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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
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望まない再会

 その後、蜀軍と魏軍は2回戦った。劉禅は孔明から出撃禁止令を出され、見張りまでつけられた。劉禅は出撃したいと駄々をこねたが、孔明に先帝からみなしごを頼むの遺言の話をされて口をつぐんだ。蜀は2度とも大敗し、手に入れた安定、天水の2郡からも手を引き、漢中まで撤退した。この情報は、すぐに魏帝曹叡の耳に入り、さても神算迅速の用兵と帝を喜ばせた。司馬懿は凱旋するとその功により大将軍に任命され、さらに兵士大都督の地位も与えられた。不遇であった司馬懿に突然の追い風が吹いた。大将軍という地位もさることながら兵士大都督という地位は、皇帝の許しがなくても兵を動かせる権限を得る。司馬懿はこの時、軍事における最高の権限を手に入れた。司馬懿は、孔明の再びの進軍に備えたいと長安に駐屯することを願い出た。孔明に対抗できるのは彼しかいない。願いはすぐに許された。

 漢中まで撤退した孔明を意外な人物が訪ねてきた。祁山から下山して行方を晦ましていた馬謖である。馬謖を見るなり孔明は、

「どの面下げて予の前に現れたか」と怒鳴りつけた。

あまりの激しさに劉禅の身体がびくっと反応した。こんなに怒る孔明を劉禅は初めて見た。馬謖は、平伏したまま、

「はっ、合わせる顔もございません。丞相から色々とご教授いただき、常日頃から数々のご恩をこうむりながら、今回このような失態を冒し、恩を仇で返すとはまさにこのこと、お詫びの言葉もございません。この度は死を賜ることを覚悟で参上仕りました」

孔明は目を怒らせて、

「汝には幼少のころから教えを垂れ、その才知を予も深く愛し、これからの蜀を背負っていくものとしてその将来を非常に期待しておった。それがこの度の失態、予があれほど細道を堅守せよと申したのになぜ山上の死地に陣取ったか」

馬謖は額を床に擦り付けたまま、

「返す言葉もございません。その愚劣さに私が気付いたのは山上に陣取った後でございました。当初、山上から下にいる敵を一気呵成、痛撃を与えるつもりでございましたが、敵はこちらの水を絶ち、遠巻きにして弱るのを待つばかり、もしも大軍を率いておりましたらあっという間に水がなくなり全滅しておりました。しかし、陛下のご命令で100名のみで陣を立てたため、水は豊潤にあり、大量の戦死者を出すという罪を逃れることができました。陛下には感謝しても感謝しつくせるものではございません。」

「さよう、陛下のお知恵がなければ汝はあの世でも償いきれない罪を背負っていたであろう。軍令違反は、法により斬首である。最後に望みはないか」

「はっ、一つだけ願いがございます」

「何なりと申せ」

「後ろに控えている若者、天水の生まれで名を姜維と申します。才知武勇に優れ、蜀のために有用な人材に必ずなれると思い連れてまいりました。なにとぞ、我亡き後は、彼を丞相のお側に仕えさせ、求世の法を学ばせ、私の志を継ぐ者として頂けましたら、馬謖はこの世に未練はございません」

「うむ、我の弟とも思っておった汝の願い、しかと受けた、約束する。馬謖よ、家族は孔明が責任をもって取り計らう。心配せずあの世にいけ」

「はっ、ありがたきお言葉、馬謖は心置きなくあの世に旅立てます」

顔を上げた馬謖は笑顔であったが、その目からは涙があふれていた。孔明の顔も涙でぐしゃぐしゃである。

「待て、待て待て、いかんぞ。朕は許さん」劉禅が叫び声をあげる。こんなことを許してなるものか。その言葉に孔明は、拳で涙を払いながら、

「陛下、軍は軍令を第一とします。軍令違反は第一級の重罪、斬首と決まっております。いくら陛下のお言葉といえども法は曲げられません」

「朕がいつ法を曲げろと言った。」

劉禅は馬謖の方に向き直ると、

「馬謖よ。朕はあの時、汝に何と命じた?」

「はっ、兵100名で山上に陣取れとお命じになりました。」

「汝はそれに背いたのか?」

「いえ、陛下のご命令通り、山上に陣取りました」

「兵を損じたか?」

「いえ、陛下のご威光、一兵も損じてございません」

劉禅は満足そうに頷き、孔明に向かって

「馬謖は朕の命令に従っただけじゃ。丞相に聞く。朕の命令に逆らったらどうなる?」

孔明は拝礼して、

「軽くて死罪、重ければ親族にまで重罪が下りましょう」

「うむ、馬謖は朕の命令に従っただけだ。たった100名で魏軍10万を防いだ勇将である。しかも一兵も損じずにだ。過去にこのような猛者が居たであろうか。このような勇将を賞せずに死罪などにしたら、後世までの物笑い。いかん、馬謖を罰してはいかんぞ。相父に無断で命令を変更したことは謝る。許せ」

孔明はその場で最大の拝礼を行い、

「恐れ多い。陛下のご賢察、孔明恐れ入りましてございます」

心の声を絞り出す。馬謖もその場で声を放って泣いている。こうして馬謖は罰せられずに済んだ。それどころか、今回の功により中郎将に昇進した。彼が連れてきた姜維も都尉に任命された。この姜維という人は、知力武勇に優れ、これからの蜀を引っ張っていく男になっていく。  

次回は「謀反」です。楽しみにしていてくれたら嬉しいです。では!

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