか思ったけどもう飲んじゃったのでしょうがない。



そういえば、・・・当時、魔石を飲み込んでから5分くらいで震えと目の前がぐるぐる周り、激しい腹痛と止めどなく押し寄せる嘔気から、複数の嘔吐でほとんど魔石と一緒に直前にたくさん食べていた内容物も吐き出した。


・・・あの時は僕の18歳の誕生日で、成人のためのパーティをしていたところだった。


普通は主役は挨拶周りというか挨拶を受け続けるせいで、たくさん食べられないはずだったのだが、その日はなぜかたくさん食べたっけ。


たくさん食べていたおかげでうまく吐き出せたのが生き残れた理由だろうと、治療に来た聖法師に言われたっけ。



今はどちらかというと空腹、当時食べたのと同じくらいの大きさの魔石だ。

もしうまくスキルが発動しなければ、5分後には死んでいるかもしれない・・・


そんなことを考えていたが、アケミちゃんは微笑みながら僕のことを見ていた。



あー、これなら、このまま死んでもいいかもな。

近くに天使がいるなら、それもまたいいかもしれない。





そして、30分くらいが経った。



「・・・たぶん、なんとかなったっぽい、か?」



動悸と軽いめまい、手の震えがしていたが、あの時ほど酷いものではない。

おそらく、緊張のせいだろう。


「うんっ!大丈夫そうやな!」


破顔してうんうん頷くアケミちゃん。

かわわわいいいい。



「でも、おかしいな?アケミちゃん。なにも変わった様子がないよ?」


ここに来て思うのは、さっきのが魔石ではなかったというオチがあった場合だ。


『実は本物はこっちやでぇえ!』ばーん!と新たに大きな石をアケミちゃんが出してくるイメージまで僕の中では構築されている。


アケミちゃんのテンションならあり得るのが本当に怖い。



「そうか?ステータスを見たるで」



「おいおい、てめぇアラハ!不発とか意味わかんねぇからな?」



「いや、僕に言われても困るって!むしろまたこんなことしなきゃいけないと考えたらしんどいわ!!」


「なんやろなぁ・・・」


アケミちゃんが真面目そうな顔で小首を傾げながら、聞き取れない声でぶつぶつと何か言っている。


な、なんか思うところがあるのかな?

突然豹変するのだけはやめていただきたいが・・・


うん!と頷いて表情を明るくすると、再びアケミちゃんが【鑑定】を使って三度目のステータスを呼び出す。




++++++++++++++++++++++++++++++++++

姓名 アラハ・ゾビレイクス

種族 人族

状態 健康

年齢 32

レベル 4

経験値 82

体力 250

攻撃力 35

防御力 45

持久力 20

敏捷性 60

精神力 101

洞察力 220

魔素量 1

魔法適正 0

魔法技術力 0

称号 【ゾビレイクス家の末裔】、【勇者】、【竜の加護】、【3級冒険者】

スキル 【栄養超級】【剣術3級】、【真実遭遇】、【魔法・聖法耐性】

++++++++++++++++++++++++++++++++++



か、変わってねぇぇ。嘘だろぉぉぉ?!



「い、いやぁ、なんだろうねこれぇ!そういや魔素1てあるけど!もしかしてこれが魔石の効果かな?あはは」


「それはさっきからずっとあるだろうが!おいアケミ」



はい知ってます・・・


あ、あれぇ?なんですぐ効果出ないだ??


やっぱり偽物でモノホンは今からです!パターン?いやそういうイジリは良くない、いじめに等しいから!



「20分くらい前に表示したステータスの魔素に関してはクラナゼットの切断された耳に触れて皮膚から吸収されたのが残ってたせいやろなぁ。魔素ってのはなかなか最後が抜けきらないんや。もしかしたら魔石の魔素をすでに代謝、排泄したのかもしれん」


「代謝ならまだわかるけど!僕がいつ排泄した?!」


トイレなんて行ってないぞ?!


