15話-盗聴器-
役人の勘違いにより、全員は九死に一生を得た。
どうもランは、総長と言われる人物に相当似ているようだ。
「似てるのかぁ~。」
柔らかいソファーの上で遊ぶラン。前髪から逆立つ癖毛が揺れる。
全員は宿のロビーのソファーに座り、再び策を練る。
キアラの証言によると、総長とは、バサリア政府を取り仕切る主権者らしい。
先程のスーツ姿の男たちは、総長に仕える使用人。
普段、彼らは街の警備や監視に当たっている。
また、処刑執行人でもある。
ルゥーはひらめいて、ニヤついた。
「ほんなら、その総長って奴に処刑を取りやめてもらえば、キアラさんは助かるんやな?」
「ええ…。でも無理ですよ。処刑を中止した事は一度も無いから…。」
総長が市民の前に姿を現す事はほぼ無く、キアラもその顔を知らない。
ただ、成功確率の高い作戦が一つ有る。
ルゥーが持つ特殊能力。マインドコントロールだ。
総長に幻覚を見せ、キアラの処刑中止を処刑執行人へ伝える。
その隙に一度ユサフ村へ戻り、キアラを保護してもらおう、という作戦だ。
「キアラ、必ず助ける。任せてくれ。」
ルゥーの希望により、作戦内容をキアラに伝えることは控えた。
ラースが耳に着けていた装置の主電源を押す。
すると、ルゥーの耳に着いているもう一つの装置が連動し、起動。
装置から、お互いの周囲の音が聞こえてくる。
ルゥーは仕切り直し、役場へ向けて出発した。
「ラースっ、ラースぅ。それ、なぁに?」
ランは装置から出る音が気になって仕方がない。
着けてみるか?と、ランの耳へ装着してみる。
「ぅうぅう…!?うるさい…!!」
ランには騒音に聞こえるらしく、すぐに装置を振り払った。
「それは、盗聴器?」
「ああ。様子を伺って俺も応戦する。キアラとランは、ここで待機しててくれ。」
そして、ラースはロビーの裏で静かに潜む店主の元へ。
先程の男たちから貰った報酬が入った袋を大事に抱えながら、座り込む。
政府に通報した張本人。
ラースは睨みながらつぶやく。
「怪しい行動をとる事の無いように、な。」
「は、はい…。」
「…彼女たちを、守ってやって欲しい。」
ラースは冷ややかな態度を変え、優しく手を差し伸べる。
切実な願いは店主にも通じたのか、店主の目つきが変わり、立ち上がった。
「お任せください。お客様にご不便はさせませんよ。」
その頃ルゥーは街中をしばらく歩き、ようやく役場前の噴水へ到着。
中央広場。処刑執行場の目の前だ。
広い階段を昇り、大きな扉の前に立つ。扉の左右に警備の男が立っている。
警戒し、ルゥーを睨む。
「ごきげんよう~。」
片目を開き、軽く目を合わせる。男たちはまんまと術にかかると、敬礼して扉を開けた。
侵入成功。