18話-負傷-
剣の刃を下向きに持ち替え、手を振り上げた。
「その程度じゃ無理ね。天使探しは諦めなさい。」
ここまではイルの想定内だった。
だが―。
<<キィッキィ―ッ…!>>
ラースを刺激する強い耳鳴り。
球体が強く発光する度、波動が脳内を刺激する。
固く閉ざされた記憶を強制的に叩き起す。
『ヴヴヴヴヴ…!!!』
「なっ…!?」
突然、唸り声と共に飛び上がる。
イルの顔面を破壊する為に思い切り手を振りかざす。
シュッ―。拳は空を切った。体制を崩し、この場に倒れる。
とっさにイルはその場を離れ、距離をとった。
ラースの様子がおかしい。
先程までの青眼の大人しそうな青年の雰囲気が一変。
毛が逆立ち、殺意を剥き出しにして威嚇している。
グルルルル…!
起き上った途端、再び襲い掛かる。
この化け物が起こそうとする次の行動が―。
"読めない"
「何故…。」
冷静を保ちながらも、内心では焦りが拭えずにいた。
ただ、行動は単一的。
足元が滑り、何度も倒れ、もがく。自我を失っているように見える。
正気を失い狂暴化。まるで意識狂心病の症状と同じ。
まさか伝染病?いや、でも―。焦らす様に、様々な憶測が飛び交う。
<<キィィーー…!>>
再び強い耳鳴りが化け物の脳内に刺激を与える。
もう一本短剣を精製して体勢を整え、対処法を模索。
双剣を構え、次の攻撃に備えた。しかし―。
『ヴゥッ!!』
「しまっ―!?」
速い。
<<ドドーンッ!!!>>
四足歩行のまま襲い掛かり、壁に激突。イルは巻き込まれ、吐血。
かろうじて、双剣がラースの腹部に突き刺さった。
しかし傷を諸共せず、平然と突っ立っている。
球体の光が消えると当時に雪や武器が消え、景色が元に戻る。
再び封印された記憶。
同時にラースも床に崩れ落ちた。
【「言語を取得。自我を構成。」
「R-001。完成個体です。」
『出セ!ヴヴヴ…!』
「逃げぬ様、監視を続けろ。」】
バサリアの大きな医療施設内で、ラースは目を覚ました。
天井の明かりが眩しい。
起き上がりたいが、身体に力が入らない。
「ラース!おきた!」
突然、視界にランが入り込む。
白いベッドの横からラースの顔を覗き込む。
椅子に腰かけていたキアラが医者を呼ぶ為、慌てて部屋を出る。
あの時、役場はイルの指示により敷地内が封鎖されていた。
大きな激突音に驚いた警備員たちが中へ侵入。負傷し倒れている二人を発見。
二人はすぐさま医療施設に運ばれた。
しかし、ラースは寒さに倒れた後の記憶が思い出せなかった。