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私の独白3

 未来さんはとても恐怖を感じていました。


 事情を聞くと、『彼氏』は付き合った当初はそうでもなかったのに、だんだんと束縛が激しくなってきて、今では何をするのにも彼の許可が必要らしいのです。


 別れ話を切り出した時も、全く相手にされず、それどころか『別れたらお前を殺して俺も死ぬ』と脅しをかけられているようでした。


 私はそれを聞くや否や、いても立ってもいられなくなりました。未来さんの『ナンバーワン』であるはずの彼が、異様な性癖を隠していた事、そして何よりも、私がそんな男よりも順位の低い『ナンバーツー』である事が許せなかったのです。


 私は別れ話を彼に承諾してもらうため、三人で話し合いの場を設けることにしました。一週間後に彼の家で。もちろん彼には、未来さんだけが話したいことがある、と伝えました。


 ただ、今までにこのような修羅場を経験したことのなかった私は、おそらくこの時点で決定的なミスを二つも犯している事に気がつかなかったのです。一つ目は、場所の選択を間違えてしまったことでしょう。もっと、第三者の沢山いるファミレスなどにするべきでした。


 そして二つ目は、今もまだ彼氏の鎖に繋がれている彼女の気持ちを理解しておくべきだったんです。そう、彼女の感じていた恐怖は、私が考えるよりも暗く重く、そして沼のように底の知れないものだったのです。



 話し合い当日、私は大失態を犯しました。



 彼の家に行く時間を間違えていたんです。事が発覚したのは、彼女の電話でした。


『なんで待ち合わせ時間に来てくれなかったの!? ねえ、助けて』


 気持ちを落ち着かせるために、彼の家の近くでお茶をしていた私は、一瞬にして何が起こったのか理解しました。そして、代金をテーブルに置くと猛スピードで喫茶店を後にしたのです。


 彼の家へと全速力で走っている間、後悔の念が津波のような勢いで襲ってきました。今まで待ち合わせなどの時間を忘れたり間違ったりした事はなかったのに、何故、このタイミングでイレギュラーな事が起こるのかと、自分を蔑み、呪いました。


 そしてなによりも、待ち合わせに来なかった私を置いて、彼女だけ先に行ってしまった事がショックだったのです。改めて、束縛された彼女の気持ちを考えると、一分でも遅刻した時に彼氏から何をされるのか、不安でしょうがなかったのだと思います。


『彼氏』の住んでいるアパートにはオートロックはなく、玄関のドアへ直接向かう事ができました。ドアの前に着くと、一度深呼吸をしてドアノブを握り、捻りました。

 ガチャ、という音と共にドアノブは回転します。カギは開いていたのです。

 すぐさま、ドアを開け、部屋の中へと土足で入り込みました。


 次の瞬間から、記憶が曖昧なんです。


 部屋の中で私が見た光景は、床に倒れ、頭から血を流している未来さんと、彼女を見下ろしながらぼーっと立っている彼氏『吉岡 司』でした。吉岡の足元には血のついた金属製のバットが落ちていました。


 多分、私はこの直後に吉岡に向かって飛び出し、床に落ちていたバットを手に取って、吉岡の息がなくなるまで殴り続けていたのだと思います。


 気がつくと私は、吉岡に馬乗りになりバットを振り上げているところでした。下の方に目をやると、吉岡の顔は原型を留めないほどに腫れ上がり、床には血が飛び散っていました。息があるか確認せずとも、すでに絶命している事は誰が見てもわかったと思います。


 吉岡の死を確認すると、急いで未来さんの方へ駆け寄りました。どうやら未来さんは、気を失ってはいるものの、命は助かっているようでした。すぐに救急車と警察を呼び、未来さんは病院へ、私は警察署へと連行され、今に至ると言うわけです。


 ーー前田 圭吾さん、それではあなたは吉岡 司さんの殺害を全面的に認めると言う事ですね。


 はい、そうです。


 ーーわかりました。それでは検察は求刑をお願いします。


 ーーはい、求刑に移ります。被告人『前田 圭吾』は、たとえ花咲 未来さんを守るためとはいえ、武器を手放していた相手に対して、執拗な殴打を繰り返し、絶命後もさらに殴打を続けた事からもわかる通り、動機は悪質なものと考えられます。そのため、被告人に無期懲役を求刑致します。


 ーーわかりました。それでは最後に被告人は、何か言っておく事はありますか?


 はい。私は吉岡 司を殺害した事を、全く後悔していません。それよりも、花咲 未来さんを守れた事、彼女が生きていてくれた事、そしてなによりも、未来さんのナンバーワンになれた事を心から嬉しく思っています。以上です。







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