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賢英帝 劉禅  作者: 三国 志浪
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出会い

三國志を知っている方を前提に書いてあります。まだ三国志を読んでいない方は、先に三国志をお読み下さい。面白いですよ!

 少年が居る。背格好はあまり大きくはなく、これといった特徴はない。しいていえば、やや背が低いと言えるだろうか。しかし、その少年の顔は特徴的だった。鼻が大きいのである。その大きい鼻に丸っこい目が非常に人懐っこい印象を与える。少年の名は劉禅、後漢と呼ばれる時代の蜀の天子である。

「いくぞ」

 劉禅は、ひと声掛けると男に向かっていった。二人が手にしているのは木剣、武術の稽古である。 4,5回剣を合わせただけで、相手の男は吹き飛んだ。

「次、趙広」

「おう」と言って 控えていた男が立ち上がり、 木剣を手にして向かい合った。結果は、先ほどの男と同じ。少年は息も乱していない。

「弱いなぁ~、お前ら本当にあの趙雲将軍の息子か?次は、二人同時にかかってこい。天子だからと言って手加減はするなよ。」

厳しく命じて向かい合った。今度は一人対二人である。今度は劉禅があっという間に飛ばされた。

「陛下」

近衛兵が、趙統、趙広兄弟を取り囲む。広間に緊張が走った。

「さがれ」

倒れたまま、劉禅が鋭くいうと、近衛兵は趙兄弟の囲みを解いた。劉禅は、仰向けに倒れたまま暫らく動かなかった。すると、「伝令」という掛け声とともに一人の兵士が駆け込んできた。劉禅は突然足で反動をつけ飛び起きると、右手を差し出した。

「丞相からです」

といって、兵が書簡を劉禅に渡した。趙兄弟は、すでに床に額をつけて拝跪をしている。天子を吹き飛ばすなど、前代未聞の出来事であり、当然二人は死を覚悟していた。しかし、劉禅はそちらには見向きもせず、書簡に目を通し始めた。読み終えると、書簡を天に翳して「良し!」と大声を出した。

「さすがは、相父!南蛮王孟獲を帰順させたと書いてある。しかも、孟獲を7回捕らえて、7回放すとは・・・」ここで、劉禅は書簡を胸の前で強く握ると、

「さすがである。見事だ!そうではないか、趙兄弟よ」

とその人懐っこい顔に満面の笑みを浮かべ趙兄弟の方を振り返った。同じく喜んでいるであろう兄弟を予想していた劉禅は、平伏している二人を見て、怪訝に思った。

「何をしておる?」

「はっ、臣を死罪にしてください」

「なぜ?」

「陛下を突き飛ばした罪、どうか私の命でお許しください。弟は私に命じられ・・・」

「ゆるす」

「はぁ?」

「ゆるす・・・ってか、手加減するなと命じたのは朕であろう。お前らは命に従っただけである。そうであろう、林鍾」

林鍾と呼ばれた巨大な兵士は、「そうでございます」と言って、そのでかい図体を器用に折りたたみ慇懃に答えた。林鍾、近衛隊長である。劉禅は、小さく頷くと

「そんなことより、お前たち強いな。朕もそこにいる林鍾から、武芸の稽古をつけてもらっており、多少の自信はあるのだが、ああも見事にやられるとは・・・、さすが、趙将軍の息子である」

「はっ、恐れ入ります」

「で、どっちの方が強い?」

「わかりません」

「謙遜は許さん。どちらが強いのじゃ」

二人は困ったように顔を見合わせてから、兄の趙統が

「我ら、試合どころか、互いに剣を合わせたこともありません」

「何?」

「我らが立ち会うのは、父のみでございます。」

「何、それは羨ましい・・・。しかし、子龍将軍は戦場で居ないことも多いであろう」

「その時は、二人並んで、想像の父と立ち会っておりました」

「二人並んで・・・。何故?」

「はい、父は我らに武の才能がないことをすぐに見抜きました」

「いやいや、そちたちは十分強い。立ち会った朕が知っておる」

「ありがとうございます」

趙統は小さく笑ってから、続けた。

「しかしながら陛下、初めに立ち会ったときはいかがでしょうか?」

「強さを微塵も感じなかった。手加減したのであろうなあ~」

趙統は、かぶりを振って

「いいえ、私も趙広も本気でございました」

「何と?信じられぬ」

「我らの武の限界を悟った父は、我々兄弟に、二人一組で戦う方法を鍛錬させました。二人一組であれば、父ともかなり打ち合えるようになってきました。まあ、父も歳ですが・・・」

