13話-天使狩-
街中の繁華街を少し外れた、静かな民宿。
一階のロビーで受付を済ませ、階段を上ってすぐの個室へ移動した三人。
部屋の中は三人分のベッドが並び、一番奥の窓から街の景色が見える。
ランは靴を脱ぎ捨て、ふかふかのベッドに飛び乗った。
椅子に腰かけ、深いため息をつくルゥー。
ラースは壁に壁に寄りかかり、険しい表情で腕を組む。
街に入り真っ先に目の当たりにした残酷な光景。
天使に関する伝承は、総じて天使伝説と呼ぶ。
天使伝説の影響は絶大で、世界中がその行方を追っている。
力さえ手に入れれば、新世界を創生する事など容易い。
人間は天使専門の特殊組織を結成している。
ラースもまた国家レベルの任務として天使を探す一人。
当然、天使狩りなど言語道断。
「とにかく情報収集だ。放ってはおけない。」
「よっしゃ、ほな俺が行ってくるわ。ラース、ランちゃんを守ってや!」
ルゥーは勢いよく立ち上がり、部屋のドアノブを握る。
「ちょっと待てルゥー。これを、着けてくれ。」
荷物が入った袋の中から二つ、金属製の装置を取り出す。
親指の爪ほどの小さな装置。耳飾りのような形状をしている。
一つはラースの耳に挟め、もう一つはルゥーの耳元に装着。
宿を後にしたルゥーが一人で街中を歩く。
見慣れない軍服姿に、すれ違う擬人が時折チラ見する。
商いをするテントが無数に連なる賑やかな繁華街の中は、人混みで道が狭い。
「おっちゃん!天使狩りについて教えて欲しいねんけど!」
人混みをかき分けて進み、店先で手あたり次第に声を掛ける。
「らっしゃい!元気な狐の兄ちゃん、すまんが他所で頼む!」
「すまないねぇ、忙しくて手が開かないんだ。」
「おいおい、他の客の邪魔だ!最後尾に並んでくれ!」
しかし、どの店からも有力な情報は手に入らなかった。
諦めずに、次の作戦に乗り出す。
繁華街を逸れた小道を進むと、住宅街に出た。
先程とは打って変わって静かな街並。
芝生が生い茂る、広い公園を見つけた。
中は遊具が置かれていて、家族連れの擬人たちが平穏な時間を過ごす。
ベンチに座る親子の元に駆け寄り、尋ねる。
「すんませーん!天使狩りについて―。」
しかし、母親の擬人が天使狩りというフレーズを聞くなり血相を変えた。
「失礼します。」
子供の手を引っ張り、小走りでその場を立ち去る。
遊具で子供に話しかけようと近寄るも、大人達が子供を引き連れて離れて行く。
いつの間にか、公園から人の姿が消えた。
「上手くいかんなぁ~…。」
会話すら取り合って貰えない。
まるで、市民たちが天使狩りから目を背けているかのように感じ取れる。
腕を組み、良い方法は無いか。作戦を考えながら一人歩く。
人気の無い狭い路地裏を通り過ぎ、再び繁華街へ。
今度は中央広場を目指す。
「ん?どしたんやろ。おーい!」
ふと、道の片隅で黒いフードを被り、しゃがみ込む擬人を発見。
ルゥーは駆け寄り、同じ目線にしゃがんで話しかける。
泣いているようだ。
「大丈夫か?具合、悪いんですか?」
問い掛けながら、慰めるように背中をさする。
小刻みに震えている。特に外傷は見受けられない。
すると擬人はルゥーの肩を掴み、助けを求めた。
「…助けてください。お願い!」
フードが脱げ、顔が現れる。緩やかなウェーブがかかった茶色の長髪。
怯えるせいで後ろに向く獣耳。猫の擬人女性だ。
しかも整った美しい顔つきに、ルゥーは思わず顔を赤らめた。
「ななな…な、なにがあったんすか?」
同様しながら問いかけると、女性は再び大粒の涙を流す。
「生贄に…選ばれて…。嫌、嫌ああああ…!」
「なっ…!、詳しく教えてくれ!」
女性が落ち着くの待ち、ゆっくり話をする為、二人は路地裏へ移動した。