表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ミッション6

 昼寝から目を覚ましたミノリちゃんが玄関の声に眠い目をこすりながらやってきました。

「よお、お嬢ちゃん」

 三太郎の大きな姿を見つけてミノリちゃんはパアッと顔を輝かせて駆け寄りました。

「黒ヒゲだあ! あ、怪しい赤ジジもいるう!」

 と、三之助には警戒してアニメの女の子戦士のポーズで威嚇(いかく)しました。

「へっへっへっへっ。おもしれえお嬢ちゃんだなあ」

 三之助もミノリちゃんを気に入ったようです。

 三太郎はミノリちゃんに言いました。

「おっかねえ牢屋からお兄ちゃんに助けてもらったんだぜ?」

 ミノリちゃんはお兄ちゃんを見てニッコニコに笑いました。タダシ君はちょっと恥ずかしくてすごく誇らしい気分です。

 三太郎が嬉しそうに悪人ヅラで言いました。

「よおし、今夜からブラックサンタ団活動再開だ! おい、悪い子になっちまったタダシ。おまえも手伝うんだぞ」

 ミノリちゃんの期待いっぱいの顔に見られてタダシ君は、

「うん!」

 と元気に答えました。


 夜。

 タダシ君とミノリちゃんはそろって布団に入り、トナカイの鼻を押しました。目が開き、ピカピカ光り、ピアノの音楽が流れ出し、ツノが光って歌い出しました。

「おやすみミノリ。夢で会おうね?」

「おやすみなさーい!」

 二人仲良く夢の中へ・・・


「ワハハハハハ。来たなブラックサンタども!」

 ビルの屋上で、黒岩三太郎です。今日は気合いが入って自分も黒の忍者スタイルです。と思ったらタダシ君も同じ忍者スタイルで、ミノリちゃんは大好きなアニメのピュア・ブラックになっています。

 空は満天の星空で、星の光がすごく強く、青紫色の空になっています。とても幻想的です。見下ろす街並みも・・ここは日本なんでしょうか? 街灯やネオンが霧ににじむようにして、とってもファンタスティックです。

「さあ仕事だ。今夜はかせぐぞお!」

「どうやって中に入るの?」

 ここは銀行のビルの屋上なのでしょう。

「おい」

 三太郎が呼ぶとカメライオンが虹色の姿を現しました。

「あ! 虹太郎!」

 ミノリちゃんは嬉しそうにカメライオンの首にしがみついてたてがみに頬をすりすりしました。

「ピュア・ブラック。相棒といっしょに頼むぜ」

「Yes!」

 ミノリちゃんはカメライオンに顔でお尻を持ち上げられて背中に乗り、屋上の床に

「ジージー」

 カメラの照準を合わせました。コンクリートの床が透けていきます。

「行くぞ、ショウノジ。」

 ショウノジというのが忍者タダシの暗号名のようで、タダシ君は「おう!」と元気に返事して、カメライオンが開けた丸い穴に飛び込みました。三太郎が飛び込み、ミノリちゃんを乗せたカメライオンが飛び込みました。

 金庫室目指して50階建てのビルを下っていきます。途中こわ〜い顔をした敵(本当は正義のお巡りさん。ごめんなさい)をささっと忍者の身のこなしでかわし、カメライオンの照準のトンネルを歩くという裏技で壁の中を進み、ついに地下の金庫室に辿り着きました。

 金庫室にはプロテクターを着けた敵の忍者軍団が待ちかまえていました。

「おのれくせ者! 今宵(こよい)こそ引っ捕らえてくれるぞ!」

 警棒やくさりがまをかまえる忍者軍団に、

「悪いが今回は小さなお子さま連れなんでな」

 と三太郎はボンッと煙玉を投げつけ、みんな簡単に眠りこけてしまいました。タダシ君はせっかくハラハラドキドキの決闘が出来るかと思ったら、簡単にけりが付いてしまってひょうしぬけしてガッカリです。でもミノリちゃんは単純に「わーいわーい」と喜んでいます。三太郎はタダシ君に言いました。

