3級冒険者への昇格?
「ほら、今日は良い美女ウォッチング日和ですし」
・・・初対面の魔人に僕は何を言ってるんだろう。
はっ!?とした時にはすでに言い放ってしまった後である。
完全に後の祭りである。
僕が今まさに命名したが、ロリ銀髪巨乳こと、魔人の笑顔が少し困惑の色を見せているではないか。
正直僕も笑顔が乾いていると思う。
しばらくして金虎の「ガルルル」という呆れたような鳴き声で僕と魔人は息を吹き返したように表情を変化させた。
あぁ、これ、知ってるぞ。あれだ。
凍りついた状況てやつだ。
そんなこと思いながら、苦笑いしつつ挽回の言葉を放つ。裏声で。
「い、いやぁ、なんかどこからともなく謎な変態の声が聞こえてきましたね。ははっ!僕はアラハ!よろしく!ははっ!」
ネズミを擬人化したような無害さをイメージした声だったのだったが、伝わっただろうか?
伝わんないよなぁ。
「ネズミを擬人化したような無害さを感じさせる声やね」
ふふふっと笑ってそう返してくれる魔人。
つ、伝わって何よりです。
なんだか、負けた気分ですが。
「それで、君たちこそこんな場所で何を?」
「うちらはなぁ?ここ2日ほど待ってたんや。雨が降らなくてよかったで」
野宿とは危ない。いや、危なくないのか、むしろ回りが危ないな。環境破壊が起こされてんだよなぁ。
てか、待ち合わせか。こんなところで一体誰と?
魔人と魔獣が一緒にいるのも謎だが、その待ち人とやらは何者なのか。魔物災害起きてるんだけど、傍迷惑ですよ。もっと人気も動物っ気も植物っ気もないような、砂漠地帯で密会をやっていただきたい。
「・・・ここは魔物が増えちゃって大変なので、別の場所で待ち合わせした方が良いですよ、冒険者ギルドからお邪魔が入ってしまうかもしれません」
魔人や魔獣とは気づいていますよ、こちらに戦う姿勢はないですよ、ということを暗に意味するように伝えてみた。
「えぇ。せやねぇ。でもな、もう待つ必要はなくなったんやで」
にこやかに、ひたひたと近づいてくる魔人。
いやいや、なんで近づいてくるかな。
怖いんですけど・・・
何か違和感を感じて、僕は一歩また一歩と後ろに下がる。
「お金になる依頼がたくさん発注されるようになぁ、うちらがお金になりそうな魔物を少し遠くにたくさん出現させたんやで」
突然彼女はそう告げる。
僕は意味が分からず困惑の声を漏らす。
「えっと、え?」
「3級討伐依頼が出る程度の偽情報も事前に流したしなぁ。この森にはそんなに強い魔物は出えへんみたいやったけど、もし万が一なぁ、力無き者がくるようであれば逃げ帰るように調節したんや。でなぁ?うちらの待ち人が複数で来てしまった時にはな、その待ち人がその他の者を逃すことも予想済みだったんやで?」
・・・あ、あれ?
なんか、なんかおかしいぞ?
それに合う人間て少ないのでは?
僕は間違えて受けちゃったけどさ、え?あれ?
ちょっと待てよ?
これって特定の誰かをおびき出したってことだよな、それって・・・
嫌な汗が吹き出し始めた。
服が汗で張り付くのが気持ち悪いが、そんなことを言っている場合ではない。
「も、もしかして、ですが、あなたの待っていた人って言うのは」
僕ですか?と言おうとしたがその前に彼女に言い切られてしまった。
「そうやで、あんたやアラハちゃん、うちらが待っとったんは」
魔人の瞳がギラリと光り、僕の動きを止めようと魔力でがんじがらめにするようなイメージが脳内を満たす。
射抜かれたようにその場で足から崩れそうになるが、踏ん張る。
急にぐるっと回るようなめまいがする・・・
「な、なんのために?」
僕は無理矢理言葉を紡いだ後、急に頭の中を掻き混ぜるように回想を始めた。
あぁ、僕は・・・
僕はしがない三十路の2級冒険者。
色々あったが十数年前家も追放されたのが今の現状に至る元凶だろう。
武術なんてやったこともなかったし実際やってみたら才能も特にないのに10代後半で冒険者になり、お金もないし、聖法なんて使えないから致命的な怪我をしたらそれでおしまい。
なんとかそれでも努力はしてきた。とは言っても、できる範囲のことを出来るだけやっただけ、無理はしてない。
そんな、のらりくらりちここまできた男に何を待つのか、なにを期待するという言うのか!!ジュライア!この野郎!!よく考えたらお前が元凶だろ!こんなところにきたのはお前のせいだぞ!!僕を嵌めたな?!
