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魔人と魔獣と変態と?

人がほぼ居ない時間の【ヤールドの酒場】


本当に、なんで誰も居ないのに店を開けてるのかよくわからないが。



・・・目の前には黒覆面の小デブこと、ジュライアがいる。


カウンター席に座って、目の前に置かれたボロ布に書かれた数字を見て驚愕していた。



『ニエルガ特級貨30枚で落札された』



「これはなんだいジュライアさん、なんの数値なんだ?」



「書いてある通りだ」



久しく特級貨なんて単位を見たことがなかった。聞いたことはあるが・・・噂話とかで耳にするくらいの貨幣だ。


たしかニエルガ特級貨1枚はニエルガ大貨1000枚だったか?たしか、30億いや、違うな3000億ユルだ。


特級貨なんて聞くことすらないから、計算間違えたわわ。



・・・そんな額は一般人は使わない、というか大貨以前に中貨でさえ使わない。



一体誰がそんな・・・いくら酔狂でもそんな大金を払うような剣だっただろうか?

たしかに僕が一撃で木端微塵になるくらいには物凄いスキル付きだが・・・


いや、これはアレだ。

嘘だろ?



「いやいやいや、それが本当だっていうなら現物をくれよ。手数料差し引いて、競売価格折半にしてもニエルガ特級貨15枚近くあるんだろ?今持ってるの?」



「そんな大金、こんなところで渡せるわけないだろ。まだ小切手のままだ。一度引き換えたらその額は自分で管理して持っていないといけないからな。特級貨ではどこも取り扱ってくれないからな。実際は手数料10%取られて特級貨、27枚だけどよ、1枚の大きさもでかい。どうやって持っていってどこに置いとくんだ小切手の分割払いはできねぇぞ」


そういうことか・・・

たしか貨幣価値は大きい価値のある貨幣ほど1枚が重く、大きくなる。


大貨幣で換金したとしても、13500枚。持って帰るのは難しいほどの大きさになる。

大きさに関してはこれは盗難対策にもなっている。


大貨幣は1枚たしか80グラムとか100グラムとか?本物を見たことがないからわからないが、嵩張る上にやたら重い。それが13500枚など、持って帰れないし、一輪車とかで何回かに分けて持って帰ったとして、・・・いやもうそんなんものすごく目につくじゃんか。


日中、人の多い時間しか小切手の換金はやっていないからな・・・


なんとか持って帰れないことはないが・・・

そもそも大貨幣で渡されても、使えない。

どこで使えっていうんだ。


中貨でさえ一般的貨幣でないのだから、普通はこんな額は両替すらできないし、もちろん買い物しても釣りが足りないからお釣りさえ出てこない。


もちろんいちいち大貨幣を中貨幣に交換しにくるというのもありだろう。


しかし、僕みたいな【ろくでなし】=雑魚と広まっている2級冒険者がそんな額をいつものように換金してたら、強盗とかに命を狙われかねない。


護衛を雇うか?いや、絶対嫌だ。

即答する。


正直コミュ障気味の僕が、周りに屈強そうな男を連れて歩くなんて嫌すぎる。

しかも家まで守ってもらうなんて、嫌すぎる!!


「ちょっと待ってくれな、今考えてる」


「あぁ、待ってる」


ジュライアは何をするでもなく無言で座って前を向いていた。

緊張するでもなく、くつろいではいるようにも見える。

こいつの神経どうなってんだ・・・



思考を元に戻そう。

・・・では最初に受け取る際に中貨幣に換金するか?

それなら、・・・いや、それでも使える場所は限られる。


大貨幣より1枚の重さも大きさは比較的小さくはなるが・・・たしか30とか50グラムとか、そのくらいだったか・・・曖昧だけど、そのくらいだったと、思う。


そして中貨1000枚で大貨幣1枚だったはず、となると13500000枚・・・そもそも、とてもじゃないが持って移動できない。



ニエルガ貨になるとさらに軽くはなるが、同様の理由で変換できない!

保管場所すら困る量だ!


家を大きくして、管理しやすいようにしたとしても、限界があるし・・・すぐにはどうにもならないし、一度支払うことを考えると換金しなければならない・・・



流石に一般人には大金の管理は厳しいと言わざるを得ない。

そもそも格差社会において貧民である一般人はその名の通り金を持ってない。ほとんどその日暮らしだ。



あのオンボロ共同住宅じゃお金があるとばれた時点で強奪される気しかしないし。


トイレの窓からいきなり頭突っ込んでくる奴がいるくらいだ。簡単に忍び込める。



大金を持ち歩くのは論外だしな。そもそも持ち歩けないし・・・



今までに貯めた金額でさえ、合計ニエルガ貨で2~300枚くらいあるか?くらいだ。とは言っても銭貨で持っているのでそれでさえかなり嵩張っているのだ。



「困ったな。大金を持つだけの器がない」


「よくわかってるじゃないか。俺もだけどよ」



くすくす笑うジュライア。

そうだ、ジュライアも2級冒険者程度だったはず。だということは、今手に入ったこの金は現在どちらも手にすることができないと言える。


もし小切手のことが誰かにバレたら・・・今まさに命の危機に瀕しているのかも知れない。



もしかして、これは『タージャボルグ』の呪いのせいなのか!!?