「う~ん」

劉禅は、腕組みをして考え込んでしまった。やがて、

「戦場では、離れてしまうこともあるではないか。その場合はどうするのじゃ?」

「はい、そのような場合も考え、父は、我らに防御の鍛錬を課しました。一人の場合は、打つことを考えず、受けることに専念せよ。と教わりました。ですから、先ほど陛下に容易く打たれたことは驚きました」

劉禅は、複雑な表情で笑った。じつは、今日彼らを呼んだのは、優れたほうを世話係として任命し常にそばに置こうとする考えがあったのである。武を好む彼は、ただの世話係りではなく、武芸もでき、お互いに切磋琢磨をし合える、年の近い者をと考え、長坂橋の英雄、彼の命の恩人でもある趙雲子龍の息子であればと思い呼んだのである。

(どうしょう?)このような事態は考えても見なかった。あの勇将の息子たちがこのような変わり種だったとは?強いことは、強い。強いけど、二人揃わないといけないのは、使いづらいなぁ。まあ、ちょっと考えてみるか?劉禅は、

「あい、わかった。ところで先ほど、丞相からの書簡で南蛮を鎮圧したと知らせてきた。そこでそちたちに聞きたい。新しい統治はどのようにしたら良いか。また、統治する人物は誰が良いと思うかな?明日また来て、そちたちの意見を聞かせてくれ」

するとそれまで黙って畏まっていた趙広が

「陛下、それはご心配なさらずとも大丈夫と存じます」

「ほう、何故じゃ?」

「兵を用いるの道は、心を攻めるのを上とすると聞きます。丞相自ら、必勝の陣を率いて鎮圧されたとあれば、当然、鎮圧後の処置も万端、抜かりなく整えていると存じます」

すると、趙統も

「南蛮の地ははるか遠く、一度乱れればこれを鎮圧することは容易ではありません。また、風土があわず、長期間滞在すると疫病などに掛かり倒れるものが多くなる。丞相のことですから、統治後の事も準備万端、ご心配には及ばないと存じます」

 劉禅は舌を巻いた。勇将の息子は知将であったか。劉禅は、膝を叩いて立ち上がった。

「よし、決めた。そちたちを我が世話係に任命する。三日後に登庁するように、良いな」

「はっ」二人は、感激して勇躍、城を後にした。


二人を下がらせた後、劉禅は心躍る思いであった。彼は命の恩人である人の息子を、多少才が劣っていても任命しようと実は決めていた。ところがである。恩人の息子は、智勇兼ね備えた名将となる素質を持つ逸材であった。(武は特殊ではあるが)しかも、二人である。また、此度の南蛮帰順。聞くところによると、孔明は南蛮王孟獲を七度捕らえて七度放そうとしたらしい。その恩に感じ入り、孟獲は二度と背かない事を約束した。

「そんなことができるのか」彼の心の中は、さざ波のように震えた。七度放す。いや、自分ならば放せない。捕らえたら、降れば許すし、降らなければ殺す。放すという選択肢はない。しかし、孔明の戦果を見てからは自分の考えが浅はかだったと思わざるを得なかった。さすがは孔明!その思いが彼の心の中いっぱいに広がっている。また、そんな鬼才が相父であるということも、彼の心を一層誇らしい気持ちにさせるのであった。そして、あの趙兄弟は、大雑把ではあるが、このことを見抜いていたのである。そのことも彼にとっては嬉しい驚きであった。

