14話-総長-
「教えてくれてサンキューな。」
狭い路地裏。
女性から有力な情報を得る事ができた。
大都市バサリア。
人間が踏み入れようとしない、竜の巣に囲まれた深い森が連なる土地。
上空からの竜の侵入を防ぐ為、石壁の頂上に大きな大砲が連なっている。
人口およそ数千人程。人間の居住区内としては最大規模と思われる。
付近にはユサフ村のような小さな村が点々と所在し、貿易の為に各地から商人が集う。
互いの取引を公平に行う為、人間と同じ通貨が使用されている。
そして、この地で行われいる天使狩りという名の公開処刑について。
この奇怪な政策を打ち出した首謀者はバサリア政府だ。
天使伝説によって絶えない紛争を終わらせる為だという。
中央広場の噴水前で、生贄という名の処刑が毎日行われている。
生贄条件は、女性である事。そして、ネコ科である事。
政府は天使について、何かしらの手掛かりを持っているようだ。
対象者には朝決まった時間に、自宅へ処刑通知と共に巨額の見舞金が届けられる。
そして今朝、この女性の元に通知が届いた。
出入口の門が一つしかないバサリアには、逃げ場など無い。
明日、彼女の元に迎えが来る。
ルゥーは一つ、提案した。
「俺と旅でもせんか?仲間もおるで!」
「ええ!私はキアラ。」
「ジェン・ルゥセン。よろしくな!」
ルゥーはキアラの手を引っ張り、宿へ戻った。
ランはベッドの上で静かに眠っている。
ラ「そうか…。」
話を聞いたラースが険しい表情を見せた。
キアラの命は助けたい。
しかし、一緒に旅をするというのは少し気が引けた。
人数が増える分、身の危険性も格段に上がってしまう。
「せやから!天使狩りを早く食い止めるんや!」
「そうだな。まず、役場に行って話を―。」
ラースが言いかけると、キアラがあっ。と声をあげる。
「それは止めた方がいいです。街で天使狩りへの意見は禁忌。反逆罪で処罰されるわ。」
人々がルゥーを避けていた理由が理解できた。
<<ガヤガヤ…>>
ふと、一階のロビーが何やら騒がしい。
全員の耳が廊下側に向けられる。
木製の階段をコツコツと昇る音が少しずつ大きくなる。
ラースたちの部屋の前で足音が止まった。
ドンドンドン!と強いノックオンが響く。
音に驚いたランが飛び起きた。
「扉を開けなさい!」
「役人だわ…!」
街中を大声で天使狩りについて探る軍服姿の男。
不審者として通報されてしまった様だ。
キアラの身体が小刻みに震える。
ラースはとっさにルゥーへ耳打ちをした。
息をのみ、ラースが静かに扉を開ける。
現れたのは、一人の男だった。
真っ黒のスーツとネクタイ姿。手には帽子を持っている。
黒い髪色の頭から生える獣耳の上からは、白い角が突き出ている。牛の擬人だ。
「はい、どちら様で?」
「ごきげんよう。バサリア政府です。総長命令により、諸君を反逆罪で拘束します。」
丁寧に挨拶をすると、帽子を深く被り角を隠す。
上着の中に手を入れ、内側のポケットから銀色の手錠を取り出した。
「ほな、ごきげんようーーっ!」
「あ、こら!…うぐっ!?」
ルゥーがキアラの手を掴み、男を振り切って突っ走る。
隙を見たラースが男の顔面に飛び蹴りを入れる。
男が床に倒れるのと同時に、ランの手を引き階段を降りる。
ロビー前には、同じ服装で立つ小柄の牛の少年。
淡青色の長髪は、白く長い紐で一本に束ねられている。
店の店主とやり取りをしている最中の様だ。
入り口を目指し、全員が走る。
先手を切ったルゥーとキアラは玄関の扉を開けた。
「逃がすなーっ!」
二階からの叫び声を聞くと、少年がとっさに目の前を横切るランの腕を掴んだ。
「痛い!はなして!」
「あれ…!?」
ランと目が合うと、少年は驚いて手を離した。
ルゥーが玄関の扉を開けると、大柄で人相の悪い赤毛短髪の男が煙草をくわえて突っ立っていた。
口から煙を吐きながらルゥーを室内へ突き飛ばし、宿の中へ入る。彼も牛の擬人だ。
彼もランの姿を見ると、総長。と呟く。
「総長!?これは飛んだご無礼を…!」
顔を抑えながら二階から降りてきた男が、ランに深々と頭を下げる。
ランを含め、全員が固まる。
「我々は先に役場へ戻ります。失礼致しました。」
三人の男は逃げるように宿から立ち去った。