脳内では自嘲気味だったのに最後の方ではジュライアに対する八つ当たりという怒りに変わり始めていたが、そのあたりでさっきまでの絡め取るような錯覚は急に消えて無くなった。
「あれ?おかしいなぁ?魔法が途中で回避されちゃったん?耐性?いや、何かもっと違うなにかかぁ?」
まさか魔法?!あぁ、やっぱり魔法か!!
身体が動かないわけだ!
でもって嫌な過去を思い出させられるわけだ!
なんだかんだ怒りの矛先がジュライアに向いたおかげで助かったのかもしれない。
ありがとうジュライア。
次会った時覚えておけよ。会えたら、だが。
魔素を消費し魔界の法則により行使される能力の総称、それが魔法。
聖法とは異なる法則だ。
なんて禍々しい。嫌な気持ちになる力だよ。今ので途中かよ。
完璧ヒットしたら軽々と鬱になってた自信があったよ?!
「なにしてくれんの!」
こちらも少し睨みを利かせて魔人を視線で射抜き返す。
「これはすまんなぁ。アラハちゃんの記憶を読み取ろうとしたんやけど、失敗してもうたんや」
舌を出して、失敗失敗、てへ!と、年齢からしてみれば可愛らしくというのが正しかったのだろうが、それより、綺麗というのが合うほどに美しく苦笑いする魔人。
「マジで何してくれんの」
だが、なんだか怒る気が少し無くなってしまった。
思えば、彼女の魔法からは嫌な感じはしたけど悪意とまでは感じなかったのだ。
「いやぁ、本当にごめんなぁ?アラハちゃん待っとったんはジュリ・・・ジュライアちゃんに言われたからなんや、あんたの役に立つようにってなぁ?」
唐突に知り合いの名前が出てきた!
くそ!!ジュライア!お前が犯人か!!
一気に繋がった気がする!
「あ、あんた、ジュライアの知り合いなの?魔人なのに?」
「えぇ、魔人やでぇ、ジュライアちゃんの知り合いのなぁ。ちなみにな、そこにいる魔獣クラナゼットは私のペットなんやで?かわええやろ?」
「ペットで合ってたのかよ!」
また突っ込んでしまった。しかも今度は言葉に出してしまった。
「えぇ、ツッコミやで!ペットや。でも災害をもたらす魔獣というやつや。わかるかぁ?アラハちゃんは今からこの魔獣と戦って勝つんや。少なくともそういうことになるんやで?それでなぁ?それを冒険者ギルドに持っていって、受付の嬢ちゃんに突き出して、こう言うんやで!『災害級の魔獣を倒した!俺にはその力がある!だから4級冒険者にしろ!』ってなぁ?」
えっへん!というような感じでドヤ顔だ。え。可愛い、ドストライク。マジ天使。
だが、僕はツッコミを入れざるを得ない。
「・・・いやいや!僕が4級討伐対象を倒せるわけないだろ!てかあんたのペットだろ!倒させるとか酷いことをするんじゃないよ!」
くりっとした目をぱちくりさせて、から彼女は吹き出すように笑い出す。
それも堪えるように、だ。
「え?な、なにがおかしいのさ?」
「いや、いやなぁ?だってなぁ、ペットとはいえ、魔獣やで?それをペットだから可哀想って!あんた、めっちゃえぇ人やね。よっしゃ、決めたで?クラナゼット、耳を貸してな」
そう言い放つと、魔獣クラナゼットと呼ばれた虎は彼女の側までやって来て耳を向けた。その瞬間のことだった。
彼女は自身のペットと言ってさっきまで可愛がっていた虎の右耳を手刀で切り落としたのだ!
