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ミッション2

「ではあらためまして。わたくし、『空想科学社』の黒岩三太郎(くろいわさんたろう)ともうします。どうぞよろしく」

 黒いセールスマン=黒岩三太郎はじゅうたんの上に正座して、タダシ君とミノリちゃんにていねいに名刺を差し出しました。タダシ君とミノリちゃんも正座して、差し出された名刺を珍しそうにのぞき込みました。子供が大人から名刺をもらうなんてめったにありません。

「ま、ま、脚をくずしてどうぞお楽に」

 三太郎に言われてミノリちゃんはピョンと脚をほうり出しました。タダシ君は三太郎が正座したままなので自分もじっと我慢しました。

「さてさて、お試ししていただいて、アンケートにお答え願いたいのはこちらの商品、」

 と、黒い頑丈そうな四角い箱から、角の生えた、丸いマンガの顔をしたトナカイの首を取り出しました。

「『ブレイン・リフレッシュ・ドリーム・マシーン・バージョン2』です。バージョン1との変更点は・・初めてお使いいただくお客様にはどうでもよろしいですな。

 このブレイン・リフレッシュ・ドリーム・マシーン・バージョン2・・面倒なので以下ドリームマシーンは、優しい音楽で眠っている間に使用者の精神状態をおだやかにし、芯が通っていながら幅の広い柔軟な心をはぐくむという・・ようするに、汚い言葉を平気で連発する悪い子ちゃんを良い子ちゃんにしてしまうという、実に画期的な商品なのです!」

 ミノリちゃんは「おおー」と感心していますが、絶対に何も分かっていません。タダシ君はこんな間抜けなマンガのオモチャにそんなすごい性能があるものかと疑いました。

「お試しいただく期間はこれから2週間」

 これから2週間というと、12月24日、クリスマスイブまでです。

「お試しいただいた上で、こちらのアンケートにお答えください」

 と、数十ページもありそうな白い本を2部取りだしてタダシ君に渡しました。ミノリちゃんが1部ひっつかんでパラパラしましたが、

「絵がなーい」

 とすぐに放り捨てました。三太郎は笑って、

「お母さんに読んでもらってください」

 と言いました。タダシ君もパラパラめくってみましたが、「ふだん夢は見ますか?」「友だちはいますか?何人いますか?」「ふだんどんな遊びをしていますか?」「夕飯は家族といっしょに取りますか?」「学校での出来事を両親に話しますか?」「お父さんお母さんの仕事を知っていますか?」などなど、これを全部答えなければならないの?とうんざりするほどたくさんあります。なるほど、思ったより本格的で、お礼のオモチャをもらうのはたいへんなようです。途中から黄緑の紙に変わって、「ドリームマシーンを使った感じについて」の質問になり、これは「どんな夢を見ましたか?」「どんな場所に行きましたか?」「あなたはどんな姿をしていましたか?」「あなたはどんなことをしましたか?」と、自分で内容を書かなくてはなりません。これはミノリちゃんの答えを聞いて書くお母さんもすごく苦労しそうです。最後はピンクの紙に変わって、これは質問はちょっとです。「ドリームマシーンを使って楽しかったですか?」「ご希望のプレゼントはなんですか?」そして一番最後の質問。


「あなたはサンタクロースを信じますか?」


 これが最後の質問?とタダシ君が変に思うと、それを見た三太郎がニコニコして質問しました。

「どうです? あなたはサンタクロースを信じますか?」

「サンタクロース?」

 無邪気な顔を上げるミノリちゃんを見てタダシ君は答えました。

「ええ。信じてますよ」

 三太郎はひげ面をニイーッと大きく笑わせて実に満足そうにうなずきました。

「そうですか、そうですか。あなたはサンタを信じますか。それはそれは。あなたはとても良い子ですねえー」

 なんでこんな嬉しそうな(気味悪い)顔をするのでしょう? そういえばこのドリームマシーンはトナカイの顔をしています。もしかしたら「空想科学社」はサンタクロースを会社のキャラクターにしているのかもしれません。

 三太郎はミノリちゃんにもききました。

「お嬢ちゃんはサンタクロースを信じていますか?」

 ミノリちゃんは大きな丸い目をキラキラさせて言いました。

「うんっ!」

 三太郎は今度も実に実に嬉しそうに笑いました。

「そうですか、そうですか。君もとってもいい子だねえー」

 うっふっふっふっふっ、と、この大男の笑い顔はとっても気味が悪いです。


「さて、このマシーンの使い方ですが、いたって簡単、夜寝るときに枕元に置き、この赤鼻を押してくださればオーケー。マシーンが光り、心地よい音楽が流れ、あなたを夢の世界へ誘(いざな)ってくれます」