「三日後か」

実は、すぐにでも趙兄弟に会いたいのだが、宮殿暮らしになると親しい人にも暫らくは会えなくなるだろう。別れの時間のために、彼は三日の時間を与えたのである。人の心を思いやることができる。17歳の少年、蜀帝劉禅はそんな男であった。


 孔明が凱旋する。つい先ほどその報が届いた。

「こうしてはおれん。趙統、丞相が凱旋する。出迎えに行く、準備をせよ。趙広、丞相が戻ってくる。宴だ。宴の準備を指示せよ。2時間後に出発する。」

「承知」

趙兄弟は、顔を見合わせると弾けるように、それぞれの職務のために飛び出して行った。世話係の仕事というのは、主に武術の相手と学問の補佐である。武術の相手は問題ない。相変わらずの二対一である。かなり鋭い打ち込みもみせるが、彼らが普段立ち会っているのは、蜀の名将趙雲子龍である。しかも二対一であれば、父ともかなり打ち合える。そんな彼らにしてみれば劉禅の武はまだまだだった。しかし、簡単にあしらえるほどでもないため、不敬だとは思いながらも吹っ飛ばす。たまに劉禅の機嫌が悪い時には、一対一で立ち会わされることもあるが、その時にはこちらが吹っ飛ばされる。しかし、どんなに機嫌が悪そうでも、深手を与えるような飛ばし方はされたことがなかった。学問の方は、著名な人物を宮殿に招いてその話を三人で聞くだけである。その後、二人に今回の話はどうだったかと質問をする。たまには、自分の意見を言い、それに対しての意見を求められることもある。劉禅の知力はなかなかに鋭く、心して聞いていないと問答に詰まることもある。しかしながら、著名な知識人の講義を間近で聞くことができるのは彼らの知力の研鑽にもなり、大いに喜ばしいことであった。その他、このような突然の雑用が入ってくる。この雑用が中々に大変である。劉禅の思い付きはバラエティーに富んでおり、またその要求もかなりシビアである。今回の件も2時間という時間が言い渡されている。この時間は、準備に間に合うかどうか微妙な時間設定である。少しでも、行動に齟齬そごが出ては間に合わない時間であり、一瞬でも気を抜けない時間設定になっている。現に何回かは劉禅の意向に沿えないこともある。そんな時、劉禅は何とも悲しそうな顔で二人を眺めるが、決して叱責や不平不満を口にすることはない。その時、二人は鞭で打たれる以上の苦痛を受けるのである。何故なら、兄弟には必ず落ち度があり、その弁明をする機会も与えられない。しかも、自分たちがこの上ない、厚遇を受けていることは周知のことであり、本人たちも十分に分かり過ぎるくらい分かっているので、その期待に沿えない時には、自分たちの不甲斐なさを情けなく思い深く落ち込む。そんな夜は、兄弟向かい合って、杯を傾け反省会を行うのである。

話がずれた。二人は、急いで方々へ駆けまわり、騎兵百騎を揃えた。天子劉禅は、普段輿を使わない。形式としてどうしても格好がつかないときには、不承不承使うが、普段の移動は馬を使う。彼の馬は「清流」という名であり、体に対して足が太い。ここぞという時には、その太い足が爆発的な加速を生み出す希代の名馬である。また、宴会の用意も何とか整った。諸葛孔明という人は、豪華を好まぬ人であり、質素さの中にある清廉さを愛する人であると父から聞いている。そのイメージで準備はした。後は、丞相がどのように思ってくれるかだ。これ以後は、いくら気にしても仕方がない。気持ちを切り替えて天子随行の準備に取り掛かった。二人が天子をお迎えする場所についたのは刻限の5分前である。刻限丁度に劉禅はやってきた。