痛そうに顔を歪める虎の頭を撫でながら、一瞬ほとばしる血液を物ともせず、彼女は虎の長く尖った右耳を、屈託のない笑みという言葉が似合う、似合ってしまう綺麗な顔で僕に差し出した。
ただその顔には血しぶきが何点か付いているのが不気味さを物語る。
恐怖映像としてたぶん僕の脳内にインプットされた瞬間となっただろう。
血を滴らせた笑顔の天使。
恐怖です。
「ほな、これを持って行きな?でな、さっきうちが伝えたように受付の嬢ちゃんに持って行くんや、ええな?」
「い、いや、え、これはどう言うこと?」
僕は突然の出来事に少し放心状態になり掛けていた。
「さあ、早く行きや?行かへんのか?ほな、ジュライアには悪いけどな?今ここで、・・・死ぬかぁ?」
急に彼女の顔から笑みが消え、瞳が僕を射殺すように迫ってくるような錯覚に見舞われる。
彼女から、オーラが出ているのが見えた気がした。
いや、明らかに何か出ている!!
こ、これは、まさか、魔素?!
もはや受け取らないという選択肢はないようだ。
「い、頂き、ます」
僕はそう、言葉にするだけで精一杯だった。
恐る恐る血だらけの耳を受け取り、握りしめると、回れ右をして、僕はここに来た道を振り返り、走り出した。
恐怖。
背筋が凍えるほどに。
恐怖。
振り返れば、まるですぐ後ろにいるような錯覚。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、怖い・・・・っ!!!!!
あれが4級相当??
4級はたしかに恐ろしい存在だが!だけど、アレは、アレは違うっ違う!!
目に見えるほどの迸る魔素。
あれは聞いたことがない!
アレは4級相当の魔獣に身を捧げさせる程に服従させているっ・・・!
その時点で複数の大災害を引き起こした魔獣や魔人などが該当する、5級討伐対象としか思えない!
怖いっ・・・・!!!!!
だが、アレはそんなんじゃすまないと思う・・・アレはきっと魔王などが指定される
超級相当だ。
しばらく、僕は必死で森を駆け抜けた。
無理やり走り抜けたことで途中途中で、引っかかる枝葉や魔物化したクモの巣などは懐のレイピアを引き抜いてデタラメに振ったらまるでゼリーのように切り開けた。
次第に、レイピアがすごい物であることと、快感で心が跳ね始めた。
これ切れ味すげえ!
たぶんレイピアの本来の使い方じゃないけど、なかなかどうして、切れ味がやたら良い。
硬そうなものさえあまり力を必要とせずに切り裂くことができる!
これは使い勝手がいい!!
そんなことを頭で埋め尽くし、先ほどまでの異常事態を忘れようと必死になったその結果、恐怖や快感を抱いたりと忙しく、【ノウクライエの森】を駆け抜けて街に向かっていたが、時間が経つにつれて徐々に心が平常に戻ってきていた。
それでもまだ手の震えが止まらない。
なんだったんださっきの・・・
夢か?夢なのか??
しかし、先程から草木に擦った部位が少し痛むことを考えても、これは現実だろう。
あれ?でも、待てよ?
そういやジュライアの知り合いとか言ってたけど、聞き間違いか?
いや、そもそもジュライアがこの依頼を取れって言ったんだし、おそらくほぼ確実に知り合いだよな。
しかし、純粋な知り合いと言われると怪しい。
ジュライアが洗脳されていた可能性も考えられるからだ。
その場合、何のためにジュライアを洗脳して僕を引っ張り出したのか、そして、魔獣の耳を差し出したのかは謎だ。
でもな、いくらなんでもジュライアがあんな、推定超級討伐対象と知り合いだろうか?
・・・精神魔法で操られていたとかなら普通にありえる。
何か理由があって、僕を・・・いやまてよ?あぁ、そうか・・・僕が勇者だからか?
大事な事実に気がついてしまった。
『真実遭遇』スキル。
僕は『タージャボルグ』を手にしてしまっているのだ、持ち歩く事なしに、スキルが勝手に発動しているのは気がついていたし。
『タージャボルグ』を手にしているからランダムだった標的が偶然、いや、必然的に僕になったとも考えられる。
あぁ、そう言うことじゃないか?
となると、ジュライアはとばっちりとも言えよう。
僕に繋がるためにはコミュ障気味の僕本人に直接繋がるより、ジュライアとかクラリスとか、身近な人を経由するのが自然と言えよう。
『タージャボルグ』のスキル・・・なんというか、これもスキルなのか・・・
いやさ、いくらなんでもこんな2級冒険者にあんな化け物ぶつけようとしてくるか?!
