ちゃんと仕事しよう?
仕事を辞めた。また仕事を辞めたと言うと、辛抱が足りない、我慢が足りない、大人の態度では無い、とまあ、いろいろと言われる訳で、自分でもそうだと思うところはある。
反面、ちゃんとした仕事をしたい、という思いがある。
仕事を辞める理由は幾つかあるだろうが、私が仕事を続けられずに辞める理由は、なかなか身内には理解されない。
とある食品製造の仕事をしていたのだが、日本の中小零細企業というのは無法地帯だ。
どれだけいいものを作ったところで、売れる値段は変わらない。手間をかけてちゃんとした物を作っても高く売れたりはしない。卸す値段は決まっている。それがデフレというものだろうか。
そうなれば製造コストをいかに減らすか、というところが利益を出す為に重要になる。売れる値段が決まっているのだから、いかに安く作るかで利益が変わる。
食品を扱うところなのに、容器を洗うのに洗剤を使うな、というところだ。洗剤を使わないことでコスト削減になる。水洗いのみ。
いいのかこれ? とも思うがこれがその職場の仕事の仕方となれば、その通りにするしかない。
他にも、容器を洗わずに使うときも。
「それは洗ってあるからそのまま使え」
洗ってある、というが洗ったのは何ヵ月前のことなのだろうか? 中に緑のカビが生えている。
「ブルーチーズと同じで、そのカビは食べられるカビだから大丈夫」
こっちの容器は、中に白い粉が浮いている。
「それは乳酸菌だから、身体にいいんだ」
その白い粉の上に足の長いクモが歩いている。これを洗わずに使って、この中に食べ物を入れて加工するという。
「洗って乾かす時間も無いし、いちいちそんな手間をかけられるか。出荷するときは真空パックするから、そこで綺麗に見えたら問題無い」
こんなとんでもない作り方していたのか、この製品。これがスーパーで売られているのか。違法じゃ無ければ何をしてもいいらしい。うわ怖い。
この仕事をしてウン十年のプロを自称する上司は、これが職人技だと自慢気に言う。
「ほら、美味そうに見えるだろう?」
「美味いんですか?」
「美味いに決まっている」
聞いてみると、自分の作った物を十年以上、味見をしたことも無いと言う。それでよく出荷できるな、と逆に感心する。
味見をしない調理人の料理を信用しても良いのだろうか? しかも十年以上、自分の作った物を口にしたことも無いなんて。
しかし現場で働く人は、上司の指示通りに動き、これに慣らされてこれが当たり前になる。
同じ職場で働く人も、
「よくこんなもん金出して買って食う奴がいるもんだ」
「自分が作る側になると、食べる気無くす」
と、半笑いで仕事をしている。
いい仕事をしてちゃんと作れば赤字になる。利益を出すには偽装しないといけない。だから偽装する。カビや謎の白い粉やクモの巣やクモの脚が入っていても、クレームが無ければそれでいい。
「クレームが来たときに上が考えることで、現場で働く人間は言われた通りに仕事してろ」
クレームをお待ちしております。それが無いと改善とか、未来永劫無い。こういう食品の作り方してていいのか、利益を出すためには仕方無いのか。いやダメだろう。こんなクソ仕事やってられるか。
と、なって仕事を辞めました。違法で無いとは言え、こういう食い物の作り方して、それを見知らぬ人が食べている、それに加担している。それが嫌になって退職。こらえ性が無い、と言われたり。
人の食事に身体に悪いものを混ぜることに、遣り甲斐とか生き甲斐を見いだせたら、続けられたのかもしれない。
その前のことを思い出しても、碌でも無い。
工場で働いていたのだが、そこはパートが多いところ。かなり年配の人も働いていた。
そのパートの中でかなり年配の、もうおばあちゃんか? という人も働いていた。
その工場では課長、これがムカつくおっさんなのだが、この課長がパートのおばあちゃんを、蹴ってアスファルトに転がす。
パートのおばあちゃんも歳なのか、ミスが多かったりするのだが、そのミスを見つけては、課長は怒鳴ってこのおばあちゃんを蹴る。
蹴られて転ぶおばあちゃんを見て、他のパートのおばちゃん達が指を指してアッハッハと笑う。
課長が年寄りのパートのおばあちゃんを虐めて、それを他のパートさんが嘲笑って、これで職場の雰囲気が明るくなるのだ。なんだこの会社。
パートのおばあちゃんに、この仕事を辞めてはどうか、と言ってみたのだが、歳のこともありここを辞めると働くところが無いと言い、我慢して働いているのだと。
イジメというのは学校を出て社会に出てからが本番か。これが日本の工場か。まったく碌でも無い。
結局この職場では、その課長へのムカつきが我慢できず、怒鳴り合いして仕事を辞めた。
この職場で長く働く為には、課長と一緒に年寄りのパートさんを蹴って地面に転ばさないといけないらしい。バカバカしい。一刻も早く働き方改革してほしい。
他にも、親会社が視察に来るときに、製造方法を親会社に秘密にしている部品を、慌てて隠すことが大事な仕事だったりとか。
上司がバイトの女の子にストーカーしてて、その子を守るようなことしたら上司に睨まれて、それで仕事しづらくなったりとか。
上司が新入社員の尻を蹴り飛ばしてタバコ買ってこい、というのが日常風景のゲーム会社とか。
知らなかったとはいえ、何年も牛乳にカドミウムを混入するような製品を工場で作っていたりとか。
あ、牛乳にはカドミウムの安全基準が無いので、製造中に微量のカドミウムを混ぜても違法にはならないそうです。
私が修理した製品でカドミウム入りの銀ロウ部分が真っ黒に腐食していたので、混入してますね、これ。
製造業で働くことが多かったのだが、私が働いていたところで、偽装も無い、上司のイジメが無い、というところはほとんど無い。
日本の製造業で働く為には、偽装に目を瞑る、社内のイジメを見て見ぬ振りをする。これができないと、仕事を続けることはできないらしい。
そのあたりキッチリしているところもあるのだろうが、私は見たことがあまり無い。私を採用してくれる会社というのは、マトモじゃ無い。
業界トップの技術力を売りにしているところでも、検査の誤魔化しはあって当然というものだった。目視検査しているのが、老眼と白内障でちゃんと見えないと言っていた。それ目視検査って言うのか?
