彼女の独白1
ーー被告人に無期懲役を求刑致します。
検察官の言葉を聞いた瞬間、思わず吹き出しそうになってしまった。ざまあみろ。
その後もずっと笑いを堪えるのに必死で、前田圭吾が私の事を喋っていたらしいが、全く頭に入ってこなかった。
裁判が終わった後も、傍聴席からしばらく動けずにいた私を、係の人が支えてくれたので仕方なく立ち上がり、裁判所を後にした。
おそらく、裁判が終わった後の私の後ろ姿は、悲劇のヒロインが悲しみに震えているように見えたのだろう。実際は、喜劇のヒロインとして肩を揺らしながら、笑いを堪えていただけだと言うのに。
ダメだ。今思い出しても笑える。何度も笑える。
私はビルとビルと間にある狭い路地に入り、壁に手を着くと、気の済むまで笑った。
ーー前田 圭吾とは彼の内定記念に行われた合コンで再会した。
同姓同名だとは思っていたが、よりによって本人が来るとは思ってもみなかった。そう、前田とはずっと前に面識があるのだ。しかし、彼は私の事に気がついていない様子で、さも爽やかな笑顔で私にアプローチしてきた。
当たり前だ。顔の部品を何から何まで整形したのだから、気づいてもらっては困る。
しかし、やはりこいつはいい男だとは思う。現に私以外の女全員が圭吾を狙っているのだ。私も昔の事がなければ、ホイホイとお持ち帰りされていただろう。
圭吾は素っ気ない態度をとる私に、なおもアプローチを続けた。やめろ。心を揺さぶるな。結局、強引な彼に押し切られ、連絡先を交換してその日はお開きとなった。
私としたことが、あんな奴と連絡先を交換するなんて。
家に着くと、服も着替えずに、すぐにベッドに寝転んだ。スマートフォンの電話帳を開き、圭吾の番号を表示させ、そのままメニュー画面の『消去』のボタンを出す。これを押せば、今日のことは無かったことにならないだろうか。
そもそも、こんなイレギュラーな形で再開してしまっては、わたしの計画がすべて台無しになってしまう。それとも私は、やはりあいつに惹かれているのだろうか。
いや、ない。それはない。あの頃のような、純粋な乙女心は、とっくの昔に枯れ果ててしまっている。思い出せ、昔あいつがやった事を。整形して顔も変えたし、ダイエットして理想の体も手に入れた。
それもこれも、すべてはあいつ、『前田 圭吾』に復讐するため。
私は、真っ暗になったスマホの画面に映る自分の顔を見て、『かわいい』と呟き、そのまま深い眠りについた。