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あれ、僕より強くね?


クラリスと2人で【メルストークスの魔窟】に入ってもう3日目。

着々とクラリスは訓練メニューをこなしていた。



比較的混まない時間帯である午前11時頃の冒険者ギルドに行き、低級魔物討伐に関するギルドからの常時依頼がちゃんとあることを確認してから、あの人気のない酒場の開店するちょうどおやつどきの午後3時には帰宅していたので、実質4時間くらいだろうか。


朝と夕方になるとギルド混むからな。



ちなみに、地下2階のままではあるが、クラリスは特に問題もなく、魔物を倒している。


というのも、メルストークスの魔窟は各階が横に広い。

御多分に漏れず、地下2階も横にも広いため、奥に行けば少し厄介な魔物や多少強い魔物も出る。



そのため、現在クラリスは、不完全なスケルトンではなく普通のスケルトンはもちろんのこと、酸が厄介なスライムや血を吸ってくる厄介な吸血蝙蝠、身体を麻痺させてくる痺れ毒蜘蛛など、駆け出しの冒険者だったら割と殺されてしまうこともあるような少々特殊な魔物達も軽々と倒していた。



今までの僕だったらこんな魔物とは戦わないし、基本的に出会ったら避けたいような魔物ではあるが、今はクラリスの特訓をメインにしているため、『生き方』に若干ずれてはいるものの教えることにした。


少なくとも知っておいて損はないしね。



「アラハさん!やりましたよ!私、アラハさんみたいには派手にできないけど、結構やれてますよね!?」



「うんうん・・・て、バッカモーン!なにを言っとるか!こんなの初歩中の初歩じゃて!調子にのるでないぞ!」



ここ数日で格の違いを見せつけられてしまい、少し憂鬱な僕です。

威厳を保つために半ば必死である。


才能ってずるいよなぁ・・・



ちなみに、派手と言われた新ロングソードはすでにジュライアに渡してしまって手元にない。


ド派手過ぎて使えないよあんなの。

一振りで付近をなんだろうと破壊する感じがとっても使いにくい。



代わりに貧乏ストリートで再度購入したロングソードを現在は使っている。



使っていると言っても、出会った全ての魔物をクラリスが倒しているため、新規装備となったロングソードは未だに使えていない。


さっきから素振りをして手に馴染ませてはいるが、なかなかしっくりこない。柄の部分が前よりも少し太く、握り締めた時の感覚が違うのだ。



突然使わなきゃいけない事態になったらまずいなぁ、使い心地が違うからしっくり来ないんだよね。



それにしても、クラリスめ、簡単に魔物を倒しやがってからに・・・。



さっきの笑顔で振り向いて謙虚に報告してきた時とか、内心『いや普通に凄いんですけどぉぉお!!!クラリス天才かよこんちくしょうめ!!!先生ジェラシィ!!!』って感じだったよ。

さすがに言わないけどさ。



僕だったら冒険者始めて1年、いや2年は特殊な魔物と遭遇したら一目散に逃げていたというのに。



クラリス・・・すでに技術面でも僕より普通に強いよ。

3級まではかなり余裕かもしれん。



となると、もうちょっと下層に行って稼ぐとかもできそうだな。

それくらいなら教えておいても、良さそう・・・



そんなことを思っていた時だった。



「あ、アラハさん?!ご、ゴブリン!ゴブリンですよ!」



クラリスが何事か叫ぶため、目の前を見てみると、ゴブリンが3体、弓、短剣、槍を持って仁王立ちしていた。



「げ!?クラリス、逃げるぞ!ゴブリンは面倒だ!」



ゴブリンは大勢でいろんな手を使ってくる厄介なやつなのだ。

初期の冒険者ならしてみたら厄介な魔物の中でも上位に来る。僕にとっても厄介なことには変わらない。

たぶん3体以外にも隠れているはずだ。



それにしても、こんな階層にゴブリンていた記憶がないぞ?!



「わかりました!じゃあ逃げます!」



そう言って走り出すクラリス。



ったく、こういう場合、女子はただでさえ遅いのに、ゴブリンの目的は女性だから、より厄介なんだ!


僕が後ろを守らないと!



ここに来てやっと先生らしい展開に胸熱であった。

なんとしても守るぞという気持ちが湧き起こる。


だけど、守るにしてもクラリスの走る速さがどれほどのものかによっては戦術も変わって、って速!!!!?



振り向くともはや遥か先にまでクラリスの影は行ってしまっていた。



「えぇ?!僕より、ちょ、ちょまま!速いんですけど!!まじかよ」



こうなったらやることは簡単だ。



「僕もただ走り抜ける!」



僕はクラリスの後ろを追って走り出すのだった。



ふん、格好が良いとか悪いとか言ってうちはまだお子ちゃまさ。



こちとら生きることこそ第一なんだっ!



全力で走りつつ、後ろの追ってくるゴブリンと、前に潜伏しているゴブリンが居ないか注意しながら走る。



階層を1つ上がるための道はここからだと一本道だ。

でも、待ち伏せされたたらやだなぁ。

いや、さすがにないか、そんなにゴブリンいないでしょ、常識的な考えて。



ある程度走ると、目の前に突っ立ったままのクラリスがいることに気がついた。



ちっ、待ち伏せか?!嘘だろ!!


