婚約者が死んだ
婚約者が死んだ。
彼女はするりと私の手をすり抜けて死んだ。
仕方が無い事だと。
皆が言う。
どうしょうも無かったと。
私と彼女は結ばれぬ運命だったと。
婚約者の妹が引き止めなければ。
婚約者は死なずにすんだ?
全ては婚約者の妹のせい?
いや……いや……いや……
逆恨みだ。
彼女は悪くない。
だったら……誰が悪いんだ?
リンゴンと弔いの鐘が鳴る。
彼女の亡骸は粗末な棺桶に入れられて。
土に埋められる。
貴族の娘なら霊廟に入るのに……
彼女は護衛騎士と駆け落ちして。
我が家の追っ手に追われ。
追い詰められて。
無理心中したのだ。
我が家の恥だ! と父親は婚約者を貴族籍から外した。
平民の共同墓地に婚約者は葬られ。
護衛騎士は……
護衛騎士は魔物の餌にしたから死体は残らないと。
我が家の暗部の騎士達が嗤う。
主人を裏切った不名誉な男にはおにあいの末路だと。
死体は魔物に食われ欠片も残らなかったと。
そう報告して嗤った。
私は彼女の墓に花を供えた。
婚約者の好きな黄色いバラだ。
黄色いバラの花言葉は【嫉妬】
それでも婚約者は黄色いバラが好きだった。
婚約者の墓の前で。
婚約者の妹が嗤う。
嘆き悲しむことはないと。私のお腹の中に貴方の子供がいるのだから。
婚約者の妹はお腹を撫でながら嬉しそうに嗤う。
これで邪魔者は居なくなったと。
「ちょっと待ってくれ‼ 私は君と寝ていない‼ 私は婚約者を裏切っていない‼ 何故子供ができる? 誰の子だ‼」
「酷い」
と婚約者の妹が泣く。
「何度も肌を重ねたのに。私達がベッドに居るのを見てお姉様は出て行ったのに……」
「ちょっと待て‼」
そんな記憶はない‼
私は婚約者の妹と寝ていない‼
だから彼女の妹とベッドに居るのを見られてなどいない‼
私は婚約者を裏切っていない。
裏切って……など……いない……
不意に知らない映像が流れる。
婚約者の妹とキスをして褥を一緒にして……
ドアを開けて入ってきた婚約者は俺達を見ると泣き出して。
泣きながら出て行った。
婚約者は居なくなって。
彼方此方探してようやく婚約者の領地にある湖の古城に隠れているのを見つけた。
忘れ去られた城で今は老夫婦と婚約者と護衛騎士だけが住んでいた。
城壁に婚約者と護衛騎士はいて。
気晴らしに散歩をしていたのだろう。
ふいに婚約者は泣きだして。
それを護衛騎士が慰めていた。
何故お前が私の婚約者の隣にいる。
そこは俺の場所だ‼
俺は怒りで目の前がどす黒く染まり。気が付いたら護衛騎士を切り殺していた。
婚約者は悲鳴を上げ。
俺から逃れようと俺の手を払い。
するりと俺の手をすり抜けて。
城壁から落ちた。
慌てて下に降りたが。
婚約者は死んでいた。
ああ……
思い出した‼
思い出してしまった‼
なんだ。
俺が婚約者を殺したんだ。
婚約者の髪は森のような深い深い緑で、瞳は青空のように澄み渡っていた。
優しい婚約者。綺麗で皆に好かれる婚約者。
努力家で何でもできる婚約者。
俺には勿体無い婚約者。
何時からだろう。
婚約者の心からの笑顔を見なくなったのは……
「姉様の本心を知りたければ、姉様にやきもちを焼かせればいいわ」
彼女にやきもちを焼いてもらいたくて彼女の妹の案に乗った。
私は婚約者の妹に嵌められた。
薬を盛られベッドに居る所を見られた。
何故この女は嗤っている。
姉が死んだのに。
腹違いとはいえ姉の墓の前で勝ち誇ったように嗤う、婚約者の妹は化物のようだ。
俺はメス豚の首に手をかけた。
五月蠅い‼ 五月蠅い‼
化け物め嗤うのをやめろ‼
昔魔物に襲われて腕に噛みつかれた事があったが、その時のオーガにそっくりだ‼
殺さねば‼ 化け物は殺さねば‼
醜い化物が何か叫んでいたが。
ボキリと首が折れた。
~~懺悔室である夫人の告白~~
ああ……
こんな事になるなんて。
息子が人を殺しました。
婚約者と婚約者の護衛騎士と婚約者の妹でございます。
何故こんなことに……
息子は婚約者を愛しておりました。
一つ目の凶事は息子が魔物に襲われて重症を負ったことです。
12歳の時でございます。
魔物の噛み口から瘴気が溢れ、もう助からないと医者に言われて、せめて苦痛を和らげようと魔草を使いました。とてもきつい麻薬ですが、せめて苦痛を和らげようと使ったのです。
所が息子は助かりました。
魔草が息子の命を救ったのです。
でも……魔草には副作用があったのです。
息子の性格が分かれたのです。
上品で優しい『私』と言う息子と。
凶暴で我儘な『俺』と言う息子。
薬を絶って二重人格は収まったかに見えました。
