10話-影-
村の民家から照らされる僅かな光を頼りに、ルゥーは一人で夜道を歩いていた。
遠く離れた大きな建物、宴会場から響く音楽がかすかに響く。
村は太い一本道が続いていて、両端にぽつぽつと民家が建ち並ぶ。
民家の裏側には大きな木々が生い茂げ、一度迷ったら戻れない深い森が広がっている。
森の奥は光が届かず、小さな風が不気味に木の葉を揺らしている。
まるで、何かがこちらの様子を伺っているかのような。
そんな森からの侵入者を防ぐのは、無造作で頼りない木の柵。
一部の壊されている柵から、この村の安全性の低さが伺える。
恐怖感と共に焦り始めるルゥーは、少し落ち着きのない様子で辺りを見渡す。
「げ、限界や…!何処に便所があんねん!」
厠の場所は村の一番奥。
恐怖感と共に切迫感が襲う中、目的地になかなか辿り着けずにいた。
小走りで奥へ奥へと進むと、ついに小さな小屋が現れた。
そばの石垣から照らす灯篭の明かりが、入り口を照らす。
間一髪で間に合ったルゥーは涼し気な顔で小屋を後にした。
来た道を戻るため、石垣に背を向けた瞬間。
柵の外側の茂みが激しい音を立てた。
<<ガサガサッ!バサッ!>>
勢いよく黒い物体が空中へ飛び上がり、唸る。
「グルルルル…!!!」
「な、なんやこいつ!?」
初めて見る怪奇生物を前に思わず立ち尽す。
現れたのは、胴体がルゥーの身長の二倍程の、まだ若い小型の竜。
浮遊するために動かす翼は蝙蝠のように薄い膜でできている。
身体を覆うゴツゴツとした鱗が黒光りし、腹が減っているのか、口から唾液が流れ出ている。
赤黒く光った目がルゥーを睨む。
目が合った瞬間、慌てて走り出す。
しかし間も無く、ルゥーは足がつまずき地面に倒れこんだ。
一度夜空へ飛び上がった人工竜は、標的に向けて急降下。
「ガァアアアアーー!!!」
「ぅ、うわーーーーっ!」
<<ズバッ!ブシャーッ!>>
地面に伏せたまま、両手で頭を覆う。
<<ドドォ…ッ>>
人工竜の爪がルゥーの体に触れる前に、その身体は地面に崩れ落ちた。
一瞬にして、辺りが静まり返る。
「な、な…。どういうこっちゃ…?」
状況が把握できないまま、隣でぐったりして動かない人工竜の姿をそっと覗いた。
その首元は大きく切り裂かれていて、大量の鮮血が月明りに照らされ輝く。
ルゥーは恐る恐る立ち上がると、人影を確認した。
子供のように小さい背丈。ローブを羽織っている。
その手には人工竜を切り裂いたであろう小さな刃物を握りしめている。
「あ、あの!おおきに…!」
ルゥーは命を救ってくれたその影に、とっさに話しかけた。
影の主は声に気づくと、振り向いた。その右目が一瞬、橙色に光る。
しかし返答は無く、すぐに影は森の中へと消えた。