手順ってものがあるでしょう!!
半ばキレつつも、僕は街に辿り着いたその足で冒険者ギルドの建物の門を叩きつけるようにして入った。
クラリスが疲れ果てたように受付で何か説得しているようだが、聞き入れられていなかった。
僕の日頃の行いが悪いせいだろうか。
とは言っても、僕が考えた『生き方』をしているだけで、迷惑という迷惑なんてかけてはいないんだけどな。
強いて言うならば、他の冒険者から見て、『冒険者の面汚し、ろくでもない奴』という、冒険者に酔っている人々の気分を害させてしまっている可能性はあるか。
それは勝手に大多数が思っていることであって、僕がそれに従う法も理由も、どこにもないというのに・・・
クラリスに近寄ると、やはり、魔獣や魔人が現れたという報告は受付で「そんなわけがない」と一蹴されていたようだ。
冒険者たちが嘲笑う声が聞こえて来る。
「くくっ魔獣が出たらしいぞ」
「魔人もだろ?」
「同時に出現なんて、聞いたことないっての」
「そもそも、どっちも迷信じゃねぇの?昔話でしか聞いたことねえよ?」
「国を滅ぼしたなんて嘘っぱちも聞いたことあるわな!はっはっはっ!馬鹿みてえな話をよぉ、本気にする奴がいるかよ!」
たしかに、魔人も魔獣も、まず出現しない。
そのため、文献などでしか見ることはなくなった現在、今の冒険者には、事の重大さがわからなかったようだ。
受付嬢も理解できていないようだ。
そんな会話の最中にようやく僕に気がつくものが現れた。
「おいおい、あいつ、【ろくでなし】じゃねえか!!?魔人と魔獣に同時に対峙することになったってさっきあの嬢ちゃんと騒いでたってのに?!そこは、雲隠れしとくのがよかったんじゃねぇの?」
わっ!と組合にいた冒険者が僕を指差して笑い出す。
あぁ、嫌な雰囲気だ・・・
僕は無言でクラリスに近づく。
クラリスも他の冒険者たちの様子で、僕が来た事に気がついたらしく、振り向いて一瞬で破顔したがらすぐに絶望的な顔をしながら僕にゆっくりと歩み寄ってきた。
「ょ、よかったぁ・・・アラハさんっ・・・ご、ごめんなさい、私じゃ、助けられなかったですよぉっ・・・」
泣きながら僕の胸に飛び込んでくる。
なかなか辛い目にあったようだ・・・
全部僕のせいだな・・・
本当にごめん。
でも、そう簡単に謝ることはできない。
それは彼女が僕を思って行動したのを無駄にする気がするから・・・
「いや、僕は生きてるから、死んだみたいな顔しないでくれよ?」
「ご、ごめんなさ、ごめんなさいぃ」
適当に頭撫でてやって引き剥がそうとするが馬鹿力で顔を埋めたまま離れる気配がないのでそのまま引きずることにした。
体重は軽くて助かったよ。
「おい、あれ見ろよ、ちっ!なに見せつけてんだ?!」
「調子乗ってんなあの野郎」
「今度リンチだな、決定だ」
ついに、僕は歩くだけでリンチが決定するようになったのか・・・
周囲の冒険者たちの言葉など聞き流しながら受付にやっとこさ辿り着くと、受付嬢のいる受付の机に、どんっ!と叩きつけるように虎の片耳を素早く受付に叩きつけた。
少し怒りもあって、物に当たったということは否定しない。
なんで僕がこんな目に合わなければならないのか、と思う気持ちはあるから。
なぜ、生きるために足掻いているのに、嗤われなければならないのか、と。
たしかに、冒険者以外の道もあった。
だけど、僕はこの道を選んだ。
勇者、英雄に憧れる自分と、何もできない自分とに折り合いをつけて、冒険者でいることを選んだ。
そうだ。自分で選んで、やりたい職業についたれだが、なぜ嗤われなければならないのか!?
僕だって仕事はちゃんとしている!
その職業らしさ、なんてどうでもいいだろ!?
本人が思う、らしさ、それで十分なはずだ!
