12話-処刑-
ユサフ村で貰った荷物を携えるラース。
体力も十分に回復し、地図を広げて歩く。
ルゥーは弾が切れた銃を放棄。
代わりに、村で好評だという干し果実を堪能しながら歩く。
ランは村で服を着替えた。黒い上下のインナーと、フード付きの上着。
動きやすいシューズと短パンは、どれも身体にピッタリだ。
しかし、初めて履く靴に慣れない様子。
森の中は日中にも関わらず生い茂る大きな木々によって光は遮られ、辺りは常に薄暗い。
視界が悪い為、足場に注意しながら獣道を進む。
人工竜のような巨体では歩くのもままならないだろう。
相変わらず、野生生物の姿が無い森の中。
かつてここにも多くの野生生物が住んでいたのだろうな。
ユサフ村の人々も、かつてはこの森で…。
そんな事が頭をよぎりながらラースは黙々と歩いていた。
「あれ?」
ふと、ランが立ち止まって白い耳をピンッと立てた。
微かに届く音を探るように向きを変える。
先導を切っていたルゥーが何か言いかけると、ラースが人差し指を口元に当てて静かにするようサインを出す。
「人の声!いっぱいいる。」
ランが声のする方向、地図通りの道筋を指さした。
当然ながら二人には物音一つ聞こえていない。
どうやら、ランの聴力は非常に優れているようだ。
ランの聴力を頼りに、三人は足早に音のする方へと進むと、森の中に鉄製の大きな門が現れた。
石で作られた高い防壁が奥へ奥へと連なっている。
門前で足を止めると、ラースが門を力強く押す。当然、ビクともしない。
中は賑やかな声が響いている。
すると、門の上の小さな穴から見張り人が顔を出した。
「何用か!」
「中に入れてくれ!」
男の問い掛けに、ラースは地図に記された手形を広げて見せた。
手形を確認した男が中へ戻ると、大きな音と共に門が開かれた。
中に入り、しばらく石で整備された道を歩く。
「まるで故郷の街並みやな!」
「あ、ああ。凄い…。」
森のような林道の先に現れた街の景観はユサフ村とは似ても似つかない、大都市。
レンガで作られた家が並び、ガラス細工の小物がおかれた店、この街の技術の高さが伺える。
そして多種多様の擬人たちがここで生活を営んでおり、繁華街は賑わいを見せていた。
初めて見る人混みに、ランは少々戸惑っている様子で、ラースの袖を強く握っている。
<<ワー!!!>>
突如、街の奥から歓声が上がる。三人は声のする方へ向かった。
街の中央は更に大きな建物が多く建ち並び、中央広場の噴水が吹き上がる。
多くの擬人が中央を眺めている。
群衆をかき分けて中へ入ると、目を疑う光景が広がっていた。
噴水の前に設置された木製の台。
その階段を上った先。
頭に黒い袋を被せられた、街の擬人女性が一人。
白い十字架に身体を拘束されていた。
ルゥーがとっさにランの目を手で覆う。
光景を目の当たりにしたラースは拳を強く握った。
気持ちを抑えながら、そばに立つ擬人たちに小声で尋ねた。
「生贄の公開処刑だよ。」
「天使伝説を終わらせる為の天使狩りさ。」
男が説明するうちに、十字架に火が付けられた。
炎が瞬く間に燃え上がる。
<<ワーー!!!>>
湧き上がる拍手と歓声。
ラースは拳を握りしめたまま、天使伝説…。と呟く。
「胸糞悪い場所やな。はよ行こ。」
三人は中央広場から足早に立ち去った。