くっ・・・もし僕が4級以上の冒険者であればな・・・


冒険者ギルドカードにお金を預けておく銀行機能無料で付く上に、年間0.001%が利子として預けた時点から1年経過した際に付与される。


冒険者ギルドじゃなくても普通の銀行もあるが、商人とかならうまく管理するのかも知れないが、僕みたいな一般人には開設も難しいし、まず僕には下級冒険者の時点で開設できない。

家族だったら話が変わってくるんだけど・・・僕は貴族ではない。


だから作らなかったけど、もし作ったとしても、年間の僕にとっては割と高い管理料の支払いがもったいなさすぎて嫌だった。


開設してる人の名前はなぜかバレるという風潮があるので、強盗にも襲われやすくなる。

銀行なんて使う人間は金持ちと相場が決まっているからな。



僕、めっちゃ雑魚だと思われてるしなぁ・・・金あるとわかったらすぐに狙われる自信がある。


『タージャボルグ』を手にした直後に大男に絡まれたが、もはや絡まれるのは比較的昔からよくあったことだ。

このご時世、どこに行っても治安はあまり良くないのだ。

しかも今は呪いの真っ最中。これは大金を手にしたとたん、暴漢やら美人局やらやたら襲われるやつだ・・・。


そういう未来が見える。見えるぞ。

予知能力なんてないけど、これはもうほぼ確定してる気がする。


ちなみに、冒険者ギルドカードに限らず、銀行は昔は年間3%、それ以上に旨い利益が出たらしいが最近ではそんな利益が出なくなっている。理由は知らないけど。



普通の銀行だと現在は使ってるだけで一般人が開設できたとしても、むしろ管理料のおかげでマイナスだ。でもまあ、ちゃんと使える人からしてみれば便利なので今でも銀行は生き残っている。



そんなわけで、少なくとも4級冒険者以上はそれ未満のランクにはないそういった優越権を持っている。無料で未だに年利が発生するのだからね。管理費用もない。利益が出るだけ凄いと言えよう。

今後はどうなるかわからないけどさ。


それに4級以上のギルドカードさえあれば全国各地の冒険者ギルドがやっている時間にギルドにある分だけ適宜お金が引き出せるというのも非常に旨い。


普通の銀行だと、なかなかそうもいかない。その地域でしか使えないというわけではないが、他の地域から引き出そうとすると手続きに何日かほど時間がかかるらしいのだ。しかも追加で手数料がまたかかる。


冒険者ギルドカードには特殊な聖法が使われているらしく、ギルドカードの持ち主にしかお金は引き出しができない仕組みになっているらしいので、お金さえそのギルド支部に有れば引き出せるらしい。



以前から利子がもらえるギルドカードの機能は欲しかったモノだし、現状の問題を一発で解決できる。

それに、0.001%とはいえ、預ける額が1350億ユルともなると年間で135万ユルが毎年勝手に収入として入ってくる!

もう仕事すらしなくていいだろう。


いや、まあさすがに何もしてないのに生きてたら怪しまれて、下手したら強盗に殺されるまであるがし・・・!


・・・だが、それ以前に問題がある。



「てめぇ、さっさと3級冒険者になっちまえよ。でもってその上の4級冒険者になっちまえ」



ジュライアは少し笑いを含んだ声でそう言ってくれるが、それが問題だ。

ジュライア本人も分かって言ってるのだろう。



「簡単に言うなよ。4級冒険者なんて、なろうとしたってなれないっつーの。3級ですらなれないってのに・・・はぁ。4級にさえなれれば、僕だって今回の金を安全に管理できて、かつそれで利子があれば老後安泰の夢に近づくからな。いつかは3級冒険者になってやろうとは思ってはいるさ」



「ったく、わかってるよ、そんなこと。で?じゃないとするならどうやって金を管理するってんだ?他の4級以上の冒険者に小切手渡して、管理してもらうか?」



「知り合いに4級冒険者なんていないし、金の大半を渡してまで、この金を欲しいとは、思わない」


冒険者は上に行くほど変な人が多いとは聞く、そして金に汚くなっているとも・・・


正直真っ当なやり方で上級まで行っている人間はいないとまで僕は思っている。


そんな人間に関わるだけ損だ。



「4級以上の冒険者に関わるなんて嫌なんだろ?俺だって嫌だよ。で、だ。2級依頼は必要数クリアしてるんだろ?だったらさっさとお前が昇級すればいい」



冒険者ギルドカードにはその者の氏名と冒険者の階級、次級までの条件とそのクリア状況が記載されていて、これまた聖法の力によって依頼攻略をしたことを冒険者ギルドの受付で申請すると刻まれる。