ここからではクラリスの姿はさえ見えないが、明らかに何かと出会ったであろうクラリスが吠えていた。


おそらく、この感じはゴブリンの待ち伏せだろう。



「もーう!あんた達がいたらアラハさんに言われた通りのことができないじゃないですか!むきぃーー!!」



クラリスが走り出す足跡が聞こえた。


ば、馬鹿野郎!


そう思って加勢しようとした僕はその先の光景が見えて唖然とした。



様々な武器を持つゴブリンが十数体、クラリスに向かって攻撃を仕掛けているようだが、クラリスはそれを全て避けて、ゴブリンを一体一体棍棒で薙伏せていた。



「えぇー・・・」


次々と、危ないと思わせる場面もなく武装したゴブリンを棍棒で殴って、薙いで、攻撃を華麗に避けてたまに空中で回転しては空いた拳や脚でゴブリンの頭蓋骨を砕いていた。



文字通り、あっという間にクラリスは十数体のゴブリン武装隊を倒しきっていた。



クラリスの動きは尋常ではない、物理法則はどこへ行ってしまったのかというほどだった。



ま、まじかよ、僕にもこんなことできないぞ?!



僕は天才を弟子にしてしまったらしい。


というか人間離れし過ぎている・・・!



クラリスがゴブリン達を倒した後、僕は魔核を取り出す戦利品運び屋モードに突入し、冒険者ギルドに戻っていた。



そろそろクラリスにも魔核回収のやり方教えようかな・・・



良い汗かいたとばかりにキラキラと目を輝かせながらクラリスが僕の元まで歩いてきた。


ゴブリンの伏兵や追ってもクラリスの戦闘を見て逃げたらしく、近くにはもういなさそうだな。



「ゴブリンて聞いていたより弱っちかったですね!」



「・・・冒険者1級相当ならまあ倒せるからな!まあビギナーズラックでいうものもあるから、精進せいよ!」



内心『いやいや!2級相当の俺でもゴブリン複数体なんて相手したくないよ!普通に怪我するし死ぬ可能性あるから!』と叫びつつ、クラリスを(たしな)めて威厳を保つことにした。



ギルドまで戻ると今日も換金嬢に魔核を提示して換金してもらう。


先日同様のよくわかってくれる嬢だ。

にこにこしながら対応してくれる。

おっさんとしては癒しだね。



「あら、今日はまた多いですね?それに、これはゴブリンの魔核ですか?」



魔核を見ただけでわかるとは凄いなと思ったりした時期もあったが、そういう聖法具を使っているということを後で知った。



魔核を所有していた魔物の名前が一般的なものであればすぐにわかるようになっているらしい。



「アラハさんにしては珍しいですねゴブリンなんて滅多に相手にしないでしょう?危ないところには潜らないようにしたほうがいいですよ?」



この受付嬢にはよく換金してもらっているから、もはや若干身内レベルの対応である。


・・・僕は相手の名前知らないんだけどさ。


クラリスを見れば何やら僕の後ろで大人しくしていた。

そういや昨日もそうだった気がするな。どうしたんだこいつ。まあいいか。



「・・・わかってますよ、まあゴブリンが地下2階に現れるようなそういう日もありますから」



「ゴブリンが地下2階に?ほとんど聞いたことがないですね・・・あ、ニエルガ貨3枚と銭貨3枚です」



お金を受け取りつつ、僕はゴブリンのことを尋ねた。



「2階層の東側の奥の方でゴブリン部隊が出たんだけど、あの辺りにはもともとゴブリンなんて出なかったですよね?」



「ゴブリンはそこで遭遇したんですね、アラハさんは随分と運が悪いようです」



うふふ、と綺麗に笑う換金嬢。

受付嬢を含めギルドで嬢をやるのは綺麗どころが多いんだよな。


嬢はさらに続ける。


「普通は出現しない場所なんですが、以前にもゴブリンと出くわしたという報告が上がっています」



なんだ、単純に僕の運が悪かったか。

いや、『タージャボルグ』のせいか?持ってなくてもやはり発動しているな・・・



「また何かありましたら報告くださいませ」


「わかりました」



冒険者ギルドを後にすると、ギルドに戻る前までは勢いの良かったクラリスが、再び息を吹き返した。



「さっきの人、凄く美人ですよね、私、綺麗な人は少し苦手です」



ということなのだ。

クラリス自身もそれなりに美人枠には入るはずなのだが、美人は苦手らしい。


え?僕はブ男ってこと?


ま、まあいいや。追求しない方が良さそうだ。僕の精神衛生上。

でも、綺麗な人が苦手とは、昔何かあったのだろうか?



「ゴブリン退治もしたしな、まあお金も入った。結構稼ぎが良かったからな、酒場でご飯でも食べるか?」



「いいんですか!!何の肉だかわからない料理が食べたいです!」



前に奢った時に僕が注文した謎肉炒めを気に入ったらしい。この前僕が外で食べたと思ってるだろうし。


この時間なら空いてるし、うん、行ってみるか。



さすがに【ヤールドの酒場】に行っていつもトラブルに巻き込まれるわけはないし、と、思いたかったけど・・・





しかし、最初に思ったことが現実となった。

やっぱり酒場に入ると早々にトラブルに巻き込まれたのだ。


入る前から薄々いつもと違うのは気がついてたんだけどね、怒声が聞こえるし。



「貴様!!私を誰だと思っている!?【ファルビル王家】に仕えし王国騎士団第5師団長の私に金を払えというのか!?」



あーあーあー、もう、最近厄介ごとしか起きないよ。


少し憂鬱な気分で、僕は酒場に入ることになったのだった。


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