「おまえもまだお子さまだ」

 タダシ君は子供扱いにムッとしましたが、三太郎はワッハッハと笑いました。

「今夜はあと4つ、銀行を攻略せにゃならん。遊んでるひまはねえってことさ」

 カメライオンが金庫のドアを透かして中の金塊のピラミッドをカシャリ! 金塊をゲットしました。

「よし、ミッション1クリア! ミッション2に移動するぜ!」


 三人と一匹はまた別のビルの屋上に移動しました。

 タダシ君はききました。

「ねえ、どうしてわざわざ屋上に移動するの?」

 三太郎は当たり前じゃないか?という顔で言いました。

「その方が面白いだろう? さあ、今度のステージはさっきより手強いぞ!」

 タダシ君はなんだそうかと思いました。これはコンピューターゲームの潜入型ゲームなのです。大人っぽいゲームでタダシ君はまだやったことありませんが。なるほど、それは「おもしろそう」で、タダシ君はがぜんやる気が出てきました。

 ミノリちゃんが大喜びで叫ぼうとしました。

「うん・・」

 タダシ君と三太郎はあわてて同時にミノリちゃんの口を押さえ、なんとか金塊流出を阻止しました。

「はあ〜〜、あぶねえあぶねえ。こっちの罠の方にやられそうだ。さあ、行くぞ!」

 ミッション2、スタート!


 ・・という感じで、朝日が昇ってくるまでになんとか最高レベルのミッション5の銀行の金庫から金塊の強奪に成功しました・・・・本当に悪の大泥棒になった気分です。クリスマスのサンタさんのお話なのにいいんでしょうか?

「フフフフフ、ご苦労だったな諸君」

 悪の首領の三太郎が貫禄たっぷりに言います。

 ミノリちゃんは疲れてカメライオンの背中でグーグー眠っています。おかげで「うん・」を言われる心配はありません。タダシ君は昇る朝日を眺めて、ああ今夜も一晩たっぷり働いたなあ、とサラリーマンのお父さんみたいな充実感を味わいました。

 ところで今夜の5つの銀行の成果を振り返って、日本の銀行に果たしてピラミッドが作れるような大量の金塊があるんでしょうか? まあ夢の世界のことなので大げさになっているのでしょう。楽しかったので文句はありません。

 いっしょに朝日を眺めながら三太郎がタダシ君に言いました。

「これで今年のブラックサンタ団の仕事はおしまいだ。世話になったな」

「もう23日が明けちゃったけど、プレゼント作りは間に合うの?」

「ああ、平気だ。心配ない。

 なあタダシ。

 おまえの本当に欲しいプレゼントはなんだ?」

「僕は、プレゼントは他の子に譲っちゃったから今年はいらない」

「いいから、言ってみろ」

 タダシ君はとなりでどっしり腕を組んでいる三太郎を見上げて言いました。

「・・クリスマスイブに・・、お父さんお母さんと、家族四人揃ってクリスマスパーティーがしたい!・・。ミノリ、いつもかわいそうなんだ、お父さんお母さんがいっつも忙しくって・・。ミノリは、本当はすごくいい子なんだ!」

 三太郎は

「ハハハハハハハ」

 と大笑いしました。

「なるほど、いい子か? こいつはしまった、俺の見込み違いだ。俺は最初から間違っていたわけだな? よし分かった、おまえのプレゼントは俺が直接サンタクロースに頼んでやる」