・・・そもそも元々の僕の性格や身分じゃ、冒険者の他に選択肢があったかと言われると、微妙だったけど。
そう、だからこそ。
僕はこの境遇が、恨めしく、憎らしい。
まあ、そんな回想するのはまた今度にしよう。
受付台には、生き物らしさを感じさせない、まるで作り物もののようにさえ感じさせる耳が乗っかっている。
勢いよく叩きつけたせいか耳だったものから血が飛び散り机を汚し、血生臭さが僅かに漂う。
「これが、討伐した変種か新種です、確認をお願いします!」
手順も何もあったものではないが、今の僕にはそんな余裕はない。
魔人や魔獣というのはもはや誰も信じないだろうが新種か変種であればうなずくものも出てこよう。
今にでもあのバケモノが僕のもとにやってくるのではないか?僕に害を、死を与えるのではないか?という不安も拭えないのだ。
僕に余裕なんて端っからない。生きるだけで精一杯なんだ。
そして、僕の健康で老後を迎えるというプランが潰えてしまうのではないか?という考えが、今になって出てきた。
思えば、生まれてから30年以上の自分のあり方を否定する出来事に巻き込まれているではないか?
そんなのはもう、『タージャボルグ』を見つけた時点でほとんどなくなっていたのだろうけど・・・
今となってはそう思う。
いや、これから新しく始まるのかもしれない。
そういう恐怖や諦め、希望に見えてくる絶望が頭にあって、正常に頭が働いていない。
「ぅっ?!これは、何ですか?!」
魔獣の耳を取ろうと近づいた受付嬢は顔をしかめ、気分悪そうにする。
魔素が出ているからか、普通の人間が近づけばそれだけで吐き気などを伴うのだろう。
魔素に触れる機会が少なくともある冒険者の僕でさえも少し気分は良くない。
となると、相当な量の魔素を出しているのだと想像ができる。
握ってた時は非常事態であまり深く考えてなかったが・・・
さっきまで耳を握っていた手を見れば、血のせいというには随分と赤黒く変色していた。
何しろ手全体が赤黒くなり、少し腫れているようだ。
や、やべぇんじゃねこれ?
心なしか手が熱いし、痺れてるし・・・
そんなことを思いつつも、ここまできてしまったのだ、もう後戻りはできない・・・
しかし、僕はロリ銀髪巨乳に言われた通りにはできない。いきなり4級などあり得ないのだ。
ならば、確実なやり方で先に進むしかない。
「これは見たこともない魔物の討伐部位です。魔獣でも魔人でもないかもしれない。初めて見たから、混乱していました。生憎、魔核は破壊してしまったんで手に入らなかったですが、ギルドには判定用の聖法具があるはず、それで見てみて欲しい」
以前、冒険者になった時のガイドブックにそういう時には特殊な聖法具があるから、受付で伝えるようにと書いてあった。地方の町にあるのは見たことないが、王都に近いこの町なら数日待てば検査も可能だろう。無理なら僕が持って行ってもいい。
今回はあくまで昇級のための、依頼達成条件のクリアを優先する。
判定の聖法具は、滅多に使われないが魔核が手に入らなかった時、代わりになるような肉片などの魔物の一部から、場合にもよるが依頼達成ができたか否かを判断することができるものらしい。
もちろん、ただ体の一部を切り取って来た可能性もあるため、その後、当該の魔物の捜索はされるが、死体などが見つからなければ見つからないで別に問題ない。
ギルドとしても、追い払えれば最悪それでいいと思っている節があるからな。
受付嬢は顔をしかめる。
受付嬢はわりと長いことこの支部にいる嬢だった。
悪い噂は聞かない、公平公正なタイプの受付嬢だ。
だからなのか、何も証拠もなく、魔人や魔獣は信じなかったようだが・・・
「魔核を破壊とは、一体何があればそのようなことに?」
しかめた理由はそっちか、確かにそうだね。
魔核を破壊となると、2級冒険者くらいだと、よっぽど当たりどころが悪くない限りはあり得ないだろう。
「ちょっと良い武器が手に入ったんで、それを使ったら砕け散ってしまったんです」
「そんなわけ・・・まあいいです真偽はすぐにわかります。少々、お待ち下さい」
