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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
3/21

 城に着くと、趙兄弟は宴の準備に取り掛かった。当然のことだが、指示はしてあるので最終確認のみである。抜かりはない。後は、丞相のお気に召すかどうかである。緊張して会場に控えていると次々とお客がやってくる。武官の将軍は、趙雲、魏延、張翼、王平、馬岱の5名、文官は、李厳、費偉、蒋苑、黄信の4名がすでに来ている。

「おかしい?」

兄弟は、顔を見合わせた。今日の主賓である孔明が現れないのである。時間はもうすぐ定刻である。孔明が遅れるとは考えられない。何かあったのかも知れないと思い、趙統は劉禅に報告に行った。趙統の顔を見ると、劉禅は「揃ったか?」とにこやかな声で尋ねてきた。孔明だけがいないと答えると劉禅は、「良い。それでは向かうか」といって立ち上がった。臣下よりも天子が先に席に着くというのは、前代未聞ありえないことである。趙統は、劉禅に孔明がまだ来ていないことが伝わっていないと思い。もう一度、強く伝えた。

「良いのじゃ」と言いながらどんどん進んでいく。趙統は、何度も留まらせようとしたが、押さえつける訳にもいかず、ほとほと困りはててしまった。

「陛下のおな~り~」と呼び出し係りが間延びした声で伝える。孔明がまだ来ていないので陛下が来るのはまだ先だろうと油断していた将軍達は、平伏するのがやや遅れた。さすがに武官は、身軽な動きで平伏したが、文官はよろめく者などもいてやや不恰好であった。日ごろの運動不足が祟っている。

「陛下、ご機嫌麗しゅう。本日はお招きいただきまして、光栄の極みであります」

将軍達が一斉に挨拶する。

「うむ、将軍達の労をねぎらうための宴である。将軍達が心から楽しんでくれれば、朕も共に嬉しかろう。まだ、丞相がまいっておらぬはず。皆の者、杯をあげるのはもう少し待っておれ」

そう伝えてから、5分後に孔明は現れた。孔明は、居並ぶ将軍達をいぶかしげに眺めると、玉座に劉禅の姿をみて、非常に慌てた。彼は急いで平伏して、

「臣、陛下を待たせるとは、罪万死に値します。」といって深く頭を下げ続けた。劉禅は、慌てる姿にも気品があると感心した面持ちで孔明を見つめていたが、

「いや、相父は全然遅れていない。約束の時間よりも、全然早い。なぜなら、相父には19時と伝えているからのう。趙統今は何時だ?」

趙統は慌てて、時計を確認する。

「6時42分であります」

劉禅は、大きくうなづくと

「まだ、早すぎるくらいである。それに、相父は私の父ではないか。子が父を待つのは当然のこと、相父は何の罪も犯していない。早く頭を上げてくれ」

「恐れ多い」

まだ孔明は頭を下げ続けている。

孔明の偉大な業績に酬いる為とおもって仕掛けたちょっとしたいたづらのつもりであったが、(やりすぎたか?)と劉禅はちょっと後悔し始めた。

「何をしておる。趙統、趙広。早く丞相を助けんか」

「はっ」二人は急いで孔明に近づくと、孔明を彼の席へと誘った。

孔明が席に着くと劉禅は、

「この度の遠征の成果、朕は満足に思う。今宵は、将軍達の疲れを少しでも癒したいと思い宴を開くこととした。存分に楽しんでくれ。将軍達が楽しければ、朕も喜ばしい」

「皇帝陛下、万歳」将軍達は、杯を口にした。

やがて料理も運ばれてきて、本格的な祝宴になった。将軍達は、上機嫌で杯を上げている。すると、孔明が趙雲に耳打ちをした。趙雲は、席を立つと趙広に

「便所に行く。お前も来い」といって伴っていった。話しが聞こえないところまで行くと

「この宴は、お前が指揮したものか?」と尋ねてきた。

「はい、そうですが?」

「丞相はことのほかお気に入りのようだ」

趙広に満面の笑みが浮かぶ。

「しかし、武官の者たちには、不満が残るだろうから肉を出してやったほうが良いとお前に伝えてくれと頼まれた。それから、女も、綺麗なものを見るのは丞相も嫌いではない」

「あっ、いけない」

趙広は、走って調理場へ行くと、すぐに肉の用意を細やかにし、30分以内に焼きあげるように指示した。急いで宴会場に戻り、暫くすると魏延が、「少し質素すぎる。これでは力が出ない」と不満を述べ始めていた。確かに、清楚で綺麗だが山菜とかが多く、量が少ない。この頃から孔明は小食で有名だった。その魏延の杯に趙雲が酒を注ぎにいく。