二つ目の凶事は婚約者の妹が息子に薬を盛ったのです。
巷では『媚薬』などといわれていますが、恐ろしい麻薬なのです。
そう……息子が死にかけた時に使った麻薬。
それをよりによってあの女は息子に使ったのです。
あの女は姉をいつも妬んでおりました。
貴族の血を引いて居るのは姉の母親で父親は婿養子でしたので。
姉の母親が亡くなった時。
彼女達の父親は貴族籍を外れ妹の母親と結婚しました。
当然妹は平民です。
同じ父親を持ちながらかたや貴族令嬢。
かたや平民の町娘。
姉が優しいのをいいことに、あの女は姉の館に入り浸り。
あろうことか息子に薬を盛ったのです。
また息子は病がぶり返しました。
婚約者は息子の様子が可笑しいのを訝しみ。
そして……二人がベッドに居るのを見てしまいました。
三つ目の凶事は……
私は彼女に古城に隠れることをすすめて。
息子の治療をする事にしましたが、息子は病院を抜け出して。
我が家の騎士を使い。
婚約者を見つけ出してしまったのです。
『私』の時の息子は『俺』の時の記憶が無いようでした。
だから婚約者が息子を裏切ったように見えたのでしょう。
怒りで『俺』が出てきたのでしょう。二人を死に追いやってしまいました。
四つ目の凶事は婚約者の父親が伯爵家の乗っ取りを企てて彼女の亡骸を共同墓地に埋葬したことです。
全くあの男にはあきれ果てます。何の権限があるというのかしら?
本当にあの親子は疫病神だわ。
息子は護衛を振り切って婚約者の墓に参りました。
あの平民の女が息子の前に現れて息子はあの女を殺し。
あの女は身ごもってはいなかったそうです。
ああ。当然。外交に行っていた彼女の大叔父が帰ってきてあの親を牢に入れましたよ。
彼女の亡骸は霊廟に移されました。
息子は……
今病院にいます。
そこで……
『わぁ。バラをありがとう。皆は顔を顰めるけど。私は黄色いバラが、一番好き』
10歳の僕の婚約者は笑って黄色いバラを受け取った。
『だって、黄色いバラにされたお姫様を【真実の愛】で王子様が探し出すのよ』
「本当にその絵本が好きだね」
彼女は【黄色いバラのお姫様】の絵本を大切そうに抱きかかえる。
『あ……もちろん人間では貴方が一番好きよ』
「僕も君が一番好きだよ」
白いベッドに座り。
僕達は一日中おしゃべりに明け暮れる。
もう僕達の邪魔をするオーガは居ない。
白い部屋の中。
僕達の楽園があった。
~ Fin ~
~ 登場人物紹介 ~
★ 私
大怪我をおって苦痛を和らげるために使われた魔草の副作用で二重人格になる。
『私』の時は『俺』の記憶はない。
婚約者の妹にはめられ。再び二重人格になる。
婚約者と護衛騎士と婚約者の妹を殺した。
今は病院で幻の婚約者と誰にも邪魔されない世界に居る。
★ 婚約者
婚約者を愛していたが、腹違いの妹が婚約者に麻薬を盛り。
彼が可笑しくなるのを見ているしかなかった。
彼の母親に古城に隠れているように進言される。
護衛騎士を殺した彼から逃れようとしたら城壁から落ちて死ぬ。
★ 妹
姉から婚約者をねとる。
同じ父親なのに姉は貴族で自分が平民なのが気に入らない。
貴族について余り分かってない。
麻薬を使って虜にしたつもりが二重人格が出て殺される。
妊娠は想像妊娠である。
★ 護衛騎士
婚約者の護衛騎士。婚約者より10歳年上。
古城には彼の妻と子供が一緒に暮らしていた。
★ 母親
息子が、魔物に襲われて助からない、せめて苦痛を和らげるために魔草(麻薬)を使う。
奇跡的に助かるが、副作用で二重人格になる。
薬を盛られ凶暴化する息子を病院に入れるが、脱走される。
その為婚約者と護衛騎士が死ぬ。
婚約者とは仲がいい。腹違いの妹の母親とは仲が悪い。
★ 二人の父親
伯爵家に婿養子で入る。婚約者の母親が死ぬと貴族籍を抜かれ平民になる。
財産目当てだが。妻の叔父が爵位を継ぐとは知らなかった。
伯爵家乗っ取りを目論むが叔父が阻止する。
今は娘が使った麻薬について取調べを受けている。
数年前から魔草は禁止薬物になっている。
★ 妹の母親
貴族になれると思ったら甲斐性なしだった。
娘は貴族の妻にさせたくて。娘に魔草を渡す。
副作用の事は知らなかった。
借金メーカー。
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2018/9/27 『小説家になろう』 どんC
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最後までお読みいただきありがとうございます。