「ありがとう! ・・でも、僕のプレゼントはユウキ君に譲っちゃったから・・」

「おお、そうだったな。じゃあおまえさんのところに来るサンタは黒いヤツかも知れないぜ? なあ、タダシ。ハッハッハッハッハッ」

 三太郎はミノリちゃんを抱き上げるとタダシ君に預けました。

「ありがとうよ、金塊は確かにサンタランドがいただいたぜ。

 それじゃ、明日の・・じゃねえ、今夜のイブを楽しみにな。アバヨ、タダシ」

 三太郎がカメライオンといっしょにスッと消えると、白い朝日がまぶしくさして・・



 朝布団の中で目を覚ましたタダシ君は起きていくといつも通り台所のお母さんに挨拶しました。

「お母さん、おはよう」

「はい、おはよう。タダシは毎朝一人で起きてきていい子ねえ」

「僕、本当はいい子じゃないんだよ?」

「あら? そおだったのお〜?」

 お母さんは笑って、タダシ君も笑いました。

「あのねお母さん。やっぱり今夜は帰れない?」

 お母さんはとっても申し訳なさそうに言いました。

「ええ。ごめんね。やっぱり代わりの人がいなくて、お母さんが担当の入院している子、やっぱり加減がよくないのよ」

「そう・・。じゃあ、仕方ないね・・」

「ごめんね。明日は必ず! ね?ごめんなさい!」

「いいよ。分かったよ」

 お母さんはとても大事な仕事をしているのです。仕方ありません。


 あっという間に夕方です。今日はお父さんも遅番(おそばん)で、帰りは真夜中過ぎです。

 薄暗くなってきたのでカーテンを閉めて電気をつけて、ミノリちゃんと二人でつまらなくいつもの夕飯を食べようとしました。

 すると・・


 ポン・ポン・ポンポポン・・


 ピアノの、「トロイメライ」が聞こえてきました。子供部屋のドリームマシーンが勝手に動き出したようです。見に行こうとすると、天井の電灯がまたたいて、消えてしまいました。驚いていると、


 金、白、赤、青、緑色、


 光の波がスー・・スー・・と、本当に波のように暗い部屋を走っていきます。トナカイの角が光る光の色です。

 ミノリちゃんはもうテーブルにつっぷして眠っています。タダシ君も立っていられなくて床に横になると、目を閉じました・・・・




 目を覚ますと。


「アロハ〜。ウェルカム・トゥ・ハワアイー!」


 フラダンスのきれいなお姉さんにハイビスカスのレイ(花の首飾り)をかけてもらって、ほっぺたにチュッとキスされました。

 タダシ君とミノリちゃんとお父さんとお母さんは、アロハシャツを着て、南の島、ハワイの空港に降り立ったところなのでした!

 きれいなお姉さんにキスされてデレデレしていたお父さんがお母さんににらまれて言いました。

「えーと・・、ああそうだ、お父さん特別ボーナスで会社からハワイ一泊家族旅行がプレゼントされたんだ・・よなあ???」

 お母さんにきくと、お父さんをにらんでいたお母さんもちょっとビックリして、

「えーーとーー、そう・・よ、ねえ???」

 言いながら首をかしげました。

 ミノリちゃんはお父さんお母さんの混乱なんておかまいなしです。

「お父さん!お母さん! 海行こう、海い!!」

 とお父さんの手を引っ張りました。ミノリちゃんに思いっきり手を引っ張られたお父さんは、

「おっと。よ〜〜し、せっかくの南国のホリデイだ、思いっきり遊ぶかあ!?」

 お母さんも、

「よーーし、お母さんもビキニ着ちゃうわよおー! ほら、タダシ! 行くわよ!」

 と、二人とも大はしゃぎです。もちろんタダシ君も、

「僕も泳ぐ!」

 駆け出しました。


 真っ青な空、真っ白な砂浜、遠浅の透き通った海で、家族四人で思い切りはしゃぎ回りました。

 疲れるとビーチパラソルの下で青いトロピカルジュースを飲んで、すると砂浜で黒と赤の全身水着を着た見たことのあるような二人組がイスに寝そべって日光浴をしていました。タダシ君とミノリちゃんは指さしてひそかに笑いました。

 バーベキューの焼き肉を食べて、ゴーカートに乗って、馬車に乗って、お買い物をして、また海で遊んで、海に沈む大きな夕日を四人並んで眺めました。

 フラダンスのショーを見ながら大きなロブスターの夕食を食べましたが、ショーにはやっぱり黒ヒゲ大男の三太郎とトンボサングラスの三之助がゲスト出演して下手くそなフラダンスでお客を笑わせました。もちろんタダシ君とミノリちゃんも大笑いしました。

