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またかよ、頻度多くないですか?

酒場に入ると、残念なことに酔っ払いが激しくマスターに絡んでいた。


聞く限り、王都、それも王家に仕えている騎士団の一員らしい。

これはまた、大きいところの組織が出てきたね。



・・・ちなみに、別に騎士団自体が偉いわけではない、ファルビル王が偉いのであって、決して偉い人の兵士も偉いわけではない。まあちゃんと働いてる人は偉いかもだけど。少なくともこうやって恫喝しているようなやつはその時点で偉いとは言えないだろう。


マスターは相変わらずプルプルしていた。震えているようにも見える。

・・・可哀想だ、助けるしかないな。



「まあまあ、団長殿。ここは国の持ってる店でも、騎士団の持ってるお店ではないですし、お支払いはしないと」



「師団長だ!!言い方に気をつけろ!!!クソが!!!私に楯突くとはなぁ!!!!!良い度胸じゃねえか!!!」




うわぁぁ、沸点!!!



怒鳴るだけでは気が済まなかったらしく、ファルビル王国騎士団の第5師団長とやらは即座に短剣を2本取り出して襲いかかってきた!



ちょぉ?!えぇえ!!?

喧嘩っ早いにもほどがあるでしょう!?この酒乱め!!!





僕は使い慣れないロングソードで応戦するしか無くなってしまった。





第5師団長と名乗った男の獲物は諸刃の短剣2本・・・ダガーだな。


おいおい、その武器は魔物狩りや真っ向勝負の対人より、対人は対人でも暗殺向きじゃないか?



僕はロングソードを襲いかかる団長の目の前に突きつけて牽制する。



「ふん!長いからってダガーに勝てると思ったら大間違いってことを見せてやろう!!!」



どうやら僕の牽制は逆に相手のやる気に火をつけてしまったらしい。


意外と速くて、間合いに平気で入り込んでくるため、切り込もうとするが、斬りふせると同時に僕に刃が届きそうなので攻撃ができない。



後ろに飛んで距離を稼ぐと、今度は近場の椅子を投げてくる暴挙に出た。



「面倒な酔っ払いだよ!団長殿!!」



「私は酔ってなどいない!私に楯突く者は皆切り刻む!」



「十分酔ってんだよ!!」



酒にも自分にも!と付け加えたかったけど、余裕がない。



クラリスは対人のせいか困った顔で離れた場所、【ヤールドの酒場】の外から遠目で尻込みしてしまっていた。

マスターはといえばいつの間にかいなかった。


・・・みんな逃げ足が早くて助かるよ!



クラリスの方が僕より強い気がするけど、流石に経験不足か。

それに先生の面目が立たないしな。



仕方ない。本気で僕だってやらせてもらいますよっと!



「知ってます?団長殿!」



「何がだ!!」



「巷で話題になっている顔に刺青の男の話」



「・・・こんな時に何の話だ!ははっ?意識をそらそうとしてるな?そこの床が外れやすいことは知っているぞ?」



おっ、おっと、ばれたか。酔っ払いの戦闘狂のくせに頭が結構回るな。

だが、ここに来て、引くわけにもいかない。



「団長殿は知りませんでしたか!最近東の外れにあるとある廃墟にあるんですが!そこでは魔物を飼っていて!夜な夜な人を攫っては魔物に食わせているって噂ですよ!」



ダガーをいなしながら適当に話を作るのも大変だ。



「それが本当なら、とっくに騎士団の耳に入ってるだろうな!そして、そんな不届き者は捕らえて、この手で極刑処している!」



「嘘だと思うなら僕を倒した後で行ってみるといいですよ!僕を倒せるほど強い、なら、ですが!」



「愚弄するか!!」



僕は団長殿がダガーをさっきまでとは違う持ち方をしたのを見逃さなかった。



次の瞬間、ダガーが急に目の前から消えた、どうやら飛ばしてきたようだ。


しかし、僕はそれを読んでいた。

・・・飛ばしてくるだろうなと思ったよ。



そう考えたのとほぼ同時に目前まで到着していたダガーをロングソードで叩き落としながら間合いを詰め、眼前で回転し、その勢いで先程まで腰に差していたロングソードの空いた手で鞘を引き抜いて思いっきり側頭部を狙って叩きつけた。



