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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
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舌戦

またまたコメント頂きました。ありがとうございます。引き続きよろしくお願い致します。

軍営に戻ると、趙兄弟が孔明の下に呼ばれた。滄海と劉禅は、幕営で留守番である。1時間ほどで二人は戻ってきた。

「どうであった?」

「激賞されました」

「詳しく申せ」

孔明は、もし我々が負けていれば、全軍が引くしかなくなり、莫大な損害をこうむっていた。初戦で、大将の子を4人も討ち取ったのは我が軍に勢いをつけ大勝をもたらした。今回第一の勲功であると激賞されたと説明した。

「そうであろう」劉禅は満足そうに頷いた。さらに今日生き残った30騎の兵が「是非、我々の元で行動したい」と言ってきているそうである。

「ゆるす。暇なときに調練いたせ。朕も参加する」

趙兄弟は、孔明にその旨伝えに言った。程なく30騎が劉禅の幕営地に集まる。そこで趙兄弟は、劉禅をこの隊の隊長であると紹介した。また、我が隊は極秘任務を扱うため、隊長は兵卒の格好をしている。このことは、絶対に口外しないこと。話した者は死罪である。また、真の隊長がばれないために隊長への挨拶は禁止とする。挨拶は、我々兄弟にのみおこなうことと言い含めた。

それから、2時間後に上級将校の軍議が始まった。趙兄弟はそれに参加する。滄海は、新しく来た30名に調練を課した。すこしでも強く生き残れるようにしなくてはならない。しかし、元々は後ろにいた兵なので、見所のある者は少なかった。しかたなく、滄海は、2人一組、3人一組で戦う方法を調練させた。

ほどなく趙兄弟が帰ってくる。明日からは、夏侯楙に全面攻撃をかける事になる。陣容は、今日と同じ。劉禅は、しばらく考えて、

「明日は、後陣に付き、新しく来た30騎の調練を重点的に行う。相父に伝えてまいれ」

趙統は、駆け出していった。

 次の日、全軍は朝早く進軍を始めた。夏侯楙は孔明の相手になれる男ではなく、すべての戦闘で蹴散らされた。4日後、敵はほとんど殲滅状態になり、夏侯楙も生け捕られた。その間、劉禅騎馬隊は、非常に激しい調練を行い、ようやく統率された動きを取れるようになる。特に滄海の調練は容赦がない、何人か死ぬのではないかと劉禅は思った。その日の夜、劉禅は滄海に、調練が厳しすぎるのではないかと意見した。すると滄海は、

「陛下、お言葉ですが、師匠の調練はもっととんでもなく厳しゅうございます。」と頭を下げた。

「しかし、あやつらは、お前のような才能のない者達じゃ。もうちょっと手加減してやらねば参ってしまうのではないか?」

「いえ、そうではありません。手を抜けば、甘えが生じます。甘えが生じれば、上達に支障があります。だから、甘えさせてはいけないのです。陛下の大切な兵を傷つけることは致しませんので、どうかご安心ください」

「・・・わかった。もう良い」

滄海は平伏して下がった。その後、軍議に参加していた趙兄弟が戻ってきて、明日から2日間休息日にするという連絡を受けた。2日間、劉禅騎馬隊は調練に明け暮れた。すると、2日目の軍議で趙兄弟が信じられない情報を伝えられてきた。何と、魏の領土である、安定、天水の二郡を制圧したというのである。

「信じられぬ」劉禅は呟いた。どうやら孔明は、生け捕った夏侯楙を使い、偽の命令書を作らせたらしい。それを関興・張苞に持たせ、計略により労せず二郡を手に入れた。

「驚く、ただ驚くのう。相父には・・・」

劉禅は言葉が出ない。驚いたのは孔明の策にもだが、その思いっきりの良さである。この作戦に関興・張苞という若手のエース的な存在の二人を使った。もしも、策が破れたとしたら二人は死地に追いやられることになる。しかし、孔明は至極当然という具合に二人を策に使い、見事に二郡を手に入れた。自分だったらと劉禅は考える。同じ状況で、使えるか?答えは否である。自分には決して真似できない。そこに孔明の凄みがある。己に対する絶対的な自信、それが劉禅には堪らなく魅力的であった。あまりの感動に劉禅は、