僕は今までに何度も見てきた次の階級、つまり3級冒険者になるための条件を見直した。



3級冒険者になるためにはそれ相応の依頼をクリア必要がある。



なお、現在カードには2つの条件が刻まれている。



1つ目は、2級相当依頼を100クリア。


まあこれは長年かけてすでにクリアしている。



2つ目、これが問題だ。3級討伐依頼を1つ単身でクリアすること。

ただし、年に1回まで受注可能。


その度に違約金を払う羽目になっているので、 嫌な気持ちになる。


地味に高いのだ。

全財産とは言わないが、25ニエルガ貨は高い。



僕は今までに10年間ほど時間をかけたが、一度も成功せず逃げ帰っている。

20代前半で2級になれたが、それだって3年かかかった。

普通の冒険者という奴は1年内にまず2級にはなれると言われているのに、だ。



強いて言えば、僕には冒険者として強くなる才能がなかった。そもそも冒険者になるには歳を取りすぎていたというのもあるが・・・



「3級討伐依頼を単身て、馬鹿げてるんだよ。冒険者ギルドの奴ら昇級させる気ないだろ?」



「まあ、できるやつはできるんだろ?それだけ冒険者の階級は難しいってことだな。4級の銀行機能付き冒険者ギルドカードはなかなか作るのが大変らしいからな。仕方ないといえば仕方ないさ」



3級になるための難易度は2級の比ではない。4級に至る条件はもっとえげつない事だろう。


だというのに、目的の機能が付与されるためには、最終的に目指すのは4級冒険者。

鼻で笑ってしまうほど馬鹿げている。



3級冒険者も普通という割には多くはない。この街では100人ほどか。

4級冒険者に至ってはこの街には居ないし、この世界全体で考えても200人もいないだろう。



そんな絶望的な状況になっていると、ジュライアが提案をしてくる。



「単身でっていう条件は、結局のところ1人しか昇級させないための条件みたいなもんだろ?誰か雇っちまえよ」



「それもそうなんだが、この街の3級冒険者って変なのが多いし、まともな奴に関してはまともすぎて、本当に『単身でやらないでどうするんだ!』とかいう正直者が多そうだよ。僕もそれ自体思ったことはあるけどさ」


同じ状況の冒険者と一緒に狩りに出かけたとしても、横取りされるだけだろうそんな気がしてならない。



「では2級冒険者を募ればいいだろ?」



「3級討伐依頼ができる者を3級冒険者とする。3級冒険者なら1人でクリアできる。これは本当に実力を反映させるための仕組みだ。それだけ級毎の開きは大きい。

そのまま2級冒険者なんて集めても3級討伐はほぼ無理だっつーの。

そもそもパーティ組んで2級から3級に上がれるような奴らならとっくに単身クリアってことにしてメンバーと同じ数だけ3級依頼攻略して3級になってるさ」



「・・・それがわかってるなら、競売にかける前にあの武器で依頼をクリアしておけばよかったのによぉ馬鹿か?」



・・・



「はっ!」


「て、てめぇ、それに気がつかなかったのかよ!」


「な、なに、これは作戦さ」


「苦し紛れすぎるっつの!」



た、『タージャボルグ』があるからまた高ステータス武器は手に入るだろうし!

先にお金を手にしたいと思うのが普通だろう!?


目先の利益にとらわれたというか、いや、でも手元にあったとしてもあの武器怖すぎて使えないし!


てか思ったよりも高額で売れてビビったんだけどさ!大金すぎて逆に手にすることすらできないとかは完全に予想外だったよ!



「なにが作戦だバカ!全く。まあ、そんなてめぇでも3級になれる方法がまだある。・・・最近、街の北側森周辺で3級相当の魔物が出たそうだ。まだ依頼は出てないがそのうち冒険者ギルドから発注されるだろう」



北の森てことは【ノウクライエの森】か、あそこは1級相当の魔物しか出なかったはず。巷では農家や商家の子どもでも倒せる『0級の森』とか『無害の森』とか言われてたりする。


そんなところに2級を飛ばして3級相当?

変異種や進化種にしてもそこまでレベルは跳ね上がらないはずだ。


あの辺りの魔物はあまりに弱い。

進化しようが変異しようが特に問題はない可能性が高いのだ。



「情報通のジュライアにしては随分とアレな話だな。あんな場所にちょっとそっと強い魔物が出ても3級相当の魔物なんて判定されるわけがないだろ?」



等級の判定は冒険者ギルドが行う。

主に、魔物の一部、毛や爪などを聖法具にかざすと何級相当の魔物か判定できるという物だ。


たしかにその判定は都市にあるそういった等級判定聖法具を使えば確実だが、このような地方ではそんなものはないだろうから経験的に判定されるだろう。

少なくとも僕はそんな聖法具使っているのは見たことがない。


実際、この街に至っては3級相当でも2級依頼で出されるなんてザラにあったりするため、依頼受注には魔物や土地の知識が必要になってくるほどだ。それでも見誤ることは多い。

だから、僕は1級のばっかり受けざるを得ないという状況になったりする。



「冒険者ギルドの掲示板に張り付いてな。2、3日で発注されるはずだ。それも予定では昼頃だ」


そう言って立ち上がると、話が始まる前にまで飲んでいた果実ジュースの代金をカウンターに置いて去っていった。


「まさか、ジュライア!お前僕が3級に上がるまでその金持ってる気か?!」


酒場から出る瞬間、一度立ち止まり親指を突き出して白い歯をむき出しにして笑顔で今度こそ去って行った。


「おおぉおいいい!!バレたらどうするんだ?!危ないだろう!?」


「てめぇが言わねぇかぎり問題ねぇ。あ、言っておくが、換金期限は残り1年を切ってるからな、頑張れよ」


「な、なんでだよ!おい!まてって!痛っ?!」



僕は1人絶叫しながら、椅子に小指をぶつけて足止めを喰らうことになった。



はあぁ、小指痛てぇ・・・もー、おっさんのどん臭さたるや・・・


「てか換金期限もあんのか・・・」


そんなことで外に出るジュライアを止めることは出来なかった。




はぁ。どう言うことだ・・・これは・・・



・・・ジュライアはなんだかんだ自分の身の守り方を知っている。


僕が4級冒険者になるのを本気で待つ気なのだろうか・・・にわかには信じがたい。


10年以上燻っている僕だぞ?