「では、行こうか」

劉禅は、人懐っこい顔に微笑を浮かべ、兄弟を促した。

やがて、宮門で待機している騎馬隊と合流した。

「この度は、遠く遠征から莫大な戦果を収めた、我が国の勇者たちを出迎えに行く。粗相があってはならん。皆の者、心して置け。出発」

劉禅は、自慢の愛馬に跨り颯爽と先頭をかけた。それを挟むように趙兄弟が走り、その後を百騎が続いていく。あっという間に、騎馬隊は街門までたどり着いた。

「陛下、ここで丞相をお待ちいたしましょう」

そう趙統が言うと、劉禅は

「もっと近くまで行くぞ。ほれ、あそこに林が見えよう。あそこで待とう。」と事も無げにいう。どうやら、このことを決めていたらしい。

「しかしこの先は・・・」

言いかける趙広を趙統が制した。

「分かりました。私が安全を確かめて来ます。趙広、陛下をお守りしろ」

「二人で行け」

「しかし」

「馬鹿め、どちらか一人残っても何の役にも立たん。朕が自ら戦ったほうがまだましというものじゃ」

「うっ」

「何呻いておる。早く行け。丞相が来てしまうではないか」

仕方なく、二人は林へと向かっていった。

 するとそこには、一人の青年が木の幹を背にして眠っていた。二人が騎馬で近づいても目を開けようとしない。

「なんだ、こいつは?耳が聞こえないのかな?」

趙統が、弟を振り返り話しかけた瞬間、趙統は、男の放った棒を受け落馬した。

「何をする」

趙広は、急いで馬から飛び降りると兄を庇う様に男の前に立ちはだかった。

男は、まだ木の幹を背にして座っていたが、その目はしっかりと開いていた。

「いやよ~。耳が聞こえないのかと聞かれたからよ。返事をくれてやったわけよ」

「貴様」激昂する趙広を兄が止めた。

「待て待て。いや~、変なことを言って悪かった。気に障ったなら許してくれ。実はな、さる高貴な方がこの林で休みたいと申して居る。場所を譲ってくれないか?」

「来たらいいじゃねぇか?別に俺は構わないぜ。別に俺の場所って訳でもないからな」

「いや、そなたが一緒では、まずいのだ。お忍びってやつでな。むろん、ただでとは言わん。これで旨い酒でも飲んでくれ」

そういうと、趙統は銀貨一枚を渡そうとした。

「いやだね」

「何!」

「勝手に来て、休めばいいじゃねえか。それを止める権利は俺にはねえ。無論、お前たちが俺をどかす権利もない訳だが」

そういうと男は馬鹿にするように小さく笑った。その笑いが趙兄弟の勘にさわった。

「ならば力づくで退かすしかないかな?」

趙統が男に近づく。

「おう、やってみな」

男はゆっくりと立ち上がった。でかい。2m近くはあるだろうか。また、がっしりとした体格である。

(これは強いかもな?)

趙統は、心の中で思いながら、殴りかかっていった。2,3と趙統の拳が空を切り、そして趙統が吹き飛ばされた。

「兄上」

趙広が、剣を構え、男の前に立ちはだかった。趙兄弟の得物は剣である。

「おう、坊ちゃん。やる気かい?それを出されると俺も抜かなきゃならねぇ。抜いちまったら俺は止まらねえぜ。手加減ってものができなくなっちまう。それよりも、あちらで待っている貴人に報告してこい。この林には滄海という豪傑がおられて、立ち入ることはできませぬとな。ここで死んでもつまらんだろう。若い命を無駄にするな」