 とっても楽しい一日でした。

 遊び疲れてくたくたです。

 家族揃ってこんなに楽しかったのは何日ぶりでしょう。

 ザー・・ザー・・、と、窓の外の波の音を聞きながら、タダシ君は幸せいっぱいの気持ちで眠りに落ちていきました。

 その眠りに落ちていく頭の中に、三太郎の声が聞こえました。


「一夜限りの夢のプレゼントなら、ただだ」


 タダシ君は幸せな気分でぐっすり眠りました。



 朝起きると、タダシ君は自分の布団の中に寝ていました。

 体を起こして目をこすります。となりではまだミノリちゃんがよだれをたらしてグーグー寝ています。なんとも満ち足りた寝顔です。

 起きていくと、台所から上機嫌な鼻歌が聞こえてきます。

「おはよう」

 挨拶すると、

「おっはよー! ランラランララ〜〜ン。」

 お母さんがどうしちゃったのかというほど上機嫌で挨拶しました。

「どうしたの?」

「うん、ユウキ君ね、もうー、だいじょうぶよお〜。危ない状態はすっかり良くなりました。しばらくすれば退院もできるでしょう!」

「そう。それはよかったね。

 ところで、ねえ、僕とミノリ、夕べここで寝てなかった?」

「いいえ。ちゃあんとお行儀良く布団で寝てたわよ?」

「そう? ねえ、ごはんは? そのまま残ってなかった?」

「ああ!」

「え?やっぱり?」

「食べたまんまテーブルに残ってた! 水にうるかしておいてって言ったでしょう?」

「うん・・。食べてた?」

「ええ。きれいさっぱり。おかわりして」

「ああ、そう・・」

 変な話です。昨日自分とミノリちゃんはここでドリームマシーンのせいで眠ってしまったのです。・・そういえばドリームマシーンは?

 フンフフ〜ン、とお母さんはまた鼻歌を歌い出しました。

「どうしたの? まだ何かあるの?」

「ムフフフフフフ。実はねー、夕べお母さんねーー、ムフフフフフ」

 とそこへ、

「おっはよー!」

「おはよー」

 と、ミノリちゃんとお父さんが仲良く起きてきました。二人とも揃ってニコニコ顔です。

「あら二人とも珍しい。どうしたの?」

「フッフッフッフー」

 お父さんが怪しく笑いました。

「父さん、実は昨日の勤務でな、仮眠中にすっごく楽しい夢見てな。あーあ、おまえたちにも見せてやりたかったなあ〜〜〜!」

 お母さんも負けじと言いました。

「あら、あたしだってそうよ。不思議よねー、ほんの少しの仮眠中に、丸1日夢の中で過ごしちゃった! あんまり機嫌がいいんで他の先生方に気味悪がられちゃったわ」

「へー、俺もだぞ?」

 タダシ君はもしやと思ってききました。

「それってもしかして・・」


「あろはおえ〜〜」


 ミノリちゃんが手をヒラヒラ腰をクネクネさせてアロハを踊りました。

 三人は目を丸くして顔を見合わせました。


「不思議だねーーーーー?」


 タダシ君は笑いました。

「きっとサンタクロースがプレゼントしてくれたんだよ」

 そのサンタは、黒い服を着ていたはずです。

 お父さんは家族の顔を見渡して言いました。

「よし。じゃ、来年も行くか?」

「ハワイ!?」

「アロハ!?」

「海!?」

 お父さんは自信満々に請け負いました。

「おう! 今度はお父さんがサンタクロースだ!」

 タダシ君はミノリちゃんと顔を見合わせてニコニコ笑いました。


 ところでお父さんもお母さんも財布からお金がなくなっていると大騒ぎになりましたが、夜になってクリスマスパーティーをしているところにハワイからどっさり荷物が届きました。お父さんお母さんが大喜びで買い物しまくっていたおみやげです。夢の中の話のはずが、不思議です。荷物の発送者は「空想科学社ハワイ支部」となっていました。


 そう、ドリームマシーンですが、アンケート、契約書、その他もろもろ込みで、いっさい家から消え去っていました。

 代わりに、ミノリちゃんにはご希望のクリスマスプレゼントが布団の中に赤い靴下の包みに入って置かれていました。

 ミノリちゃんへのサンタさんからのプレゼントは、


 黄金の「黒ヒゲ危機一髪!」でした。


 まさか・・と思いましたが、金色はただのプラスチック塗料でした。

 そういえばテレビで黒岩三太郎脱獄のニュースは大々的にやっていますが、一昨夜の銀行金庫金塊強奪事件のニュースは1つも入りません。新聞を見ても脱獄囚黒岩三太郎は顔写真付きで大々的に出ていますが、金塊事件はいっさい出ていません。不思議です。

 黄金の「黒ヒゲ危機一髪!」を見てミノリちゃんがなんと言うかタダシ君は身構えていましたが、ミノリちゃんは

「あっ! 黒ヒゲだー!!」

 と大喜びしてさっそく遊び始めました。

 もうミノリちゃんは「う・・」を卒業したようです。



 おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