団長殿は体勢が変わった状態での突然の攻撃に対応出来ず、唐突に頭部に衝撃を受けてそのまま地べたに這いつくばった。



僕は正当なやり方では勝てない。


なのでこうする。



「とりゃあ!おりゃっ!おりゃおりゃおりゃっ!!」



次々と割と本気で頭部をめがけて、鞘でタコ殴りである。



ある程度攻撃を加えると、どてっと音を立てて団長殿は動かなくなった。



酔ってる人間にこれだけ暴行加えれば普通に失神するわな。下手したら死ぬかもしれんけど・・・

防御力のステータス高そうだし、大丈夫だろう・・・多分だけど。



「アラハさん!さすがです!なんか偉そうな人まで倒しちゃうんですね!?」



危機が去ったことを察知したのかクラリスがようやく近くまできて満面の笑みで笑いかけてきた。

倒れた団長殿のことを心配するかと思っていたけど、意外と気にしていないようだ。



・・・正直、とても誇れるような勝ち方はしてないけどとりあえずどや顔しておく。



「途中までこの人のペースに乗せられてましたし、話術で外れやすい床板の場所まで持って行けなかった時にはどうなるかと思ったんですけど、勝因はなんなんですか??」



クラリスも気が付いてたか。

まあ、そう簡単に嵌る作戦でもないか。


「勝因ねぇ」



まあ、ダガーはそういう投げるという使い方ができる。投擲用の短剣でもある。



2本のダガー使いってのも気になったけど、先程椅子を投げてきたことや床板の外れ具合を確認していたこととそれを利用して僕が罠に嵌めようとしてるのに気がついたこと、僕が話でごまかそうとしていることにもすぐ気が付いたことからもこいつが一般的な戦い方する奴じゃないてのはわかっていた。



それになにより、コイツのダガーは片方だけやけに傷が付いていて、先端が少し曲がっているのが戦う直前にダガーを取り出した時に見えた。


動体視力良くて助かった・・・



投げて使っていると確信したわけではないが、なんとなく、戦い方とかからもそう思ったというだけだ、もしかしたら僕はここで死んでいた可能性もある。


だけど・・・



「アルコール多飲してる短気野郎って時点で僕の勝ちだったかな」



短気は損気ってね。



クラリスにはそういう考え方は口で言ってもわからないだろうけどさ。


とりあえず、飯でも食うか。



「マスター!」


僕はいつの間にか姿を消していたマスターに料理を注文するのであった。


おそらく団長さんもすぐには起きないだろう。


クラリスへのご褒美はちゃんと達成したいからね。





「アラハさん、えっと、流石にこの状態でご飯は食べにくいです・・・」



苦笑いするクラリス。



「なーに、気にするな。お持ち帰りにするから」



「そういうこともできるんですね!」



マスターに謎肉炒め2人前を頼んでいる間に、僕は床に落ちていた先端の少し曲がったダガーを拾い上げた。・・・すぐには料理も出てこないだろう。



「割と良い造りかも。ちょっと投げてみたかったんだよね、ほらよっと!」



投擲など、今までやったことはなかったので試しに投げてみた。



僕は目線で狙いは定めたが適当に投げてみると、しっかりとまっすぐに飛んで行き刺さった。



おぉ!!なんかすごくない?!僕以外と投擲の才能あるかも・・・って、んんん??あれぇ?



思いのほかうまくいった喜びで察知するのに遅れたが、投げた時に嫌な感覚に襲われていたことに気づいた。


うわ、なんかちょっと、頭痛っ・・・あ、治った。



「これはこれは・・・とりあえず記念にもらっておきますよっと」


なるほどね、そういうことですか。

投げたダガーを拾いに戻り、とりあえず着服することにした。



「え、流石に悪いんじゃないですか?」



「割と本気で殺しに来てたし、迷惑料てことでいいと思うんだよ」



「そういうのありなんですか?」



「まあそんなによくはないけどね。ただ、多分だけ、どこのダガー、呪いがかかってるからな。むしろ助けてあげる意味もある」



「の、呪い?!」



オーバーに飛び退くクラリス。顎が外れんばかりにあんぐりしているのがまた面白い。



「呪いって言ったって、そんなに怖いもんじゃないさ。効果はおそらく、狙った場所にまっすぐ飛ぶって感じか。はたき落とせば落ちる程度だ。代償は一瞬だが、二日酔いみたいな頭痛という影響は少ないが、何回もやってると頭おかしくなりそうだね」