「相父に会いたい」といってすくっと立ち上がった。

「いけません、陛下」趙兄弟が慌てて止める。

「今お会いになっては、まずいことになります」

それがわからぬ劉禅ではないが、自分の感動を自分で持て余した。

「ならば、褒美を授けよう」

しかし、手元には何も持ってはいない。どうしたらよいか?劉禅は3人に諮った。しばらく考える。すると趙広が

「陛下、丞相は贅沢を好まぬお方、必勝のお守りを届けられたらいかがですか?」

「なるほど、それがよい。早速道具を集めよ」

趙兄弟が、赤い糸と白い糸を用意する。これを朝日が昇るときと日が落ちるときに、交互に編み込み、腕輪のような形のものを作るのである。これには3日が掛かった。ようやくできたお守りを満足げに見つめる。それに、大絶賛の手紙も添える。成都から夜通しでくれば5日で着く。このお守りは5日後に渡すことにした。5日後、受けとった孔明は、成都の方向に向かって平伏し、陛下は私というものを本当に良く分かっていらっしゃる。我が国の将来は明るいと大声で言って三拝した。このことを趙兄弟から聞いた劉禅は、大満足し、助言をくれた趙広に少なからず感謝した。

 制圧した二郡の完全制圧までに7日間を要した。制圧が終わると、いよいよ長安への進行を開始した。魏も、国防総司令曹真を長安に向かわせ防衛についた。両軍は渭水の西で向かい合った。ここで、弓矢ではなく開戦にさきだち、一言物申しあうという約束である。

我が軍から、四輪車に乗っている孔明が現れる。その周りには、関興、張苞のほか屈強な兵で左右を固める。孔明は、魏軍の正面で四輪車を止める。敵軍からも一人の老兵が馬に乗って現れる。敵の老軍師王朗である。王朗は、曹操の時代から使える魏の重臣で歳76になる。王朗は、孔明の前にぴたりと止まると話し始めた。

「孔明、まずは我が一言を聞け」

「ほう、王朗であるな。久しぶりに生ける姿を見た。言うてみよ」

「昔、襄陽の名士、みな君の名を言う。君は元々、道を知る人、また天命の何たるかも知り尽くしている。なのに多少時流に乗るや、この度の大義名分の無い戦を起こすとは何事か」

孔明は、口に微笑をたたえ

「誰が無名の戦と言おう。我は漢の大臣、逆賊を撃つのは当然であり、民を苦しみから救うのが役目である」

「若気の至りと嗤っておこう。なお聞け孔明、君は魏の大帝(曹操)を指してそういうのであろう。しかしながら、天数は変あり、徳ある人に帰す。古代から争い群雄みな覇王を僭称する。我が太祖武帝(曹操)も民を慈しみ、徳を磨き、ついに大魏国を建つ。今では四方その徳を仰ぎ、徳に帰し、漢から魏に変わることは天命に定められたことである。しかし、君の主玄徳はどうであったか」

いま王朗は、自負するところの弁舌で舌戦を仕掛けてきたのである。つまり、曹操の上に天命があって、劉備には天命も実力も足りない。にもかかわらず、劉備が、漢族の系図のみを根拠として、蜀を治めているのはおかしいと中国の人民は批判しているぞと論じている。さらに続く、

