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私の独白2

 彼女、『美咲未来』さんとは、内定祝いに友達が開いてくれた合コンで知り合いました。


 一番を目指すと決めた中学生の頃から彼女が途切れた事はなかったのですが、就職活動の忙しさから、丁度彼女との別れ話が出ていたタイミングでした。


 一目惚れ、と言う経験を初めてしたのです。


 しかし、未来さんは容姿が良いだけではありませんでした。気遣いがとても上手いんです。話す内容もとても知的で、おもしろかった。テニスをやっていたと言う共通点まであり、今まで出会ってきた女性の中で、まさにナンバーワンだったんです。


 未来さんも私の事が気になっている様子だったので、合コンの帰りに友達には内緒で連絡先を交換して、後日会う約束までしました。


 まだ付き合ってすらないと言うのに、こんなにドキドキしたのは、あの中学生の頃にマネージャーから呼び出された時以来でした。


 初デート、と言っていいものかわかりませんが、おそらくは彼女もそのつもりだったと思っています。彼女の好きそうなデートスポットを調べ上げ、万全の状態で望みました。


 しかし、待ち合わせ場所に着くや否や、彼女は『付いてきて』と言って、私を案内し始めました。彼女の目的地は、あまり人気のない、でも洗練されたオシャレな喫茶店でした。


 どこへ連れて行かれるのかとドキドキしていましたが、やはり、ナンバーワンの女性は店選びのセンスもナンバーワンだったようです。


 初めて入った喫茶店でドギマギしていた所、彼女はそんな私を見て小さく笑っていました。普通、男が注文を聞いてオーダーするのだと思いますが、彼女は『いつものを二つお願いします』とだけ言うと、私の方を見て『常連なの』と言ったのです。


 そこから先は、とても優雅で楽しい時間でした。ただ喫茶店で話をしているだけなのに、こんなにも楽しいと思えたのは、生まれてきて初めてだったんです。


 でも、楽しい時間と言うのは急に終わりを迎えるものです。


 話の腰を折るように、机の上に置いていた彼女のスマートフォンのバイブレーションが鳴りました。振動する長さからして電話が掛かってきていると言う事はわかりました。

 

 しかし、彼女は一向に電話に出る気配がなく、心配して『出ないの?』と聞くと、『うん、大丈夫』とだけ言って、スマートフォンを見つめていました。


 その時の、彼女がスマートフォンを見つめる不安気な表情を今でも鮮明に思い出せますし、どうしてこの時に気づいてあげられなかったのかと、深く後悔しています。


 彼女が電話に出なかった理由を話してくれたのは、それから一ヶ月後の事でした。あれ以来、週に一回のペースで、あの喫茶店へ行き、他愛もない話をしていました。


『彼氏が別れてくれないの』


 そう彼女は言っていました。私はこの時、なぜ喫茶店以外に誘っても、彼女が首を縦に振ってくれないのか、やっと理解できたのです。


 つまり、まだ私は彼女のナンバーワンにはなれていなかったのです。


 悔しくて、涙が出そうになりました。別れ話をしているとはいえ、彼女には今も付き合っている男がいると言う事実が、私の中に眠っていた親父の教訓を思い起こしたのです。


『一番になんてなるもんじゃない』


 この教訓を親父がどんな気持ちで私に言っていたのか、初めて理解できた気がしました。一番になりたくてもなれない、そんな歯痒くも切ない、怒りに似た感情。こんな感情を抱えたまま、親父はこの世を去ったのかと思うと、同情の気持ちが溢れてしまうのです。


 親父の死因は、自殺でした。


 私が小学校高学年のある日、一人でドライブに出かけると言って出て行った親父は、三日後に県境の山中で首吊り遺体として発見されました。親父と仲の良かった方からは、やはり仕事関係での悩みが尽きなかったと聞いています。


 もしかすると、私に対してしつこい程に『二番手理論』を進めていたのも、誰かに悩みを気づいて欲しかったのかもしれません。


 私は決心しました。親父のように二番手で終わってしまうよりも、生のある自分は、一番を目指すための行動を起こせる、と。


 彼女から『彼氏』との話を聞いた一週間後になります。

 私が『彼氏』を殺したのは。

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