受付嬢はちらっと、僕の左腰にぶら下げているレイピアを一瞥してから、そう言って受付嬢は奥に急いで走っていく。
受付嬢を待っている間、引きずっていたクラリスをちゃんと立たせておいた。
いつまでもこれだと無駄に無駄に目立つからね。
一瞬離れた時に見えた顔は相変わらず汁まみれだ。
でも、まあそんなことを気にする子ではないだろう。
「ぼんどゔにぶじでよがっだでず」
両手で顔を隠したままクラリスが喋る。
くぐもって聞き取りづらいが、僕を心配しているのは伝わる。
優しい子だ。
「まあこの通り問題ないよ。クラリスは先に家に戻って体でも休めておきな?僕はギルドに昇級の交渉をしなければならないからさ」
「でも」
「街の中で何か起きるならクラリスも巻き込まれるさ、さっさとお家にお帰り」
「ごの状態で外を歩ぎだくないでず」
流石に汁まみれはまずいと思う、もう泣き止んではいるようだが、余韻てやつか。
「汁まみれはエロすぎるから、早く涙を拭いな」
一撃僕の腹に膝で入れてきた。
当たり前だがクラリスは本気ではない。
本気だったら僕は吹っ飛んでいることだろう。
ついでに内蔵も存命ではないだろうな。
クラリスは、何を言うでもなく目を両拳で擦っている。
どうやら帰らずにその場に居座るようだ。
僕と一緒にいたらたぶんこの後で気分悪くするだろうから、早く帰ってくれたらよかったのな・・・
受付嬢が判定用の聖法具を持ってくるのを待っていると何やら嗤い声が聞こえてくる。
「何が良い武器だよ、どうせ嘘に決まってる」
「それに今度は新種だってよ?」
「魔獣にしても、新種にしてもこんな場所にいるわけがねぇだろ」
「馬鹿だよなぁ、なんの依頼受けたか知らねぇけどよ」
「新種や変種を見つける依頼だったらしいぞ。それもそんなのを昇格試験にしたらしい」
「くくっ!馬鹿だなぁ」
クラリスも気付いているのだろうが、俯いて感情を噛み殺すようにしていた。
しかし、ひそひそと話される話題は、たしかにその通りとしか言いようの無い内容だ。
そもそも僕には魔獣を倒せるほどの力なんてない。
強いことが多いとされる変種も然りだ。
新種であれば弱いこともあるから何とかなることもあるが、それだって強い魔物はかなり強い。
だけど、周りの誰も知らないことがあるとすれば、僕には倒せる可能性を秘めた武器がある。
誰にも信じられないだろうけど。
切れ味が尋常じゃなく、明らかに何かスキルが付いているレイピアだ。
新ロングソードほどの威力は持っていないが、とは言ってもこれも『タージャボルグ』のスキルのおかげか高ステータス武器であることには変わりないから、どうやって、3級討伐依頼の魔物を倒せたかと言われたらこれを切り出すしかない。
しかし、そもそも、耳は魔獣のモノだ。
3級相当より上の4級とかが出た場合、依頼はどういう扱いになるんだろうか、その辺が心配だ。
聞いたことはないが、昇級の基準オーバーで無効とかもあるかもしれない。
もしくは、判定誤差が大きすぎて2級などと判定された場合もまずい・・・良くても新種と判断されたものの、2級だから試験自体がなかったことになるだろうし、悪ければ2級相当しか見つけられず逃げ帰ったということで失敗だ。
そんなことを考えながらしばらくして受付嬢が僅かに紫色の水晶を持って戻ってきた。
「おまたせしました。これは何級相当かを判定、新種や変異種であればそれもわかる聖法具で、魔素が近づくと黒くなるというような機能も付いています。・・・なのですが、申し訳ありませんが、こちらの聖法具は特殊でして、冒険者ギルドで使っている聖水ではなく、聖素を持つ方の力が必要になるので・・・聖法師が来るまでお待ちいだだけますか?それと、別途料金がかかりますが、いくらになるかはまた追ってですね・・・」
「・・・なるほど」
普段使わない道具な理由はこういうことか。
聖素。
それは、10人いれば1人は少なくとも聖素を持っているだろうとは言われている。