「三十路になにを期待してるんだアイツ」


独りごちるその言葉を聞く者は誰もいなかった。






ジュライアと酒場で最後に会ってから2日後、彼の言った通り、討伐依頼が冒険者ギルド支部ロビーのボードに貼られた。

それにしてもなぜ昼頃なんだ?普通は朝に張り出される。



それも3級討伐依頼だ。

【ノウクライエの森】でこんなことがあるとは・・・


歴史的にもなかったことだろう。



・・・今、冒険者の数は少ない。


もともとは昼頃となると依頼で外に出ていることが多いため冒険者の数が少ない時間ではある。だが、最近は依頼が減っていて冒険者がギルド支部は溜まっていたはずだ。

それに、ちょっと早めに来ていたが、冒険者が朝からほとんど居なかった。


・・・それには理由があった。



まず、昨日の段階で解決までに2、3日程度の時間がかかるが金になる2級や3級相当の依頼が沢山発注されたのだ。


そのため、現在多くの冒険者がこの街から出払っている。


あまりにタイムリーだから、ジュライアが何か知ってそうだな。

まあそれは後回しだ。


今残っている冒険者はその依頼のことを知らなかったか、なんらかの事情でタイミングを逃したか、はたまたそんなの依頼を受ける必要がないほどの金持ちや受けられないほど弱いか、だ。



そして現在、このロビーにいるのは金も力も無いような弱者のみ。


2級冒険者は何人か見知った顔があるが、その誰もがその依頼に疑念を抱いて取ろうとはしなかった。


普通に考えたら違和感を覚える依頼だからな。



だが、僕は違う。


すぐさまその張り布をボードから剥ぎ取り、受付に持っていく。



「あれ見ろよ、【ろくでなし】のアラハが3級に挑戦するみたいだぞ?」

「昇級試験か?無理だろ?」

「てか【ろくでなし】が仕事してるの何気に新鮮に見えるな」

「基本1級依頼ばっかり受けてやがるからな。あの腰抜けは」

「あぁ、だから迷宮で見ても2階層とかでしか見ないのか、遊んでるのかと思ってたぞ?」



「ははははっ!またわけのわからないハズレ依頼を受けようとしてるんだか、いくらなんでも内容がひどいってのによ、失敗に俺は賭けるぜ、誰か賭けようぜ?」

「俺もそっちにかける!」

「俺も!」

「おい!賭けになんねぇよ!」

「てかよ。よく知らねえけど、最近美人ちゃん連れて歩いてるじゃねぇか、正直死んでくれねえかな?でもって1人になったあの子は俺がイロイロ教えてやるさ、イロイロ、な」

「何馬鹿なことを、俺がその時は俺が教えてやるさ!」

「は?じゃあみんなで回せばよくね?」

「ちげぇねえ!!」

「ははっは!!!!」



嘲笑や失笑で僕の行動を迎える冒険者達。

失礼な奴らだが、10年以上いるのに、1級や2級冒険者の後輩にまで舐められている。


まあ仕方ない。


クラリスを連れて来なくてよかった。



受付まで依頼の布を差し出す。



「この依頼をお願いしたい。年1の昇級依頼として」


受付嬢は笑顔で申請を通してくれた。


受付が済んでからロビーで

内容は一瞬しか見てなかったが、これは・・・



++++++++++++++++++++++++++++++++++

場所 : ノウクライエの森(西方面)

等級 : 3級

報酬 : 80ニエルガ貨

内容 : 新種または変異種(仮)の魔物討伐

採取部位 : 新種または変異種と分かる部位

++++++++++++++++++++++++++++++++++



これは、新種や変異種じゃなかったときには依頼失敗になるんじゃ無いか?


情報がざっくりしすぎている。



あれ?結構まずい気もするぞ?

ジュライアの奴め、さすがにここまで微妙なものを寄越すとは思わなかったぞ!