「まあ、難しいことはまた今度な!」


にこっと笑うアケミちゃん。

くぅ、可愛いな。


ジュライアが首をひねる。



「でもよぉ。最後の魔素量1が抜けきるの遅くねぇか?最初にどれだけ魔素を浴びたか知らねえけど少なくとも最初に鑑定した時はすでに魔素量1だったってことは、かなり早く抜けてたってことだろ?直線的に抜けてたなら2度目の時点でもう限りなく0だったんじゃねぇか?」



「ステータス表示ってのは厄介なもんでな?小数点以下が限りなく0にならない限りは1と表記されるんや。どこまで0に近づいたら0と表記されるのかまでは知らんけどな。勉強してるジュリ・・・ジュライアちゃんならわかるかもしれんけど、計算式的には関数の極限的な考えでやなぁ、リミット0までぶっ飛ばしてやる感じで考えてもらうとわかりやすいかなぁ?なんというかな?0になったと判断されるまでは1なんや。それと、なんで小数点以下の時間が長いかっていうとやな、代謝排泄までが縦軸魔素量、横軸時間に対して直線的やないからやねぇ、言うてしまえば指数関数的減衰てやつや。魔素の代謝排泄は最後が抜けないのはそういうことやで」



「あぁ、そういうことか」



わかったの?!ジュライア頭良すぎかよ!!


・・・えっと、指数関数てどんなのだっけ?久しぶりすぎて思い出せない。貴族時代には歴史書ばっかりであんまり数学は勉強してなかったからなぁ・・・


年下に聞くと考えたら恥ずかしいけど、一応聞いておこうかな・・・



「すまん、僕にもわかるように教えてくれないかな?」



「なんやアラハちゃん、わかるやろ?仕方ないなぁ、・・・でもうち、教えるの苦手やねん!まあ、頑張って説明するとなぁ・・・なんというかなぁ・・・たくさんある時は無くなりやすいけど、少なくなると無くなりにくいんや!それが魔素の性質や!というか、多くのことに当てはまるんやけど、例えばなぁ・・・ほら!わかるやろ・・・?お金がたくさんあったらたくさん使っちゃうやろ?お金がなかったら逆に使わないようにするやん?そういうことやで!なぁ?」



アケミちゃんが手をぶんぶんして、なぁなぁ言いながら頑張って説明してくれた。

可愛い。

恥を忍んで聞いて良かったぜ。いいもん見れた。


あんまり頭に入らなかったけどなんとなくわかった。


あれ?てことはだよ?



「・・・僕が20分前に飲んだ魔石はもう抜けちゃってるけど、残りカスの分で表記は1てことかい?」


「だいたい!せやろな!」


「そ、そうなんだ」


「【栄養】スキルに関してはわからないことが多いんでなぁ?今後おいおい調べていくことになりそうや」


「う、うん」


また魔石飲むのか、いやでも、特に何もなかったし、いいか。


てか、魔石自体は一般人が触れただけでも本来は危険な代物だ。

僕が知っている限り、魔石の持ち込みを重犯罪とする国すらあるんだけど、魔人であるアケミちゃんなら簡単にそう言った国でも持ち込みそうだ。



この際、魔石の入手、持ち込みに関しては今はあまり議論しなくても良いだろう。てかあまり考えたくない。



・・・とりあえずだが、魔素量がすぐさま代謝、排泄・・・排泄はした覚えはないけど、おそらく代謝で無害化したのは事実なのだろう。

死んでないし。


でもこれはじゃ使い勝手が悪すぎる!



・・・ちなみに僕の知る【栄養1級】は摂取した魔石を一時的に自分の力にできるというというだけでしかもそれほど凄いものではなかった。

いやたしかに凄いけど、どれでもそんなに使い勝手は良いものではなかった。


でも僕が知るのは、人間が食べたら確実に死に至るであろう量の魔石の粉末を飲み込んでなんとか小さな魔法が一発使えるという感じだ。


そもそも一族に伝わっていた魔法だって、水気のない場所から水を生み出すくらの弱弱しいイメージのものだ。


まあ、それでも領地の豊かにするためには必須のスキルだったけどね。



・・・さっきのアケミちゃんの説明から察するに、栄養スキルがあると、魔石から魔素を吸収し、毒として作用させずに一時的に蓄え、その魔素で魔法を使うというのは僕の認識と大きくは変わらないだろう。



それでもゾビレイクス一族は無味無臭の魔石の粉末を食事に混ぜられても死なないというのは大きいか。


昔から貴族の間では、魔石の粉末は暗殺に使われていたそうだし。



とは言っても普通に食感とかはただの石なので口に含んだ場合はジャリジャリするために、口に含んだらその時点で気がつくのだが、水に溶かして上澄みだけスープとかに入れられたらわからない。



魔の生物以外にとっては猛毒といっても過言ではない。

もちろん、そのまま魔人や魔獣化する者も中にはいるみたいだけど。

まず普通は死ぬ。


僕みたいに死にかけて、一命を取り留めるのさえ割と難しい。


なんか僕って勇者ってより、運良い一般人じゃね?