男の名は、滄海というらしい。滄海の言葉は切実な説得の色を帯びていた。ちょっとからかうつもりが命のやり取りに発展している状況に多少慌てているようだ。

 剣を構えている趙広の隣に、同じく剣を構えた趙統が立った。

「おいおい、数を頼んでいるんなら無駄だぜ。坊ちゃんらの腕じゃ、百人揃っても俺には傷一つつけらんねえ。さっきので分からなかったか?」

「やってみなけりゃわからないだろう。こっちも君命で来ている。おめおめ逃げ帰るわけにはいかん」

滄海は、やれやれという風に首を振ると、

「馬鹿は死ななきゃ治らないっていうもんなぁ~。しょうがない。冥途の見上げに俺の槍術を見せてやろう。目に焼き付けて死んでいけ」

そういうと滄海はゆっくりと趙兄弟に近づいていった。彼は無造作に槍を振るった。一撃でと放った槍は、趙統の強い力で弾き返された。続けさまに、趙広の剣が襲ってくる。

「ぬおっ」

滄海はとっさに後方へ跳び、その剣をかわした。趙広がニヤリとして、

「今のは、挨拶代わりだ。いきなり斬っては、だまし討ちのようで後味が悪い」

滄海は、すばらしく怒って「ぬかせ」といって打ちかかっていく。長い時間が経った。お互いに、相手の強さに舌を巻いている。

(何だ、こいつらは?この俺が防戦するので手一杯だと、一対一の時は、全然大したことはなかった。っていうかゴミだ。謀られたのか?しかし、余力があるようには全然見えなかったのだが・・・)

趙兄弟も心の中で

(なんて強さだ。これはまるで父と立ち会っているようではないか。いかん、早く戻らなければ、陛下はどうされているだろうか?)

焦り。趙兄弟の連携が乱れた。

(隙あり!)   

鋭い一撃が趙広の剣を弾き飛ばした。

「趙広!」

趙統が趙広の前に立ち塞がるが、一撃のもとに趙統は2,3m吹き飛ばされた。

「死ね」

滄海の目が血走る。大きく振りかぶった滄海の槍が、突然他の槍に巻き込まれ、弾き飛ばされた。振り返ろうとした滄海は、あっという間に地面に叩きつけられる。

「そこまでだ、滄海」

そこには見慣れた懐かしい顔があった。彼らの父、趙雲子龍である。

「父上?」

呟く趙広には見向きもせずに父は滄海を見つめていた。

「終わりだ。お前の勝ちだ、滄海納めよ」

滄海は突然飛び跳ねると猛然と素手で子龍に打ちかかっていく。子龍は槍の柄を使いその腕を跳ね上げようとしたが、その腕は上がらずに子龍の胸を打った。子龍は後方に飛びその衝撃を和らげる。

「こりゃー驚いた。こやつ奥に入っておるな。よかろう」

子龍は微笑むと槍を低く構えた。刹那、滄海は地面にぐらりと倒れた。気を失っているらしい。子龍が活を入れると滄海は目を覚ました。先ほどの血走った眼は消えている。

「あれ、俺は?」

状況が掴めていない滄海に子龍が

「お前は奥に入っていたようじゃ」

「奥?」

ぼーっとしている滄海の目に光が戻る。

「お師匠」そういうと滄海は趙雲の前に平伏した。

「滄海よ、相手の動きがゆっくりと見え、意識せずとも体が勝手に動いたのではないか?」

滄海が頷く。

「その状態をわしらは奥と呼んでいる。わしも何回か奥に入ったことがある。まあ、ごくまれに自分の意志で奥に入れる男もいたが・・・」

ここで趙統が遠慮がちに話しかけた。

「父上、なぜこちらへ?お一人ですか?」

「おう、わしは伝令じゃ。もうすぐ丞相がおいでになる。抜かりの無いように出迎えろ。よいか」

「はっ」

聞きたいことは山のようにあったが、陛下への連絡が最優先だと判断して二人は急いで元の道を引き返した。道ながら二人は様々なことを考えた。滄海と父との関係は?また、先ほどの滄海の状態は明らかにおかしかった。父はあの状態を奥と呼んでいたが、奥とはいったい何なのだろう?そんなことを考えながら走っているとやがて街門までやってきた。

「陛下、大変遅くなりまして、面目次第もありません。あの林に大変な手練れがおりまして、また、父上が現れまして・・・」

趙統は頭が混乱してうまく説明できなかった。そんな兄を見かねて、趙広が

「陛下、丞相はすぐそこまで参っております。急ぎ出発しないと間に合わぬかと」

「何、それはいかん。すぐに出発じゃ」

騎馬隊が林に急行すると、果たして遠征軍の先陣が目に入る位置まで来ていた。

「危ないところであったな」

劉禅は、二人に微笑みながら言った。二人は、申し訳なさそうに深く頭を下げ、ぎりぎり間に合ったと胸を撫で下ろした。










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