初陣
またもやコメント頂きました。テンション上がります。また、評価などもしていただきましてありがとうございます。今後も頑張りますので引き続きよろしくお願い致します。
いよいよ初陣、先陣の大将は馬岱である。騎馬隊の隊長に断りを入れると、「何かありましたら、何なりとお申し付けください」と丁寧な対応をしてくれた。まあ、趙兄弟の方が階級は上であるし、劉禅の命令もあるので当然といえば当然である。騎馬隊の後ろに並ぶ。
「趙統、わくわくするのう。しかし、こんな後ろで大丈夫か?」
何が大丈夫なのか?と聞かれているのかわからなかったが、趙統は、
「一番後ろの方が安全です。また、いざという時には我々が殿となり仲間を助ける役目を負います」
「そうか、秘密兵器というわけじゃな」満足そうに一人頷いている。
行軍が始まった。敵の総大将は夏侯楙、夏侯家の流れをくむ魏帝の従兄弟である。しかし、今回の相手は韓徳であるらしい。韓徳は西涼の豪族で、8万の兵を率いて何か手柄を立てて恩賞に与ろうとやってきた外郭軍の大将であった。彼には、4人の子供がいて、皆武術に優れ騎馬戦を得意としている。夏侯楙は、まずは正規軍ではない韓徳の軍を使って蜀軍の力を計ろうとした。
いよいよぶつかり合いが始まった。まずは歩兵と歩兵がぶつかり合う。
「凄い、これが戦か」劉禅が震える声でいう。体もがたがた震えている。
「陛下、大丈夫ですか?」不安そうに趙広が声をかける。
「・・・・・」劉禅は黙っている。
「陛下」心配になった趙広が顔を覗き込むと劉禅は笑っていた。
「くっくっくっくっ・・・わーはははははっ」ひとしきり笑うと劉禅は興奮して
「いいぞ、我が兵が敵をなぎ倒していく。あー、今度はやられた。押しておる、我が軍優勢じゃ。こうしてはおれん。趙統、早く加勢に行くぞ」
「お待ちください。あれをご覧ください」趙統が示すほうをみると、自陣にある赤い旗が大きく円を描くように振られている。
「陛下、動きます。お気を付けください」
「おう」
劉禅の所属する騎馬隊が進軍した。馬はいきなり走らせると直ぐに疲れてしまうので、途中までは、手綱を持ってともに走る。愛馬「清流」の手綱をとって劉禅も走った。武を好む劉禅の稽古は激しいもので、このようなことは大した苦にはならない。30分も駆けたころ、「乗馬」という指示が聞こえた。素早く馬に乗る。10分ほど早く走らせ、馬のコンディションを整えた。その後、並足に戻す。
「左前方に敵、殲滅せよ。突撃!」
騎馬隊隊長の命令が飛ぶ。
「滄海、陛下の右を頼む。」
滄海が劉禅の右前方に進む。
「陛下、我々から離れないでください」
趙兄弟が左側に並び、戦闘準備に入る。
「わかっておる」劉禅がしっかりした声で答える。
騎馬隊の速度が上がる。敵影だんだんと近づく。そして両者の顔が見える位置まで来て、ぶつかった。凄い音と衝撃である。軍は大抵強いものが前にいき、弱い者が後ろになる。
前の戦いは強者同士、なかなか決着がつかない。その間に、後ろの兵が回りこみ敵の後ろを崩そうとする。この度の戦闘もそのような形になる。
(今回り込めば)というタイミングであるが、今回は劉禅を守り抜くことが絶対である。当然、受けに徹する。やがて、敵が現れた。
「我こそは韓徳の三男、韓瓊である。我が槍の餌食になりたいものは前に出て来い」
大声で叫びながら、向かってくる。味方の兵士が向かっていくが、2人3人と突き刺され、落馬していく。5人やられた所で味方の兵の動きが止まった。どうやら怯んだらしい。
突然、大声が響き渡った。
「見事な武者振り、朕が相手してやる。果報に思え」
