21話-大都市-
バサリアの街は地面を叩く雨の音だけが広がっていた。
上空の真っ黒な雨雲が眩しく光る。
ゴロゴロと音をたてては、また光る。
…流石に今日は外出をする人は居ないか。
そんな事を考えながら歩く1人の少女。
普段は雨の日でも商人たちの店が連なり、煩いくらいに賑やかな大都市の中心部だが、日中にも関わらず人1人として姿を見せない。
黒いフードを深く被り、雨に打たれながら向かった先は、大きな扉が聳え立つ役場。
ようやく、扉の前に人影が見えた。
「イル総長、おかえりなさいませ。…お身体の具合は?」
少女の帰りを待つ、背の高い1使用人の男。
帽子を脱ぎ、心配そうな表情で語りかける。
「ありがとうセレス、平気よ。…早急に準備をしましょ。」
フードの中から見上げる表情は、安心感からか少し微笑んでいる。
セレスと呼ばれた男は「了解」と一礼。
イルをエスコートし、2人は扉の中へ消えた。
午後。雨上がり。
突然の総長の回復の知らせと共に、緊急会議の知らせがバサリア付近の全集落へと通告され、多くの議員達が足早に集まった。
バサリア役場地下1階、大会議室。
円柱型の大きな部屋。
100人程度が座れる座席が中央の演壇を囲む。
壁や床は入口と同じように豪華に飾られ、壁に設置された無数の照明ランプの灯りが、窓の無い部屋を照らす。
室内には老若男女問わず、多種多様な擬人たちが着席し、本会議の主役の登場を待ちわびていた。
彼らの表情は非常に厳しい。
室内はガヤガヤと騒がしく、重い空気が漂っている。
今回の事態によりバサリア付近の経済は激しく混乱し、一部の地域では内乱が起きているという情報までもが、仮政府の元へと通告されている。
ーカンッカンッ!!
「起立願います。イル・フィン総長入場。」
木槌の音が響き渡り、室内が一気に静まり返る。
入口の大きな扉がゆっくり開いた。
現れたのは白いスーツ姿のイル。
凜然とした立ち振る舞いは、幼い少女とは思えない程である。
演壇に立ち、一礼。
「これから本会議を始めます。」