しかし、その多くは聖法として使えるほどではないらしく、少なくとも「扱える」というレベルまで限定すると1000人いれば数人と言ったところらしい。
よって、事実上、聖素をまともに扱えるものはもっと少ないと言っていいだろう。
いわゆる神に選ばれた人間がその聖法が使えるのだ。
この町には教会があるから、待てばそのうち来るかもしれないが・・・どのくらい待ってから来るかはわからないという点が怖い。
聖法師は修行が忙しいということを理由に教会からあまり出てこないのだ。
しかも、何か依頼するとなると高い料金を請求してくるらしい。
それに、町に出てくるとしたらわりと町を出歩くことが多いドラガ・セルシコート・・・聖女様が一番確率高いだろうが、僕が出会った場合は聖女様の固有スキルでややこしいことにならないとも限らない。
少なからず僕は嘘をついているからね。
聖女様からしてみたら悪みたいなもんだろう。
・・・まずいな、こんな時、聖法が使えるジュライアが来てくれたらありがたいが・・・そんなにうまくいかないだろうなぁ。
そんなことを考えた直後だった。
「俺がやってやるよ」
聞き覚えのある声がギルド内に響き渡る。
なんともまあ、周りが噂話でうるさくなっている中でもよく通ることだ。
僕は直前に考えていた、黒覆面の小太りの姿を脳裏に浮かべながら声の元に顔を向けた。
ギルドの入り口から入ってきていたのは思った通り、ジュライアだ。
どしどしとわざとらしく足音を立てながらやってくると、受付嬢の持つ紫水晶の聖法具に手をかざす。
すぐにジュライア手から淡い緑色の光を放ち、水晶玉も緑色へと変化したがすぐさま黒へと変化し出した。
「こんなタイミングで聖法師?!」
「あ、あいつ!ジュライアか!!」
「得体の知れない奴だと思っていたが、そういうことか!」
聖法師と言われるのは、実際に聖法を使える人間だ。
世界全体を見ても3級冒険者の数よりは少ないくらいだろうが、4級冒険者ほどは少なくないだろう。
それが神の加護を受けた存在、聖法師だ。
僕も始めてジュライアが聖法を使った時にはビビったっけ。
ほんと、聖女様が来なくてよかった。
間違ってもスキルを使って問い詰められたら僕は聖女に殺されていたかも知れない。
聖女の敵たる魔法を操る魔人の指示に従って昇級しようとしているのだから・・・
あとで感謝をちゃんと伝えておこう。
そう思っていると、受付嬢が驚きの声を上げた。
「緑色になった時は起動したという証拠です、ね・・・今まさに緑色になったので、起動してます。・・・そ、それに、黒くなったということはたしかに魔素が検出されています!そして、表記は・・・・新種!!?それもおよそ4級相当、魔獣の可能性ありです!!!」
再びギルド内がどよめく。先ほどよりも大きい。
「ば、バカな!!?」
「魔獣だと?!」
「そんなもんがこの町の近くにいたのか?!」
「それをあの【ろくでなし】が倒したと!?」
いや、僕は倒せてないけどさ・・・
あえて言わないけど・・・
この世界で魔素が検出されることは滅多にない。
魔素は魔法を使うために必要なのであって、普通の魔物は持っていないからだ。
あるとすれば魔獣と魔人が関与する時となる。
つまるところ、今回は魔獣が現れたことが確定、その上に新種で4級相当ということだ。
これ、今回の昇格試験は通るんだろうか・・・
3級昇格のために倒したのが3級相当ではなく4級相当という・・・
「とりあえず、依頼は達成でいいですか?」
聞いておかなかければならないのはこの点だ。
「たしかに、達成と認められますが、魔獣の出現と同時に魔人も出現していたと報告を先ほどのクラリスさんから受けましたが、魔人はどうされました?」
と、通るの?本当に?あなたの一存で決められるのこれ?
あー、それに、そうだったな。魔人か、あれの説明はややこしいんだよなぁ。
「魔獣と戦ってたら気がついたらどっかに行ってました。もしかしたら魔人だったのかさえ怪しいですね」
めっちゃごまかす!
魔獣とは戦ってないしなぁ、それだけでも重たいのに、魔人なんて・・・本当だったらいなかったことにしたい!
