20話-不純物-
早朝。
厚い雲に覆われた空は不気味なほどに暗い。
ゴゴゴッと真っ黒な空が唸る。
ぽつぽつと小雨が振り始め、幼い身体を濡らす。
真っ暗な森の中を、感覚だけで走り抜けるイル。
全身の傷は既に回復していた。
「きゃ…!」
濡れた地面に素足を取られ、その場に倒れ込む。
白い髪や尻尾が汚れ、全身が泥まみれになる。
<<ググググッ…。>>
「うっ…!」
更に、体内から込み上げる違和感に思わず胸部を押さえる。
男が注ぎ込んだ不純物に反応する違和感。
このままでは手遅れになる。立ち止まっている暇など無い。
重い身体を起こし、全速力で目的地へ向かう。
<<ザーッ>>
雨が強くなる。
ユサフ村の門前の灯篭が弱々しく光る。
雨の中、笠を被り門番を続ける男たち。
「ん?」
林の奥で何かがうごめいた。少しずつ近づいてくる。
槍を構え、警戒する。
泥だらけでボロボロの身体は、もはや限界だった。
入り口に到着する前に、草むらに倒れる。
「イル嬢だ!門を開けろ!」
村唯一の病院。
書物を元に、彼女の専門医が触診する。
イルに寄生し、身体を構成する二つの力。
不安定な二つの力は、互いを喰らい合う。
どちらかの力を失えば、イルは死ぬ。
喰い尽くされない為に、生贄を捧げ続けてきた。
これが、天使狩りを行う本当の理由。
しかし現在、処刑は休止中。
更に不純物を喰い、互いが膨張を始める。
非常に厄介だ。
このままでは体内に収まり切らず、身体が破裂する。
指示に従い、男たちがナイフで床を削る。
大きな魔法陣を描き、嫌がるイルを中心に座らせ、文書を読み上げる。
窪みから白い光が浮かび上がり、鎖となって身体を縛る。
一時的に力を封じ込める。体内の違和感が消えた。
しかし、成長した力が鎖を打ち破るのも時間の問題だ。
体内から力を取り出す唯一の施術。
本の一番最後に書かれた、複雑な魔法陣と必要材料。
"完璧な同一個体"
潜在するのは唯一無二の力。
世界のどこを探しても、見つかるはずが無い。
「やってみる価値はあるわ…。」
立ち上がり、書物を手に取る。
残された僅かな時間を小さな可能性に託し、少女は歩き出す。