まあ最終的には僕の判断ミスだが。


仕方ない。とりあえず準備を整えて出かけるか。


準備と言っても大したことはない。

場所が場所だしね。



クラリスを見学がてら連れてくか。

1級冒険者、それも初心者1人を見学程度に連れて行くくらい問題はないだろう。

最初の頃に、昇格試験にくっついて行く奴を密かに追って様子を伺っていた記憶がある。


・・・今思えばあの時にはすでにコミュ障だった。



家に戻ると、共同の庭でクラリスは木製の棍棒を両手に1本ずつ持って素振りをしていた。

ただ、その光景は異様である。


木製というか、棍棒というか、庭に生えていた木を根っこから引き抜いたものを使っている。

そのため、樹齢何年かわからんが、太い木そのものなのだ。


そしてその棍棒の太さや長さはどちらも僕より大きい。それを両手に持っているのだ。



あんな重い物、よく扱えるな。しかも2本も。


やはりこの子は人間離れしている。化け物というのはこういうのを指すんですよ。


異様過ぎる光景だけど、僕はツッコミないからな。



涼しい顔でゆっくりゆっくりと振り上げたかと思ったら素早く振り下ろし、かと思ったら素早く振り上げ、ゆっくり振り下ろすを両手で行なっていた。


筋トレをやりつつ素早く動く練習ということで僕が教えたやり方だ。


筋トレするなら辛すぎない程度の重さがいいぞとアドバイスしたらこうなってしまった。


気を根っこから引き抜いた時は冷や汗が出たものだ。


・・・そ、それで辛くない程度なの?え?

という感想を抱いたのは決して変じゃないだろう。


下手したら日に日にパワーアップしてるまである。


「・・・クラリス、今から冒険に行くぞ?」


「アラハさん!いつでもいいですよ!冒険、ですか?いつもの場所じゃないんですね?」


かいた汗を袖の布で拭き取りながら軽くストレッチをしている。その姿は健康的な美しさを感じさせる。


たしかに美人。だがおっぱいがないのは残念としか。



「あれ、今なんか失礼なことを思ってませんか?」


「なぜばれた?」


「胸への視線が凄いんですよ、ね」


苦笑のクラリス。さすがにガン見はバレたか。



「あー、まあ。冒険行こうか、さ、用意して」


「ちょっと誤魔化し方雑過ぎませんか?まあもう慣れましたけど、ちょっと水浴びますので、衝立持ってきますね!」



呆れながらも流してくれたようだ。


最初の頃はやめてくださいよぉ!と言って殴ってきたが、それが、かなり痛かったので、本気でやめさせた。

僕がセクハラやめればいいんだけどさ。



さて、その前に木を引っこ抜いたところを埋めなおすか、ここは借りてる場所だしね、と・・・んん??



引き抜いた場所の窪みに何やら金属製の長い物体があることに気がついた。


「なんだろ、これ」


引き抜いてみると、それは見たこともない金属でできたレイピアだった。



・・・うわぁ、この感じ、デジャブ。



もしかすると・・・こんなところから現れるとは思わなかったけど、『タージャボルグ』スキル発動してるか?!



そもそもなんでこんなところにレイピアが・・・


全く意味がわからないが、出てきたのだからそれは事実なので、受け止めるしかない。



てかレイピアなんて、使ったことないから高ステータスでもこんなの手に入れても正直困るんたが。


でたよ、もらっても困るシリーズ。



まあ、とりあえずどんな性能か、【ノウクライエの森】で試しに使ってみるか。



そんなことを考えているとクラリスが木製の衝立を持ってきたのでさっさと、窪みを埋めるのも大変だし、クラリスに木を植え直してもらうことにした。


もちろん僕はレイピアは腰に差している。

剥き身だからちょっと動きを気をつけないとね。


出かける前に即興で鞘作るとしよう。


「アラハさん、剣増えました?」

「うん、ちょっとね」

「なんか綺麗です!」

「でしょ?」

「高そうな武器ですね!」

「でしょ?」

「その剣、いくらだったんですか?!」

「え?」

「え?」

「じゅ、10ニエルガ貨くらい?」

「そんなに安いんですか?!」

「あ、え?あ。違うわ、10ニエルガ中貨くらいだな」

「え、高すぎません!?そんなお金どこに!?」


間違えた、金銭感覚ぶっ飛んでたわ!!



「え?冗談だよ冗談」


「またからかいましたね!!」


笑ってごまかすことにした。

今、拾ったしなぁ。何も考えてなかったわぁ。





準備をしてすぐに僕とクラリスはまだ日も高いからということで依頼の出ている町の外にある広大な森である【ノウクライエの森】に来ていた。


ここを突っ切れば隣国である、【レーグビッド公国】に繋がっている。

良好な関係とは言われていて、あまり国境がしっかりと決められていない。

まあ仮に突っ切って隣国に行ってしまってもあまり大事にはならない。


注意程度で済んでしまうと聞いたことがある。

行ったことはないのでよくわからないが。



もちろんこの【ノウクライエの森】、場所的には1級などの低級しかでないので、いつも通り、装備がかなり軽装だ。



・・・しかし、だいぶ予想外である。


さっきから違和感しかないのだ。



この森って、こんなに魔物いたかぁ?



