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彼女の独白2

 ーーそれは前日の事だった。


『明日、会えるのを楽しみにしています』


 前田圭吾がご大層にハートのスタンプをつけて送ってきた。

 いや、会う約束などしていないが、これはどういう事だ。


『そんな約束してた?』


『え? この前の合コンで約束しましたよ』

『明日楽しみにしてますね』

『どこに行くかは任せてください』


 相手の予定を聞きもせずに、自分勝手に話を進めていくところは昔と変わらないらしい。どうしたらそこまで自分に自信が持てるのだろうか。


『いや、明日は...』


『じゃ、十時に時計台前集合で!』


『ちょ、ちょっと!』


 返信は返ってこなかった。


 クソ。やはりあいつはクソだ。クソ以下のゴミ虫だ。

 これではまるで、彼の強引なデートの約束を断りきれず、されるがままに付き合ってしまう押しの弱い女みたいじゃない。


 おそらくあのクソ男も、少し押せばホイホイとついてくる女だと軽くみているに違いない。ああ、イライラする。


 そうだ。あのクソ男は明日のプランを考えていると言っていたな。それなら、そのプランをぶち壊して私が主導権を握ってしまえば勝ちじゃない。


 あんなクソ男の考えるプランなんて、どうせイタリアンでランチでもして、映画かショッピングに連れて行ってくれるぐらいだろう......いいかもしれない。


 いや、待て私。私はプランにイラついているのではなく、私の予定や気持ちも考えずに、平気で事を進めてしまう、奴のイかれた神経に腹立っているんじゃないか。


 そうだ。明日は私の好きな喫茶店に強引に引き込むことにしよう。奴が考えた理想のプランを粉々に打ち砕いて、精神的にダメージを与え、私の優位性をひけらかしてやるのだ。うふふふふ。


 ピコン!


 ん? またチャットが来たようだ。


『未来、頼むよ 無視しないでくれ』

『お願いだから! ほら、この前欲しいって言ってた化粧品、プレゼントしようと思って買ってきたんだ』

『明日、会って渡せないかな?』


 スマホの電源ボタンを押し、画面をブラックアウトさせた。


 うざ。うるさっ。どうせ、私が見ていた雑誌の安いコスメの記事を見てしまったのだろう。その程度の男。返信する気にもなれない。


『金を持ってるらしい』と言う噂だけで付き合った吉岡は、実は堅実に貯金をしていた中小企業のサラリーマンだった。


 最初は羽振り良くブランドのバッグや服、私が綺麗になるならとエステの料金も払ってくれていたと言うのに、最近は財布のヒモをギチギチに締めている。


 貯金が底をついたか? それとも私の本性を見破ったか?

 前者はあったとしても、後者は間違いなく、ない。あいつは私の事が大好きだし、私のためならなんでもする。そう言う男に、育てたのだ。


 ただ、誤算があったとすれば、私が丹念に育ててやったにもかかわらず、それに答えるだけの金を持ち合わせていなかったと言うところか。やはり、噂は噂。


 しっかりと男の本質(金)を見極める目を、鍛えていかなければならないと言う事だろう。いい勉強になった。


 しかし、もう用済みの絞りカスのくせに、まだ私と対等な立場だと思っているのか。めんどくさい。


 金がないと分かってからと言うもの、少しずつ別れ話を匂わせてきたつもりだが、あまりにも私への執着が強すぎて嗅覚がマヒしているらしい。


 今までの経験でいくと、コイツは必ずストーカー化する。早めに切っておかなければ、私の日常生活を脅かす化け物になりかねない。どうにかして、コイツを強制的に私から離れさせる方法はないだろうか......


 あ! いいことを思いついた。


 そうだ。その手があったのだ。その手が。

 ここに、いい駒が揃っているじゃないか。


 私はスマホの電源を入れ、前田圭吾とのチャットを開くと、人差し指で流れるように文字を打ち込んだ。


『明日、楽しみ』


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