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1章~ プロローグ ~


あれ?もしかして?


今思えば、そう感じたのは、後にも先にもきっと僕だけだったんだと思う。



少なくとも、こんな小さい田舎【メルの町】で、薄汚く貧困層しかいないような区画の露店にそんなものがあるわけないのだ。

誰かに言っても一笑されるだろう。



ふと、道から店の中を覗いただけでも見えた。

目と鼻の先であるカウンターに置かれたカゴの中、埃に紛れた一振りの剣に、僕の目は釘付けになっていた。



・・・何しろ、さぁ見てくれ、と言わんばかりに神々しく光り輝いているのだから。


そう、僕の目には、はっきりとそう映っていた。



「お、おやっさん。その光ってる剣・・・」



どうしてもその場から無視して立ち去ることができず、僕は店主に話しかけた。



客が見ているというのにボケーっと遠くを見つめていた店主は一瞬の間があって、やっと気がついたらしく僕を見上げてきた。いや、正確には気が付いてたけど無視していたのだろうな。




「・・・なんだよ、【ろくでなし】。お前が欲しそうなもんはねぇぞ」



店主は溜息を吐きながら、嫌そうにする。

僕は比較的長いことこの周辺に住んでいる。


もちろん長く住んでてもいくら小さい町とはいえ、知らない人間くらいは普通はいる、だが、店主は僕のことを知っている。


そう、【ろくでなし】と、蔑み、めんどくさそうに対応してくるのが証拠だね。


しかも僕が聞いたことは完全に無視である。



「いや、それを決めるの僕だから。・・・後ろの光ってる剣、とってくれない?」


「はぁ?・・・光ってる?何言ってんだ?」



呆れつつも店主は振り向くが、僕の目に映るものが全く見えないらしく、振り向いて舌打ちしながら睨んでくる。



「冷やかしか?あ?いい身分だな、おい、ハゲって言いてえのか?」



キレてるところ悪いけど、こっちも半ばおこである。

というか、お前の頭部がハゲ散らかしているのはわかるがその頭頂部の光沢の話じゃねえんだわ。


ったく。この親父、目が悪いのか?あんなに光ってるのに。



・・・いや、薄々気がついているんだ。


こんなところで光ってれば誰だって気がつくはずなのだ、それが、誰も気がついていないとなると・・・


そんなことを思いながら、あれだ!それ、いや違うよ!もっと奥だ、それそれ!と言って誘導してやるとやっとその剣を持って来てくれた。


イラつきながらもちゃんと対応してくれるあたりは、この町の人にしては優しい部類だろう。



それはおそらく、短剣だった。

間近に見ると、やっぱりギラギラという擬音も当てはまるほどに光っていた。


まあでもどちらかと言えば、表現するなら雲ひとつない夜空に浮かぶ満月の光のようだ。


違いがあるとすれば、周りが明るくても光ってるとわかること、か。


なので、もはや剣なのかも少し怪しい。だって姿がはっきりしないのだから。

ただの鉄棒とかである可能性すらあるわけだ。この店はそういう何に使うのかもわからないものを置いていたりするからな。


まあ、この町の貧困層しかいないような店ではそんなに多くのことを求めてはいけないのだ。


それにしても、太陽のように直視できないほどの光ではないのに、不思議な光だ・・・


だけど、間違いない・・・僕にしか見えないならやっぱり、尚更に可能性が高い!



「・・・これのことか?ったく、何言ってんだ。光ってなんかねぇだろ・・・あー。あと鞘から抜いても刀身は欠けて鯖ついてるし鞘自体ちょっと割れてるが・・・そうだなニエルガ貨5枚でどうだ?」



さっきまでブチ切れ気味の客対応だったのに、少し僕の食いつきを見てもしかしたらと思ったのか、即座にニヤリと笑いながら売り込んできた。


短剣だということはわかった、が、それだとしても一般的には明らかに高い額だ。

吹っかけてきているように思える、だがしかし!!



僕は内心興奮していた。

正直、金があるなら店主が吹っかけたと思ってる言い値で買ってもいいくらいだ。



僕の考えが間違えじゃなかったらこれはアレなのだ!伝説のあの・・・!



だが、僕は決して表情には出さない。



僕は盛大に、はぁ?という顔を作って言ってやった。


「こんな状態だったら銭貨10枚だろ」


実は途中まで財布を取り出していたのだが、財布を懐に戻す動作を加え、呆れた顔で、じゃあいらねえよ、と、態度と言葉を店主に向けると、店主は一つ舌打ちをした。


そもそも手持ちが銭貨15枚しかないため、ニエルガ貨5枚とか、どうにもならないんだよなぁ。



「たく、しゃーねぇな、こんなガラクタじゃ無理か。行けると思ったんだがな。・・・銭貨10枚な」


よしかかった!


「無理に決まってんだろ。家の蝶番みたいな役割で使うのにちょうど良さそうだったから買うんだ、わけわからない額ふっかけてるのは勘弁してくれな」



「たく、せめて武器として使えよ。と言いたいところだが、まあ、これじゃ無理だわな。蝶番にすらならないかもしれねぇ。ほら!やったんだからさっさと行け、【ろくでなし】め!」


銭貨10枚を渡すと、渋い顔しながら店主は短剣を投げよこした。


カチャリと、音を立てて、少し重みのある短剣が僕の手に収まる。


店主はつまらなさそうな顔で僕を追い払おうとして、しっしと手を振る。

踵を返して店から離れると独り言が聞こえてきた。


「拾いもんが10銭に化けた。俺は運がいい」


振り向けば、ニヤッといやらしく店主がそう呟いて手をひらひらさせていた。


さっきまで光っていた剣は、僕の手に収まると一瞬さらに輝いたあと普通の剣のように発光することはなくなった。ただ、錆付いた光沢のない小汚い茶色い短剣が収まっていて、少し手に錆が付き、小汚いという言葉がお似合いである。



・・・だけど、僕は確信した。


これは、かつて英雄たちが愛用してきたと言われる・・・伝説の『タージャボルグ』に間違いないと。



そんな伝説の剣を僕は店主の出した破格な値段であるニエルガ貨5枚をさらに50分の1の価格で買い取るという歴史的に見てもおそらく初であろう行為を行ったのだった。


店主としても『タージャボルグ』は文字通りに拾い物だったらしい。

もしかしたら、これも、なにかの運命なのだろうか・・・?


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