団長はもしかしたらこれのおかげで出世してきたのかもしれないな。

暗殺として使えば、気付かれて弾かれない限りは百発百中。要人に向ければ恐ろしいとしかいえない。



「こんなもんで出世しても意味ないだろうに。これは没収しますよっと、お大事に〜」



マスターが持ち帰り用の木製容器に入れて持ってきてくれたが、入れ物の中には謎肉炒めの他にクズパンの詰め合わせがいくつか入っていた。



「助けてくれたお礼じゃあ。目が覚めたらそこの旦那も酔いが覚めて冷静になるだろうさありがとう」


あの酒乱振りからは普段の様子は想像出来かねるけど、まあいいか。



「ありがたく頂戴します。容器は洗って返しますね」



「わぁー!おじいちゃんありがとうございます!」



クラリスは遠慮もなく入れ物を掻っ攫うと笑顔でお礼を言っていた。

この子、何気に食い意地はってるからな。



こちらの用事は済んだので、再び団長殿に目線を向ける。



あー完全に伸びてるよ。


団長殿がまた騒ぎ出しても困るので団長殿の懐の有り金から団長が飲み食いした分をマスターに精算してもらい、【ヤールドの酒場】の外に引きずって行って路地裏に放置することにした。



さて、あとは家で持ち帰った料理を食事をするとしましょうか。





家に着くとクラリスと2人で「おいしい、おいしい」言いながら料理を食べた。



その後、僕は1人で外に出ると共同生活住居の塀の上に大きめの石を乗せておいた。


これがジュライアをいつもの場所と時間に呼び出す合図になる。



今日はもう遅いので、明日になったら【ヤールドの酒場】でこのダガーをジュライアに渡して売ってもらおうと思う。


性能良くても、呪われる武器なんて使い勝手が悪すぎるよ。



持ってるだけでなんとなくさっきから吐き気までは行かないものの、気持ちが悪いのだ。


さすがに身につけなければその症状はなくなるから、【タージャボルグ】よりは良心的な呪いかもしれない。



・・・もはや【タージャボルグ】も呪いの一種みたいなものではないかと思い始めたよ。




もし完全なステータスが見ることができるのであればもしかすると【タージャボルグ】によって呪い状態とかになってるかもしれない。

・・・まあそんなわけないか。



今まで確認された固有スキルであっても完全なステータスの確認なんてできないと言われている。


ステータスが確認できる聖法具などを使っても一気に全部見ることもできない上に誤差も大きく、状態に関しては見逃し可能性もあると言われているし、1回鑑定してもらうのにも結構お金がかかるから見てもらおうとも思わないけどね。



「それにしても、持ってるだけで直接ほんのり気分が悪くなるとはね。酒に逃げたくなる気持ちも分からなくもない」



そもそも持ち歩かなきゃいいのに、とも思わなくはないけどさ。


ひとまず部屋の隅にダガーを放り投げて寝ようと思った時、ふと虫が飛んでいるのを認識してしまった。


これがいけなかった。


地面に放り投げたと思った直後、僕に頭痛を感じさせながら、ダガーは物理法則を無視した弧を描きながら天井に遡り、突き刺さった。


おそらく虫を潰すように飛んでいったのだろう。



あー・・・一瞬だけど、最初にダガーを投げた時よりも頭痛が強かった。

これを何度も使う羽目になってたとしたら、しんどいな。



たぶん使うたびに症状重くなるやつだこれ。


なんだかんだ、少し団長殿に同情するわ。

こんなの毎日のように身につけて使ってたなんてさ・・・


想像したらゾッとした。



はぁ、予定通り、一眠りしようかな。



そう決めて、僕はベッドに向かった。










予期せずして出会ったゴブリン部隊を討伐した翌日、また、酔っ払い団長殿をお仕置きした翌日でもあるが、クラリスと共にメルストークスの魔窟で適当に低級魔物を狩りして15時頃に戻るという日課をこなした後、僕は【ヤールドの酒場】に来ていた。