森に入ったあたりはちょっと強い魔物がでて、珍しいな、とか思わなかったんだけど、奥に行くと大分印象が変わってしまっていた。



そんなことを思って困惑しながらも、僕は角が頭部の3カ所から生えた鹿の魔物をロングソードで袈裟斬りに続いて首の下から脳を仕留めた。


ちなみに、森に入った直後からこの三角鹿に遭遇していた。



まずこの三角鹿、1級討伐対象ではあるが、この森ではあまり出ないタイプの強い分類なのだ。

それをさっきから10匹は倒してる。


最初のうちは素材として売れる角を採取していたが、もはや持てなくなってしまったので放置である。



角が、嵩張って嵩張って邪魔くさい。



その他にも兎や猪、鳥、蜘蛛や蜂など、森に出てくる動物や虫から魔物化した程度の輩が何匹も出てきていた。

むしろこの周辺ではさっきから本来の動物や虫の姿は見ていない。



・・・おかしい。



この森には基本的に動物がメインであって魔物は、たまに、くらいだったはずだ。


背後はクラリスに任せてあるのであまり背後を気にしなくて良いのは楽だ。



パーティて凄いんだな・・・ちょっとじーんときた。



まあそれは置いといてだ。

ここ数日で明らかにクラリスは強くなっていた。腕力はそれほど変わっていないのかも知れないがテクニック、スキル的な面で強化されている。



元々素質はあったのだろうが、全く人間離れした怪力だ。

現在、背後では熊の魔物をその辺で引き抜いた短めの木で嬲り殺していた。

持ってきた棍棒には固執せず、場面に応じて投げたりして窮地に陥らない工夫ができていた。



目線を背後にやると、また1匹熊を狩っていた。


「おらっ!・・・あはっ!」


熊の頭がクラリスの跳び回し蹴りで吹き飛ぶ。

周囲が血飛沫で真っ赤に変色する。




怖。




・・・正直棍棒使わなくても、素手や脚だけでも相当戦えると思う。今後は体術も教えて行こう。


ついでに師匠は脆弱なので僕に暴力を振るうのは止めるようにも伝えておこう。赤子の首を捻る感覚で死んじゃうからねって。



そんなことを考えながら西方面に向かうと森の様子がさらにおかしくなった。


この状態のこと、本で読んだことあるな。

思い出せていればここまで来るまでに気づくこともできたかもしれない・・・

もうここまできたら割ともうどうしようも無いのだけども・・・



「これは、もしかすると」


「どうかしたんですか?」



突然立ち止まった僕に疑問を抱きながらクラリスがきょとんとした顔で覗き込んできた。



「いや、もしかすると、この先にいるのは3級相当じゃない可能性がある」



三角鹿を丸太のようなモノで弾き飛ばした直後にクラリスが僕の独り言に気がついて話しかけてくる。



「てことは・・・2級?せっかく3級だと思ったのに残念でしたね・・・」



まるで自分のことのように肩を落とすクラリス。

だかその考察はハズレだ。



「違う」


「違うってどういうことですか?」



「それはな、先に行けばわかると思うが、行かずにこのまま帰ろうかと」


「え!なんでですか?!」


「これね、多分、1級でもないし2級でも3級でもないんだよね・・・」


「でも行ってみないとわからないですよ!もったいないです!」



そう言ってズカズカ進んでしまうクラリス。


おいおい!やばいって!

もったいないのは命を散らすことだよ!


今まで僕は何を教えてきたと思ってるんだ?!

死なないための『生き方』だぞ?!



進むクラリスと僕を待ち受けていたのは・・・


「あれ?なんですか、虎さんと女の子ですか?」


「ま、マジか」



真っ先に目に入るのは目の前にいたのは金色の毛を持ち、両耳が長く尖った黒の縞模様の虎。

魔素が漏れ出しているのか、周囲の植物までも魔物化していた。



植物はそう簡単には魔物化しないのだが、よほど大量に魔素を吹き出しているのだろう。



森の中に魔物が多い理由はこれだ。

昔読んだ本に書いてあった。


僕が知る限り、アレの名前は・・・



「魔獣・・・」



そう、一般的は総じて魔獣と呼ばれる存在だ。


いや、そんなはずは・・・少なくとも、ここ100年くらいは魔獣など出現していない。



そして、もう1人、気になるのは人間に見える女の子・・・

しゃがんで虎を撫でている。


そして、アレはもっと、魔獣よりも、とてつもなくやばい・・・


おそらく、彼女は・・・魔人だ。



僕はじりじりと後ろに下がるが、魔人と魔獣を視界から外すような距離まで離れることができない。


・・・彼らが視界から外れたら、その次の瞬間には殺されるような、そんな気がしたのだ。



「魔獣?魔物と何が違うんですか??」


クラリスが僕の行動の意図を掴めずに普通のトーンで話しかけてくるので、立ち止まって解説することにした。今はそんなことしてる場合じゃないけどなぜかそうしないとクラリスが引き返してくれなさそうだったからだ。

クラリス連れてきて失敗だったか・・・



「・・・大概の魔獣は魔法を扱う魔物という認識だ。たしかに魔物と違って魔法を使う点は特筆すべき点だとは思うが、それ以上に厄介な点がある。それは、周囲を魔物化させることだ。魔素の放出を制御できず周囲を凶暴化させて災害をもたらす。今の状態がまさにそれだね。でもって非常に強い。少なくとも4級討伐対象かそれ以上だな」



魔獣がいる時点でもう逃げ帰るしかないんだが。


・・・てか、ジュライアもジュライアだ。こんなの戦いようがないっての!


これを3級討伐依頼とか、頭おかしいだろ。誰だよ判定したの!どう見ても違うでしょ!!

