4話-脱出作戦Ⅰ-
不思議な夢が中断されるように目が覚めると、ここは檻の中だった。
どのくらい眠っていたのだろうか。窓は無い。
檻の中は狭く、幅は横たわるのが精いっぱいである。
隣合う檻同士を仕切るのは入り口と同じ鉄製の棒のみ。
縄は解かれている。
相変わらず刺激臭が充満し、思わず鼻を塞ぐ。
連なる檻の奥を覗くと、見張り人の姿が確認できた。
木製の机にうずくまるように顔を伏せ、寝息を立てている。
「出る方法は無いのか…。」
「あるで~。」
ラースが呟くと、隣の檻から思わぬ返答を得た。
聞き覚えのある、独特な訛りを持つ声。
部屋からラースと同じくらいの若い男が顔を出した。
金髪で、逆立つ後ろ髪。
瞼を閉じた、線の様に細い目。
そして、ラースと同じカーキー色の軍服姿。
「ルゥー!何故お前がここに!?」
ラースの驚く表情を見てルゥーと呼ばれた男はニヤけた。
驚くもの無理はない。彼とは母国で別れを告げて以来の再開だからだ。
「久しぶりやなラースぅ。お前が心配で後を追ってたんやけど、見事にこの有り様や。」
先端の黒い黄色い獣耳をピンッと伸ばし、彼らしい回答を展開した。
自由奔放な性格のこの男の言葉に呆れ、ため息をつくラース。
「はぁ…。まったく。任務でもないのに来るからだ。」
「よう言うわ!俺が来た時にゃ既に気持ちよさそーに寝てたんはどこの誰や?」
すぐに反論すると、ラースの表情が変わった。
「ルゥー、お前ここに来てどのくらい経つ?」
「知らんがな…。…せやなぁ、三日くらいか?ここの飯くっそマズいねんで。」
大体ではあるが、ルゥーの証言を元に、この牢獄の仕組みが解った。
一日に一度、見張り人が食事を持ってくるらしい。
配られるのはカビの生えたパン一切れと、濁った水。非常に不味い。
また、見張りの交代時刻に牢獄側は消灯となる。
おそらく、それが夜の合図だろう。
更に、ラースの後をずっと追っていたルゥーは、ラースが捕らえられた現場を目撃していた。
そして、翌日の朝にルゥーが牢獄へ入れられてから三度目の消灯が終わった。
「それで、ここを出る方法って?」
「あそこの兄ちゃんに開けてもらうだけやで。」
ルゥーが自信満々で見張り人を指さす。
何を企んでいるのかをすぐに察したラースが、辺りを見回した。
ラース達が居る檻は中央付近。入り口付近の檻の中には人影が見える。
幸い、見張り人へ続く奥の檻には誰もいないようだ。
一番奥は広い空間になっていて、更に奥へ続く通路が見えた。
「出来そうか?」
「ああ、任せとき!」
ルゥーはそう言うと眉間にしわを寄せ、大きく深呼吸をした。