「まあまあ、将軍。これから豪勢な肉が出てくるそうですぞ」

「お、大将軍から酒を頂けるとは、光栄です」

そういうと、趙雲は魏延の杯いっぱいに酒を注ぐ。

「おっとっと」こぼれないように口を近づけていきそのまま一気に飲み干した。

「いやー、大将軍から頂く酒はまた格別だ。今度はわしにも注がせてくだされ」

趙雲が杯を差し出す。そうしていると、新しい料理が運ばれてきた。宴会場の真ん中に巨大な大皿が運ばれてくる。その皿の上には、南蛮の形をした、肉の焼き物がびっしりと並べられていた。

「おう、これは南蛮の地形ではないか?おもしろい」酔っている魏延が大きな声を上げる。

それを趙広が一人一人に取り分けていく。その時孔明が、

「ほう、これは・・・、我が軍が攻略した順番ですな」

「なるほど」

「おっ、わしの所には、シダ王がきた。どれ、この間のように血祭りにあげてくれよう」

その時の事を思い出したのであろう。魏延がうれしそうな声を上げる。全員に配り終わると趙広は、

「今宵の宴は、この南蛮料理を平らげるまでは終わりません。どうぞ、将軍の皆様、この度の遠征みたいに一気に平らげてくださいますよう、お願いいたします」と言った。

どっと宴会場が沸き立った。

「馬岱、お前が一番若い。いいか、先陣はお前だ。敵に負けるなよ」魏延が言った。

「おう!」といって馬岱は大量の肉を頬張っている。

「まだまだ若い者には負けんわい。馬岱よ、苦しくなったらすぐに言え。わしが助太刀いたすぞ」趙雲が言うと、またも会場が沸き立つ。皆の腹がきつくなった頃、最後の一切れを馬岱が平らげた。

「よし、敵は全滅だ。我が軍の完全勝利である」魏延は、孔明に

「丞相、放してもう一度捕まえにいかれますか?」と尋ねた。

「いやいや、我が軍にはもう余力は残ってござらん。今日はここまでで撤退いたしましょう」

それを聞いた劉禅は、

「いや、今日の戦いを見て、朕の勇将がいかに凄い豪傑かを新たにした。わが国の未来は明るいであろう。これからもそち達の力でわが国を盛り上げてくれ」

ここで終わりが告げられるタイミングであったが、魏延が大声で話し出した。彼は相当酔っている。

「いやー、今日は楽しい宴であった。戦場の疲れも一気に吹っ飛んだ気持ちがする。今日の宴を指揮したのは、大将軍のご子息だとお伺いしたが」

「いかにも」

「ご子息は、相当な武芸の手練だと聞く。今度わしと一手お手合わせ願いたいと思いますがいかがですか?」

「いやいや、噂が大袈裟に伝わっておる。とても将軍の足元にも及ばない。家の愚息では、教えてもらう前に撃ち殺されてしまう」

趙統と趙広は、唇をかんで下を向いていた。父の言うことはまったくの事実である。一対一の立会いでは、あっという間に殺されてしまうだろう。しかし、そんなこと魏延は知らない。しかも彼は酔っていた。魏延は酔うとねちっこい。

「ご謙遜だ。今日も、林の中で、豪傑と死闘を繰り広げていたと聞いていますぞ。絶対に立ち会っていただく、うんと言うまで、帰りませんぞ!」もう、ほとんど怒鳴り声である。

趙統は、劉禅の顔を見つめた。劉禅と目が合う。(助けてください)目で訴えたが、劉禅はニヤつきながら顔を逸らした。(あっ、楽しんでる)劉禅の助けは期待できそうにない。

あまりのしつこさに辟易した趙雲は、

「ならば、わしと立ち会うてみるか?」と小さな声でいった。

場内が、異様な雰囲気になる。生ける武神と言われている趙雲ではあるが、年は60歳に近い。当時の60歳と言えば多くのものが亡くなる年齢である。いまだに戦場に出ている趙雲の存在は奇跡と呼ぶにふさわしい状態であった。それに比べて魏延は30歳前半。まさに、体力、技術、経験、脂の乗った一番良い状態の歳である。いくらなんでもこの勝負には無理があるのではないか?誰もがそう思ったが、魏延は「その話、のりましたぞ。男に二言無しでござる」と即答してきた。

「何、二人が立ち会うのか?」ここで意外な人物が乗り出してきた。蜀帝劉禅である。

「その試合、朕の前で行え。これは命令である。」

「はっ」二人は平伏して答えた。

「日時はいつがいいかの?5日後の午前10時にしよう。二人とも良いか?」

「はっ、承知いたしました」

これで謀らずも御前試合の形式が執られることになった。今更知らぬとはもう言えない。劉禅は、満面の笑みで宴会の終了を宣言し、席を立つ。その後に趙兄弟が続いて退出した。二人とも不満そうな顔である。重臣達は陛下を平伏して見送ると、それぞれ散会した。

「では、5日後に、御免」

趙雲に頭を下げ、魏延は意気揚々と帰っていった。

「楽しみにしている」趙雲も軽く会釈を返し、帰途についた。

初めての投稿です。暖かい目で見てください。次回は「李厳と李星彩」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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