御前試合
初めてのコメント頂きました。ありがとうございます。褒められると伸びるタイプです( ´∀` )
これからも頑張りますので宜しくお願い致します。
そのような生活を送っているといよいよ趙雲と魏延の御前試合の日がやってきた。朝から劉禅は、そわそわして大興奮だ。
「どっちが勝つかな?今までの功績であれば大将軍であろうが、魏延は若く伸びているからなぁ~。最近の武功も甚だしいし・・・、趙統、大将軍はいくつになる?」
「もうすぐ60歳になります」
「ひぇ~、見えぬなぁ。60歳とは未知の世界じゃ。いくら武神のような大将軍でも60ではのー。しかし、魏軍10万の中を一人で駆け抜けた男だからのう」
劉禅は大興奮であーでもない、こーでもないと一人で予想をしている。趙兄弟は気が気ではなかった。元はと言えば、自分達兄弟が不甲斐ないから父が立ち会うはめになったのである。(父がもしも負けたらどうしょう)責任を感じずにはいられなかった。
いよいよ、刻限の10時になる。劉禅が練武場に現れると大将軍趙雲はお馴染みの銀色の甲冑に身を包み、槍を脇にはさみ「趙子龍、参上つかまつりました」と畏まる。一方の魏延も「魏延、参りました」と畏まった。
「おう、二人ともよく参った。朕はこの日を楽しみにしておった。双方とも我が国を代表する剛勇の者、日ごろの武芸を存分に発揮し、我が国の勇兵に武術の真髄を示し、その意気を高めて欲しい」
二人は、平伏するとそれぞれ左右に別れた。伝達係が、
「勝負は一本とする。それでは始め」
闘いの開始を伝える銅鑼が大きく鳴り響いた。
「オウ」
「ヤー」
二人とも気合の掛け声を掛け合い、相手の出方を伺っている。長い静止が続いたが、魏延が先に動いた、魏延の得物は巨大な大刀である。その剛剣が唸りを生じ趙雲に襲い掛かる。
趙雲は、大きく後ろに下がって、その剣をかわした。魏延もそのまま一歩後ろに下がった。
「まずは様子見だのう」劉禅が趙兄弟に語りかける。
「はい」二人が同時に返事をした。
「ウオーーー」いきなり魏延は、叫ぶと巨剣を右から左に払った。先程よりも随分早い。趙雲がまたもや下がって、避ける。魏延は止まらずにそのまま、体を回転させて、斬撃を続ける、間一髪、趙雲は下がりながら槍で巨剣をいなしてかわした。そのまま後ろに跳び退る。「おかしい」と趙統は趙広に囁いた。父の動きがいつになく緩慢に思える。趙広を見ると、趙広も「お体がすぐれないのでは?」と囁いた。
趙統は、この試合を止めるように劉禅に言うべきか迷った。
「大将軍、逃げてばかりでは勝負になりますまい。」魏延が余裕の笑みを浮かべながら、傲慢に言い放つ。
「いや、いや、さすがは・・・、魏延じゃー、もの凄い剛剣・・・」
趙雲は、息が切れてしまい。話も途切れ途切れである。その様子に魏延は、
「大将軍、お辛そうだ。わしの勝ちという事で終いにしましょうか?」
言葉だけを聴けば、労わっているように聞こえるが、その顔は傲慢に満ちた笑顔であふれている。歴史に名を残すであろう武神に勝った男、蜀軍最強の称号をすでに手に入れるのを確信している顔だ。
「いやいや、わしにも意地があるでな。・・・降参はせんぞ、・・・・行くぞ」
そういうと、趙雲は槍を突き出していった。その突きが趙兄弟から見るといかにも遅い。余裕を持って魏延が弾いていく。魏延の顔には笑顔がへばり付いている。趙統は決心した。
「陛下、父は体調が優れぬのではないかと存じます」
「何、それは本当か?」
「確認はしていませんが、今日の戦いは普段の父とは到底思えません」
劉禅は、しばし悩んだが、
「もうちょっと見てみよう。まずいと思えば、すぐに止める」と言い闘いに見入った。これ以上言えば、不敬になる。趙統はしぶしぶ口をつぐんだ。