でもって、冒険者ギルドの奴らに文句言ってやらねば。お前らは4級と3級の区別もできねぇのか!その格の差は0級と3級の違いより大きいぞ!



てかさ、さらによくわからないのが、女の人が魔獣の横に座ってブラッシングしているのだ。



いや、ちょっとちょっと。ペットかよ。



魔獣も気持ちよさそうにされるがままだ。


ペットかよ!



そう心の中で二度もツッコミつつ、帰ろうとクラリスを引っ張ると「あの虎さん可愛い!触ってみたい!」とか言い出した。



「ダメだって!ただの虎じゃないから!魔獣!アレは怖いやつ!触ったらダメ!てか虎だったら魔獣じゃなくても触らないでしょ!」



「女の子は触ってますよ!?もしかしたら大きな猫ちゃんかもしれません!間違ってこんな場所に迷い込んだのかもです!」



魔獣ということをわかっていても完全に感覚を狂わされる事態になっているのは、確かにわかる。


いや、だとしてもおかしいでしょ!

こんな状況で触りたいとから思うか?!

それに!


「いや!アレもただの人じゃないから!」



魔獣に触れていたら通常、魔素によって人間を含む普通の動物は侵食され、拒絶反応で肉体が破壊される。


現在のあの魔獣は魔素をモロに出しているようで、周囲の草花さえ奇怪ない動きを見せていた。植物のくせに普通に動く!こいつ、動くぞ!?ていう。もうね植物系の魔物です!



だから、普通の人間が近くに寄ることはできないはずなのだ・・・


にもかかわらず、目の前ではペットのブラッシングでもするかのような光景を僕らに見せつけている。


ということは、だ。


・・・おそらく、あの銀髪の女の子は、魔人だろう。



それにしても、・・・遠目からもわかるが顔は結構整っていそうだ。そして胸が結構ある・・・あ。おっぱい。やべぇな最高かよ・・・


・・・・・・いやいや!ちょっと待て僕!そんなことは今はどうだもいいだろう!何を考えてるんだ!



魔人とは、稀に拒絶反応を起こさず人間が魔物化した存在。魔素は周囲にばら撒くことは基本的にはない。


そのため魔物災害は滅多に起こさないが、年齢とともに大概は強力な魔法を使うことができるため、その気になれば小さな国なら1日で落とせると言われている。


しかし、子供であっても侮ってはならない。

簡単な魔法くらいなら使えるだろう。

それだけで相当ヤバい存在だ。


こちらも滅多に現れない4級討伐対象かそれ以上の存在・・・

下手したら5級冒険者や勇者とかしかやり合わないような奴だ。



なんでまたこんなところに・・・



そんなことを考えていると、魔人が独り言を呟いた。



「そこにいるんやろ?出てきてもらってえぇんやで。危害は加えんよ」



・・・独り言だよな?

にしても、何この訛り?聞いたことがないが、方言か?


一応、何を言ってるのかはわかる。



「え、バレてないですか?!ここにいることバレてないですか?!」



クラリスが騒ぎ出してしまった。プチパニックという感じか!


急にどうしたの?!

さっきまでペットの猫ちゃん触りたい!て言ってたくらい能天気だったのに?!


独り言だったとしても今ので絶対ばれたよ!!


も、もしや、僕らはすでに魔人もしくは魔獣の魔法の餌食だったのかもしれない。


感情が変に揺さぶられる感覚、これは、精神系の魔法かもしれない。

そういうものが存在するとは、本で読んだことがある・・・


てことは、最初からばれていたのか・・・!?

待ち伏せ系の可能性もあるけど・・・魔法のことはよくわからないからなんとも言えない。



「くっそバレてたのか・・・危害は加えないらしいし、出てみるか。男も女も結局度胸だろ?」



最後は独り言だ。もはやどうにでもなれという気持ちである。



「女もですか!?」


「じゃあ男は愛嬌か」


「絶対違いますよ!?」


「あぁ、まあいい。クラリスは逃げて冒険者ギルドに通報してくれ、アラハさんが魔人や魔獣に襲われてピンチですと」


正直、僕が魔人や魔獣と出会ったなど、誰も信じないだろうけど、クラリスを窮地から救うことはできよう。


まさか、こんなところで最後を迎えるとは思わなかった。


いや、まだ死んではいないけど、もうこれは死んだな・・・ははは・・・


なぜだが、脚がここから離れられないのだ。そういう気持ちがしているのも、きっと魔法かなんかだろう。



「でも、アラハさんを置いてなんて」



クラリスが足を震えさせながらその場で僕を凝視する。

本能的に逃げたい衝動と僕を助けたいという気持ちが闘っているのだろう。

その証拠に、もしも逃げたいのに魔法で動けないなら、彼女は泣き叫んでいるのではないだろうか。



いや、【メルストークスの魔窟】で新ロングソードを使ったあの日、冒険者ギルドでのことを思い出せば、それは明らかだ。


あれは、僕のために何かできるか考えてくれたからこその事柄だ。

そして、この窮地でさえ、僕のことを考えてくれている。



・・・最後に、善い人間に出会えてよかった。


なぜか、そう思ってしまう・・・これは魔法のせいじゃないだろう。


そうだ、これは、僕の意思だ。



この意思に従って、僕は全力でクラリスを逃す。逃してやる!