 ミノリちゃんが「光るのお!?」と目を輝かせました。

「光りますとも。今夜からさっそくお使いください。うっふっふっふっ」

 大乗り気のミノリちゃんに対してタダシ君の方は心配です。

「あのー・・、使ってみて、よくなかった場合はどうです? そのー・・」

「ああ、マシーンがお気に召さない、合わない場合ですか?」

「はい・・」

「その場合は、」

 三太郎はけいやく書といっしょに一枚のハガキをよこしました。

「まずは契約書。お父さんお母さんに読んでもらってください。ハガキは、テストを途中でやめたい場合、2週間のうちいつでもポストに投函していただければ、ただちにマシーンを回収させていただきます。その場合もちろん契約はいっさいなかったこととし、中途解約のペナルティーはいっさいありません。なお使用中の事故、健康被害、不具合等の我が社の責任につきましては・・まあ、面倒なことはご両親に契約書を読んでもらってください」

 タダシ君はハガキを見ました。宛名に、


「999−99SF

 木の葉堤(このはつつみ)

  空想科学社 日本本社」


 とあります。こんなマンガみたいな郵便番号見たことありません。怪しいです。

「それでは、何か他にご質問は?」

「いえ。ないです」

「はい。それではどうぞよろしくお願いします」

 三太郎はていねいにお辞儀して、タダシ君もまねてお辞儀を返しました。三太郎が立ち上がったのでタダシ君はほっとしました。

 玄関まで送っていって、

「どうもお邪魔しました。それではまた、後ほど、お会いいたしましょう」

「バイバイ、うんちい」

「うんちじゃあありませんが、さようなら」

 黒岩三太郎は名前のように黒い岩の固まりのような大男です。顔の下半分は真っ黒な硬いヒゲですし、帽子を脱いだ頭も硬そうな真っ黒な髪の毛を後ろにきれいにとかし付けています。ワシのくちばしみたいな鼻をして、真っ黒でまっすぐで図太いまゆげをして、定規で線を引いたような目をしています。真っ黒な背広に真っ黒なコートを着て、本当に全身黒ずくめです。タダシ君はその姿が怖くて仕方ないのに、妹のミノリちゃんはぜんぜん怖がらないでニコニコ笑って手を振っています。三太郎も怖い顔をニイーッと怖く笑わせて、手を振ると、

「失礼いたしました」

 と、玄関のドアを閉めました。タダシ君は慌てて玄関に下りると大急ぎでガチャンと鍵を下ろしました。


 あー、怖かった・・。

 考えれば考えるほど怪しい男です。

 警察にしらせた方がいいだろうか?と考えてしまうほどです。


 ともかく部屋に帰ってドリームマシーンといっしょに置かれた取扱説明書を見ていると、待ちきれないミノリちゃんが「えい!」とトナカイの鼻を押してしまいました。電池は入れなくていいのかなと思っていると、

 眠そうにほとんど閉じていた両目がパチッと開きました。


 ポロンポロン・ポロンポロン・・


 どこかで聞いたことのあるようなピアノの曲が流れてきて、トナカイは顔を振って口を歌っているようにパクパクしました。この手のプラスチックのオモチャは大きな動きをするとカタカタうるさい音がするものですが、このトナカイは実にスムーズに静かに動きます。なかなかしっかり出来たオモチャのようで、タダシ君はちょっと感心しました。目が金色にピカピカ光り、ツノも金、白、赤、青、緑、と色を変えて光りました。

 喜んで見ていたミノリちゃんは、やがて静かになってまぶたが重くなり、すぐに「スー・・」と眠ってしまいました。

「おいミノリ? うわあ、こりゃすごい効き目だなあ」

 タダシ君はミノリちゃんをよいしょと抱きかかえて二人共同の子供部屋に連れていき、押し入れから布団を出してしいてやりました。よいしょと布団に寝させて、

「おやすみ」

 食事はすませてあるのでうるさいミノリちゃんがさっさと寝てくれてタダシ君はもうけた気分です。

 居間に戻ってくるとトナカイはまだ歌ってピカピカ光っていました。鼻のスイッチを押しましたが止まりません。どうやら一度押してしまったら朝まで止まらないようです。目の色が金色から青色に変わっています。

 タダシ君は迷惑なオモチャだなあと思いましたが、音楽を聴いているうち、自分まで目がトロンとしてきてしまいました。いけないいけないとさっさと子供部屋に運びました。ミノリちゃんはもうぐっすりです。


 タダシ君は一人でのんびりゆっくりお風呂に入りました。ああ今日も1日たいへんだったなあなんて大人みたいな事を考えて。

 ふと思いつきました。

 あの黒い大男、やっぱり怪しいです。

 オモチャにしてはやたらと強力な睡眠効果、もしかして、両親の帰りの遅い家の子供たちを眠らせてそのすきに泥棒に入るつもりじゃないでしょうか?

 そう考えたらゆっくりお風呂につかっている場合じゃなく、タダシ君は急いで上がると、野球のバットを持って、一番泥棒が入ってきそうな台所の裏口の前に座りました。

 バットを抱えてじいー・・っと神経を研ぎ澄まし、あの大男がこっそり入ってくるのを待ちかまえました。

 あんな大きな男が本当に泥棒に入ってきたら怖いなあ・・

 そう思いながら、お風呂上がりのホカホカ温かい心地よさで、ついつい、ウトウトしてしまいました・・・・。

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