相変わらず、趙雲は槍を繰り出しているが、今ひとつ力も早さも足りない。魏延は、その槍すべてを余裕で弾いている。明らかに腕が違う。誰の目にも、そう見える光景だ。魏延はわざと己の強さを誇示するために、趙雲の槍を受け続けているのである。こんな無様な父を見せられることになるのは、自分達が不甲斐ないからだ。あそこで嬲られるのは、本当は自分達であるはずだった。趙兄弟は、悔しさのあまり唇を噛みしめた。よほど強く噛んだのだろう。趙広の口からは血が滲んでいる。
(そろそろ良いだろう。一言決めせりふを言って決めてやろう)
魏延は、間を作ろうと下がりかけた。その時、さっきまでとは明らかに違う、強く鋭い槍が来た。「ぬおっ」彼は呻いて、払おうとしたが、その槍は、変化し魏延の手から巨剣を弾き飛ばす。気が付くと槍の穂先は、魏延の喉の前に突きつけられていた。
「参った」
魏延は、あっけにとられた顔で降参した。趙雲は、槍を収めると、
「将軍、見事な剛剣じゃ。ただ、油断したのう。わからぬでもない。そのくらいお主は強い。じゃが、その油断が命取りじゃ。虚栄心、見栄、そのようなものを押さえ込めれば、お主は歴史に名を残す男になれるはずじゃ。今後は、お主が蜀を背負う。これからも精進なされよ」
趙雲は、小さな声で魏延に語りかけた。
「御高言、胸に刻みます」
魏延は深々と頭を下げ続けた。
「終わりの銅鑼を」劉禅が言うと試合終了の銅鑼が鳴る。
「おう、さすがは大将軍よな。あっぱれである。魏延も良く闘った。見事な闘いであった。二人に朕からの褒美である。」
そういうと、趙兄弟が、黄金の剣を二人に差し出す。恭しく二人がそれを受け取った。
「陛下、私からお願いがあります」
「大将軍が朕に無心をするとは珍しい。よい、なんでも申せ」
趙雲は平伏しながら、
「臣、先帝に従い戦うこと、30年以上となります。今齢60を超え、体力の衰えを気迫で補って参りましたが、その気迫もつきかけていることを悟りました。晩節を汚さぬよう、ここで現役を退いて、隠居したく存じます。何卒お許し頂きたく存じます」
「なんと隠居とは・・・」全く予想していない事を言われ劉禅は絶句した。いや、劉禅だけではない。その場にいたすべての者が同じ気持であった。劉禅は気を取り直して「先程の見事な闘い、まだ隠居するには及ばぬ。大将軍ももはや老齢であるのは朕も知っている。しかし、大将軍を除いて誰が蜀の勇将を奮い立たせることができよう。もう一度考え直してくれぬか」
「身に余るお言葉、しかし、魏延がおります。また丞相がおります。臣が去ろうとも我が国に影響はありますまい。それに、臣には死ぬ前にやり遂げたいことがございます」
「それは、なんじゃ。差し支えなければ申してみよ」
「臣が会得した槍術を若い者に伝え、臣を超える人物を我が軍に送り出すことにございます」
「弟子を取るということじゃな。しかし、軍に居ても弟子は取れるであろう。忙しいというのであれば、軍務を減じるが」
「陛下、臣は生半可なものを教えるつもりはありません。戦場を駆け戦い続けること30年を超えました。弟子には、この30年を超える稽古を課す。その時に命を落とす、それも致し方なし。全身全霊で教え、生死を賭けて学ぶ。それにはすべてを捨てて事にあたりたい考え、必ずや陛下の下に臣を超える者を仕わせて見せます。どうかお許しを願いたく存じます」
趙雲子龍は深々と頭を下げている。
「面を上げよ。大恩ある大将軍の最後の願い。断るわけにはいかぬ。・・・だが、寂しくなるの・・・、朕の下に大将軍を超える者が現れることを楽しみにしている。本日を持って、趙雲子龍の退役を許す。長い間苦労であった」
「はっ、ありがたき幸せ」
劉禅は、すくっと立ち上がると錬武場を後にした。趙兄弟が後に続く。途中、劉禅は立ち止まり、
「別れとは寂しいのう」と嘆息した。その肩は震えていた。
次回は「孔明出陣」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。宜しくお願い致します。