飛び出そうとする劉禅を趙統が押さえる。
「お下がりください。危のうございます」
「味方の危機である。黙って見ている訳にはいかぬ」
すると、滄海が
「しばし、頼む」
といって韓瓊に向かい走っていく。
「やられにきたか」ニヤリと笑い、韓瓊が渾身の槍を突き出した。その槍を滄海が振り払う。敵の槍が弾き飛ばされる。刹那、その身体は貫かれていた。槍を引き抜くと、身体が馬から落ちる。一瞬、静まり返ったが、やがて味方の大歓声が起こった。味方が奮い立ち、猛然と襲い掛かる。滄海は何事もなかったように元に戻ってきた。その姿を三人は賞賛の眼差しで見つめた。味方優勢かと思われたが、隊の前衛は、味方が完全にやられており、隊長も首をとられていた。果たして、敵の前隊と劉禅たち後陣の戦いとなる。回りを見渡せば、味方の騎馬は30騎くらいに減っていた。敵は倍以上の数がいる。しかも前衛の精鋭部隊である。
(逃げるか?)趙兄弟がそう思った時、聞きなれた大声が聞こえた。
「皆のもの、怖気づくでない。こちらには、軍神がついている。先程の闘いを見たであろう。我が軍には軍神がついている。怖気づくものは見放されるぞ。朕の後について来い。総員突撃」
そういうと自ら馬を飛ばしていく。あぶない、滄海も趙兄弟も慌てて馬を飛ばす。
「わあー」という喚声を上げながら30騎が続く。
「陛下、速すぎます」趙統が声を掛けるが、劉禅のスピードは緩まない。敵は余裕を持って、待ち構えている。前衛を倒して、見くびっているのであろう。ある程度近づいたときに、劉禅は細い剣を抜き、大将らしき男に一直線に向かっていく。
「雑魚がきたぞ。遊んでやれ!」
大将の前に兵士が群がる。「清流」のスピードが上がる。敵の騎馬は清流の気に怯んで動けない。3人4人と劉禅が敵を斬り倒していく。5人倒したところで、滄海と趙兄弟が追いついた。血の雨である。あっという間に20人30人と敵の兵が減っていく。味方の30騎も到着し、戦力はほぼ五分五分になる。敵将は、唖然とした。
「こいつら、魔物か?」
「韓瑤、韓琪、集まれ、3人で同時にかかるぞ」
「わかった。兄じゃ」
韓3兄弟は、一箇所にかたまり、槍を構えた。
「滄海、陛下を頼む」趙統はいうと、兄弟で3兄弟の前に飛び出した。趙統が馬から跳躍して、韓瑤の頭上を飛ぶ。慌てた韓瑤が槍を突き出すが、趙統はそれを払い、後から飛んできた趙広が韓瑤の首を斬る。着地と同時に、趙統は韓琪の馬足を斬る。落馬した韓琪は立ち上がる暇もなく趙広に斬られた。残ったのは、長男の韓瑛だけである。韓瑛は、あっという間に二人を撃たれて恐れた。馬脚を返して逃げようとする。
「見苦しい」
その背を劉禅が断ち割った。清流の足は、韓瑛に逃げる暇を与えなかった。闘いは終わった。生き残ったのは30騎。何と劉禅が先頭に立って闘ってからは、味方は一人も撃たれなかった。
「大勝である。大儀であった」
「はっ」
趙兄弟、滄海が片膝をつき畏まると、残りの30騎もそれに習い畏まった。劉禅は一つ頷くと「帰還する」といって帰路についた。その脇を、趙兄弟、滄海が囲む。突然、劉禅が笑い出した。
「陛下、どうされましたか?」
「いや、嬉しいのじゃ。先帝はこのような気分だったのだろうと思ってな。頼もしいことこの上ない。3人とも、いつまでも朕の隣を離れないでくれよ」
「命のある限り、離れません」
「いや、死んでもついて来い」
劉禅は笑った。
次回は、「舌戦」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。では!