僕は演技をすることにした。

人生最後の演技と思えば、だいぶ本気でやれる気がした。



「いや、小一時間は稼げる自信があるから大丈夫、だから早く行ってくれ」


「だ、ダメです!そんなことできません!置いてなんて!一緒に逃げましょう!!」



ニヤリと不敵に笑い、クラリスの頭を撫でる。



「僕を誰だと思う?アラハさんだぞ?クラリスの先生だ、わかるか?ここで2人で逃げ出したら殺される可能性が高いんだ」



逃げたら2人とも死ぬが、逃げて片方が残って時間を稼げば、逃げた片方は生き残れるかもしれないのだ。

僕よりはるかに足の速いクラリスならなおさらだ。


「でも!それじゃアラハさんが!アラハさんが!」



「むしろ逆に考えてみるんだ。僕が『生きる』ためにクラリス、君はギルドに全力で行くんだ!行け!速く!走れ!!!」


頭を撫でていた手を引っ込め、今度は思いっきり彼女の胸に向けて突き出した。


体術のスキルがたぶん、僕にはある。

たぶんというのは、ステータスを冒険者になってから十数年、見たことがなかったからだ。


魔物と戦う時に使っていた感覚をクラリスに向けて使ったのには理由がある。


精神系魔法には、痛覚により一時的に緩和できるというものだ。


そして、体術スキルと思われるそれを、今、使った。


突き飛ばされたクラリスは胸を痛そうに抑えながら、顔をしかめた。その直後目を見開いて天を仰ぎ、僕の言葉を口の中で反芻しているようだった。



そして、キッと前を見据え、いや、僕見て、いや、睨むように見貫いた。


良い目だ。どこかで見たことがある。

懐かしい記憶が蘇りかけた。


あれは、いつ、どこでだっただろうか・・・



「アラハさんがそう言うなら、わ、かりました」



そういうと、駆け出すクラリスはと逆方向、つまり魔獣と魔人の居る方に向けて全力で走り出した。



僕の『生き方』を誰かに君が教えてやってくれ・・・


それに合わせるように僕はすぐさま魔獣と魔人の方を向き直り、深く息を吸って、吐く。

飛び出そうになる心臓を心の中で押さえて、ゆっくりと歩き出し、茂みから顔を出す。



「どうもどうも、こんなところで虎ちゃんのお散歩ですかな?」



ふぉっふぉっふぉ、とまるで無害な老人を装う。


演技とは、なるべく、自分とは異なる自分を演出するほど、冷静になれるって、誰かが言っていた。誰だったか。あ。俺か。


もう、記憶が昔過ぎてなぁ、僕も結構生きたほうだ。



う、近くによればよるほど、少し気分が悪くなる。

・・・魔素のせいだろう。



そして近づいていくほどにわかることがある。


魔人は、巨乳銀髪ロングストレートの美人である。


・・・く、タイプじゃねえか、おい。ドストライクだばかやろう。


そしてそんなことを考えていたせいなのか、そうでないのかは不明だが、虎は「ガルルルッ」と軽く威嚇してきた。


すぐに美人がそれを鎮めると立ち上がって僕に向き合った。



おおぉ。こ、これは。


身長は僕より小さく、結構巨乳!

そして美人!真っ正面から見ても美人!!



完全に顔の造形とおっぱいの大きさ、雰囲気がどれをとってもドストライクもドストライクである。


・・・く、なんで、なんでだ!



・・・だが問題がある!


虎の横で立ち上がった女の子は明らかに、年齢が二十歳にも満ちてないというか、クラリスよりもさらに年下な可能性も・・・流石にちょっと減点かなあ、ぱっと見だともうちょいお姉さんかと思ったよ!


演技をしつつ、心は煩悩で満たす!

これが僕の作戦・・・



幼さは残るが、だがしかし!


美人である。



老人を装っていて、頭の中は煩悩だらけ。

うむ、なんか笑えてきた。



「さて、君は何しにここに来たん?」



屈託のない笑顔を僕に向けてくる。

心打つが違和感で直ぐに感情が元に戻ろうとする。


幼さを残す声。

訛りはどこの国かわからないけど、可愛い。

可愛いじゃねぇか!



くぅ。残念だ。見た目は小さい方がいいけど、この子は小さすぎる!こいつぁロリータだぜ!!



ロリじゃねぇんだ!僕が求めんのはそうじゃねぇんだ!もっとこう!あー!!

なんだっけ?僕はが、そう、今ここにきた理由は!



「えっと、美女を探して?」



変なことを口走ってしまっていた。

良い返しが思いつかんかったぁぁぁあ!


頭の中煩悩で埋めすぎたぁぁあ!!



ロリ銀髪巨乳は、首を傾げつつも笑顔のままだった。


・・・あ、なんというか、何故だか悪い子じゃない気がするわ、うん。


僕も屈託のない笑顔を心掛けて挨拶し直すことにした。



「ほら、今日は良い美女ウォッチング日和ですし」



気がついたら、さらに訳わからないことを口走っていた。

自分でもわかる。


もうただの変態である。



この瞬間、魔人と魔獣と変態という謎のトライアングルの完成であった。

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