そういうところで働いていると、いろいろとバカバカしくなってやる気が失せる。
理想は、偽装の無い職場。上司が部下に暴力やハラスメントをしない会社。そういうところで働きたいが、どうやら製造業でそんな理想を形にした職場は、俺には見つけられないらしい。
友人とそういう話をすると、笑われた。
「建築業も似たようなもんだ。建築業の半分はペテンでできてるからな」
建築業で働く友人から聞いた話も酷いものだった。安く作る為に建材をケチって、三年もすればあちこち歪んでボコボコになって隙間風だらけになる。そんな家を新築で作る。
「床暖房を入れるには、熱に強い建材で作らないといけないんだが、そこを安い普通の奴で作る。そんなんで、作ったときは綺麗に見えても、そのうち熱で歪む。現場の大工は〇築士の設計通りに作るのが仕事。だけど〇〇〇築士なんていうのは、芸術家気取りの頭がおかしい奴しかいない。逆か? 頭がイカれてないと〇〇〇築士にはなれないのか? 現場の大工も『自分が住む家を作るんなら、こんな安い建材でこんなアホな建て方しねえよ』って、笑いながら家を建てているんだ」
派遣で働いているとき、もと建築業で働いていて、怖くて辞めたという人からも話を聞いた。
人材不足で人がいない、免許持ってるのがいなくて無免許でクレーン車の操縦をさせられていたという。
「免許持ってる人がいなくても、仕事はある。誰かがクレーン車を動かさないと仕事が進まない。それで無免許でクレーン車の操縦をしてましたよ。いつまでもそこで働いてたらヤバイって辞めましたけど」
私の知り合いでも、バイトで無免許で、フォークリフトを運転させられていた、という人もいる。
どうやら建築業も製造業とあまり変わらないらしい。自分も工場で仕事で溶接をしていた。溶接の資格とか持ってはいない。というか、その工場では仕事で溶接をするのだが、工場で働く人に溶接の資格を持っているのは一人もいなかった。昔は一人いた、という話だが。
溶接のことをよく解らないまま、ユーチューブの動画の真似をして、製品を作っていた。
そんな工場だから、現場で溶接のことをちゃんと知ってる人が誰もいない。
その工場ではステンレスも溶接したところから錆びが出るのは当たり前だというのが、勤めている人達の常識だった。
資格を持ってる人を安い給料で雇うのが難しいとなれば、現場で働くのは無資格無免許だらけになる。
これまで人と話すのが苦手な方で、もの作りの仕事ばかりしていた。リストラ、派遣切りも経験し、一度ワープアに落ちれば、マトモな職には着けない現実も味わった。
デフレの時代、いいものを作ったところで高くは売れない。ちゃんと利益が出る製品は、既に大手が国外の自社工場で作っている。
国内の小さな工場で利益を出すには偽装が必須。それを見て見ぬ振りできる大人の態度が、仕事を続けるコツ。
子供が学校給食で飲む牛乳に、カドミウムを混ぜたく無いとかいうのは、子供っぽいワガママらしい。違法じゃ無いからそれをおかしいと言う俺の方がおかしい、ということになる。二人に一人がガンになる、というのも解る気がする。
偽装も無い、ハラスメントも無いところで、モクモクと真面目に働いてはみたいが、そんな夢みたいな職場は見つからない。たとえ存在しているとしても、そういうところでは、俺を採用してはくれないのだろう。
愚痴ばかりでは面白くも無いので、最後にちょっとおかしい話を。
製造業以外の違う分野の仕事に挑戦してみては? という意見もある。
これはかなり前のことになるが、一度セールスの仕事に挑戦してみよう、と試してみたことがある。
ハローワークで紹介された羽毛布団のセールス。
その会社で面接をしてみたのだが、そのときに面接する社員にこう言われた。
「あなたは見かけが怖く無いので、うちに勤めるには髪型をパンチかスキンにしてしてもらうことになりますが」
お年寄りに無理矢理羽毛布団を買わせるタイプのセールスだった。俺には無理そうだったので断った。ハローワークもなんて仕事を紹介してやがる。