16話-役場-
役場の中に入ると早速、左右から二階へ続く大きな階段が来訪者を出迎えた。
中央は円形の空間となっていて、二階に並ぶ無数の扉が一望出来る。
柱や壁は白く、滑らかな段差が高級感を漂わせる。
中央天上はガラス張りになっていて日の光が射す為、明るい。
また、大きなシャンデリアもぶら下がっていて、夜は雰囲気を一変させるだろう。
床には金色の刺繍で模様が彩られた赤い絨毯が敷かれ、非常に豪華だ。
正面にはロビーがあり、数人の市民と役人がやり取りをしている。
他の市民等に怪しまれない様、入り口で術にかかった警備員を利用し、道案内を演出する。
階段を上がり、奥へ続く廊下を歩く。
案内された部屋の前に到着すると、警備員は来た道を戻っていった。
総長室と書かれた扉。微かに中から人の声が漏れる。
「申し訳ありません!」
聞き覚えのある声。使用人の男たちだ。
何度も謝る声が聞こえる。
「私が今日、外出していない事は知ってるはずよね?」
更にもう一人、女性の声。その声はまだ幼い。少女だろうか。
話し方は大人びている。少々怒っているようだ。
「でもイルねぇ…じゃなくて、総長っ。貴女にそっくりでした。本当に!」
言い訳をするように、少年の声が張りあがる。
総長はイルという名らしい。
「そう。あと、盗み聞きさせて良い事にはならないわ。」
<<ガチャ>>
突然ドアが開けられる。気づかれていた。
扉の前で様子を伺っていたルゥーが、しりもちをつく。
現れた少女は深くフードを被っている。
「あ、あの時の!」
顔こそは確認できないものの、その姿には見覚えがある。
宴会の夜、刃物で一撃で人工竜を倒した影と同じシルエット。
ルゥーは動揺しながらも、作戦通りに目を見開き、少女の目を見つめる。
しかし少女はルゥーに目を合わせる事は無く、目線を横に逸らし、腕で顔を隠した。
信じられない!思惑が完全に読まれた。
赤髪の男に腕を掴まれ、床に押さえつけられる。
抵抗しようにも、痛いくらいに力が強く、身動きなど取れない。
すると少女は目の前でしゃがみ、ルゥーの耳元で囁く。
「盗聴不要よ。貴方達に興味があるわ。役場で待ってる。ラース・ウィング。」
盗聴器どころか、ラースの存在まで勘付かれていた。謎の多い相手だ。
耳元に雑音が響き、通信が途絶える。盗聴器は破壊された。
ルゥーを地下の牢屋へ連行する。
「出せっ…ぇ……。」
再び囚われの身となったルゥー。柵にしがみつく。
しかし、術使用による反動がルゥーの身体を襲い、その場に崩れた。
少年が、申し訳なさそうに二重扉の檻へ鍵を掛ける。
「ごめんねお兄さん。イル姉は悪い人じゃないよ。だからもう少し、ここで待ってて。」
イルよりも明らかに年上の少年。イルへ相当慕っているようだ。
しかし、気を失ったルゥーには聞こえていない。
イルと男たちが階段を昇り、中央階段を昇ろうとした次の瞬間―。
「イル!!!」
突如、ロビーから怒号が響く。ラースだ。
市民たちがその声に驚き、大勢の視線がラースに向けられた。