はぁ。なんか切ないわ。



「・・・そろそろお家帰ろうかな。クラリス待ってるし」


「そうか?実験したいことはたくさんあるんやけどな!また明日確認させてもらおうかなっ!」


「アケミにはちゃんと協力した方が身のためだぞ。この酒場で、同じ時間でいいな?」



もう協力することが当たり前みたいだね。

いや、するけどさ。なんかな。


それに、何も変化なかったらやだなぁ・・・とか内心思いつつ僕は返事をする。


「いいけど、特に思ったようなスキルじゃなくても怒らないでよ?」


「このまま何もなかった場合、てめぇは寝込み襲われて死ぬからな。あと世界も滅亡する。覚えとけよ?」


「重い!」


「仕方ないんやでぇ。魔王に勝てる可能性があるんは今やアラハちゃんしかおらんからなぁ!」


「てか、アケミちゃんなら今後成長すればいけるんじゃ?性的な意味でも」


ボインでバインな意味で。


「おめぇ、死ぬか?」


「い、生きてたいな」


「うち、すでにナイスバデエやろ?そんな成長しなくて良いんやないかなって思うとるで?」


意味を理解してらっしゃる!てか凄い自信!!

いやたしかにね!おっしゃる通りですけど!


「ったく。アケミ。そういう意味じゃねえよ、お前が成長したら攻撃魔法使えるのになんでかって話だろ?」


ごめん、ジュライア主にそういう意味では聞いてなかったよ!

でもそっちも聞いておきたいところだね。


「まあ成長したら使えるんやけど、うちの成長待ってたら5、6年はかかるで?それまでには世界滅んでるから?」


「え?滅ぶ?」


聞き捨てならないワードが出てきた。


「そうなんやで!数ヶ月以内にまずアラハちゃんが死ぬ。でもって2、3年以内に魔の者たち以外もほとんど滅ぶんや」


え?今なんて言った?

ちょっとちょっと!僕の寿命、思ったより短いんですけどぉぉぉ!!!?後世界の寿命も結構短いんですけどぉぉぉお!!!?


僕が驚愕の表情を見せているとアケミちゃんが続ける。


「てなわけでな?うちを戦力にはできないと思った方がええでー?そうやないと、みーんな死ぬで?」



「現時点のアケミちゃんを人間という立場で超えられるかはちょっとわからないんだけど、僕はどうしたらいいんだろう。時間稼ぎしてアケミちゃんが戦力になるまで待つとかはダメなの?」



「うちは腐っても魔人やで?勝ったら勝ったうちが今度は魔王として君臨するかもしれんよ?しかもや、魔王やったらたぶん世の中滅ぼしちゃうかもしれん」


急にしれっと凄いことを言う。

アケミちゃんが魔王になるというのが信じられないが、もしなったとしても世界滅ぼす感じはしないんだけどな・・・

というか、そんな人物に協力してて果たして世界を救えるのだろうか?という疑問も湧いてくるんだけど。

そこんとこどうなのジュライアさん?という視線を送ると、肩をすくめるだけだった。


え?どういう反応それ?


まあ、魔人だから、やっぱり人間はある程度憎いという感じなのだろうか・・・

根底にそれがある以上長年権力を持ってしまうということか。



「性悪説ってどこかで聞いたことあるな、それか」


「うちは性善説を信じたいけどな!」


楽しそうにうんうん頷くアケミちゃん。

ここに来て僕の中である疑惑が浮上してきた。


「・・・アケミちゃん物知りすぎない?本当に9歳?」


かなりサバを読んでいる説である。


「アケミはそういうところもすげえからな」


凄いで済むレベルなのかよくわからないな。


「アケミちゃんよ、万が一僕が思い描く世界のようになったらさぞかし世界は平和だぜ」



人族のまま、エロ魔人と呼ばれるようになるかもしれんが。


アケミちゃんは僕をじっと見ると、くすっと笑い、僕の背中を優しくぽんぽんと叩きながら口を開いた。


「いわゆる魔人やなくて、人間としてアラハちゃんの目指す世界が実現できるよう、うちは手助するで?まあ、アラハちゃんは勇者であって魔王じゃないけどなぁ」


ツッコミを入れながらも覗き込むように微笑みかけてくるアケミちゃん。


え、笑顔が!!


「眩しい!!」



まさに天使のスマイルである。

いや、魔人だから悪魔のスマイルなのか?

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