「君も玄徳の偽善に惑わされ、誤った覇道にその大才を歪めては、世の笑い種になる。しかし、君が玄徳の遺言に従い、孤児を守る忠節は見事であると誉める気持ちはあるが、武力を持って魏を攻めるという志を持っていては、蜀を自ら破滅に追い込んでいる救いようの無い馬鹿者であると云わざるおえない。身、丞相の位を貰い、蜀主の安泰を祈るのであれば、即刻鎧を脱いで、降旗を掲げよ。さすれば、両国の民も心安く、良い暮らしをすることができる。しかし、否というのであれば、天誅たちまちにして蜀の一兵たりとも生かして帰ることはできないであろう。その罪は、孔明、お前が背負うことになる。孔明、否か応か心をしずめて答えよ。」

王朗の大演説である。その説くところは、魏という国の成り立ちの正当性である。近くで聞いていた馬謖は、昔、季布という者が漢の高祖を陣頭で論破し、その兵を破ったことがあるのを思い出した。王朗が狙っているのはこの効果だ。はやく孔明が論破してくれるといいが、彼は心配そうに孔明を見つめていた。やがて孔明は、おもむろに口を開いて

「申されたり王朗。あなたの口調は誠に良し、名演説だ。しかし、その内容は、自己陶酔と欺瞞にあふれた聞くに堪えない内容であった。ならば、まずは説いて教えよう。汝はもと漢朝の旧臣、魏に寄食して、老いを養おうとも、心の底には、なおいささかの良心でもあるかと、はじめは敬老の心を持って対したが、心身すでに腐りかけ、大逆の言葉を堂々と吐こうとは、あわれである。昔の英才も、魏に飼われるうちに駄馬と成り果てたか、独り汝にいうのはもったいない。両軍とも、しばし静かに我が言葉を聴け」

理は明晰、声は朗々、激することなく孔明は続けた。

「昔、霊帝ご微弱におわせられ、為に漢統乱れ奸臣はびこり、田野年々凶を重ね、乱世の様相を現した。のち董卓出て治まったかにみえたが、董卓の傍若無人の行いはさらなる乱世を招き、あわれ漢帝を民間に流浪させ参らせた。奴顔婢膝の徒、あらそって道を唱え、政を私欲に摂る。それを傷む真の人はみな野に隠れ・・・、王朗よ。耳垢をのぞいって、よく聞かれい。」

孔明は声を張った。両の袖を勢いよく払うと、羽扇をしっかりと持ち直す。その右手首には劉禅の贈ったお守りがしっかりと結び付いていた。

「その頃、予は天の時を信じ、晴耕雨読に励んでいたことは先に汝がいったとおりだ。しかし当時の人、みなひそかに、朝臣と為政者の行いを怒らざるはなかった。我もとよりよく汝を知る。汝は先祖代々漢朝の厚恩を受けた家系、しかし、漢朝危うきという時にも、奸を除き、汝が陛下をお助けしたという話を聞かず、ひたすら時の権力者に媚び、賢しげの理論を立てて歪曲した文を作り、賊子が唱えて大権を盗む手伝いをして栄爵を得、贅沢三昧をして76歳の高齢まで生き抜いている大怪物。それは汝王朗ではないか。予が蜀の総帥という立場ではない一般人でも、八つ裂きにしてその骨を野犬に喰わしても飽き足らない気がする。誠の正邪を決め、一世を光明に導く大戦は、汝の得意とする世渡り上手の手先口先で勝てるものではない。家に潜んで老欲を貪っていればまだ許しておくものを、なにゆえみだりに陣前にのさばり出て死屍をさらし、何の面目を持って黄泉の下、漢皇二十四帝にまみえるつもりか、退がれ、老賊」

最後の一喝は、老将王朗の胸を矢のごとく貫いた。蜀の陣営は、わあーっとその弁舌を指示した。劉禅も大喜びで歓声を上げている。それに反して魏の陣営は静まり返ってしまった。しかも、王朗は恥じ入るがごとく俯いて居たかと思うと、馬から落馬してそのまま息絶えてしまった。

孔明は、「人の喪につけ入って勝利を得ようとする予ではない。明日、新たに決戦する」と言い放つと軍を返した。

次回は「暴走」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。


追伸 諸事情で更新が週一くらいになるかもです。見捨てないでね。

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