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19話-呪-

ランとキアラが泊まり込みで看病を続ける。

その間、ルゥーが姿を見せることは無かった。

数日後―。

腹部の痛みも和らぎ、施設を出る日となった。

そんな中、一人の少年がラース達の元を訪ねた。

長髪の少年。イルの使用人だ。

少年の名はソフィア・ウォーレス。

帽子を脱ぎ、一礼。近況報告に来たらしい。


イルは現在も意識が戻っておらず、集中治療室で処置を受けている。

役場の騒動は不慮の事故と処理され、詳細は隠蔽された。

ラースの身柄は一旦保留。

政府からの判断が下されるまで、ルゥーの留置が続く。

ユサフ村からの施しにより、不自由なく過ごしているようだ。

ラースの回復を報告すると、泣きながら歓喜したという。


また、イル不在のバサリア政府は機能が停滞。

急遽、各村の村長たちが仮政府を立ち上げ、対応に当たっている。

当然、天使狩りは休止中。

更に、これをチャンスとみた市民が天使狩り反対のデモ運動を開始。

家族や恋人を失い、政府からの圧力に怯えて過ごしてきた遺族も立ち上がる。

キアラたちは捨て身の覚悟で役場に直談判。

見舞金を全額返却し、天使狩り廃止を訴えた。


しかし、天使狩りをする理由は他にも在る。

政府内にすら明かす事の出来ない、本当の理由―。


現在、仮政府は対応策を検討中だ。

「では、失礼します。」

「…待ってくれ!」

深々とお辞儀をし、立ち去ろうとするソフィアをラースは引き止めた。

イルが起こした不思議な現象の正体を知っているかもしれない。

「変異細胞の事を教えてくれないか?」

「ごめんなさい。それは守秘義務で僕からは説明ができないんだ…。」

申し訳そうな表情で退けるともう一度頭を下げ、部屋から立ち去った。


施設を出て、宿までの道のりを三人で歩く。

遠くの役場付近から、微かにデモの声が響き渡る。

繁華街からは人の気配が無く、テントも撤収されている。

商人たちが撤退し、殺風景が広がっていた。

「またしばらく、世話になるよ。」

「おかえりなさいませ…!仮政府からの要請もありました。ごゆっくりご静養なさってください。」

久々に宿に戻った三人。店主も心配していたのか、喜びの握手を交わす。

ルゥーを含む四人の身元は現在、ユサフ村村長ガンボ・ガンナー・カドルの名の元に保証されている。

「無事であってくれ…。」

部屋の窓から微かに見える医療施設を見つめ、イルの回復を祈った。


夜。

<<ピッピッピッ…>>

静かな部屋の中で、弱々しい脈を刻む音が鳴る。

白いベッドの中に少女が一人、未だに起きる気配が無い。

人工呼吸器がシューッと音を吹かし、救命処置を続ける。

医療関係者以外立入禁止の厳重体勢の集中治療室。


突如、何も無い部屋の片隅から人影が現れた。

窓の無い部屋は暗い。

機材の明かりが微かに照らす口元が笑う。

「ハッ!いつまで寝てやがる。」

若い男の声。

筋肉質で締まりのある腕を伸ばし、掌でイルの顔面を覆う。

「てめーは呪われた存在。死ねると思うなよ。」

掌が赤紫色に発光し、イルの全身が光に包まれる。

また蛍のように辺りを漂う小さな光が次々とイルの体内に吸収されて行く。

一連の現象が収まると、男の姿は再び闇の中へ消え去った。

「この借りは埋めさせてもらうぜ。」


翌朝、病室からイルの姿が消えていた。

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