ジュライアが、ハハハッと笑いながら僕の話に乗ってくる。
「魔人が居たのだとしたら、この町はとっくに滅ぼされてるだろ?もしくはこの後すぐに、だ。強い冒険者なんて今は出払ってるんだ。まぁ、そもそも強いって言っても3級冒険者が束になっても魔人にゃ勝てねぇだろ、心配するだけ無駄さ」
ジュライアが援護するようにさらに続ける。
「それに、今回は魔獣と一緒に居たところを目撃したから、アラハが勝手に魔人と思い込んだんだろ?見たこともないのに良くもまあ、そんなこと言えたな?」
極自然な話をしているが、明らかに僕が望む流れだ。
・・・ジュライアは事情を知っててごまかそうとしているな。
「あぁ、魔獣と一緒に居たからね。あれほど接近していたのだから普通の人間ではないと思ったけど、もしかしたらテイマーのスキル持ちだったのかも知れないが」
「可能性はあるか。まあテイマーの能力で魔獣まで手懐ける程なんて聞いたこともないが、普通の人間ではないことは少なくとも納得できるな」
「では、ギルドとしてはその人物は危険因子として捜索対象とします。特徴はありましたか?」
「クラリスからは聞いてないですか?」
「クラリスさんは混乱でまともに会話ができなかったものですから」
そういえば、クラリスは取り乱していたな。
逃げる時まではそこまで錯乱してなかったと思うが・・・もしかしたらあのロリ銀髪巨乳が精神系の魔法でも追加で掛けていたのだろうか?
まったく、魔法は恐ろしいな・・・
ちらっと、クラリスを見れば顔を覆って顔を赤らめていた。
本人もよくわからないのかもしれないな。
特に言及しなくてもいいだろう。
「特に特徴は・・・ほとんど一瞬だったし、顔も見たことがなかったな。なんというか、この町によくいそうな顔立ち服装の、体は上がっちりしだ感じで、明るい茶髪の初老の男だった。それ以上はよく覚えていない。役に立たなくて悪いが」
・・・正直、真逆を伝えてやる必要もなかったのかも知れないが、あの女がいつ僕の元にやってくるかわからないため、下手に敵対的なことはしない方がいいだろうな、という判断で、僕はそうすることにした。
クラリスがちゃんと情報を伝えられてなかったということからこそ使える手だが・・・
そのあと、色々ギルドの受付嬢に聞かれたが、適当なことを言ってごまかした。
魔人はもうどうでもいいからさっさと報酬の件をどうにかしてほしい。
「ちなみに、依頼は達成で良いとのことでしたが、4級討伐対象倒したので、4級冒険者とかに飛び級したりとか、あったりします?」
「いえ、申し訳ございませんが、それはないですね。例外は認められておりませんし、受けたのは3級昇格試験ですから」
さっきまでの少し焦りの入った表情を一変させ、営業スマイルでにっこりと断られてしまった。
ジュライアも「そりゃ無理だろな」と笑っていた。
まあ、わかってたよ。うん。あのロリ銀髪巨乳が宣言しとけって言ってたんだもん。
一応言っとかないとさ、うん。あとでなんで4級冒険者になってないんだ?とか言われてもぐうの音も出ないじゃない?うん。
ひとまず冒険ギルドカードを受付嬢に渡して、更新してもらうことにした。
10年近くかけて、やっと3級冒険者か。
少しズルをした感じになるが、そんなの関係ない。
老後の生活の安定のためだ。
僕はそのためならなんだってしてやる。
受付嬢からカードを受け取ると、僕はじっとそのカードの情報を確認した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
冒険者ギルドカード
冒険者名 : アラハ
冒険者級 : 3級
次級条件 :
3級討伐依頼を200回達成 未達成
4級討伐対象の討伐 未達成
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
4級討伐対象も未達成扱いなの?
これ、おかしくね?
とか思いつつも、受付嬢に聞いてみたが、ダメらしい。
魔核がないと受理できないとのこと。
昇格試験はいいのに、通常時はだめなんだな。
ジュライアは僕がまじまじカードを見てるのを見ると、くすっと笑う。
なんか上品な笑い方だな。
いつもの感じじゃないじゃん?
とか思った直後いつも通りの感じに戻って、「よかったな、んじゃ、俺は行くぜ、魔獣も運良く討伐されたことだし、魔人なんて居なかったってことだし」とハハハッと笑いながらその場を去って行った。
【ノウクライエの森』で起きてる魔素災害は問題だとは思うが・・・まあ今いる魔物も強すぎるというほど強くはない。
2級冒険者なら割となんとかなるだろう。
まあゼロ級の森ではなくなったけど、仕方ないとするしかない。
それに魔獣という魔素を撒き散らす原因さえいなければ、徐々に冒険者に魔物が狩られて落ち着くだろうからそのうちゼロ級の森という感じに戻ることだろう。
僕もカードを見るのをやめて、その後に続くことにする。
・・・今日のところはもう、冒険者ギルドに用はない。