「で?呼び出したってことはまた何か手に入ったのか?」



真横には覆面の男、ジュライアが頬杖をついている。


何考えてるのかは表情が見えないためわからないが、態度からは少し面倒くさそうにしている感じがする。


連日のように呼ぶなよってところだろうか。

しかし、ちゃんと来てくれるあたり良いやつだなとは思う。



まあ、とりあえず、わざわざ謝らないけどさ。

すまんなとは思う。



ふと目を外せば、相変わらずマスターは少しぷるぷると震えながら仕事をしている。うん。いつも通りだな。


さすがに体がまともに動かなくなってまでは働きたくはないが、でもまぁ何もしないよりはいいよな。

とか思考を逸らしてしまったことを反省しつつ、ジュライアに本題をぶつけた。



「あー、そうそう。昨日偶然拾ったんだが」



そう言って、酔っ払いの団長殿から奪ったダガーをジュライアに見せる。



「・・・なんだその小汚いのは?装飾はまあまあだが、先端が折れ曲がってるじゃないか」



「僕もそう思ったんだけどね、でも、これ、呪武器なんだよ」



「の、呪い?・・・そりゃあ、また大層なもんを。そんな代物がこの近くにあったとは知らなかった。どこで手に入れた?」



ジュライアに全部告げる義務はないんだが、とりあえず昨日の話をしておくことにした。



「ふーん。おめぇはよくそんなのに絡まれるな。最近特に多いだろ?それこそ呪われてるんじゃないか?」



あながち間違ってないんだよなぁ!

タージャボルグのスキル『真実遭遇』という名の呪いがね。僕の中ではもうこれは呪いの一種ということにした。



これは黙っておいた方が良いだろうから言わないけどさ。



「呪われてるのはこのダガーであって僕じゃないからな?そんなわけで、これも闇市に頼む」



「ぐ、呪いってことは持つだけで、なんというか、何かあったりするんじゃないだろうな?」



あからさまに躊躇するジュライア。まあ、呪いって聞いたら気になるか。



「まあ確かに少し持ってるだけでもちょっと気持ち悪くなるけど、実際に使わない限りはそんなに酷くもないよ。まあ少なくとも投げた時には頭痛くなるけど、それだけ。何度も使わなければ大丈夫だと思う」



ジュライアは恐る恐る受け取ると、べたべたという擬音が似合うくらいにお触りを始めた。


なぜか少し嬉しそうなのは気のせいだろうけど・・・よほど呪いの武器というのが珍しいのだろう。



「ふっ、ふむふむぅ。そうか。では、確かに受け取った。あ、そうだ、この前のロングソードは明日出品される。いくらで落札されるか見ものだぞ?」



「競売にかけたのか?そういうのは初めてだな、いつもは適当に闇市で売るはずだろう?まあ競売の方がすぐ売れる可能性はあるが」



「何しろ、おめぇが物凄い武器を手に入れるなんて初めてだろ?それに、競売の方が高く売れると確信してる。今回は大物にも伝えてある。きっと高値で買ってくれるはずだ」



自信満々にそう語ることから察するに、物凄い大物が来るのだろう。


闇市があるのは王都【スターズ】だ・・・誰が来てもおかしくはないが、大物か、誰だろう。


闇市なら他の土地からも来るかもしれないし、ジュライアの言う大物とは一体誰かは全くわからない。

まあ、誰でもいいか、誰が買おうとお金になるなら構わないさ。



「闇市に詳しいジュライアがそう言うなら、間違い無いんだろう。信じて待ってるわ。僕は闇市に立ち入りできないからね」



ジュライアは満足そうに目を細めると「それじゃあな」と席を立って、ドタドタと足音を立てて酒場から出て行った。



その後ろ姿を見てふと疑問に思う。


ジュライアて、身体のサイズに比べて頭小さいんだよな。小太りということすら思えないが、だとするなら物凄い量着込んでいることになる・・・別にどうでもいいけど。


さて、そろそろ僕も帰るか。



マスターを呼んで会計を済ませようとすると、ちゃっかり僕の分ま払ってくれていた。



ジュライアのやつ、なかなか機嫌が良いらしい。

これは闇市の競売、期待できるかもしれないな。


【ヤールドの酒場】を出ると少し太陽が傾き始めていた。

時期にこの酒場も栄えだす・・・



その前にこの場所から逃げるとしよう。

あんまり他の人に会いたくないしね・・・


・・・多少耐えることはできるが、それでもいじめられるのは好きではない。



・・・さてと、クラリスに座学の学習課題を出してるけど、ちゃんとやってるかな?


「たぶん、やってない気がするなぁ」


独りごちりながら、僕はクラリスの待っている共同生活住居に戻るのだった。


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